小さな会社員の京都出張生活~学校での終了報告~
日にちは2日経過し、今日は水曜日。
今日は、
「おや?久々だね。」
「数週間ぶり、ですね。」
「だね。」
学校に来ている。学校に帰宅報告するためである。なので、
「やっと帰ってきたんだね。」
「ええ。ちょっとあっちで用事が重なってしまいまして。」
「ふ~ん。ま、帰ってきたのだから、それでいいか。」
用件だけで言えば、この話で済んだと言えるでしょう。ま、だからといって、これで家に帰る、なんて言うことはしませんけど。
「…ところで、夏休みまでにまた学校に来られる?」
「はい?…ちょっと待って下さい。」
私はカバンから手帳を取り出し、今後の予定を確認する。
「あれ?小学生って、手帳で予定を確認するの?」
「さぁ?」
私にそんなことを言われましても困ります。さて、予定は…、今週は空いていそうです。ですが、来週からは少し忙しくなりそうですね。
そういえば、
「夏休みはお盆とお盆前後のお休みのことで間違いないですよね?」
「え?」
「え?」
もしかして、違うのでしょうか?
「…早乙女君。それ、本気で言っているの?」
「…本気、ですが。」
「はぁ。君は変なところで抜けているのね。いいわ。」
ここで、保健室の先生が席から立ち、
「これから授業時間なわけだし、特別授業を行うわ。内容は、夏休みよ!」
「はぁ…。」
授業開始の宣言をした。
夏休み。
それは、夏の休みのことらしい。
いや、それくらいは知っているのですが、と言おうとしたが、先生はそれを遮り、
「問題はその休みの期間よ!」
と言いながら、先生は近くのカレンダーのとこまでいき、とある日にちに赤丸をつけ、その後の日にちは赤線を引いていく。その線は、8月の最後の日まで続いていた。
「これが、夏休みの期間よ!」
と、カレンダーを叩く。
夏休みの期間、長くないですか?
今まで、お盆とその前後の数日が夏休み期間だと思っていたのですが、違っていたのでしょうか?そういえばこの時期によく目にしていましたね。
“もうすぐ夏休みですね。さて、みなさんは夏休み、どう過ごされるおつもりでしょうか?”
みたいなことを言っていたな。7月上旬から流れていた気がしますし。お盆は8月の中旬だったと記憶しているので、その間は…約1月。その間にお盆の準備を済ませておけ、という意味だったのだろうか?会社の休暇にも、“夏休み休暇”というものがありましたが、あれはお盆前後のお休みだったと記憶していますし。
「そんなに長く休みをとって、みなさんは一体何をしているのですか?」
「何をって、もちろん遊ぶためでしょう。私も子供のころはよく遊んでいたわ。」
「こんな長い期間、ずっとですか?」
社会人からすれば、「そんなに休んで大丈夫?」という感じだろう。
今までの私は、ずっと勉強し、働いてきた。それはもうガムシャラに、常に気を張りながら。なので、休みと言われてもピンとこないし、家にいても、先輩方のことや、仕事の進行状況ばかり気になってしまう。そうでなくとも、今後のためにと、資格の勉強だったり、料理の研究だったり、家事にいそしんでいたりと、遊ぶ余裕もなく生活してきた。
今更遊ぶ、と言われても困ってしまいます。
「…もしかして、今まで遊んだことがない、とか言わないよね?」
私は先生の発言に、
「ボーリングしたり、バッティングセンターに行ったりしたこと、ですか?」
この発言に先生はホッとした顔をし、
「なんだ。君も結構遊んでいるじゃん。驚いて損した~。」
と言った。
「とにかく!これは一般常識だから!ちゃんと覚えておくのよ!」
「あ、はい。」
小学生は1月休むことが出来る、ですか。
何とも羨ましい限り…何でしょうか?
私だったら…いや。こんなことは考えていてもしょうがないですね。知らなかったことを悔いても嘆いてもどうしようもありませんし、少なくとも、知らなくてよかったと思っていますし。何せ…、
「あ。」
と、ここで急に先生が声をあげる。
「何でしょう?」
「今日、やることが二つあったのを忘れるところだったわ。いけない、いけない。」
そう言って先生は机に向かい、大量の紙と本を机に置いた。…それにしても凄まじい厚さの紙束です。数センチはあるでしょう。
「この紙束、どうされたのですか?」
「早乙女君、さっきの質問に答えてもらっていい?」
「あ、はい。ええっと…ちょっと難しいかもしれませんね。」
下手に抜けると業績が下がってしまいますし、私の我が儘でそんなことになってほしくありませんし。
「そう。なら今の内に渡しておくわ。本来は夏休み直前に渡すのだけど。」
と言ってから、私が使用している机の上に分厚い紙束を動かそうとする。私は無言で手を貸し、一緒に持ち上げ、移動させた。
「ありがと。それで、これらが今年、君の夏休みの宿題よ。それで、これが夏休みの宿題の一覧表よ。」
と言い、先生はさらに紙を渡す。
「ありがとうございます。」
私は感謝の言葉を言いながら紙を拝見する。
・・・。
「多いでしょ?これも君を反省させるための一種の罰、だそうよ。」
と、ため息をつきながら言っていた。
多い、のでしょうか?
「これ、そこまで多いのですか?」
「はぁ!?多いに決まっているでしょ!?これ全部で何ページあると思っているの!?」
「この系統の問題集は一冊50ページほど、ですかね。それが4冊で計200ページ、といったこところでしょうか?」
「え?…確かに50ページあるけど…。」
「それに、そこの紙束は…全部問題ですか。この4冊の問題集と同じくらいの厚さなので、200ページ、計400ページといったところでしょうか?」
「…ねぇ?何でそんなに平然としているの?夏休みが40日の休みだと考えても、1日10ページ以上やらなくちゃいけない算段なのよ!?他の宿題もあるし!同じクラスの子は6年生だから1日6ページくらいだと言うのに、理不尽だと思わないの!?」
「え?…まぁ、あの頃に比べたら…、」
「あの頃?」
「あ、いえ。別に辛くはないと思いますよ?一日中、机に向かって勉強していた日が結構ありましたから。」
なんだか先生の言い方に違和感を覚えましたが、つい昔のことを優先して思い出してしまいました。
「それはそれで心配なのだけど…。」
そうなのでしょうか?
それにしても、1日10ページだけ、というのはいささか優しく感じてしまうのはやはり、私の感覚がおかしいから、なのでしょうか?数年前は1日で20ページ以上進めていましたし、その度に新しい問題集を与えてもらい、すぐに解き始めていましたから、そのくらいではなんとも言えないんですけど。このことは言わない方がいいみたいですし、黙っていましょう。
「とにかく、私は大丈夫ですので。あ、これは全部持ち帰っていいんですよね?」
「え、ええ。もちろんよ。」
私はかさばる問題集と紙束をカバンにつめこむ。
「君って、変わっているのね。」
「?そうですか?割と普通だと思いますが?」
普通に生きてきていると思うのですが…。確かに、色々と他の人とは異なった生活を送っていることは否定できませんね。
「君みたいな子が普通だったら、先生要らずの世の中になっちゃうよ。」
「そんなことは無いと思いますよ?人間、勉強だけが出来ればいいというものではありませんし、人間的に成長するためにも、先生は必要だと思います。」
もしくは、自分を成長させてくれる人物、ですかね。私の場合ですと、菊池先輩方達のことですね。
「そう言ってくれるだけでも嬉しいわ。ありがとう。」
「いえ。当然のことを言ったまでです。」
「そう。話を変えるわ。後一つの要件なんだけど、今日は水曜日だから、午後にクラブ活動があるけど、材料の用意とか、してきた?」
「え?あ。」
そういえば、今日は水曜日。となれば、クラブもあり、食材も必要になるわけで…。ですが、
「私、必要な食材等、知らないのですが?」
必要な食材に関することを一切聞かされていないことに気付く。ま、私もちょくちょく学校を休んでいるので贅沢を言ってはいけない立場なのですが。給食の時間に抜け出して、近くの店に買いに行くべきでしょうか?
「その辺は大丈夫よ。私が事前に用意したから。」
「あ、ありがとうございます!」
「いいのよ。普段、色々と教えてもらっているし。確か…、」
と先生は冷蔵庫に行き、何かを探し始める。
「あった。これよ。」
と言い、先生が見せたものは、
「パスタ、ですか?」
パスタだった。
詳しく聞いてみると、今回はパスタの茹で方について学ぶらしい。なので、パスタが必要なんだとか。そして、今回学ぶことはパスタの茹で方だけなので、ソースの方は各自用意してくれとのこと。そして、それぞれ異なる太さのパスタを用意してくれとのことだった。
正直なところ、パスタの茹で方について、わざわざ1時間もかけてやる必要なんて無いのでは?と思ったのだが、先生曰く、
「出来ない人は出来ないし、大人になってからはこういうことは聞き辛いし、良いと思うわよ?」
との返答だった。
確かに、人によって習得にかかる時間は異なるので、そういう面を踏まえているのなら、いいのかな、と納得した。
後、
「ちなみにですが、何故パスタを冷蔵庫で保管していたのですか?」
気になっていたことを聞いてみた。
確か、こういうパスタは冷蔵保存しなくてもいいはずだと記憶している。例外もあるかもしれないが、私の知識ではそういった例外はない。返ってきた返事は、
「間違って踏んだり、捨てたりしないためよ。」
と言った。
答えが微妙な気がしないでもないが、そうしないとパスタが破損してしまう危機があるのなら、そういう保存もありなのかと一人納得した。
そして、クラブの時間になるまで、私達はおしゃべりをして、時間を潰した。
時間は過ぎ、間もなくクラブの時間がやってくる。
そんななか、
「さ、そろそろクラブだし、一緒に行きましょうか?」
「…もしかして今回も監視ということで…?」
「ええ。付いて行くわ。」
まったく。あの先生も疑り深いことで。そんなに疑り深いのに、どうして私のテストがカンニングされたと思い込んでいるのでしょうか?謎が深まっていくばかりです。
「分かりました。」
私と先生は家庭科室に向かう。
家庭科室前。
私は前回みたいに深呼吸することもなく、自然に扉を開けました。
そこには、
「お。来たか。」
何度もあっているクラブの先生と、
「さ、早乙女君!今日もよろしくね!」
「よろしく。」
桜井さんと風間さんがいた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
私は頭を下げ挨拶をする。
「さ~て。全員そろったことだし、始めるとするか。」
男の先生の発言で、
「「「はい!!!」」」
みんな、やる気になっていた。
今日の料理テーマを確認したが、やはり、「パスタの茹で方について。」だった。まぁ、パスタを茹でることも出来ない人もいると聞きますし、やる分には問題ない、のかな?多少の疑問はまだ残っていたが、出来るだけ気にしないようにして、作業にとりかかった。
といっても、本当にパスタを茹でるだけなので、ほとんど暇となってしまう。必要なのは、茹でる前の数分と、茹で上がった後の数分。茹で上がるのにかかる時間を除けば、作業時間は10分もないでしょう。太さを変えてやるといっても、やる工程はほとんど変わらない。あまり言いたくはないが、この時間が無駄なのではないかと思えるほどであった。
そして、2種類目のパスタを茹で終え、3種類目に突入した時、
「さて、突然だが、ここでテストを行う!」
みんなの視線が先生に集中する。
「な~に。試験をやるのは一人だけだ。なぁ、早乙女?」
突然の名指しに、
「…はいぃ?」
声がちょっとかん高くなってしまった。
テスト?試験?
急に何を言っているんだ、あの先生は?保健室の先生も事前に聞いていなかったらしく、ちょっと戸惑い気味であった。
だが、反対に、「早乙女君の料理、楽しみだね。」とか、「何作ってくれるのかな?」と、私が料理を作る前提となっていた。
「あの。テストとか試験とか聞いていないのですが?」
「それはそうだ。今、お前に言ったんだから。いわば抜き打ちテストだ。」
と言われましても…。
ちょっと放任主義の先生だとは聞いていましたが、こんなことを企画する人だったとは…。それに、周りの人達は、私の料理を楽しみにしていますし。
「それで、テストは何をするのですか?」
「なぁ~に、簡単なことだ。」
と言いながら、先生はテーブルに材料を並べていく。
アサリ、赤唐辛子、玉ねぎ、葉っぱ?いや、これは大葉、かな?エリンギ、オリーブオイル、塩コショウ。
これらの材料を並べていく。
「これらを使ってある料理を作って欲しい。」
と、家庭科室の先生は私に言う。ある料理というのは一体…?それに、この食材とパスタを組み合わせると、あれを作ることが出来そうです。もしかしてあれとは、あれの事を射ているのでしょうか?
「ボンゴレ、ですか?」
「そう!そのボンゴレを作ること。それが今回のテスト内容だ!」
と、先生は声をあげた。
・・・。
思うところはあったが、
「…分かりました。」
無理難題を吹っ掛けられているわけではない。材料もありますし、時間制限もない。調理器具もあるようですし、問題はこの状況ぐらい、でしょうか。この料理を作って誰かが不快になる、なんてことはなさそうですし、とにかく調理を始めましょう。
私は材料と面を合わせながら、調理工程を頭の中で反復させていた。
ボンゴレ。
それは、具材にアサリを用いたスパゲティ料理の一種である。
調理工程を簡単にまとめると、
・アサリの砂抜きをする
・パスタを茹でる
・エリンギや玉ねぎを切る
・フライパンに火を点け、アサリを蒸す
・材料を入れ、火を通す
・パスタを入れ、旨味が詰まっている汁に絡める
・皿に盛りつける。この時に大葉を盛る
こんな感じ、でしょうか?
だいぶ細かいところはは省いたけど、大体こんな感じであっている、と思う。だが、アサリは砂抜きしてあるし、パスタも茹でてあるから、時間的にかかるのは、アサリを蒸す工程ぐらいでしょうか。いづれにしても、今のこの状況で作れないわけではないので、私は了承し、ボンゴレを作り始めた。
そして、
「・・・よし。もりつけもこんな感じ、ですかね?できましたよ。」
「「「おおーーー!!!」」」
全員、茹でているパスタには目をくれず、こっちに視線が集中していた。タイマーで時間をセットしているとはいえ、あんまり集中し過ぎると、パスタの茹で過ぎに繋がりますよ?
「早乙女君は本当に何でも作れるんだね。」
「いや、別に何でもと言うわけではありませんが…。」
「…うむ。これは、合格だな!」
と、家庭科室の先生が評価する。
これで合格、ですか。ま、合格できてよかったです。
「あの。」
「ん?なんだ?」
「このボンゴレを作るのにかかった材料費はいつ払えば…?」
「そんなものはいらん!それより、みんなで食べていいか?」
と、みなさんは既にフォークをスタンバイさせていた。確かにさっきからパスタの試食をしていたとはいえ、用意が早すぎるのではないですかねぇ?とはいえ、
「もちろん、構いませんよ?」
作った者としては、出来立てを食べて欲しいので了承。みんな、試食用の皿にボンゴレを盛り、食べていった。もちろん、二人の先生も。
「美味しい!レトルトじゃないのに美味しいよ!」
「ほんとだよねー。」
「ケッ!俺はこれよりもっと美味いカツ丼を…!」
「はいはい。カツ丼とボンゴレを比べないの。」
楽しく食べてもらった。ま、美味しいといってもらえるのは料理人冥利につきますね。
その後も、レトルト食品を使って簡単にパスタ料理を作り、みんなはその都度味の感想、食感の違いをメモしていった。あれ?これ、私もした方がいいのでしょうか?そう先生に聞いたところ、「あそこまで料理が出来る奴に書かれても、俺の方がボロ出しそうだし、書かなくていいぞ。」と、不穏な?理由で免除された。
後、気になった事を聞いてみた。
「そういえば、みなさんはどんな試験をするつもりなのですか?」
私の時はボンゴレだが、他の人はどんな感じなのだろうか?
「あ~…。来週やるつもりでな。一応、米の炊き方とか、お手製アイスクリームを作ってもらおうかと考えている。」
…随分、料理の方向性が違いますね。そこにも狙いがあるのでしょうか。ですが、これ以上聞くのは野暮かと思い、聞かずにそのまま使用済みの食器を洗った。
そして、食器を元の場所に片づけ、
「それじゃあ、今日のクラブ活動はこれで終了!ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました。」」」
こうして、家庭科室を出る。
その直前、
「またね、早乙女君!」
と、桜井さんから声をかけられたので、
「はい。さようなら。」
私も返事を返す。
「今日はいいものを見せてくれてありがとう。また見せてね。」
去り際の風間さんの言葉に、
「機会があればいいですよ。」
そう返し、保健室の先生と一緒に、保健室に戻る。
その後は変える用意をし、自宅に帰った。
「久々の学校でしたが、問題なく過ごせました。」
そうまとめ、すぐに身支度を整え直し、会社へと向かい、
「お疲れ様です!」
「ああー!?愛しのラブリー優君だ!」
「おい!勤務時間中にいちゃつくんじゃない!」
「ええ~?工藤のけち!」
「は~…。まったく、こいつは何でこんなんなんだ?」
遅れた分の仕事を始める。
次回予告
『会社員達の新入社員歓迎会生活』
新入社員が入社してから3ヵ月。ついに新人歓迎会が行われる。その場所はとある避暑地で、バーベキューを行う。それは、優にとって初体験で、歓迎会に来ていたみんなの絆が一段階上昇した瞬間であった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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