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何でも出来るOLと人事部なOLの勝負生活~早食いうどん~

 雨の日が続き、多くの人の足を遅らせた時期も終わり、今度は暑い暑い時期が本格的にやって来る。そんな季節があと数日で迎えようとしているなか、

「?桐谷先輩、その目の隈、どうされましたか?」

「…え?い、いや、何でもないよ!そう、何でも。」

「はぁ。そうですか。」

 桐谷先輩は目に隈をつくって出勤し、

「…はぁ~~~・・・。」

「…菊池先輩、どうされました?」

「もうそろそろあいつが来ると思うとね、ため息の一つや千、つきたくなるものよ。」

 と言い、また長いため息をついた。

 …もしかしたら、今週の女性陣は、体調がよろしくないのかもしれない。ま、

「菊池。それは半分、お前の自業自得だろ?」

「は~~?それじゃあんたがあいつをどうにかしなさいよ!」

「それこそ俺の知った事じゃないな。全部お前がまいた種だろ。」

「種なんかまいてないわよ!あいつは雑草みたいにどこからともなく現れるのよ!」

「こんな風にですか?」

「そう!今みたいに…!??」

「相変わらずのようね、菊池美奈さん?」

「で、でた!??」

「私をどこかの怪奇現象みたいに言わないでください。」

「…橘先輩。私、あの人がどこから現れたのかまったく見えなかったんですけど。」

「大丈夫、俺もだ。」

「はぁ。それで、またやるおつもりですか、川田さん?」

 今、工藤先輩が呆れながら注意した人は(かわ)()(しゅ)()先輩。

 一応、工藤先輩とは同期、らしい。私も詳しいことは分からない。けど、この川田先輩という人は普段、とっても仕事を率先して引き受け、人事で常に人と対話し、その目であらゆるものを見定めてきた凄い先輩なのだ。この先輩は今、人事部主任なので、いずれは課長、部長になれる日も近いでしょう。近々、昇格するという噂もあるくらいだ。だが、そんな先輩にも失敗はあり、その失敗こそ、

「何でもないわ。今月も菊池美奈と決闘する知らせをするために来たの。」

 そう。今私の頭をナデナデしているこの菊池先輩である。

 川田先輩は、この菊池先輩の本性?性格?を見抜けず、なんとかしようと躍起になり、結果として、

「いい、菊池美奈!8月1日の仕事後、必ずここに残っていること!いいわね!?」

「ええ~…。人事部の人が一会社員にそうやって残業を強制させるんですか~?」

 そう。菊池先輩と川田先輩による決闘が4か月に一度行われるようになったのだ。最初は、川田先輩が単に言い訳を並べているだけなのかなと思ったのだが、川田先輩の上司が、「う~ん…。まぁ、業務自体に影響は出ていないし、今ではちょっとしたイベントになっているし、大目に見ているよ。な~に。本当に大変になったら、私が顔をきかせるから大丈夫さ。」と、頼もしいような頼もしくないような発言をした。でも、いざとなったら対応してくれるらしいし、周りの方々もイベント扱いにしているので大丈夫かなとは思ったけど、

「今日こそ!今日こそは辞めさせてやるから!覚悟しなさい!」

 川田先輩は菊池先輩が気に入らないらしく、会社を辞めさせようと今でも考えているらしい。私としては、菊池先輩に会社を辞めてほしくないし、なにより、

「え~。今月もやるの?全戦全敗なのに、よくやる気になれるわね。」

 そう。川田先輩はことごとく菊池先輩に負けているのだ。おかげで事が大きくならず、川田先輩の冗談、ということでごまかしがきいている。川田先輩の方は本気みたいだけど。

「ふ、ふん!今回こそは絶対!絶対あんたに勝てるわよ!この勝負ならね!」

 と、川田先輩は1枚の紙を見せてきた。

「…熱々うどんの早食い対決?」

「そう!どっちがこの熱々うどんを早く食べきることが出来るのか。これが今回の決闘の内容よ!」

 ちなみに、決闘の内容は毎回、川田先輩が考え、決定後にこうして菊池先輩に報告している。そして、川田先輩は、根が真面目なのか、事前に半端じゃない量の練習をしてくるのだ。そんな練習をしてから菊池先輩に決闘を挑んでいる。普通にみれば菊池先輩は圧倒的に不利のはずなのだが、これを圧勝してしまうのだ。…ちょっと、川田先輩が可哀想に見えてしまう。

「はぁ…。何を思ってその項目にしたのかは知りませんが、一応聞いておきます。それで私に勝てるつもりですか?」

「も、もちろんよ!」

 これも毎回お決まりになっているやりとりである。

「はぁ…。それで場所は?」

「近くのうどん屋よ!もう店は予約済みだから!逃げたら承知しないからね!」

 と言い、この場を去った。というより、消えた。相変わらず、川田先輩は凄いなぁ。

「あいつ、いつもどうやって移動しているんだ?まったく分からなかったんだが?」

「ですねぇ。」

 あの動きを習得すれば、よりみなさんに貢献できるのでしょうか。

「さ、そろそろ仕事を始めるぞ。」

「もう~。あ、優君!今日も私の癒しになって~!」

「おい!今日も忙しいんだ!きっちり働いてもらうぞ!まずはこの資料作成からだ!」

「えぇ~。うわ、ちょっと時間かかるやつじゃん。これはもう、」

 こうして、朝にこんな騒ぎがあったものの、

「優君を膝の上に乗せて仕事するしかないわね♪さ、優君、おいで♪」

「おい!そんな暇も時間もないんだよ!優も、この資料を至急例の場所に届けてくれ。」

「はい。」

「あ、優君!」

 私達はいつもどおり、仕事を始めることとなった。


 数日経過し、日にちは8月1日。

 時間は終業時間目前。

 そんな時、菊池先輩はというと、

「さぁ~て、逃げるか。」

 帰宅準備を済ませ、メールの確認をしていた。そして、

「あ、終業時間だ。」

「優君!今のうちに…!」

「逃がさないわよ!」

「「!!??」」

 い、いつの間に!?

「まったく。あんたはそうやって毎回逃げようとして…。」

「ねぇ?どうやって来たの?あなたの部署と私の部署と走っても数分かかるし、階も違ったわよね?なんで終業時間になった瞬間にここに来られたの?」

「そんなことはどうでもいいでしょう?そんなことよりほら、今日はうどん屋に行きましょう?」

「…断っちゃダメ?」

「駄目よ。この日のために戦術も戦略もお店も量も全て計算したんだから!」

「えぇ~。」

「さ、早乙女君も行きましょう?」

「あ、はい。それでは1時間ほど、席を外しますね。」

「おう。終わったら戻って来いよ。」

「はい。」

 こうして、私、菊池先輩、川田先輩はとあるうどん屋へと向かった。


 車で移動し、ここはとあるうどん屋。

「さ、個室を予約してあるから、そこに行きましょう。」

 川田先輩は足早に店内に入る。

「いらっしゃいませー。」

「予約していた川田ですけど。」

「川田様、ですね?少々お待ちください。」

 こうして数分。

「川田様ですね?ここの個室をお使いください。」

「ありがとう。それで、予約していた品なんだけど…。」

「はい。10分でおだしできますが、いかがなさいますか?」

「それじゃあ、それでお願い。」

「かしこまりました。」

 そう言って、店員さんは去っていった。

「…ところで早乙女君?」

「はい、なんでしょう?」

「君だけ何も食べずにいる、ていうわけにもいかないし、どれ頼む?お姉さんが奢るわ。」

「え?い、いいのですか?私、ついでに来てしまっただけですよ?」

「いいのよ。早乙女君がいないと、こいつは本気を出してくれないから。」

 というわけで、私もうどんを注文した。私が頼んだうどんは激辛でも大盛でもない、普通盛りの普通のうどんである。普通のうどんといっても、この店自慢のうどんなので、近所に売られている一パック百円のうどんよりは当然美味しい。

「…注文も済ませたし、後はうどんがくることを願うばかりね。」

 と言いながら、

「…ねぇ?あなたは一体、何を見ているの?」

「これ?これはね、激熱のうどんを素早く食べる方法よ!知りたい?ぜ~ったい教えてあげないから!」

 攻略方?が記載されている紙を眺めていた。…なるほど。川田先輩は今回も準備万端、というわけですか。対する菊池先輩は、

「それにしても、優君と外食するなんて楽しみだわ~♪これはもう、優君の神様に感謝しなきゃね♪」

 …相変わらずの調子です。こんな調子で菊池先輩は大丈夫なのでしょうか?


 数分経過。

「お待たせいたしましたー。」

 店員さんが3つのうどんを持ってきてくれた。

 一つ目はおそらく私のうどんでしょう。丼に入れられているみたいですし、上に乗っている海苔がいいにおいです。

 残りの二つは・・・、

「…何これ?」

「何これって、これが今回の勝負メニューよ?」

「「・・・。」」

 見た目は…赤いですね。具も赤ければスープも赤い。うどんもその赤に影響されているのか、若干赤くなっています。匂いは…ひどい刺激臭です。丼を上から覗いているのですが、湯気が顔にあたるだけでヒリヒリしますし、匂いを吸い込むだけで鼻も痛みが広がります。これは確かに事前練習が必要ですね。川田先輩はこの赤さにひるむことなく箸を手にし、

「それじゃあ、これが冷めないうちにいただきましょう。早乙女君は、どっちが早く食べきるか見ていてくれる?」

「はい。それぐらいはかまいませんよ?」

 こっちは奢ってもらっている立場ですし、反対する理由もありません。

「それじゃあ、レディーゴー!」

 川田先輩は自分でそう言った後、箸を赤いうどんの中に突っ込み、うどんを進み始める。

「…優君。一言、私を応援してくれる?」

「え~っと…。菊池先輩、頑張ってください。」

 今は一応、公平な審判なのですが、菊池先輩の期待に応え、応援をする。直接手伝っているわけではありませんし、これぐらいはいいですよね?

「あ~。優君が私を応援してくれている。これだけでもう力が溢れてくるわ!」

 そう言うと、菊池先輩は軽く手を動かしてから、

「待っていていね優君!この料理を食べきって、優君を悪の手から救ってみせるわ!」

 そう言って、菊池先輩はうどんを食べ始める。…私、別に悪の手に捕まってなんかいないのですが?もしかして、菊池先輩の脳内ではそういう設定があるのでしょうか?とにかく、二人の行き末を見ていきましょう。


 最初は二人とも勢いがあったのですが、四口目で川田先輩が水を手に取り、一気に飲み干しましたね。おそらく、喉の痛みに耐えきれずに、といったところでしょう。水を注ぎ足し、いつでも水を飲めるよう準備も欠かしていません。そして、水を飲んでからは明らかに勢いが落ちていますね。最初はズルズルと食べていたのですが、今ではずる、ずると言った感じです。これも作戦の一つ、なのでしょうか?顔色が優れていないようですけど、これも菊池先輩を騙す作戦なのでしょうか?行き末ももちろん気になりますが、体調も気になります。

 一方、菊池先輩の方は…さすが、の一言しか出ません。菊池先輩は今も最初の勢いのまま今もうどんを食べ続けていて、顔色一つ変化していません。それどころか、私が視線を向けると、うどんを一気に飲み込み、

「待っていてね優君!今。助けるから!」

 と言い、またうどんを食べ始めました。よほど余裕なのでしょうね。菊池先輩にはまだ余力が見られます。川田先輩も菊池先輩の動きに翻弄され、ペースを乱されているようです。ほんと、菊池先輩は何でも出来るんだなー。あ、私もうどんを食べよう。…うん、美味しいです。

 そして、

「・・・ふぅ。後はスープだけね。」

「ふんげぇ!?」

 菊池先輩は一足先にうどんを食べ終えていた。

 だが、この早食いにはうどんだけでなく、スープも完食する必要があります。むしろ、スープの方が完食することは難しいでしょう。うどんに絡みついていた激辛スープだけでも脅威でしたのに、その脅威を直接喉に流し込むわけですからね。数分経ち、湯気の量もある程度なくなり、激熱、とは言えなくなりましたが、それでも熱いはずです。その上、激辛なわけですから、清涼飲料水を飲むみたいにゴクゴク飲む、なんてことは出来ないはずです。普通は。

「う~ん。スープもスパイシーで美味しいわね。優君への愛が最高の調味料になったのかしら?」

 …それを菊池先輩は、水を飲むときと同じような感覚で飲み干そうとしているのだ。あのスープ、見た感じ、粘性は相当なものだと思うのですが…。そして、それを見た川田先輩はというと、

「何だって!?私も負けていられないわ!!」

 そう言って、川田先輩もスープを飲み始める。さきほど、丼の中を少し拝見させてもらいましたが、スープだけでなく、うどんや具もまだ残っていました。川田先輩はそれらをまとめて胃の中に流し込むおつもりなのでしょうか?確かにそうすれば、菊池先輩に早食いで勝つことが出来るかもしれませんが、

「あぶ!?ふんげ!?ぐぷ!?がは!?うえ!?あぶ!?」

 川田先輩は今も一口一口苦しそうにスープを飲もうとしています。努力は凄く伝わるのですが、それが成果として繋がっていませんね。今の今まで菊池先輩にペースを乱されてきたからでしょう。その当の本人はと言いますと、

「ふ~。後一口だけど、ちょっと休憩♪」

 …水を飲んで小休止しているようでした。まだ勝負の最中だというのに。相手を、川田先輩を舐めきっているとしか言いようがありませんね。それでも勝つ菊池先輩はほんと凄いです。

「さ~て。それじゃあお先に。」

「あ!?まだ勝負、ぶべら!?」

 川田先輩は今も唇をピリピリとさせているようで、一口一口が辛そうです。そんな中喋ろうとした結果、辛みがのど奥を通ってしまい、吹き出しそうになってしまったのでしょう。これが普通の反応だと思うのですが、菊池先輩を見てみると、

「はい、私の勝ち~。」

 残りの一口を、そうめんを食べるようにズルズルと飲み、最後の一口を飲み干し、完食したようだ。

 さて、川田先輩の方はというと、

「な、何でこんなに早いのよ~!?」

 確かに半分は食したみたいだが、それでも三分の一は残っているみたいですね。

 何でも普通、このメニューは30分かけて食べることが普通らしく、一時期、誰も完食出来ない激辛メニューだったそうだ。このメニューを作った人曰く、

“うどんや具は十分、スープはニ十分かけて食うことがベストだ!”

 とのことだそうだ。ちなみに今はまだ十五分も経過していなく、ここまで早く食べる人は滅多にいないそうです。臭いを嗅いだだけで鼻に痛みが走るくらいですから、相当な辛さだったのでしょう。

 ということを、丼を下げに来た店員さんから聞きました。ほんと、このうどんの辛さもですが、その辛さをもろともしない菊池先輩にも驚きです。

「さて。これでまた、あなたの負けが決まったわけだけど?」

 と、菊池先輩は川田先輩に聞く。川田先輩は、

「…ちょっと待って。今、水で喉を潤しているから。」

 と、水を絶え間なく飲んでいます。ちなみに今、五杯目です。よほど辛かったのでしょうね。こんな様子を見てしまうと、食べなくてよかったと思います。そうして喉を潤した後、一息ついてから、

「…いい?今回もわざと負けてあげたんだからね?いい?そのことをよ~く身に刻んでおきなさい!いいわね!?」

「え?は、はぁ…。」

「それじゃあ会計は済ませるから、また12月に勝負だからね!絶対に次は負けないから!」

 そう言って、川田先輩は個室を出ていった。

「あ、川田先輩!うどん、ご馳走様でした!」

 私は感謝の言葉を述べるが、それをきちんと聞いてくれたかの確認は出来なかった。後でまた言い直そう。

「さ~て。お邪魔虫も消えていなくなったことだし、ここでカップル限定メニューを…。」

「さ、私達もこの店を出ましょうか?」

「ええ!?そ、そんな!?」

「そんな、ではありませんよ。まだ仕事が残っているわけですから。」

 私は持ってきた荷物を持ち、この店を出る準備をし始める。

「さ、菊池先輩。夕食も済ませたことですし、会社に戻りますよ?」

「ええ!?優君との素晴らしいディナータイムを…!」

「それじゃあお先に。」

「ああん!もう待ってよ、優君!」

 さぁ、仕事に戻ろう。これからも、仕事を続けていけるために。


「あ。そういえば、お盆休みのことなんだが、後で相談してもいいか?」

「もちろん構いませんが、どうかされました?」

「いや、ちょっと付き合ってほしくてな。後、桐谷もお盆休みのことで相談したいことがあるそうだったぞ?」

「そうですか。分かりました。」

「…ちなみに聞いておくが、勝負の結果はどうなったんだ?」

「それでしたら…、」

「今回も楽勝だったわ。」

「ああ、そう。」

「それじゃあ、残りの資料も作っちゃいますね。」

「頼むな。後、今度のお盆休みのことなんだが…。」

「はい?」

 こうして残った仕事も片づけ、無事に帰る優であった。

次回予告

『小学生達の自由研究案発案生活』

 8月。日に日に増していく暑さの中、優達は自由研究の詳細な案を考案するため、一同は図書館へと移動を開始する。そして5人は、自由研究の課題をどうするか、話し合いを始める。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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