小さな会社員のお盆休み堪能生活~木曜日~
お盆休み四日目の木曜日。
今日は確か、
「うふ。うふふ。ぐへへへ…。」
この気持ち悪い、いえ!変わった笑みを浮かべている菊池先輩と過ごす日です。その菊池先輩は、朝ご飯を食べた後、服のお手入れをしている。
「さぁ~て。どの服にしようかしら?うへ。」
…服をニタニタ見ながら。その服は女性服で、菊池先輩が着るにはサイズが小さいです。それに、さきほどから見せている笑み。これは、というより確実に…、
「優君!今日はファッションショーよ!いーっぱいお洋服を着せてあげるからね!」
…どうやら、ろくでもないことが起きるようだった。
「嫌です。」
もちろん、私は断る。何が悲しくて男の私が女性の服を着なくてはならないのですか。…仕事中は仕方なく、仕方なく着ていますが、休日まで着たいとは思いません。
「そんな~。そんなこと言わずに、ね?」
「無理です。」
まったく。私にその意思は…!?
「そうなの?それじゃあ、この夏限定、屋台風焼きそば味のアイス、私が食べちゃおうかしら?」
「!?な、なんですって!?」
そんな新作のアイス、聞いたことがありません!…いや、もしかしたら菊池先輩が単なるハッタリをかましているだけかもしれません。
「ほらほら~?冷凍庫に茶色で丸い物体が見えないかな~?」
「!!??」
ど、どうやら菊池先輩の言っていることは本当みたいです。ぐ!物で釣るなんて卑怯な!こ、これは…!
「・・・わ、分かりました。ですから、そのアイス、私にください!」
「えへへ~♪それじゃあ先に、こっちの服を着てもらいましょうか?」
嫌でも、逆らうなんて出来ないじゃないですか!?つ、次こそは絶対に…。
そんな覚悟とは裏腹に、溢れ出そうな涎を抑え、菊池先輩が用意した服に着替え始める。
そして、優によるファッションショーが始まる。
最初は、メイド服だった。
だが、いつも着ている落ち着いた色の服とは異なり、ピンクを基調とし、所々白いフリフリが付いている。これは本当に同じメイド服、なのでしょうか?そう思うほど、普段来ているメイド服と印象が変わっていた。
「優君はほんと、何を着ても似合うわー♪」
…これを着てそんな賞賛を受けても、まったく嬉しくありません。むなしいだけです。
次はチャイナ服?という服を着せられた。これは青と黄、2種類を用意していたらしく、どっちか着ればいいのかなと思っていたのだが、
「どっちも着てね!」
とのことだった。私の予測はよく外れますね。
まず、青いチャイナ服を着た。これは丈が長く、足も隠せるくらいだった。…これはもしかして、体が小さい私に対する当てつけ、というわけではありませんよね?
「いいわ、いいわ!そのスラリと見える足!そそる、そそるわ~♪」
…どうやら、この隙間?から見える足に興奮しているようです。菊池先輩がだんだんおかしくなっている気が…。あ、元からでしたか。
次に、黄色いチャイナ服を着た。これは青いチャイナ服よる丈が短くなっており、
「優君の生足、はぁ、はぁ…。」
…菊池先輩の息がさらに荒くなっていた。なんかこれ、着ていて恥ずかしいです。人目に晒されていないことが唯一の救いでしょうか。
「あ、優君。そろそろお昼の時間ね。ご飯、用意しようか?」
「そ、そうですね!それでは少し失礼しますね。」
「あ、その…、」
さ、今日の昼食は何を作りましょうか?
だが、優は忘れていた。自身が今、
「あ~…。昨日は久々に飲み過ぎちまったな。なんかご飯で、も…?お、おお!??」
「?どうかされましたか、工藤先輩?」
「…優。その、ドンマイ。」
「え?…あ、ああ!??」
黄色いチャイナ服を着ていることに。
「こ、これは違うんです!菊池先輩が無理やり…!」
「分かっている。分かっているから、な?」
「ほ、ほんとですからーーー!!!」
共同リビングに小さい少年の声が響いた。
「うう…。もう外に行けません。」
「大丈夫よ。あの酒豪しか見ていないんでしょ?なら大丈夫よ。」
「それはそうかもしれないですけど…、」
工藤先輩にあんな痴態を見せてしまうなんて…!
「大丈夫よ!いざという時は物で釣ればいいのよ!」
「き、菊池先輩…!」
菊池先輩はそこまで私のことを…、
「さ、次はこの水着を着てね?」
「・・・。」
私のことを想って、いるのでしょうか?私はそんな考えを脳内に置きつつ、菊池先輩の言葉に従った。…それにしても、こんなに色んな服を持っているなんて。菊池先輩は何故、自分で服を着ないのに、数多くの服を持っているのでしょうか?謎です。
夜。
「…よし。次で最後にしましょうか?」
「うっし!」
ガッツポーズをする。だって、やっと終わるんです!この、地獄の時間が!
「最後は…これにしようかしら。」
と言って、菊池先輩が持ってきたのは、
「これは…和服、ですか?」
それに2着?最後と聞いていたのに…。
「そう!最後は私とお揃いの浴衣よ!」
そう言って、私と菊池先輩は着付けを始める。
着付けが終わり、
「ふぅー。ようやく終わりましたね。」
「そうね。相変わらずの優君。似合い過ぎてやばい。」
「?何がやばいのですか?」
「…何でもないわ。後、これを付けてね。」
「…はい。」
私は菊池先輩からウィッグを渡され、それをつける。浴衣用に新調したのか、髪をお団子状にまとめている。
「…うん。うん!最高!最高よ、優君!!」
「あ、そうですか。ありがとうございます。」
よくわかりませんが、どうやら菊池先輩は気に入ってくれたらしいです。
「さ、後はその浴衣に似合う髪型を模索しましょう。次は…、」
こうして、菊池先輩は心行くままに堪能した。
その後、私は菊池先輩から屋台風焼きそば味のアイスをもらい、食した。
ほんと、最高でした♪
そして、木曜日は幕を閉じる。
一方、
「それにしても、優は何を着ても似合うよな。」
工藤はお酒を飲みながら、
「ま、これで趣味に目覚めるなら、それはそれでいいか。」
優の今後について考えていた。
「あの優にも、趣味の一つや二つ、見つかるといいんだがな。」
酒のつまみをつまみつつ、
「最初の頃と比べると、人間的に大きく成長したからな。」
入社当初の優を思い出していた。
次回予告
『小さな会社員のお盆休み堪能生活~金曜日~』
物に釣られて様々な衣装を着せられてしまい、早乙女優は色々とヘトヘトになった。そんな精神的疲労を伴った木曜日は終わりをつげ、次は自由研究の成果をまとめる金曜日がやってくる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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