女子小学生モデルの二人組写真撮影相談生活
一方。
「…ふぅ。」
「お疲れ。」
「あ、ありがと。」
某テレビ局内で、汗水流さなくとも懸命に働いている小学生がいた。
「いやー。今日もナイスな映りでしたよー。」
「いえ。不備がなかったようで。」
「ええ!この調子で再来週のペア写真撮影の件、よろしくおねがいしますね~。」
「あ。」
女子小学生モデル、潮田詩織は何か言いたそうにしていたが、そのまま何も言えず、カメラマンは詩織の元から去って行った。
(ペア写真の件、どうしよう?)
潮田詩織は今、困っていた。その困っている元凶というのは、ペア写真の件である。一人ならなんとかなっていたが、ペア写真、つまり二人で撮る写真の人選である。潮田詩織は一人、心当たりがあるのだが、心配の種でもあった。
「それで、ペア写真の件はどうなったの?解決した?」
「ええ。あの子に頼んだわ。」
「あの子って…早乙女優君のこと?」
「ええ。」
峰田不二子はこの一件の事を潮田詩織に一任していた。仕事をする上で、気持ちよく行うためである。だが、それと同時に少し後悔していた。潮田詩織には、同業者の友人がほとんどいないため、人選できるほど、候補がいなかったのだ。気付いたのが、潮田詩織に一任した直後であった。すぐに自身の発言を取り消そうと試みたが、「分かったわ。」と、断る前に言われてしまい、思わず、「え、ええ。」と、気のない返事をしてしまったのだ。
なので、心配していたのだが、人が決まったことに安堵する一方、結局のところ、同業者でなかったことに、ちょっとだけ不安感を覚えていた。
「…それにしても、あの子の事、“くん”付けで呼んでいたっけ?前は“ちゃん”付けじゃなかったっけ?」
「き、気のせいよ!」
(あ、危ない、危ない。気を付けないと。)
潮田は、峰田の発言に疑問を浮かべるが、気にしないことにし、再び携帯端末の画面に視線を移す。
「…はぁ。」
潮田はため息をつく。一応、今回の件をお願いしたつもりなのだが、なんとも曖昧な返事をされたのだ。返信も一応返ってきたのだが、不安しか覚えられないものであった。
「?どうしたの、詩織?」
「…今回、あの子に頼んだって言ったじゃない?」
「うん。だけど、返信が芳しくなくて…、」
「返信が?ちょっと見せてくれる?」
「はい。」
「ありがと。」
峰田は潮田の携帯端末の画面を見る。
「・・・なるほどね。」
峰田の感想は、
(これって、“行ける”ってことよね?)
行末の点が気になったものの、問題ないと判断した峰田は、
「…これ、行けるってことじゃない?」
「そうなの、かな?なんか返信は曖昧な気がするんだけど。」
「そんなに心配なら、後で私があいつに連絡しておくから。」
「あいつってもしかして…?」
「早乙女君の近くにいた私の…悪友、というところかしら?」
「そう…。」
潮田は少し考えこんだ後、
「それじゃあ、任せてもいい?」
「ええ。任せておきなさい。私はあなたのマネージャーなんだから!」
と、職業上鍛え上げた能力を駆使して、便宜をはかり始めた。
「…もしもし?」
「…誰?」
「私よ、私。」
「この時代に詐欺を働く人がいるなんて…。電話番号も現在位置も特定されているから、後は警察に任せ…、」
「オレオレ詐欺じゃないから!私よ、峰田不二子!」
「・・・誰?」
「ねぇ?数カ月前に会ったわよね?テレビ局で散々話していたわよね?ねぇ?」
峰田は怒気を込めながら話しかける。
「・・・あぁ。そんな人がいたわね。」
「こいつ…!」
(後で絶対に後悔させてやる!)
そんな決意を心の中でしつつ、用件を話し始める。
「再来週の件なんだけど、早乙女君から聞いていない?」
「再来週?何の事?学校のこと、じゃないわよね?」
「学校?何の事?私が言いたいのはモデルの件よ。」
「モデル?何の事?」
「・・・なるほど。早乙女君から何も聞いていないのね。ならもう、」
「待ちなさい。今事情を調べるから。」
「調べる?一体どうやって?あ、もしもし?もしもし!?」
峰田の叫びは、
「・・・。」
電話相手、菊池に届くことは無かった。
そして数分、
(あいつ、一体何をしているのかしら?)
そんな疑問が生じ始めた時、
「もしもし?」
菊池から返事がくる。
「あ、菊池?」
「ええ。事態はすべて把握したわ。」
「え?あ、そ、そうなんだ…。」
峰田は最初、
(どうやって事情を把握したのかしら?早乙女君に直接聞いたのかしら?それとも…?)
そんなことを考えてしまうが、すぐにどうでもよくなり、話を続ける。
「それで再来週の件なんだけど、早乙女君は来てくれる、と思っていいのよね?」
「少なくとも、優君はそのつもりのはずよ。スケジュール帳にそうメモしていたし、間違いないわ。」
「そう。」
「それで、私も付いて行くけど、問題ないわよね?じゃないと、私のあらゆるものを行使して、行かせないようにするわよ。」
「それって脅迫なんじゃ…?」
「え?何か言った?それともあなたのあの恥ずかしい写真をネットにあげて、強制的にネットアイドルにさせてあげようか?」
「うん。それはやめてね。絶対に辞めてね!」
「それじゃあ私も同行するわね。」
「・・・まぁ、早乙女君は未成年だし、保護者同伴でなくちゃいけないわけだし、いいわ。話は私から通しておくから、あなたと早乙女君は朝の内にテレビ局に来てくれる?」
「ええ、分かったわ。それじゃあ、愛しの優君に伝えておくわ。再来週が楽しみだわ~♪」
「・・・。」
「…あれ?どうかしたの?」
「…いや。前も思ったけど、あなた、だいぶ変わったわね。」
「そう?」
「だって、前は…、」
「それより、あの子、新たな資格をとったらしいじゃない?」
「あの子って、もしかして、詩織のこと?」
「ええ。色彩検定3級、だったかしら?」
「ええ!私も初めて聞いた時は驚いて驚いて。」
「その子によろしく伝えておいて。それじゃあ。」
「あ。ちょっと菊池…!」
通話手段が切れてしまった。
「とりあえず、早乙女君の件はこれで解決かしらね。」
手帳を確認しながら、静かに呟く。
「それにしても、良くも悪くも、あいつは変わったわね。」
峰田は、二人がテレビ局に来てから、菊池の変わりように疑問を浮かべていた。最初は別人に化けていた、という考えもあったが、声は昔の菊池にそっくりだった。他にも、昔の菊池を思わせるような発言、行動もいくつか見受けられた。だが、
「一体、あいつに何が…、」
その時、菊池の近くにいた少年に視点が向いた。
「まさか、あの子がきっかけで変わったのかしら?」
その子とは、菊池が連れてきた一人の少年である。
峰田から見たその少年は、一言でいうなら、
“見た目は子供、姿勢は大人。”
であった。
見た目はとても小さく、同年代の潮田詩織と比べても、その少年の方が小さい。
だが、見た目年齢と精神年齢は全く異なっていた。非常に落ち着いていて、困った時には助けてくれ、自身が悪い時はきちんと謝罪が出来る。勉強の類は分からないが、あの性格で頭が悪い、なんてことはないだろう。それに、
「菊池美奈と早乙女優、か。」
この名前ではっきりしていることがある。
それは、二人に遺伝子的つながりが存在しない。すなわち、血のつながった親子ではないということである。もちろん、離婚をしているのであれば、納得できたかもしれないが、
「あいつが結婚した、なんて話は聞いていないしな…。」
峰田の耳に届いた話だと、菊池美奈は結婚していたという話も、子供を産んだという話も一切聞いていない。自分が友人に関する情報を知らな過ぎるだけかもしれない。だが、もし結婚も出産もしていなかったとすれば、
「あいつと早乙女君は一体…?」
もし、この仮定があっているとするならば、菊池と早乙女君は一体どういう関係なのか?
どうやって知り合ったのか?
早乙女君とであったから、あいつはあそこまで変われたのか?
そういうことを聞きたかったが、
「…出来れば、本人の口から聞きたいわね。」
とあるアルバムを本棚から引っ張り出す。そのアルバムには、
「・・・やっぱり、中学の時は…、」
と、自身の携帯が震えだす。
「あ。詩織からだ。もしもし?」
潮田からの電話により、この場を離れる。
そのアルバムには、中学時代の無表情な菊池美奈が風景に溶け込んでいた。
そんな二人の電話を終え、
「・・・そう。再来週の撮影に来てくれることになったの。」
「うん。だから詩織はいつも通りで、ね?」
「分かったわ。」
「それじゃあまた、」
「待って。」
「ん?どうしたの?」
峰田は電話を切ろうとしていたが、画面に手が触れるか触れないかの瀬戸際で踏みとどまる。
「その、ありがとう。」
潮田自身、ガラにもないことを言ったと自覚している。
だが、それでも言わずにはいられなかった。それほど、感謝の意を示したかったのだ。今回のことだけではない。今まで潮田がかけてしまった迷惑、今まで仕事をくれた峰田に対する感謝を込めたのだ。そんなこととは知らず、
「…別にいいわよ。いつもの事だもの。」
峰田の反応は薄かった。
きっと、潮田の思いは完全には届いていなかったのだろう。だが、峰田は今までこういったことを言ってくることがなかったので、何か察していたようだったが。それが表に出ていたかどうかは、話をしていた潮田にも分からないだろう。
「それじゃあ、お休み。」
「ええ。今日はありがとう。」
こうして、峰田はアルバムに、潮田は自室へと視点を変える。
「ふぅ…。」
電話を終えた詩織は風呂に入り、髪を乾かしている頃。
「はぁ…。」
とある一枚の写真を眺めていた。その写真は、縁が桃色の写真立てに入っており、その前には、潮田が当時身に付けていた髪飾り、シュシュが置かれていた。
「・・・。」
潮田は、写真立ての前に置かれているシュシュを手に取り、しばし見つめた後、
「今、頑張っているからね。心配しなくていいからね。」
そう写真に言った後、写真を元の場所に置き、電気を消す。
「お休み、お母さん。」
その写真は、
「ただいま。」
「おかえり、お父さん。」
「ああ、ただいま。」
自身と父親、そして、亡き母親の、かつての写真だった。
次回予告
『小学生達の運動会準備生活』
宝鳥小学校に通っている小学生、早乙女優達は授業をやりつつ、今月に行われる運動会のために準備を始めていく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




