小さな会社員のお盆休み堪能生活~土・日曜日~
お盆休み六日目の土曜日。
私はというと、
「あ、暑いですね…。」
「ま、八月ど真ん中だし、こんなものだろう。」
とある会場で準備をしていた。
それは、
「ま、夏コミだしな。」
夏のコミックマーケット、通称夏コミの出店準備をしていた。なんでも、
「ごめんなさい。今年は急な風邪で多くの人が休んじゃって、二人にも手伝ってもらう形になっちゃって。」
「いや。俺は問題ない。」
「私も構いませんよ。」
というわけだ。おそらく、夏風邪をひいてしまったのでしょう。夏コミの用意に命をかける人もいるようなので、その反動がきてしまったのでしょう、せっかくの日だというのに、ちょっとかわいそうな気もしますが、こればっかりはしかたがありません。
「それと、この人を改めて紹介するわ。来て。」
それで来たのは、
「…初めまして。榊舞子と言います。」
どうやら、この隣にいる人は榊さん、と言うらしい。
「それで、こちらは会社の知り合いの…、」
「橘寛人だ。よろしく。」
「早乙女優です。よろしくお願いいたします。」
この女性、榊さんという方の服装は全身明るめのピンクで揃えているものの、性格はちょっと暗めのようです。声に熱意?思い?みたいなものが感じられません。どちらかというと、無理やり突き合わされて嫌々やっているような、そんな風に見受けられます。私もお手伝いという形ですが、精一杯頑張りたいです。
「それじゃあ簡単に説明しますね。」
「あ、桐谷先輩。ここは職場ではないので、敬語は必要ありませんよ。」
職場なら上下関係を考慮する必要があるが、ここは職場ではない。というより、ここでは私より桐谷先輩の方が慣れているみたいですし、私が敬語で話した方が適当でしょう。…それですと、いつもと変わりませんね。
「…それもそうだな。こちらこそ、色々教えてくれ。」
と、橘先輩は私の意見に賛成の色を示してくれた。
「…分かりまし、いえ、分かったわ。それじゃあ改めて簡単に説明するね。まず…、」
ここで、桐谷先輩による簡単な説明が作業しながら行われた。
簡単な説明の内容は以下の通りだ。
・冊子は一つ五百円
・売るときは何冊買うか事前に聞き、お金をいただき、精算してから冊子を渡す
・渡す時、「今後も応援、よろしくお願いします。」と言うこと
・何かしら言ってきたら、「ありがとうございます。」とお礼を言うこと
こんな感じでしょうか。橘先輩曰く、
「接客業と大して変わらないな。」
らしい。ですが、これは、これは違うと思います。だって、
「・・・この衣装は一体、何ですか?」
「「・・・。」」
フリッフリのスカートだった。何故、この服を着て接客しなくてはいけないのでしょうか?それを2人に聞いてみたところ、「明日行われるコスプレ大会の宣伝よ。」ということらしい。そういえば、衣装についてはちょっとはぐらされた気がしていましたが、このことだったわけですか。橘先輩はと言うと、
「俺だって恥ずかしいんだ。だから、な?」
と、スーツ?タキシード?の衣装姿で言われた。橘先輩はどうやら、今着ている衣装でコスプレ大会に出るらしい。それじゃあ、桐谷先輩は?と聞いてみたら、
「私はこの作業が終わったら着替えるわ。」
と言っていた。それなら安心…安心?何に対してでしょうか?
桐谷先輩もコスプレ衣装に着替えることでしょうか?
それとも、私だけが恥ずかしい思いをしなくて済むこと、でしょうか?
・・・。ま、どっちでもいいでしょう。今は、
「さ、そろそろみんな、この冊子を買いに来るわ。気合い入れて売りましょう!」
「「「はい!!!」」」
こうして、この同人誌を買う人が会場内に押し寄せる。さぁ、何人の人が買いに来るでしょうか。
ふぅ~・・・。
そ、それにしても凄い行列です。本当にこの同人誌を買いにここまでの人が来るなんて思いもしませんでした。一人平均して3冊以上買っていたと思います。何故そんなにも買うのでしょうか?それに、私を見るたびに、「あ!これは唯我姫ちゃんだね!初めまして~♪可愛いね。」とか、「唯我姫ちゃん。今後も応援させてね。」等を言われた。唯我姫、という方は一体…?もしかして、この衣装を着ている方の名前、でしょうか?日常でこんなフリフリの服を着ているなんて、動きづらくてたまったものではありません。それにしても、やはり、と言うべきでしょうか。女の子の衣装でしたね。うぅ、周りからは、「似合い過ぎて最高!」とか、「…実は本物じゃね?」なんて言われました。この衣装を用意した本人ですら、
「いや~。ここまで似合うとは思いませんでした。さすがです!」
…ほんと、男として悲しくなります…。
そして、桐谷先輩が着てきた衣装というのが、
「…うん。似合っているな。」
「えへへ。あ、ありがとうございます。」
簡単に言うと、水色のドレスを着ていた。所々細かい刺繍を入れていましたが、桐谷先輩曰く、
「これが今の私に出来る精一杯の努力です!」
とのことでした。そのシンプルな生地を活かしているおかげか、私の衣装がより目立ってしまい、さらなる注目を浴びてしまったのだ。事前に写真撮影禁止、という告知をしていなければ、危険な目に遭うところでした。橘先輩曰く、
「写真をネットにあげられ、アイドル認定させるところだったぞ。」
とのことでした。ほんと、良かったです。
途中、私は榊さんが裏で作業しているところを目撃し、その作業を手伝おうとしたのだが、
「…君が率先して売ってくれないと、さっきみたいにバカ売れしないから、そっちをお願いするわ。」
と、言われてしまった。どうやら、この同人誌は元々売れているらしいが、私の宣伝効果もあって、このようにバカ売れしているらしい。…素直に喜べません。そんなことを聞き、私は再び、
「いらっしゃいませー。」
「あ、この冊子を3冊。」
「はい。合計、千五百円となります。」
接客をする。もちろん、
「ありがとうございましたー。」
笑顔で。
こうして、土曜日は幕を閉じる。
お盆休み七日目の日曜日。
今日も昨日と同様、同人誌を売るのかと思ったが、
「今日は数時間で辞めるわ。その後、コスプレ大会が控えているからね。」
と、楽しそうに桐谷先輩は言ってきた。なるほど、コスプレ大会のために体力を温存しておく、といったところなのでしょう。榊さんもその案に賛成しているらしく、
「コスプレ大会、頑張ってね。」
私達の事を応援してくれた。会って1日2日の私達を応援してくれるなんて…。これは是非とも、榊さんの応援に答えたいところです。ですが、
(私、このコスプレ衣装を着ている人の事、まったく知らないんですよね…。)
確か、昨日言われていた名前は…唯我姫、でしたか。最初、教科書でその人の名前を探していたのですが、そんな歴史上の人物はいなかったんですよね。では一体、どこを調べればいいのでしょうか。
そんなことを考えつつ、今日売る予定の同人誌を見る。そして、
「あ、いらっしゃいませー。」
今日も接客する。笑顔を忘れずに。
休憩中、私は橘先輩に、唯我姫のことについて聞いてみた。
「唯我姫。ラノベアルカディアの主人公、唯我隆斗の娘だよ。」
ラノベアルカディア?それは一体…?
「ああ。もしかしなくとも、優はこういう類のものは読まないよな。ラノベアルカディアはラノベ、ライトノベル、まぁ小説だ。」
な、なるほど。小説の中の人物だったわけですか。道理で教科書の中を探しても無かったはずです。それにしても、ネットを使えば一発で分かったことを、何故私はわざわざ…。いえ、過去のことを悔やんでも仕方ありません。次に活かすとしましょう。
それにしても小説、ですか。ほとんど読んだことありませんね。次からは空いた時間に読むとしましょう。空いた時間があれば、ですが。
次に私は、唯我姫の人物像、そしてコスプレ大会の概要を聞いてみた。
まず唯我姫の人物像についてですが、一言で言うと、純真無垢な少女、らしい。活発に遊び、時に怒ったり、泣いたりしている少女で、なかでもたまに見せる笑顔が最高にいいらしい。…私にその笑顔の再現は難しそうです。
そして、コスプレ大会の概要ですが、衣装を見せるように、人前で一回転をし、何か一言言わなくてはならないそうです。その一言によって、コスプレの質に大きな差がでるとのこと。そんなことを言われましても、私は困るのですが。
そんなことを思っていたら、
「…なるほど。そのことだったら、これを言えばいいわ。」
と、桐谷先輩は紙に何かを記入し、それを私に渡してきた。何々…。…もしかして、これを読むのですか?私が桐谷先輩に目で訴えると、
「頑張れ!」
と、言われてしまった。
…待てよ?となると、橘先輩と桐谷先輩もその一言を言う必要がある、ということになる。お二人は既にその一言を決めているのでしょうか?そのことを聞くと、
「「今は言えない。」」
二人して、まったく同じ回答が返ってきた。つまり、日常では言えないほど恥ずかしい一言を言う、ということなのでしょうか。…となると、この渡された言葉もかなり恥ずかしい部類なのでは…?…今日はアイスを食べさせてもらえるわけですし、これぐらいは我慢しましょう。そうですね、うん。早速練習をしましょう。こうして私は、桐谷先輩の案を採用し、練習を行う。多くの人が見ている場で、ミスなんてすれば恥ずかしいですからね。それに、
(先輩方に恥をかかせるわけには…!)
そして、大会実行の刻は迫っていく。
大会目前。
今私達は、
「う~。やっぱりドキドキする~。」
「俺もだ。」
「私も結構ドキドキです。」
ステージ裏でスタンバイしていた。今、前のグループが一言言っているのだが、私には何を言っているのか全く分からない。何故なら、
「・・・。」
「ゆ、優さん。そこまで集中して覚えなくてもいいよ?」
「そうだ。失敗しても責めないし、俺らも多分失敗するし。」
「ですね。」
今、一言の練習をしているからである。噛むわけにもいかないので、口パクで練習している。
(…よし。これで噛むことはないですしょう!多分…。)
ちょっと心配は残りますが、誤差と思うことにしましょう。
「それでは次のグループの方、お願いします!」
「さ。私達の出番みたいだし、行きましょうか?」
「だな。」
「は、はい!」
二人に続き、私もステージに立つ。
私達がステージに上った瞬間、
“わーーー!!!”
拍手喝采とはこのことだろうな、と、達観することで、この現実から目を逸らす。無駄と分かっているのですけど、せずにはいられません。
「おー!さきほどのグループにも匹敵する素晴らしいクオリティーです!この衣装を作ったのは?」
「わ、私です。」
と、桐谷先輩はゆっくり手を上げる。
「これは一体、何をモチーフにされたのでしょう?」
「はい。今大流行しているラノベアルカディアの主人公とヒロイン、そしてその子をイメージして作りました。」
「…なるほど。今大流行しているあの!ラノベアルカディアのメインキャラクターを模してくるとは、なんていう運命でしょう!」
と、司会の方は言っていた。どういう意味でしょうか?
「それでは、一言タイムとします。誰から行きますか?」
この一言で、
「…俺が言います。」
橘先輩が最初に言うみたいです。これは緊張します。
「なるほど。あなたはおそらく、ラノベアルカディアの主人公、唯我隆斗ですね?」
「ああ。」
「それでは、どうぞ!」
橘先輩は深呼吸をし、
「こいつは俺の嫁だ!誰にも渡せねぇ!」
この一言に、
“うおおぉぉぉーーー!!!”
会場の人達は大盛り上がる。…これ、日常で言われたら、かなり恥ずかしいですね。今は羞恥という感情を知らないのでしょうか?それとも、その場のノリ、でしょうか?
「こ、このセリフはー!?ラノベアルカディアの主人公、唯我隆斗がヒロイン、青木明日香を自分の嫁だと公言した時のセリフですね!」
「…ああ。」
「なかなかのセリフチョイスです!それに、あの眼光!まさに、観客の女性陣の一部は、彼にメロメロでしょう!」
確かに、女性陣の中で、橘先輩を見る目が少し変わったように見られます。そんな余裕、私にはあまりありませんが。
「さて、次はどなたでしょう?」
「わ、私です。」
次は桐谷先輩が手を上げる。やはり、最後は私ですか。おそらく、二人が先にやり、私がどういう風にやればいいのか、イメージしやすくするためでしょう。ありがたいですけど、最後のプレッシャーが相当きています。
「おー!これはヒロイン、青木明日香の名台詞が飛びそうです。この熱を冷まさないようにお願いしたいところです。それでは、どうぞ!」
なかなか、ひどい無茶ぶりを言ったように感じますが、桐谷先輩は大丈夫でしょうか?
「はい。」
桐谷先輩は軽く深呼吸をし、
「私は!この人と将来を共にするの!あなたみたいな人格ブス、二度とごめんよ!」
このセリフに、
“うおおおぉぉぉーーー!!”
またも大歓声。二人とも凄いです。私には真似できそうにないのですが。
「こ、このセリフ、愛する人に言われたいですよね、唯我隆斗さん?」
と、司会の方は橘先輩にマイクを近づける。
「そ、そうですね。」
この言葉に、
“てめーばっかもててずりぃぞー!”
“俺らにも分けろー!”
そんな言葉が会場を飛び交う。この会場内には、羞恥心、というものは存在しないのでしょうか。確かに桐谷先輩はアドバイスの時、羞恥心は捨てた方がいいよ、と言われたのですが、まさか本当だったとは。これを正気で言える人がいるのでしょうか。言えたら…凄い、としか言いようがありません。
「いや~。会場はさらにヒートアップしてきましたね~。さて、最後は…、」
ここで、司会の方は私に近づき、
「お嬢さんの番だけど、いけるかな?」
この司会のセリフに、
「「ぷっ。」」
橘先輩と桐谷先輩は笑いをこらえていた。…あの二人、絶対気付いていますよね。私の性別の事。おそらく、この会場にいる私、橘先輩、桐谷先輩以外の人が、私の事を“女の子”と思っているのでしょう。ですから、司会の方はさっき、私の事を“お嬢さん”と言ったわけですよね。…自分にも非があるので、何とも言い辛いですが、この二人には愚痴を言っても大丈夫ですよね?小言を言うくらい、許されますよね?
「はい。」
私はそんな心の葛藤をしながら、軽く深呼吸を行う。
噛まないように、噛まないように…。そして、
「だって、お父さんとお母さんの娘だもん!だから、泣かない!」
と、出来る限りの笑顔で言った。
ちなみに、このセリフを言う時、とびっきりの笑顔で言うようにと、桐谷先輩からアドバイスをいただいている。なので、今の私が出来る最高の笑顔で言った。そして、
“うおおおぉぉぉーーー!!!”
“きゃーーー!!!”
さっきより大きな歓声が返ってきた。
「な、な、なんということでしょう!?このセリフのチョイスといい、この反応といい、クオリティーといい、まさにベスト、としか言い表すことが出来ません!実に!実に見事です!!」
…結局、どうだったのでしょうか?上手く、出来たのでしょうか?今の自分が出来る精一杯の演技?言葉?意志?そういったものを込めたりのせたりしたのだが、どうなのでしょう?私は二人に視線を送ると、
「「・・・。」」
親指を上にあげていた。つまり、“グッジョブ!”ということなのでしょう。それは、上手くいった、と解釈して良さそうですね。よ、よかった~。こんな場面に遭遇することなんてほとんどないわけですからかなり緊張しましたが、成功みたいでよかったです。
「さぁ!これで全グループのお披露目が済んだところで、審査に移りたいと思います。審査方法としまして…、」
こうして私達は、ステージから身を下す。
「まさかここまでとは。」
「そうね。特に、」
「…何故私を見ているのですか?」
手に持っている水を飲み干し、会話を続ける。緊張と暑さで喉がカラカラです。
「だって、近年稀に見る賑わいでしたから。ネットも大いに盛り上がっていますし。」
「しかも話題はみんな、最後に出てきた少女のこと、だしな。」
最後に出てきた少女?それってまさか…?
「私のこと、ですか?」
私達のグループが最後な上、この三人の中で年齢的に最も近いのは私でしょう。ま、実際の性別は異なっているので、否定したいのですが、勘違いさせるような衣装を着た私も悪いので、非難出来ません。あ~あ。もっと男らしい体に成長できればこんな苦労、しなかったのに。
「ま、とにかく、今は結果発表までしばらく待つか。」
「そうね。」
「はい。」
こうして三人、水分を補給しながら時を待った。
そして、結果発表の時、
「では、結果発表です!最優秀グループは…、」
少し間が空いてから、
「最終グループ、唯我一家、です!!!」
この司会者の言葉で、
“わーーー!!!”
会場はさらに盛り上がった。
これは…もしかしなくとも、
「私達が優勝した、ということでいいんですか?」
「ええ!ええ!!」
「よし!」
桐谷先輩は大喜び。橘先輩もガッツポーズを小さく決めていた。そんな嬉しそうな二人を見られて、私もなんだか嬉しいです。
「それでは優勝賞品として…、」
こうして、コスプレ大会は幕を閉じる。
「いやー。今回のアイス、すっごく美味しかったです!」
「そ、そう?それなら参加させて良かったと思うわ。」
「…あれ、そんなに美味かったのか?アイスと肉のコラボなんて外れしかないと思っていたのだが…。」
実際、とてもおいしかったです。アイスと…骨付き肉?でしたっけ?なんでも、アニメでよく見られている骨付き肉の味を再現し、アイスと組み合わせたこの場限定のアイスを食べることができて、私は今、幸せです!!肉のジューシーさと、アイスの爽やかさがちょうどいい味を出し、
「思わずとろけてしまいそうです~♪」
食べたときもそうですが、思い出しただけでも涎が溢れ出てしまいそうです。
「…優。ちょっとこっち、手伝ってくれないか?」
「あ、はい!」
おっと。今は片づけに集中しないといけませんね。
私は気を引き締め、桐谷先輩、橘先輩、榊さんの4人で片づけを行う。
「…それでは、今日もお疲れさまでした。」
「「「お疲れさまでした。」」」
片づけが終わり、後は帰路に着くだけとなった私達。まず初めに、
「…じゃあ私はこっちだから、また今度、ね。」
「はい!また今度会いましょう!」
榊さんが帰って行った。行先から察するに、私達とは別方向から来たようです。関西方面、ですかね?
「…それじゃあ、私達も行きますか?」
「そうですね。」
「だな。」
こうして残された私達3人は帰りの電車に乗る。
「それにしても、まさか最優秀賞に優さんが選ばれるとは思いませんでした。」
「だな。あれは衣装だけでなく、演技力もかなり必要で、数年に一度出るか出ないかくらいだったのに。」
「いや、これは偶然ですよ。きっと、あまり出ないものだから、今年、誰でもいいから賞を与え、賞の存在を認知させるためにわざわざ私を選んだ、ということですよ、きっと。」
「そうかなぁ?」
「私は、優さんがその賞を持つことに賛成ですよ。それに、会場にいた全員も賛成だったじゃないですか。」
「う~ん…。そうなの、でしょうか?」
私としては、この衣装を作った桐谷先輩こそ最優秀賞を受賞すべき人間だと思っているのですが。
「それにしても、この衣装は自前なのですか?」
こんな衣服を日常で着る場面なんてないでしょうし。それに、大人の人が子供服を買うときなんて、自分の子供のためか、別の子供に対するプレゼント用ぐらい、ですよね。
まさか、自身のコスプレ用に買う、なんて人が…いるかもしれませんね。意図しなくても、私がその仲間入りを果たしているわけですから。自分で言っていて悲しくなってきます…。
「店にあった服をベースに装飾を施したわ。後は…ある人の手伝いも借りたわ。」
「ある人って誰だ?」
「…ここで私は、個人情報保護法を行使します。」
「「??」」
何故か急に桐谷先輩が法律を盾に情報公開を拒んできたのですが、どういうことでしょう?そこまで言いたくない人、ということでしょうか。ですが、そこまで言いたくないのでしたら、無理して聞くことはありませんね。
「…分かりました。あ、ちょうど着きましたね。」
私は電車から降りる。二人はまだ乗るみたいですね。
「では私はここで失礼します。」
「今日はありがとうね、優さん。」
「お疲れ、優。」
「はい。今日はありがとうございました。」
私は頭を下げ、そのまま電車を見送った。
「さ、明日からまた頑張りますか!」
ほとんどいなくなった駅のホームで独り、決意を言葉にし、寮へと向かった。
(それにしても、危なかったぁ~。)
優が電車を降りた後、桐谷は安堵していた。先ほど聞かれた“協力者”に対する質問である。本来、優に言ってもよかったのだが、優の精神面を気にし、言わなかったのだ。
「…なぁ?」
「はい、なんでしょうか、橘先輩?」
「さっき言っていたある人って、菊池先輩、か?」
「…そうです。あの、このことは…、」
「分かっている。言うつもりはない。」
橘も、優の精神面を気にし、言うつもりはなかった。ただ、気になったことを聞いただけに過ぎないのだ。
「それにしても、ラノベアルカディアもいよいよ、ですね。」
「ああ。楽しみだな。」
こうして、男女二人のラノベ談義は電車内でも始まった。
それは、お盆休み最終日にして、遅すぎる始まりであった。
こうして、各々のお盆休みは終わり、
「あ~!?優君、おはよう!今日も一緒にイチャイチャ…!」
「せずに仕事しろよ!」
「…ち。」
「舌打ちしない!」
「…さて、今日もよろしくお願いしますね。」
優にとって、久々の仕事が始まる。
次回予告
『小学生達の夏祭り生活』
お盆休みが終わり、社会人が仕事を再開し始めたころ、近場で夏のお祭りの開催日が近くなっていた。その屋台の一つに、ある有名な焼きそば屋さんがあった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




