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小学生達の運動会準備生活

 二学期が始まり、9月第2週。

 優はと言うと、

「ねぇ?そっちの機材はどう?」

「はい。こちらの機材は問題ありません。チェック項目に載っている全て確認しました。」

「OK。それじゃあ次、行ってみようか。」

「はい。」

 保健室の先生と共に、月末に行われる運動会の下準備を始めていた。


 事の始めは、先生から言われた、“非常に残念なお知らせ”である。

 その非常に残念なお知らせというのは、

「それにしても、カンニングしたから、運動会の雑務を押し付けるとはね。」

「そのカンニングも濡れ衣、なんですけどね。」

 というわけである。

 この宝鳥小学校のほとんどの人達が、私をカンニングした最低男、という認識である。だが真実は、優が優秀であるがゆえに起きた周りの人達の勘違いである。優自身、カンニングはしていないので、カンニング魔と言われても痛くもかゆくもなかったが、今後のことを考え、自ら周りの人達との距離をとったのだ。あの時、優自身がもっと強くカンニングを否定していれば、事態はもっと好転していたのかもしれない。そんなことを優自身考えるものの、(そんなことはただの現実逃避ですね。今出来ることを最善の手で尽くすとしましょう。)

 優は前を向き、ただ自分に課せられた仕事をこなす仕事人間と化していた。

 さながら、ブラック企業に長年勤める社畜サラリーマンの様である。

「それにしても、こんなにチェック項目があるなんて驚きです。これを毎年やられているのですか?」

「そうみたい。でも、最近は結構ましになったみたいよ。前はそのチェック項目一覧表も無かったから、どこをどのように見ればいいのか分からなくてね。」

「なるほど。あ、そこの道具もお願いします。」

「分かったわ。」

 こうして私と先生は、倉庫で二人っきりとなり、作業を続けていく。そんな午前中であった。

 給食の時間。

 それは、いつものおだやかな時間ではなく、

「午前は倉庫の備品の不備がないかの点検だったけど、午後は、それをデータにおこしてほしいみたいなのよ。」

「…分かりました。」

「言いたいことは分かるわ。その事に関しては、ごめんなさい、としか言いようがないわ。」

「別に、先生に対して不満がある、というわけではありませんので、気にしないでください。」

 午後はどのように動くかの打ち合わせをしていた。

「それにしても、人の話を聞きながら、弁当のご飯を食べ、メモ帳にメモするって、随分器用なことをするのね。」

「?そうですか?これぐらい、社会人なら出来て当然ですよね?」

「そんなことないから!」

 優は三つの事を同時にしていた。

 耳で、保健室の先生を聞く。

 左手で、弁当のご飯を食べる。

 右手で、メモ帳にメモしていく。

 実に器用である。この際、食事中のマナーが悪い、なんて言う事は野暮であろう。

「それじゃあ、歯磨きをしてから、午後も頑張っていきましょうか?」

「そうですね。」

 優はこの時、

(こういうことが、学校生活なのでしょうか?)

 ふと、こんなことを考えてしまう。

 これが、私が待ち望んでいた学校生活だったのだろうか?

 こんな学校生活を送って、本当にいいのか、と。

(これは余計なことでしたね。)

 すぐに余計なことを考えていると自覚し、考えを戻す。

(今は午後の作業に集中ですね。)

「?どうかした?」

「いえ。何でもありません。」

「そう。それじゃあ、」

 先生はパソコンを取り出し、片づけた机の上で開く。

「一緒にデータ入力しますか。」

「そうですね。」

 午後の作業が始まった。


 優と保健室の先生が作業をしている頃、

「それでは、各班による自由研究の発表会を始めます。」

 優が所属しているクラスでは、自由研究の発表が行われようとしていた。このクラスでは、二学期始めてから一週間かけて、他の人達に発表できるくらいの質まで上げ、発表に臨んでいた。だが、優が所属していた班ではすでにほとんどできており、発表準備期間として設けられていた一週間を、

「ここの発表はどうする?」

「それだったら俺が言うよ。次の詳しい説明は神田に任せてもいいか?」

「もっちのろんよ!」

 軽く相談する程度で済んでいた。それも、夏休み中、5人で集まり、何度も相談した結果と言えよう。

 そんな一週間を過ごし、今週、班ごとに自由研究の発表をすることになったわけである。

「それでは、次の班、お願いします。」

 いよいよ、早乙女優が所属している班の発表が始まる。最も、

「さぁ、出来るだけ失敗しないようにしようぜ!」

「うん!」

「早乙女君のために!」

「そうね。」

 肝心の早乙女優はいないのだが、

 そして、

「これから、俺達の班の発表を始めます。俺達の班は…、」

 桜井綾、風間洋子、神田真紀、太田清志の4人は教壇前に立ち、自由研究の内容を話し始める。


 4人の自由研究内容は、先生、小野口春にとっても、非常に興味深いものであった。理由は、ジャンルが被らないこともあったが、人間だれしも所有している生理的欲求の一つ、食欲を刺激したからなのだろう。他の班は主に、ペンケースや、使用用途不明な置物の発表をしていたからである。それらに対し、桜井達の班は、見た目にも食欲にも刺激された心躍りそうな発表であったのだ。主に、女子小学生が目を見開いていたのはきっと気のせいだろう。

 そんな好奇な視線を受けつつ、4人は無事、発表を済ませる。

 ちなみに、これは優発案の新作ケーキであるが、著作権の方は心配ないと言える。何故このタイミングでこのようなことを言うのかと言うと、

「最後にですが、このケーキは要予約限定での発売を前向きに検討していますので、商品化した場合は是非、神田屋に足を運んでください。」

 と、神田真紀が自身の店を宣伝に用いたからである。

 だが、ここで問題が生じる。

 それは、新作ケーキの著作権、である。

 今回発表された新作ケーキは、完全に優発案のオリジナルケーキである。それを無断で商業目的に使われた場合、発案者である早乙女優は、著作権侵害で神田屋を訴えることになる危険が発生するだろう。新作ケーキを考案する際、材料の種類、必要な量、作業工程を詳細に記したノートは証拠になりえるだろう。

 そんなことを考えてか、商業目的で、神田真紀の両親は事前に、

「このケーキ、家の新作ケーキとして、売ってもいいか?」

 と、早乙女優本人に直談判した経緯があった。その事に対し、早乙女優は一言。

「別にいいですよ?」

 承諾の意であった。

 そんなことがあり、神田真紀はこうして、商業目的で話すことが可能になっている訳なのだ。最も、神田真紀の心境は純粋に神田屋の繁栄なのかどうかは定かではないが。

「す、素晴らしい!」

 著作権関係が陰で蠢いた中発表されたこの自由研究は、小野口春に好印象を持たれた。その好印象をもった背景には、

(あのお荷物がいる中、あの4人はあそこまでしっかりとした発表を!なんて素晴らしいのでしょう!)

 早乙女優の評価が関係していた。早乙女優という問題児がいながら、4人は見事な発表を見せた。もしくは、たった4人でここまで内容の濃い発表を聞かせてくれた。前者か後者かは分からない。だが、これだけは言える。

(それにしても、あの4人はこれほど素晴らしい発表をしたのに、あのカンニング魔は…!)

 この発表を経て、小野口春の、早乙女優に対する評価は一段と下がった事だろう。

 発表した4人にとって、最功労者は早乙女優だと意見が一致するが、小野寺春の心境は変わらないだろう。

「それで、何か質問はありますか?」

「この自由研究をしている間、あのちびは何をしていましたか?」

「おままごとしていましたーってか?」

「違いねぇや!」

 と、こんなコントまがいな話が教室中に広がり、笑いの渦が発生する。

「こら!いくら本当の事でも、そんな風に言ってはいけません!」

 本来、注意すべきであるはずの先生が、このような庇い方をする。後半は正論だろうが、前半の発言内容には、きっと本人の思考、思想、想像、憶測等が含まれての発言だろう。本人がいれば即座に否定していただろうが、この先生の発言が全てであるように、再び大きな笑いの渦が、事前に出来ていた笑いの渦を飲み込んでいく。

 この渦に対し、

「「「「・・・。」」」」

 4人はただ黙っていた。渦に対抗するでも、飲み込まれたわけでもない。ただただ、黙っていた。この渦が無くなることを見計らい、

「・・・これで、私達の発表を終わりにします。」

 4人は頭を下げ、発表の終了を体で告げる。

「はい、ありがとうございました。とても素晴らしい発表でした。」

 そして、小野口春は席を立ち、

「素晴らしい発表をしたこの、4人!に改めて拍手を!」

 この発言で、クラスの面々は再び4人に拍手を送る。

 だが、同時に気持ち悪い笑みを浮かべ、「そうね。それに比べあのちびは。」や、「ほんと、あのちっこいちびは何をしていたんかね?」、「おねしょでもしていたんじゃね?」と、いわれのないことを言われる始末。この格差を口にするためにわざわざ4人、と言う部分を強調したのか、という推論が容易にできてしまう。こういった格差が、敵を作ることが、クラスの一致団結に繋がっていくのだろう。その一致団結に、良くも悪くも早乙女優は深く関わっていた。

「「「「・・・。」」」」

 そういう意味では、4人の団結は深まったと言えよう。クラスの認識がおかしいということに。

 この発表を終え、

「さぁ。明日からは本格的な運動会の練習を始めます。事前に出る種目は決めましたので、各自練習に励んでください。後…、」

 こうして、運動会の練習を本格的に始める。

 この小学校は、運動会に目掛け、色を濃くしていく。その陰には、

「ふぅ~。とりあえず、今日はこんなところでしょうか?」

「ええ。もう夕方だし。今日はありがとう。また明日ね。」

 様々な人が、目の見えないところで苦労している。その苦労は、ほとんどの人が感謝されることのない無駄骨に近い働きだが、無駄でも、無益でもない。何せ、

「はい。明日も頑張りましょう。」

 少なくとも、その頑張りを認めてくれる人が、近くにいるのだから。

 そういう意味だけなら、早乙女優は恵まれている環境にいると言えよう。

 だが、今の状況を見て、早乙女優の待遇は悪いものである。そう感じさせないよう、保健室の先生は献身的に動いている。

 そのことを知ってか知らず、早乙女優は今日も学校のために働いた。自身の存在意義を見出すため、生活を守るために。

 早乙女優は今日も頑張り続ける。

次回予告

『小さな会社員の過勤労生活』

 早乙女優は連日、運動会に使われる資材の状態確認、運動会準備、それに伴うホームページの更新。それが終わった後に会社での仕事。学校の用事と会社の用事の2つが終わった後、家事の用事をこなし始めていく。優はこれら3つの事を寝ずにこなしていく。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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