小さな会社員の運動会雑務人員生活
「運動会、ですか?」
「そう。今月末にあるのよ。というか、今年のスケジュールが書かれた紙、配ったわよね?」
9月上旬。私は学校に登校し、保険の先生から話を聞いていた。
何でも、今月末に運動会?という行事?大会?があるらしい。私には分かりませんが、そういうものが学校で行われるらしいです。
「…?その紙、配られた覚えがないのですが?」
いや、菊池先生が把握しているだろうから、菊池先輩に聞けばよかったのかもしれないな。まだまだ私も甘いですね。
「そう?それじゃあ、今年も残り半年切っているけど、一応、今年の予定を教えるわね。」
「分かりました。それではよろしくお願いいたします。」
こうして、私は保健室の先生から、今年のスケジュールをメモし始めた。
話を聞いた結果、次のようなことが分かった。
・9月末に、全学年で運動会
・11月初めに全学年で合唱コンクール
・12月、2学期末に、各クラスで学級会
とりあえず、こんなところかな。
私はメモしながら記憶を反復する。学級会や合唱コンクールも気になりますが、今は運動会に集中するとしましょう。
「それで、運動会とは何ですか?」
「え?もしかしなくとも、本気で聞いているの?」
「?ええ。それが何か?」
本気で聞いているというのに、何故そんな呆れた顔で見られているのでしょうか?…そういえば、こういう学校行事は、毎年行われるのでしたっけ?そんな学校行事の事を小学6年生が聞くのですから、おかしくないはずがありませんよね。となると、私のこの発言はおかしい、ということになるのですね。とはいえ、知らないことは知らないわけですし、聞いてしまっても仕方のないことですよね。知らないことですし。
「…そうよね。あなたは確か、今年の4月まで休学していたものね。知らなくても当然よね。」
と、首を縦に振る。ま、確かに否定できません。事実ですし。
「そうね。まずはどこから説明しようか?」
「どこからでも構いませんよ?」
私は運動会について、何も知らないわけですし。どこから話されても文句を言える立場ではありません。ここはこの先生に従うとしましょう。
「そうねぇ…。一言でいうなら、運動の大会、かしらね。」
「そのままではありませんか?」
語感からそれぐらい察することは出来ますが、私としましては、その運動会で何を行うのか、具体的に知りたいのですが。
「まぁまぁ。話は最後まで聞きなさい。」
「すいません。早とちりしてしまいました。」
確かに、人が話している最中に横槍を入れることは失礼に値しますね。これはうっかりしていました。反省して次に活かすとしましょう。
「別にいいわ。それで運動会というのは…、」
こうして、先生による運動会談議が始まる。
始まって約十分。ようやく概要を掴んだ気がします。
運動会とは、学生一同が協力しあい、自身が保有している運動能力を用い、クラスに貢献し、学年ごとに優勝を目指す大会、というところでしょうか。
私は今年6年生ですし、今年の1回だけ、ということですね。競技もある程度決まっているらしく、
「リレーや綱引き等の競技をやる、ということなのですね。」
「ええ。後、玉入れもあるわよ。」
「へぇ。」
玉入れ、ですか。玉をどこに入れるのでしょうかね?想像できません。
「…毎年やっていることなんだけど、知らない?」
「え?…ええ、憶えていませんが?」
私の記憶上、そういった運動をしていた記憶がない。あるのは、この日この日を乗り越えようと必死に勉強したり、仕事したり、料理したりしていた記憶です。後は…、
「早乙女君。そんなに思いつめなくていいのよ。」
「!!?い、いえ!ボーっとしてしまい、すみません。」
「別にいいわ。それより、あなたがそんな難しい顔をするなんて、一体…?」
ピンポンパンポーン。
急にチャイムが鳴ったかと思うと、職員を呼ぶ放送が流れた。
「あ、ごめんなさい。私も呼ばれたみたいだから、職員室に行くわね。」
「あ、はい、どうぞ。行ってらっしゃいませ。」
保健室をでていく先生を見送り、
「さて、この時間をどうしましょうか?」
給食後のこの時間。歯磨きも終わりましたし…。
「そういえば、」
さっき思い出しかけていたことを再び、
「!!??」
私は思わず、口を押えてしまう。
(やはり、まだあれは克服できていませんか…。)
自分が嫌になりそうです。
このことのせいで、菊池先輩や工藤先輩等、様々な人達に迷惑をかけたというのに!ですが、あれはまだ…、
(う。だんだん気分が…。)
私は目眩を覚えて始めた自身の体を休めるため、
(少しだけでも、借りさせていただくとしましょう。)
ベッドで横になる。
…私はまだ、子供なんだ。こうやって、出来るだけ大人でいようと努力しようと試みてはいるものの、過去の出来事に向き合えず、今もこうして体調を崩すだけ。ほんと、こういう時の自分は、子供です。
そんな考えを薄れゆく意識の中で脳内に巡らせていた。優を今も苦しめているのは、優のかつての出来事であった。
「く…ん。」
ん、ん~。
「さお…くん。」
何か声が、
「早乙女君。」
この声は、
「せんせ、ですか?」
「ええ。戻ってきたとき、あなたが青い顔で寝ていた時は、全身に寒気がきたわ。」
「すいません。急に気持ち悪くなってしまって。」
「別にいいわ。それで今日はどうする?もう帰る?」
「…いえ。最後まで頑張ります。」
私はともかく、菊池先輩に迷惑をかけることだけはしたくありません!そんな思いを胸に秘め、私はベッドから身を起こす。
「…そう。なら、私は止めないわ。けど、」
先生は私に向けて手を出し、
「手伝うくらいはしてもいいわよね。はい。」
その先生の思いやりを、
「…ご迷惑を、おかけします。」
私は受け取り、席に着いた。
「…ところで、非常に残念なお知らせがあります。」
「…はぁ。」
なんとか体調が少し戻ったが、先生の非常に残念なお知らせとやらのせいで、気分がさらに下がる。ま、どんな体調でも仕事は待ってくれないわけですし、これも仕事の一環だと思えばなんとか。
「…聞かない、という選択肢はありますか?」
「それもいいけど、明日、明後日には始めてもらいたいから、今聞いておいた方がいいわよ?」
「分かりました。それではお願いします。」
明日明後日か始める、という言葉に違和感を覚えつつ、私は先生からお知らせを聞くことにした。
「…という訳なので、今月は夜からの勤務になってしまいますが…、」
「もちろん!もちろんよ!いいに決まっているじゃない!?」
「だな。」
私は、学校での出来事を先輩二人に話し、許可をもらっていた。話というのは、
「それにしても、優君に雑用させようなんて、脳が腐った連中ね。どれだけ腐ればそんな考えが浮かぶのかしら?」
「優がカンニングした、と思っているからだろう?ま、俺は最初から信じていたがな。」
(ありがとうございます。)
工藤先輩のお礼の発言をしようとしたものの、ちょっとだけ恥ずかしくなってしまい、口を閉じる。
「それでですが、時間に多少融通が利く仕事を私に回していただけないでしょうか?」
「それは出来るけど、いいの?優君、負担にならない?」
「そうだぞ。こんな時くらい、仕事の事を忘れ、学校行事に集中するのもいいことだと思うぞ?」
「いえ。それではみなさんに迷惑をかけてしまいます。ただでさえ、色々と融通を聞かせていただいているのに、これ以上は我が儘となってしまいます。」
私は真っすぐ二人を見る。これが私の意見です!
「・・・はぁ。」
先に折れたのは、工藤先輩だった。
「分かった。だが、出来るだけ無茶するなよ?」
「は、はい!」
「ちょ、工藤!何勝手に…!」
「あんな真剣な眼差しで見られたら、こっちが折れるしかないだろう?」
「う。それはそう、だけど…、」
「実際、優の仕事のおかげで、かなり楽になっているからな。いざという時は、俺が責任を持ってやるさ。」
「…優君が倒れでもしたら、あんた、この会社を辞めなさいよ。」
「え?それはちょっと…、」
「なら、運動会まで禁酒。これでどう?」
「お、おう。」
何やら取引が行われていたようですが、結局のところ、どうなのでしょうか?いいのでしょうか?
「あの、」
「ん?ああ。とにかく、俺がお前に仕事を渡すから、気にしなくていいぞ。もちろん、期日まで多少余裕ある仕事だけを渡すから。」
「急な仕事は私達がやるから、安心してね♪」
「はい・・・。」
何でしょう?この違和感。なんか…、
「?どうかしたか?」
「…いえ。この職場に、私って要るのかなって。つい考えてしまって。すいません。」
「優…。」
「い、いえ!余計なことを口走ってしまいました!ではこれから仕事しますね!」
まったく!私も余計なことを口走ってしまったものです!これでは全然駄じゃないですか!気を引き締めていかないと、ですね!
「優君。ちょっとこっちにいらっしゃい。」
「?はい。」
私は菊池先輩の言葉に従い、菊池先輩の近くによる。
そして、
「!!?き、菊池先輩!?」
急に抱き着いてきた。な、何故でしょう!?
「いい、優君?前にも言ったけど、また言うわ。」
「は、はい。」
「相手を敬う事と、自身を卑下する事は違うの。それに、職場どうこうより、私は、優君がこの場にいてほしいの。それじゃあ駄目かしら?」
…あ、そうか。
先ほど言ってしまった言葉に対し、こんな言葉をかけていただいたのですね。
「…ありがとうございます。」
結局、先輩方に迷惑をかけてしまった。こんな自分が、迷惑をかけてしまう己が嫌に…、
「優。お前は、お前が出来ることをやってくれればいいから。」
「工藤先輩…。」
「そうです!とにかく、これを飲んで落ち着いて下さい。」
と、桐谷先輩は私にお茶を渡してくれた。
「あ、ありがとうございます、桐谷先輩。」
「これぐらい問題ありません。それどころか、こういうことは新人の仕事ですよ?」
「あれ?そうでしたっけ?確か、手の空いた人が率先してやるような…?」
「そうだったんですか?」
私と桐谷先輩は菊池先輩と工藤先輩を見る。この二人がお茶を淹れる姿なんてみたことないのですが?
「私は優君のお茶が飲みたいから!」
「「なるほど。」」
それで私と桐谷先輩は納得した。
「俺は…無理だった。」
「「???」」
どういう意味でしょう?
「俺がお茶を淹れると、紫色に変色し、飲んだ人はみな気絶するんだ。」
と、遠い目で言われてしまった。
「…なんか、すいません。」
「申し訳ありません。」
「…いいんだ。俺のお茶くみが下手過ぎるだけだし。」
それは上手下手云々ではないと思います…。
「いざという時は、俺を頼ってくれ。」
「た、橘先輩…。」
ほんと、私の周りにはいい大人がいすぎですよぉ。
「みなさん、それではお願い出来ますか?」
「「「「おう((ええ!!))!!」」」」
ほんと、頼もしい大人達です。
こんなことを考えつつ、私は仕事を始める。
次回予告
『女子小学生モデルの二人組写真撮影相談生活』
女子小学生モデル、潮田詩織は早乙女優に、今度行われるペアでの写真撮影の件で相談したのだが、その返事が芳しくなく、マネージャーである峰田不二子に相談する。一方で、峰田は菊池に違和感を抱き、潮田はいつも眺めているある写真を見つめ、写真に現状報告する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




