小さな会社員のお盆休み堪能生活~金曜日~
お盆休み五日目の金曜日。
今日は確か、
「必要な荷物はこれで十分、ですかね。」
自由研究の件です。メインのケーキ作りは終わったことですし、後は感想とか、動機等を考えるだけと言っていましたね。
「そういえば、昨日取りに行ったあれも持って行かないとですね。」
近くに置いてある袋も自前のバッグに詰め、
「それでは、行ってきます。」
社員寮を後にする。
場所は前回行ったケーキ屋。そこで自由研究のまとめを行うそうです。私としては、図書館の方が場所も広くて静かでいいのでは?なんて考えていたのですが、おそらく、私とは異なる考えで判断したのでしょう。ケーキを作った道具もありますし、プロもいることですし。
「あ。おはよう~、早乙女君。」
店近くに行くと、店の前にいたであろう…神田さん?神田さん、でしたね。神田さんが私に手を振ってくれた。私は軽く会釈を行い、
「おはようございます。今日はよろしくお願いいたします。」
「こっちこそお願いね~。みんなはもう部屋の中にいるから。」
と、神田さんは私を家の中に入れ、案内してくれた。
案内されたところは、
「あ、早乙女君!」
「おはよう。」
「おっす。」
とある一室。部屋には机、本棚、ベッド等があり、小さなテーブルの上には勉強道具、ではなくお菓子が袋を開けられて存在していた。…どうやら、私が来るまで、色々と飲み食いをしていたらしい。みなさん、自由研究の方は進んでいるのでしょうか?
「それじゃあ、話し合いを始めましょうか?」
風間さんの掛け声により、
「「「「はい。」」」」
テーブルの上を片づけ、話し合いを始めた。
話し合いと言うのは、どのように発表をし、紙面にまとめるか、という話だった。基本的には、私を除いた4人で話し合い、困ったら私に聞く、というスタンスだった。私もみなさんの話を聞き、出来る限り話し合いに参加したつもりだったが、これで良かったのでしょうか。工藤先輩や菊池先輩が行っている会議と根幹は変わらなかったですね。そして、その案を風間さんがメモしていく。メモすることはいいことですよね。私もメモしておきましょう。
「…ということで、いいかしら?」
「「「うん!!!」」」
これで大体、発表する算段はついたらしい。これで後は資料と原稿…はいらないかな。となると、発表資料だけですね。発表する人、質問に答える人は自主的にある程度調べないと、質問で聞かれたとき、対処出来なくなりますからね。私は表立って発表したことないんですけど。
「早乙女君はどう?何か気になるところでもあった?」
「え?」
何故私に聞くのでしょう?私が反対しても、4対1で私の意見は却下されるのに。もしかしたら、少数意見を尊重してくれるつもりなのでしょうか。
ですが、
「…いいと思います。」
今の私では、4人に対する案はそれで最適だと思います。要するに、反対意見も、反対する箇所も、今のところ見つかりません。私もまだまだです。
そして、いよいよ発表資料を製作、
「失礼するわね。そろそろお昼だけど、みんなはどうする?」
急遽、いや、ノックはされたようなので、急ではありませんね。神田さんの母親が部屋に入ってきた。
「う~ん。今日は1日かかるから、お昼はどっかレストランに行こうかと…、」
と、神田さんは言った。
おそらく、実の両親に負担をかけさせないためでしょう。もしくは、他の家でお昼を食べることが精神的に辛いと知っているから、その辛さを味合わせないようにするため、でしょうか。いずれにしても、私達に気をつかっている発言です。部屋を使わせてもらっている立場ですし、ここは神田さんの考えに従いましょう。
「え?そうなの?」
と、神田さんの母親は事前に聞いていない様な反応を示す。まさか、親子間で報連相を忘れたのでしょうか。
「昨日も一昨日も言ったでしょ!?みんなでお昼を外で食べるから、お昼の用意はしなくていいって!」
…この発言から察するに、報連相はしていたが、神田さんの母親の記憶には残っていなかったらしい。メモしていなかったのでしょうか。
「…そういえば、そうだったわね。」
と、神田さんの母親は思い出したのか、納得した表情を見せる。
「それだったら、デザートは食べないでね。家で用意してあるから。」
どうやら、デザートは既に用意していたらしい。予め用意しておくなんて、それほど手間のかかるデザートなのでしょうか。
「それじゃあ私達はお昼食べに行ってくるね。」
「ええ。行ってらっしゃい。」
こうして、5人で外食することになった。
ところで、休日の昼食を1人で食べるなんて、ちょっと悲しくなりますよね。家族いるのに。そんなことをお節介だと自覚しつつ、ちょっと考えてしまった。
あれから私達は、お昼を食べ、家でデザートをいただいた。それで一つ気になったことが、
「…なぁ?なんで俺の分だけ違うケーキなんだ?」
男の人の分だけ、ケーキの種類が違ったのだ。私達4人は苺のショートケーキなのだが、この男の人の分だけ、栗を使ったモンブランであった。ですが、
(…何でしょうか、この違和感は…?)
モンブランに違和感を覚えていた。このショートケーキと比べると、何かが違います。…何でしょう?自分でも上手く説明できませんが、同じ人がこの2種類のケーキを作った、とは思えないんですよね。もしかしたら、デコレーションに違和感を覚えているのかもしれません。ショートケーキの方は綺麗なのに、モンブランの方はちょっとつたなく見えます。ですが、これで文句を言う程、私は醜い人間ではありません。でも、これを本職の方が作ったのか、と言われると、ちょっと違和感を覚えます。私の考えすぎかもしれませんが。いえ、きっと私の考え過ぎなのでしょう。
「!?美味しい!」
「そうね。いつも食べている味ね。」
「味もそうだし、可愛いよね!」
「ウマウマ。」
…やはり、私の考えすぎのようです。よく考えると、人が汗水たらして作り、善意でいただいているのに、あれこれ考えるのは失礼ですよね。美味しい。この一言だけで十分ですね。
「とても美味しいです。」
「そう。良かったわ。それじゃあこれで失礼するわ。引き続き頑張ってね。」
「「「「「はい。」」」」」
こうして、神田さんの母親は部屋を後にした。
「み、みんな!ケーキは美味しかった!?」
「!?きゅ、急に大声出すなよ。ていうか、何で俺を見ながら言うんだ?」
「…別に。」
と、神田さんは男の人を見ながら言ったかと思えば、急にそっぽを向いた。この態度は一体…?ま、それより今は、
「とても美味しかったと思います。」
「私も!」
「そうね。」
「ま、確かに美味かった。見た目もいいし、さすがってところだな。」
「み、そ、そう。それなら良かったわ。」
「?」
私は神田さんの態度に違和感を覚えつつ、
「それじゃあ、作業にとりかかるわよ。」
「「「おう!!!」」」
「はい。」
資料作りに精を出す。
数時間経過し、
「・・・ふぅ。こ、こんなもの、かしらね?」
大体出来た、と思います。と言っても、
「それにしても、かなり写真を使っちゃったけど、これでいいの?」
写真をかなり使ったが、問題はないでしょう。
私はカメラで資料作成を神田さんの両親にお願いした後、そのフィルムを現像してもらっていたのだ。そのおかげで、絵を描く必要が無くなったのだ。これで時間の短縮に繋がったことでしょう。原稿も並行作業で進めていますが、そこまで必要ではないでしょう。そして、
「あ~!この写真欲しい!」
「私は綾と写っているこの写真にするわ。」
「私は…これにしよう。」
「あっはっは!この時の俺、鼻にクリームつけてやがるぜ!」
写真選びしながら、自身が欲しい写真も選んでいた。ま、事前に欲しい写真をこうして申請してらえれば、後でその人数分現像してもらえばいいですし、ちょっとした作業の息抜きにはちょうどいいでしょう。
(みなさん、楽しそうです。)
あんなに楽しんで写真を選んでいることですし、その空気に水を差すのは邪、というものです。
(少し、水が飲みたいですね。)
私はこの空気の中、独り、部屋を静かに出て、台所に向かう。
「水水っと。」
私は台所に向かい、水を飲もうとしている時、
「それにしても真紀は上手くやったかしらね。」
「ま、大丈夫だろう。」
「でも、あなたの子だし。」
ん?何か話し声が…、
「でも、あれに気づくかしらね。」
「一応、俺もお前も見ていたし、直接は手伝っていなかったけど、さすがは俺達の子だ。あそこまで上手いとはな。」
「ええ。だからこそ心配なのよ。ちゃんと褒めてもらわないと、あの子の今後のやる気に関わるわ。」
「そういうものか?」
「そういうものよ。」
これは、神田さんの両親の声ですか?何について話をしているのでしょうか?
「でも、あの子なら気づくんじゃないかしら?」
「ああ。あいつなら気づきそうだな。常によく見ているし、小学生とは思えないほど達観しているというか何というか…。」
・・・誰の話を…?
「あ。」
「「あ。」」
気づかれてしまいました。隠れているつもりはなかったですが、自然と隠れていたのかもしれません。
「…どこから聞いていたの?」
「…いえ。何も聞いていませんよ。」
出来る限り冷静に答える。
「「嘘だな。」」
一瞬でばれたようです。
「…写真はどうしますか?欲しいものはあります?」
「ごまかしたわね。」
「ごまかしたな。」
そんなことはどうでもいいのです。
「一応、こちらが画像一覧です。どうぞ。」
「ありがと。どれにする?」
「やっぱり、真紀の調理姿は欠かせないよな。」
「それだと、これとこれ、かしらね。」
「だな。」
と、二人は写真を選んでいた。
それより、さっきの会話の意味は一体…?内容から察するに、真紀、という方のことについて話していたような…?
「ねえ。さっきのケーキ、どう思った?」
「え?」
さっきのケーキ、ですか?別に何とも…。
そういえば、さきほどのケーキ、というより、モンブランに違和感がありましたね。人からのいただき物に邪な考えを抱くのは失礼かと思っていたのですが、もしかして、この2人が何か仕組んだのでしょうか?
「そうですね。さきほどのケーキはとても美味しかったです。」
とりあえず、味の方は美味しかったと伝えておきましょう。それにしても、あの違和感は一体…?
「…そう。」
と、母親の方はちょっと浮かない顔を見せた。どうして?まさか、聞きたいこととは異なる答えが返ってきたから?味ではないとすると、まさか…?
「やはり、男はみんな、見た目に関しては鈍感なんだよ。」
見た目、ですか。
それと、さきほどの発言。
・・・。
なるほど、そういうことですか。
ですが、このことを私が直接言うわけにはいかないですし、どうしますか?それとも、このまま放置の方が…。
「「はぁ。」」
…何故、二人ともそんなに神田さんのことを…。
そうか。神田さんの親だから、ですか。親だから、娘のことが気になる、ということなのですか。
でしたら私のするべきことは、
「そして、綺麗なデコレーションでしたよ。」
私のこの発言に、
「そ、そうか。」
「よ、よかったわ。」
やはり、私が考えていた通りです。
おそらく、あのモンブランは、神田さん本人がデコレーションをしたのでしょう。他のショートケーキはこの神田さんの母親が作った、というところでしょうか。そして、先ほどの神田さんの違和感に納得がいきます。ですが、あの時、ちゃんとあの男の子は褒めたはず。何故、あんな対応を?
「とりあえず、水をいただきますね。」
「ああ。」
「いいわよ。」
水をコップに注ぎ、台所を後にしようとする。
「取りあえず、上手くやっておきますので、ご安心ください。」
私はそう言い、部屋へ向かう。
部屋に入り、
「あ、早乙女君!他に写真はないの!?」
桜井さんが迫ってきた。
「とにかく落ち着いてください。それで写真は全部ですよ。」
「嘘!?だって、早乙女君、全然写っていないよ!?」
ちなみに、私が写っていたであろう写真は事前に全部抜き取ってある。私が写っている写真なんかいらないだろうし。
「ええ。それより、進捗状況は?」
「大体終わったわ。」
「そうですか。」
でしたら、やることはほとんど終わりましたね。後は、
「ところで、先ほどのケーキはどうでしたか?」
「そうだね。味はもちろん、見た目も綺麗だったよ。」
「モンブランはどうでしたか?」
私は男の人に話を振る。
「!?」
これで話のきっかけくらいにはなるでしょう。後は神田さん次第です。余計なお世話かもしれませんが。
「ん~…。確かに、今まで食べた中で一番美味かったし、見た目も一番だったと思うぞ?」
「!?」
「そうですか。それはよかったですね。」
「?お、おう。」
「ねぇ!早乙女く…!」
「じゃ、じゃあさ!こんなケーキもあるんだけど、どうかな!?」
と、神田さんはどこからかメニューを取り出し、男の子に見せだす。
「う~ん。どれも美味そうだな。」
「でしょ!?それで、私の一番おすすめは…!」
これは、一時退室する必要がありますね。私はまた、部屋を後にする。
「あれ?お二人も、ですか?」
「うん。だってね…、」
「あんな空気に留まる勇気なんてないもの。」
「そう、ですね。」
しばらくの間、別室で待機していた神田さんの両親と出くわし、5人で雑談を交わしていた。それにしても、あの2人が放つ空気。あれは何というものでしょうか。
しばらく話していると、
「ああー!こんなところにいた!」
「なんでここに全員いるんだよ!?」
どうやら話は終わったみたいですね。
「それでは、私はこれで失礼しますね。」
「私も帰るね。」
「そうね。」
どうやら、桜井さんと風間さんも帰るらしい。
「それじゃあ俺も…、」
「「まぁまぁ、待ちなさい。」」
一方、男の子の方は神田さんの両親に捕まっていた。…なんか、ご苦労様です、と言いたくなる光景です。
「え?いや、俺は…、」
「まぁまぁ。まずはこっちに座って、ね?」
「そうだな。家一番のケーキでも出すとしようか。」
二人が男の子に集中している間に、荷物をまとめるとしよう。途中、神田さんの叫び声が聞こえていた気がしましたが、気のせいですよね。
帰る用意も済ませ、私を含めた3人は玄関まで来ていた。
「それじゃあ、今日も部屋を使わせてくれてありがとうね。」
「いいのよ。お母さんも喜んでいたし。」
「ところで、太田君は?」
あの男の子の苗字、太田、と言うのですか。初めて知りました。覚えておきましょう。
「ああ…。しばらくは家にいると思うから、そのままでいいよ。」
「そう?」
と言いつつ、桜井さんと風間さんはにやけていた。
「頑張ってね?」
「応援しているわ。」
その発言に、
「ち、違うわ!そんなんじゃないから!」
と、顔を赤くしながら言ってきた。私、何も言っていないのですが。
「それでは、今日はありがとうございました。失礼します。」
「「ありがとう。」」
「うん。またね。」
こうして3人はそれぞれ帰路についた。
一方、
「ねぇ?これから時間ある?ちょっと練習しない?」
「なんなら家に泊まり込むか?」
「あ、いや、その…、」
「もう!お母さんもお父さんもそれくらいにしてよ!太田君が困っているでしょ!」
神田家は一時期、混沌となっていた。
そして、金曜日は幕を閉じる。
次回予告
『小さな会社員のお盆休み堪能生活~土・日曜日~』
同学年の人達と自由研究の資料をまとめ終え、次は桐谷、橘とのコミケである。優を含めた3人は日曜日に開催されるコスプレの大会に出場する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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