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小学生達の夏祭り生活

 優達会社員がお盆休みを終え、仕事を再開し始めたころ、

「あ~。明日の夏祭り、楽しみね。」

「ねぇ~?」

 とある小学生、桜井綾と風間洋子は、明日行われる夏祭りについての相談をしていた。

「それで宿題の方はどう?進んでいる?」

「うん。と言ってもほとんど終わっているから、日記くらいかな?」

「あ~…。確かに日記は面倒くさいわね。それでも毎日つけているの?」

「うん。」

「私は数日毎にまとめてつけているわ。毎日はさすがに面倒くさいからね。」

「へぇ~。それにしても今、こうしてのんびり出来るのはやっぱり、自由研究が終わっているからだよね?」

「そうね。一番厄介だったあの自由研究があんな短期間の内に終わったんだもの。神田も太田も今頃部屋でゴロゴロしているんじゃないかしら?」

「だね~。太田君はともかく、真紀ちゃんは普段、家の手伝いとかで疲れているのかもしれないしね。」

「そうね~。」

 と、他愛ない世間話を続けていた。

 本来なら、自由研究を慌ただしくやっている時期だったが、早乙女優の案、活躍により、今年は例年よりだいぶ早く終わらせることが出来たのだ。このことに二人の両親は、

“宿題を計画的に終わらせることはいいことだ。”

 感心していた。よって、夏休み中の平日にも関わらず、こうして店内で気軽にお話出来ているのである。

「それにしても、今年の夏祭りはどうする?」

「そうね…。やっぱり今年も行きましょうよ。せっかくだし、浴衣も着ていかない?」

「うん!賛成!!」

「後、どんな屋台があったかしら?」

「…そういえば去年、とても美味しい焼きそばを売っていた屋台があったって、とっても有名になっていたね。」

「ああ。そんなこともあったね。確か名前は…何だったかしら?」

「ローマ字が3文字続いた後に焼きそば、て書いてあったと思うけど…。」

「「う~ん…。」」

 そう。

 実は去年、とある屋台の焼きそばがあまりにも美味しく、後日、店員を求めてテレビ局の人がその店員を探し始めていたくらいだったのだ。だが、その店員は、その取材を断り、テレビにその店の名が出ることは無かった。

 が、ネットでは焼きそば好きの者達がネットで盛り上がり、来年の夏祭りもその屋台が出るのではないか?店員はどんな奴だったのか?そんな推測まで飛び交っていたのだ。まるで、犯人を捜す警察の捜査網の如し。それでも、個人情報も、性別も、何人働いていたのかも分からずじまいであった。そしてそのまま1年が経過したのだ。

 陰で有名となっていた店の名前を思い出そうと二人は苦戦している中、

「いらっしゃいませー。」

 ある二人の男女が入店した。

「今日は何食べます?この前のお礼もあるので奢りますよ。」

「いいのか?」

「はい!」

 その男女は、桜井と風間の隣の席に着き、メニューを見る。

「今年の夏もそろそろ終わりますし、このおろしハンバーグセットはどうですか?」

「…分かった。それにするよ。」

「分かりました。すいませーん!」

 ちなみに、時刻はお昼。社会人がお腹空かせて店に入り、ハンバーグを頼んでもおかしくない時間帯である。そんな隣の注文風景を見ていたら、

「…なんか、お腹空いてきちゃったね。」

「そうね。せっかくだし、ここで食べちゃいましょうか?」

「うん?それじゃあ私は…、」

 こうして、社会人2人と子供2人の昼食が始まる。

 昼食を食べ終え、桜井と風間は追加でデザートを頼み、まだ店内に留まるつもりでいた。一方、社会人の二人組は、これといった会話も特にせず、手早くご飯を食べる。社会人のお昼は忙しいのだ。

「ふぅー。」

 先に食べ終えた男の会社員は、水を飲み、

「…そういえば、近いうちに夏祭りがあったな。」

 この独り言に、

「そうですね。まぁ、今年はかなり忙しいのでみんな残業で行けないみたいですけど。」

 女性の会社員はいったん箸を止め、話を続け、また箸を動かす。

「だな。」

 男性の会社員も、水、ではなく、ブラックコーヒーを飲む。

「そういえば、去年はあの…何でしたっけ?」

「…何が?」

「去年の夏祭りに、とても美味しい焼きそばの屋台があった、という噂がネットで流れていましてね。それが今の時期になって再発したみたいなんです。確か…あった。このサイトです。」

 女性の会社員は箸を置き、携帯で調べ、画面を男性会社員に見せる。

「ああ、“YUU焼きそば”、か。」

「「それだ!!!」」

「「…え??」」

 二人の会社員は驚きを隠せない。何せ、隣にいた小さな女の子二人に大声を叫ばれ、「それだ!」と、何が何だか分からない不明な発言をされたのだ。驚かない人の方が少ないだろう。

「あ!す、すいません!」

「ごめんなさい!」

 桜井と風間はすぐに謝り、席に座る。

「…あ、いいよ。気にしないで。」

「ああ。」

 この挨拶を皮切りに、二人それぞれの会話が再開する。


「それで、その屋台がどうしたんだ?」

「はい。今年は忙しいので、食べに行けないな、と思いまして…、」

「そうか。ま、来年まで待てばいい。もしかしたら、」

「?どうしました?」

「…いや、何でもない。それより時間。」

「あ。そろそろ行かないとですね。」

 二人の会社員、橘寛人と桐谷杏奈は席を立ち、店を後にした。


「そうよ!YUU焼きそばよ!」

「うん!確かにそんな名前だったね。」

 桜井と風間は先ほど聞いた屋台名に納得する。

「明日、食べに行けたらいいね。」

「そうね。浴衣も忘れずに着てね。」

「うん!」


「ふー。」

「あ、橘先輩に桐谷先輩、おかえりなさい。」

「あ、ただいま戻りました。」

 橘と桐谷は、

「?どうかなさいましたか?私を見て?」

「いや。何でもない。」

「はい。」

 優を見て、

(あの二人、身長と服装からして、小学生、もしくは中学生くらいだと思ったが…、)

(優さん、本当に小さいんですね。)

 さっき店に来ていた二人と慎重を比べていた。同学年とは知らずに。


 翌日。

「さ~て。小学生最後の夏休み!い~っぱい遊ぼうね、洋子!」

「そうね。」

 桜井と風間は2人で浴衣を着て、縁日に来ていた。

 桜井の浴衣は明るめの青を基調とし、所々に花が描かれている。一方風間は、ちょっと明るめの緑に花火の様な模様が描かれている。二人とも、

「近くにレンタル出来るお店があって良かったよね。」

「そうね。」

 この日のためにレンタルしていた。さすがに買うことはできなかったらしい。小学生のお財布事情では、浴衣一着買うことも躊躇ってしまうのだ。

「さ、行こう、洋子!」

 桜井は風間に手を差し出す。

「ええ。一緒に最高の思い出を作りましょう。」

 風間は桜井の手を取り、一緒に向かう。これから二人は縁日をこれでもかというくらい楽しんでいく。


 一方、

「…まじか。あいつらまじか。」

 太田清志は呆れていた。理由は、

「あいつら、約束そっちのけで何していやがる。」

 そう。太田達は前、縁日で思いっきり遊ぼうと事前約束していたのだが、すっぽかされてしまったのだ。理由は、

「な~にが、“アイスの食べ過ぎで腹壊した。”だよ!俺に内緒でアイスの大食い対決なんかやりやがって!」

 太田もアイスの大食い対決をやりたかったらしく、悔しがっていた。その結果として、腹をずっと下している訳なのだが、そんなことは太田に関係なかった。

「あ~あ。せっかく小学生最後の夏休み。みんなでバカ騒ぎして遊びたかったのにな。」

 太田は今日の昼頃、

「それじゃあ、今日は縁日に行ってくるから、夕飯要らねぇ。」

 と言ってきたのだ。もちろん、遊ぶ時間も込みで、である。だから、

「独りで遊んでもな~。」

 普段、複数人で遊んでいる太田にとって、独りでの過ごし方に若干の戸惑いがあった。普段、独りでいる時間がほとんどないため、帰宅しようかとさえ考え、

「…帰ろ。」

 縁日に光り輝く誘惑に背を向け、自宅に戻ろうとすると、

「…え?」

「え?何でいるの?」

「それはこっちのセリフなんだけど?」

 それは浴衣に身を包んだケーキ屋の娘、神田真紀だった。


 二人はしばし固まった後、

「「なんでここにいるの??」」

 同時に同じことを聞いていた。また二人とも固まり、

「・・・。」

「・・・。」

 無言の睨み合いを経て、

「俺は友達と約束していたんだが、腹壊して来られなくなったと。」

 太田が先に話し始めた。どうやら、太田が睨み合いに負けたようだ。

「私は見分を広めてこいって言われたわ。」

「見分?」

「屋台の色んな物を見てこいって意味なんじゃない?」

「そうか。それじゃあな。」

 太田は引き続き、自分の家に帰ろうと、神田に背を向ける。

 すると、

「?どうした?というか、服を引っ張らないで欲しいのだが?」

「…あ。ご、ごめん。」

 神田は知らないうちに太田の服を持っていた。

「それで、何だよ?」

「な、何でもないわ。」

「それじゃあ服を離してくれねぇか?」

「・・・。」

「はぁ。トイレか。」

「ち、違うわ!」

「じゃあ何だよ?」

「…お願いがあるの。一緒に縁日を回って欲しいの。」

 その後、“ほら、縁日っていっぱいあるし、私、初めてだし!”とか、“縁日のおすすめスポットとか把握しておきたいし!”等、色々な言い訳をしていたが、

「…はぁ。ま、しょうがないか。」

 太田は全部無視し、

「え?」

「一緒に行くんだろ?はぐれないように手を繋ぐぞ。」

「・・・。」

「どうした?ほら、早く。」

「あ、うん。」

 こうして、太田と神田の手が合致する。神田にとって、父以外の男性と手を握るのは、これが初めてであった。

 こうして、2人2組の小学生が、縁日を謳歌する。


「…あ~。やっぱり忙しくて嫌になるわね~。ね、優君?」

「いえ。そんなことはありません。」

「そんな!?私は今日、十回しか優君とイチャイチャ出来ないほど忙しいというのに!」

「暇を持て余しているんじゃねぇか!?ちゃんと仕事しろ!」

 学生達が縁日で愉快に遊んでいる頃、社会人達は会社で業務に勤しんでいた。

「にしても、今年は残念だったな。」

 時刻は今17時。残業確定なので残ることとなっているのだが、一応休憩時間にとなっているので、この機会に工藤は優に話を振る。

「何がですか?」

「去年は比較的暇だったから町内会からの依頼を受けていたけど、今年は受けなくてよかったのか?」

「はい。町内会の人達も事情を理解してくれているみたいなので大丈夫です。」

「そうか。俺からも話しておくか。」

「ちょっと。私が優君とお話しているの!割り込まないでくれない!?」

「はいはい。俺はささっと仕事を終わらせて…、」

「?どうしましたか?」

「今日って、店やっているのかなって?」

「「「あ。」」」

 今日は縁日。なら、通常運航で店をやるより、縁日で屋台をやった方が儲かるだろう。さらに言えば、縁日に人が集中するため、いつも繁盛している店も、若干閑古鳥が鳴き始めてしまうのだ。

 この工藤の発言に、

“今日の夕飯、どうしよう?”

“まだまだ仕事残っているし、手元には飴しか…。”

“俺はこの栄養補助食品があるからな!とはいえ、腹はやっぱり空くな…。”

 どうやら他の社員は、外食を当てにしていたらしく、今日の夕飯に悩んでいた。ちなみに、縁日に行くのは駄目である。理由は食べ物だけでなく、娯楽もあるから、だそうだ。

「だったら、私が夕飯を作りましょうか?」

 その優の言葉に、

「え?いいのか?」

 工藤は優の発言に疑念を抱く。

「いいですよ。空腹だと仕事に集中できませんよね。軽く作るとなると…焼きそば、ですかね?」

「「「それがいい!!!」」」

 優はみんなの勢いに疑問だったが、

「…分かりました。」

 何も言わず、一度寮に戻り、

「材料は…買い足さなくてもよさそうですね。」

 手を洗い、冷蔵庫の中身を確認してから、

「さ、みなさんのために頑張って作りましょう。」

 エプロンを着て、気合いを入れて作った。


 作り終え、夕飯代わりに焼きそばを差し入れしたところ、

「「「お、美味しい!!!???」」」

 みんな、美味しいと言ってもらえたので良かったです。

「それはそうよ!優君はあの“YUU焼きそば”の調理場を担当していた立派な料理人なのよ!」

 そんな菊池先輩の言葉に、

「そ、そんなことありませんよ!私はみなさんに美味しく召し上がっていただくように作っただけで、それほど、」

 私が言い終える前に、

「「「それはない!!!」」」

 みなさん、否定してきました。それどころか、

“え!?あの”YUU焼きそば“の生みの親なの!?“

“さすがだよねー。”

“こんな美味しいものが日常的に食べられるんだ。そんな簡単にこの職場を離れるなんてありえないよな。”

 と、私の作った焼きそばを褒めていた。確かに私は去年、“YUU焼きそば”で屋台の厨房を借りて調理していましたが、それほどではありませんよ?せいぜい、一般的に売られている焼きそばと大差ないはずです。それなのに、

「優君の焼きそば最高~♪」

「美味♪この時期に食べる焼きそばは一段と美味しく感じるな。」

 …なるほど。雰囲気による錯覚で、よりよい味となった、というわけですか。納得です。

「え?もしかして去年噂になっていた“YUU焼きそば”を作っていた人って…、」

「ん?優だぞ?」

「え?ええ!?」

 そういえば、桐谷先輩は今年入社してきたから、知らなかったのですね。

「優さん、凄いです!」

 そんな桐谷先輩の真正面からの称賛に、

「あ、ありがとうございます。」

 照れつつ、感謝の意を示す。面と向かって言われると恥ずかしいです…。

「照れている優君も素敵!」

「…お前は相変わらずだな。」

「?」

 ここで、ポケットに入れてあったスマホが振動する。

「すいません。失礼します。」

 私は少し離れ、電話を取る。

「もしもし?」

 その電話の相手は…。

次回予告

『会社員達の西瓜堪能生活』

 8月がそろそろ終わる頃、優は朝早くに草むしりを行ってから会社に向かう。その後、仕事を終えてから売れ残っていた西瓜を2つ買う。その西瓜をどのように調理して食すか考えていると、工藤が見慣れた2人を連れて社員寮に戻ってくる。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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