小学生達の自由研究実行生活
お盆休み前の忙しい時期が過ぎ、少し長めのお盆休みをもらえることになった。とは言え、休みといえども、予定はかなり詰まっている。
「まさかあんなにやる気になっているとは…。」
あの集まりの翌日、また私達は集まったわけだが、その時、
「うちの両親、なんか…早乙女君のケーキ、すごい楽しみにしているんだ。」
と、申し訳なさそうに言われた。
何でも、許可をとれた一番の理由は、私の発言内容によるもの、だそうだ。確かに、私がこれまで作ってきたケーキの中で一番見た目がいいケーキを作ろうと思っているのだが、それはあくまで、自分の中で、という前提がある。もちろん、自分が作ったケーキが世界一!という自信はもちろんないわけでして。となると、少し申し訳ないです。ま、初めから本職の人に勝てる、という夢は見ません。どれだけ高評価をもらえるか、という点だけ考えていきましょう。
そして、ケーキ作り当日。
「…ふぅ。」
私は膨らんでいる大きな袋を複数個持ち、目的地へ向かっている。目的地は本日の集合場所となっているケーキ屋、神田屋である。神田さんによると、道具どころか、食材もある程度使ってもいいという事でしたが、これは私達5人の自由研究です。自分達で出来ることは自分達でしないと、ですよね。というわけで、私は前日の内に必要な食材を買い込み、冷蔵庫に保管し、当日の今日、この神田屋に持ち込んでいるのだ。ちょっと重い…。
「ここが神田屋、ですか。」
前にも来たことがありますが、綺麗なお店です。食品を扱う店なだけあって、店自体も、店の周囲も清潔です。日頃の掃除の賜物でしょう。こういったささいなところにも気を配っているあたり、仕事も丁寧なのでしょう。こういったことが、店を長く続ける秘訣なのでしょう。そんなことを思いながら私は、
「おはようございます。」
「おお。来たか。」
「うわ!?何その大荷物!?」
「今日使う予定の食材です。」
裏口から入っていった。
私と神田さんの両親が食材を冷蔵庫に入れ終え、リビングまで行くと、既に全員準備出来て暇を持て余していたらしく、テレビを見ていた。一瞬、イラっときてしまったが、これは八つ当たりでしかないのだろうと思い、心の内に秘めておいた。
「お?ようやく来たか。」
「早乙女君、おはよー。」
「今日もよろしく。」
「朝からお疲れ様。」
どうやら今になって私の存在に気付いたらしい。玄関で音がしていたと思うのですが、それには気付かなかったのでしょうか。
「それでは全員来たことだし、今日使う道具の説明をしよう。全員厨房に来なさい。」
「「「「「はい。」」」」」
こうして、私達5人と、神田さんの両親2人。計7人が厨房へと向かう。
「それじゃあこれから説明を始めるぞ。」
「「「「「はい。」」」」」
「それじゃあまずは…。」
そして、説明が始まった。
説明といっても、実際に使いながらの説明、というより実演、でしょうか。事前に用意したであろう生地等を使って、実際にスポンジを焼いたり、生クリームをかき混ぜたりと、色々教えてくれた。私も菊池先輩から教えてもらいましたが、本職の人は一味違いますね。手際といいますか。使い慣れている感じが見受けられます。この道具も手入れはしっかりなされているようですし。さすがは本職です。
「…これで以上だ。何か質問はあるかな?」
「「「「「・・・。」」」」」
どうやら全員ないみたいだ。私も一通り使用経験のある器具ばかりだったことですし、これを機会にいい復習になりました。
「それじゃあ、ケーキ作り、頑張ってくれ。」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
こうして、私達のケーキ作りは始まった。
ケーキ作りは本当に難航した。
ただでさえ、私も何回か作ったことがあったとはいえ、手間がかかる、かかる。それに、他の人達にも教えながら作業を進めないといけないわけで、それが4人分。自身の作業もあるので、実質5人分。本当に大変でした。事前に話していたとはいえ、間違いやハプニングは起こるもので、
「ああ!牛乳の量が!」
「ああ!またやっちゃった…。」
主に入れすぎで、である。スイーツは分量をきっちりしないといけません。ですから、その後のフォローはほんと大変でした。中でも意外でしたのが、
「君、なかなか出来るね。」
「え?そんなことないとおもうけどな~。」
男の子が手際よく作業をこなしていた。他の人達は全員、何かしら失敗をしているというのに。本来なら、失敗の一つや二つは当たり前だと思っている。私もそうでしたから。そう考えると、結構すごいこと人なのでは?と思ってしまう。本人は気づいていないようですが。
そして、
「後はこの砂糖菓子をそれぞれの場所に置いてください。」
「「「「はい!!!!」」」」
いよいよ、
「これでいよいよ…、」
「やっと…、」
「か、か、か、」
「完成だーーー!!!」
みなさんがそれぞれの場所に砂糖菓子を置き、ケーキは完成した。
「それにしても、よくこんなケーキを思いついたもんだな。」
「ええ。どうやって思いついたの?」
と、神田さんの両親が私に聞いてきたので、
「とある人に頼まれたんです。日本の四季を感じさせるケーキを作って欲しい、と。」
そう。
このケーキは四季、日本の季節をテーマに創作したケーキだ。だから、4種類のブロックに分かれている。それぞれ、春、夏、秋、冬を表している。
春は桜をイメージし、それに合うよう、イチゴのクリームで再現。そして砂糖菓子には、桜が満開の木を。
夏は新緑をイメージし、それに合うよう、メロンのクリームで再現。そして砂糖菓子には、
葉っぱが生い茂る木を。
秋は、紅葉をイメージし、それに合うよう、ミカンのクリームで再現。砂糖菓子には、紅葉で色づいている木を。
冬は、降雪をイメージし、それに合うよう、チョコのクリームの上にホワイトチョコのパウダーを振りかけて再現。砂糖菓子には、雪が降り積もって白くなった木を。
計、4種類のクリームを使うので、クリーム製作には時間も手間もかかり、何より、製作方法に何度も悩まされた。
というのも、今回は事前に4つに切り分け、それぞれデコレーションしてから、再度合わせたが、前はそうではなかった。最初は4つのシフォンケーキを焼き、4種類のホールケーキを作ってから、4分の1を切り出し、それを合体させて作っていたからだ。この手間をどうしようかと悩んでいた時、菊池先輩から助言をもらい、1つのシフォンケーキを事前に切り分け、それぞれデコレ―ションしてから再度くっつける、という方法を採用したのだ。
一見、何でこんな簡単なことが思いつかないの?と言われそうだが、本当にそうですよね。ですが、気持ちは分かります。固定概念や前提条件が邪魔をし、知らないうちに可能性を切り捨てていたと思うのです。ですから、事前に切り分ける、なんて方法も思いつかなかったのです。…自分に対する言い訳はこれぐらいにしておきましょう。
なので、こんな紆余曲折を経て、今のこのケーキがあるのです。改善点は多いですが、それでもかなりの出来だと思います。なんとかして材料費を削れないものですかね。例えば…、
「早乙女君!これが言っていた…!」
「え?あ、はい。これが、私が一番凄いと思ったケーキです。」
「た、確かに手間をかけただけはあるわね。」
「俺は手、手首が…。」
分かります。クリームを製作する際、手首はよく使いますよね。
「それにしても、この砂糖菓子はどこで手に入れたの?」
と、神田さんは4つの砂糖菓子を指差す。
「それは、とある人が作ってくれたオーダーメイド品です。私ではここまで精工に作ることが出来ませんので。」
ま、そのとある人は、菊池先輩の事、なんですけどね。今回も菊池先輩に助けられてしまいました。次回の課題は、この砂糖菓子を自分一人で作れるようになることですね。
ちなみに、
「うん。これで一通り撮れたな。」
神田さんの両親には、写真撮影の方をお願いした。自由研究なので、製作場面も乗せる必要があるだろうと思い、お願いしていた。けど、
「あ~。久々に楽しかったわ。ありがとね、早乙女君。」
「いえ。喜んでいただけたのでしたら幸いです。」
途中から我慢できなくなっていたのか、ちょくちょくケーキ作りに参戦していた。ま、このお二人が参加してくれたことで、みんなの負担が減ったので、結果的によかったのでしょう。
「それでは写真も撮れたことですし、味の確認でもしますか?」
「「「「うん!!!!」」」」
「「・・・。」」
神田さんの両親は、フォークとナイフの用意を始めていた、これは以心伝心なのでしょうか?それとも、たんなる食い意地…?いや、考えないようにしましょう。
こうして、ケーキの実食が始まった。
ケーキの切り分けは、神田さんの両親がしてくれた。さすが、といったところなのでしょう。綺麗な7分の1カットです。ちなみに、4種類の味がする箇所をそれぞれ7分の1カットしてくれたので、28分の1カットを4回してくれたことになります。自分で作っておいて言うのもなんですけど、手間がかかるケーキです。
「あ。私はトイレに行きたいのですが、トイレはどこにありますか?」
「ああ。それならそのまま突き当りを右に曲がればトイレよ。」
「ありがとうございます。」
そして私は厨房へと向かった。
ケーキを食べ終え、私達は自由研究のことについて話し合っていた。
「でしたら、私が製作方法をまとめますので、残りはそちらでお願いいたします。」
「おう。しっかりやるからな。」
「うん!飾りつけは任せてね。」
「その前に感想とか、やることになった理由とか書かないと…。」
「まだ自由研究は終わりじゃないわね。」
「それで次の自由研究はいつ集まる?」
ここでまたしても私に視線が。
「ら、来週の金曜でしたら大丈夫かと、」
お盆休み唯一の休みですが、やむをえません。
「だったら大丈夫かな?みんな大丈夫?」
「私も大丈夫かな。」
「うちも。」
「俺も大丈夫だろ。」
となり、金曜日にまた集まることとなった。
予定がおおよそ決まり、雑談もほどほど済ませたところで、
「それじゃあ、そろそろ帰るか。」
「そうね。これ以上は、ね。」
「うん。」
「はい。」
帰ることにした。
「それではお手数をかけますが、後片付けの方、よろしくお願いします。」
「…分かった。」
「ありがとうございます。それでは神田さん。本日はありがとうございました。」
「「「ありがとうございました。」」」
「いえいえ。こちらこそ、いい機会をくれてありがとうね。」
「いつでも来い。」
「それでは、お邪魔しました。」
こうして神田真紀を除いた4人は、神田屋を後にした。
「さ~て。自由研究の理由、どうしよっかな~?」
「真紀、ちょっとこっちに来なさい。」
「え?」
真紀はいきなりの父の発言に驚く。母親も父に付き従うかのように動く。
「…あの子は一体、何者なんだ?」
「あの子って誰?もしかして、早乙女君のこと?」
「そうよ。」
二人の大人から質問攻めに遭う子供。
「あの子がどうしたの?」
「あの子は、普通じゃない。」
「!?」
真紀自身、優の異常さには気付いていたが、見て見ぬふりをしていた。だから、こうしえ改めて言われると、驚きの感情が顔に出てしまう。
「ごめんね。言い方が悪かったわね。あの子は一体、どういう風に学校を過ごしているの?」
「どういう風にって、保健室登校だけど?」
そこで、両親の顔に雲がかかる。
「…それは素行不良だからか?」
「ううん。先生の勘違い。でも、学校での評価は悪いみたい。」
「となると、やっぱり…、」
「?あの子がどうしたの?」
「いや、なに。どんな生活を送れば、あんな子に育つのかと思ってな。」
「?どういうこと?」
「私達親から見れば、あの子は大人に、人に頼らな過ぎなのよ。」
「…確かに、言われてみればそうかも。」
真紀自身、心当たりは数多くあった。
4月の合宿、6月末の修学旅行、そして今の自由研究。本来なら複数人でやるべきことを優個人でこなしているのだ。
「だから、一親として心配なんだ。あの子が良い子過ぎて。」
「?どういうこと?」
「…厨房に来て。」
「?分かった。」
3人は厨房に向かう。
厨房に着くと、
「あれ?もう二人とも後片付け済ませたの?早くない?」
優達が帰る前、優は、
“それではお手数をかけますが、後片付けの方、よろしくお願いします。”
と言っていた。だから、優達が帰った後、頼まれた2人がするものだと、真紀は思っていた。だが、既に片付けは済んでいた。
ここで真紀は一つ、疑問点が浮かぶ。
それは、いつ片づけを済ませたのか、だ。
優達が帰ってからこれまで、3人は厨房に向かっていない。かといって、席を立って離れた者もいない。
「…俺達があのケーキを食べていた時、あの子、席を立っただろ?」
「う、うん。」
確か、20分ぐらい、だっただろうか、と、真紀は思い出す。
「その時に独り、後片付けを済ませていたのよ。みんなには内緒で。」
「ええ!?」
「ああ。そんな気遣いが出来る子供なんて、そうはいない。」
「そうね。最後に、私達に華を持たせてくれたし。」
「それじゃあ…、」
「ああ。」
ここで、3人の考えが家族の絆を証明するかのように一致する。
“どんな生活をすれば、あんな子になるんだ?”
と。
と同時に、
(それにしても、あの子のあの手際、才能を感じたな。)
父親はもう一人の男の子、清志をマークしていた。
(あの子がもし、真紀に気が合うのなら、うふふ…。)
母親も、もう一人の男の子、清志をマークしていた。
こうして、優の異常さを垣間見た神田家であり、ケーキ作りは幕を閉じる。
次回予告
『小さな会社員のお盆休み堪能生活~月曜日~』
世間では夏休みと騒がれているが、早乙女優もお盆休みを堪能しようとしている。予定がかなり詰まっている優は、まず月曜日の予定をこなす。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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