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小さな会社員の京都出張生活~会社での終了報告~

 あれからというもの、本当に大変だった。

 あれから、

「優君だ。本物の優君だ~。」

 と言って抱き着き、離れてくれなかったのだ。私が菊池先輩の体を押しても、一切びくともしなかった。これが体格さ、というやつですか。私が必死にもがき続けること十分。ようやく放してくれたかと思えば、

「ほんと、生きていてよがっだ~。」

 今度は泣き出してしまった。確かに、私も菊池先輩に会えて嬉しかったのだが、抱き着いてきて来たかと思えば、次に泣き出してしまうとは。私の想像以上の行動をした菊池先輩に、

(そこまで、私の事を心配してくれていたのか。)

 と、考えてしまう。行動は常軌を逸しているけど。

 そんな菊池先輩をなだめ、菊池先輩が乗ってきた車に乗り、社員寮に戻ると、

「おお!優おかえり。」

「ただいまです。」

 工藤先輩が出迎えてくれた。なんとも嬉しい限りです。

「どうだった?」

「はい。実によい経験となりました!これを糧にし、よりみなさんをサポートしていきます。」

「分かった。今日はもう疲れただろ?菊池が優のために夕飯作ったらしいから、それを食って寝な。俺も寝るわ。じゃあな。」

「え?あ、お休みなさい。」

 え?どういうこと、でしょうか?菊池先輩の方を向くと、

「あ~あ。せっかく優君を驚かそうとしていたのに、あいつ、勝手にばらしやがって。」

 …どうやら、工藤先輩の言っていたことは本当のことらしい。

「さ、優君。リビングに行って、一緒に夕飯食べよう?あ~んしてあげるわ。」

「夕飯はありがたくいただきますけど、あ~ん、は結構です。」

「え~?」

 久々の菊池先輩の夕飯に、

(!?ちょっと、やばいな。)

 涙がでそうになってしまった。この炊き込みご飯にハンバーグ、揚げ出し豆腐、どれもこれも美味しいです。美味し過ぎです!

「どう?美味しい?」

 その菊池先輩の問いに、

「…はい。とっても、美味しいです。」

 噛みしめながら答えた。夕飯の後のアイスも美味しかったです。

 短い時間ですが、帰ってきたんだなと実感できた夕飯でした。


 そして翌日。

 私はいつも通りの時間に起き、

「さ。久々の共同作業ね。胸が高鳴っちゃうわ♪」

「ただの朝ご飯の用意ですけどね。」

 菊池先輩との二人で朝ご飯を作る。起きてきたみんなは、

「お?優、帰ってきていたのか?」

「優ちゃん。今日からまたよろしく♪」

 私が台所に立っていることに驚いていたものの、すぐに慣れて席に座る。

「今日は炊き込みご飯に、スープ?」

「はい!肉団子入りのコンソメスープです。召し上がってください。」

 昨日の菊池先輩の、ハンバーグの種を使わせてもらった一品です。

「うん。やっぱ優と菊池が作る朝飯は美味いな。」

「だな。」

「「「ねー。」」」

 こういう雑談を聞いていると、帰ってきたんだなという実感が改めてわいた。

 職場に出勤して、色んな人に、「京都はどうだった?」とか、「仕事は問題なかったのか?」と、私の身を案じての言葉を聞き、

(私ってこんなにも愛されていたんだな…。)

 と、実感した。

 もちろん、ちゃんと無事にこなしたことを伝えると、「さっすが!」と言われてしまった。

「もう。そんなことを言われても、お土産しか出てきませんよ?」

 と言いながら気づいたことがあった。それは、まだみなさんにお土産を渡していなかったことである。

「あ。今日の夕方に、みなさんにお土産を渡しますね。」

 この発言に、

「「「「「「うっし!!!!!!」」」」」」

 男女関係なく全員がガッツポーズしていた。そんなにハードルを上げられても困るのですが…。

「もちろん。俺が頼んでいたお土産はあるんだろうな?」

「私のお土産のリストも渡してあるし、大丈夫よね?」

 と、工藤先輩と菊池先輩が尋ねてきた。

 ・・・。

「あれは、無理です。私には用意できません。」

 私が素直に言うと、

「「なんで!!??」」

 二人は驚いた表情を公共の場でさらす。

 だって、

「まず工藤先輩ですが、確かに買おうとしましたが、店員さんに止められました。お酒だったので。」

 この私の一言で、私と工藤先輩以外の全員が、

“未成年に何頼んでいるんだ!?”

 と、視線で物語っていた。

「だって、京都限定の酒が欲しかった、だけ、なんだよ…。」

 と、声と一緒に色々小さくなっていった。私は見かねて、

「とりあえず、代わりのお土産はありますから、それで我慢してください。」

「…へい。」

「次に菊池先輩ですが、あれはどこを探しても無理です。」

「そんな!?あんな酒魔人よりよっぽど見つけやすいはずよ!」

 周りからは、“酒魔人?”とか、“見つけやすい?”とか聞こえてくる。けど、

「あれは無理です。“私と優君のための結婚式場”なんて、京都関係ないじゃないですか。」

 私も自分で何を言っているが分からないが、事前に渡されたメモを読んでみる。これもやはり周りから、“結婚式?誰の?”とか、“早乙女君と菊池君じゃね?無理だろうけど。”が聞こえ、冷たい視線が菊池先輩に集まる。

「ええ!?優君とジューンブライトを楽しみにしていたのに…。」

 と、泣き崩れてしまった。小学生と大の大人が結婚できるんですかね。結婚しても、周りからは白い目で見られそうですが。ちなみに今は7月なので、ジューンブライトは来年だと思うのですが…。

「さ、とりあえず仕事を始めましょうか?」

「だな。」

「ですね。」

 橘先輩と桐谷先輩が返事をしてくれたなか、

「「・・・。」」

 意気消沈中の二人はゆっくりと立ち、自分のデスクにつき、仕事を始めた。こればっかりは、私ではどうすることもできないので、そのまま自分の仕事を始めた。


 仕事が一段落つき、私はあることを思い出す。

“そういえば、課長に出張の報告をしていなかったな。”

 そのことを思い出し、改めて報告した。

「…分かった。」

「はい。これがその報告書と、USBメモリーです。課長に渡してくれって頼まれました。」

 アルド商事に勤め始めた初日に小鳥遊さんに手渡したわけだが、男性の送別会の時、黒田先輩、元先輩というべきですね。その人から同じUSBメモリーを受け取り、「これを課長に渡してくれ。」と渡されたのだ。ちなみに、中にどんなデータが入っているのかは知らない。最初は見ようと思ったけど、会社の機密情報だったり、見てはいけないものだったりする可能性があるからだ。

「うん。確かに受け取った。それで、出張の方はどうだった?」

「はい。大変参考になりました。その経験を活かし、今後ともこの会社に貢献させていただきます!」

「…そうか。」

「用件はこれで以上です。それでは、」

「待ちなさい。」

「はい?」

 急に課長に止められ、思わず変な声で返事をしてしまう。

「社長がお呼びだ。時間が空いたらでいいらしいから、社長室に向かいなさい。」

 私は少し緩んでいたであろう気を引き締め直し、

「はい。」

 しっかり返事してから、

「それでは、失礼します。」

 私は社長室に向かった。


 社長室の前まで来た私は、

「すぅー…。はぁー…。」

 深呼吸をする。出来るだけ緊張しないためだ。何度来ても、この社長室は緊張してしまう。そして、社長室の扉を数回叩く。

「どうぞ。」

 その一声を聞き、私は、

「失礼します。」

 社長室に入る。少し緊張しながらも、

「ま、とにかく座りたまえ。今、お茶を用意するから。」

「はい。」

 私が座って待っていると、

「はい。お茶と、これ。」

 社長が持ってきてくださったのは、

「キビ団子味のアイス!?」

 これはもしや、ご当地限定のアイスなのでは!?

「これは私のささやかなお土産だ。まずはそれを食べてから話そうじゃないか。」

「は、はい!」

 私はアイスの上にあるスプーンを手に取り、アイスを食べ始める。

 ほんと、この会社の皆さんは私に対して優し過ぎですよ。涙が出ちゃいそうです。


 アイスを食べ終え、カップをテーブルの上に置く。

“今回のアイスも美味しかった。今度はどんな味のアイスがあるのでしょうか?”

 と、アイスに期待を膨らませていたが、

“っていけない!今日は出張の報告をするためにこの社長室に来たんでした!”

 と、私は気持ちを切り替え、話を切り出す。

「アイス、大変美味しかったです。ありがとうございますた。」

 とはいえ、やはり出されたものに対する感想を言う必要はあると思い、軽く言う。

「それで、私を呼び出した理由は何なのでしょうか?」

「うむ。それはな、出張の首尾を聞こうと思ってな。」

「でしたら、近日中に報告書を提出するつもりですが…。」

「それもいいが、やはり、君の口から直接聞きたくてな。」

 私は社長の言葉に思わず、

“嬉しいです!”

 と、歓喜してしまう感情を抑え、

「…分かりました。」

 私は出来るだけ冷静に言う。そして、30分かけ、出張の出来事を伝えた。


 実は、出張で起きた出来事を、優に聞く前から社長は全て知っていた。

 それというのも、優がアルド商事に勤める最終日の午後、一本のメールをアルド商事京都本社の部長からこの社長に送られていた。そのメールの内容は、アルド商事においての優の貢献具合、急な仕事にも対応できる能力の高さ、それらを褒めたたえるかのようにつづられていた。それを読んだ社長は、「うむ。さすがは私の孫だ。」と、一人首を縦に振っていた。

なので、社長は優の話を聞きながら、事前に聞いていた内容と照らし合わせていた。


「…以上が出張の報告となります。後は報告書にまとめて提出しましたので、そちらを見て頂ければ分かるかと思います。」

「そうか。それでは今後も頑張ってほしい。」

「もちろんです。それでは失礼します。」

 私は頭を社長に下げ、社長室を退室しようとする。私がドアを開こうとしたタイミングで、

「ちょっといいか?」

 社長は私を呼び止める。

 思わず、

「はい?」

 素で聞き返してしまった。これは失礼、じゃないですよね?大丈夫ですよね?

「最後に1つだけ聞いてもいいかな?」

「もちろん構いませんが、何でしょう?」

 内心、何を聞かれるのか懸命に考える。だが、思い当たる節が色々あるため、どう言い返すかを考える。

「今、学校と会社の生活を両方しているわけだが、辛くはないか?」

 私はこの質問に驚きを隠せずにいた。

 私が想定して質問は、

“今回の出張で、何か失敗したことは無いか?”

 とか、

“何を学んだのか、具体的に聞いてもいいか?”

 等を聞いてくるものばかりだと考えていたのだが、これは想定外です。

 私は少し考えてから、

「辛くありません。会社の方々にほんと、良くしてもらっているので、これ以上は我が儘です。」

 私はそう言ってから、

「失礼します。」

 頭を下げ、その場を後にした。


 一人、社長室に残った社長は、

「良くしてもらっている、か。」

 優の言葉に違和感を持っていた。そして、机から紙の束を取り出し、それを眺め始め、

「いくら補佐とはいえ、これだけの仕事を処理できる人材はそうはいないぞ?」

 優の謙虚な姿勢と、仕事に対する熱意を全身で感じ、優の評価を改めていた。


 社長室から自分のデスクに戻ると、

「優く~ん!今日も私の疲れを癒して~♪」

「わっ!?菊池先輩!?」

 急に抱き着くのはやめてほしいですけど、これをされると改めて実感します。

 私、ここに帰ってきたんだなって。

「おい!まだ仕事は終わってないぞ!ちゃんと仕事しろ!」

「え~。ノルマはこなしたからいいじゃない?ねぇ優君?」

「いいわけあるか!と、言いたいところだが、」

 工藤先輩は時計を指差す。

 その時計が示した時刻は、

「ほら~。もう定時なわけだしー?私が優君といちゃついても文句ないわよね?」

「誠に残念ながら、な。」

 工藤先輩は再びデスクに戻る。いつもお疲れ様です。

「それじゃあ優君。今日も私が夕飯作るから、楽しみにしていてね♪」

「そんな!?私も一緒に…!」

「優君?優君はまだ帰ってきてから数日も経っていないのよ?今ぐらい、私に任せなさいな。」

「そうだぞ。疲れた時は誰かに頼るのが一番だ。」

 この工藤先輩の発言に、橘先輩と桐谷先輩も頷いていた。

「私、出張翌日にあそこまで機敏に仕事なんて出来ませんよ。」

「俺も。」

 そんなことをつぶやいていた。私にはそういう自覚はありませんが、そうなのでしょうか?

「そうよ!今日は私に思う存分甘えて!夕飯からお片付け、お風呂にお休みのキッス、それと…。」

「そこまでお世話にはなりません!」

 まったく!私を何歳児だと思っているのですか!?もう11歳ですよ!そこまで甘えるお年頃じゃありません!

「え~?一緒に寝ようよ~。そしてお休みとおはようのキッスを…。」

「しません。」

「とかいって本音は?」

「一切しません。」

「けち~。」

 と、菊池先輩は不満そうにしていた。

 だけど、私は内心嬉しかった。

 こんなやりとりをしている度に、

“この感じ、やっぱり嬉しいです。”

 心が少し浮き立ち、思わず、

「あれ~優君、ちょっと顔がにやついていない?」

「…いいえ。気のせいです。」

 顔に出てしまいました。

「でも~、」

「気のせいです。」

 そう答えるものの、やっぱり嬉しい自分がいた。この場に帰ってきて嬉しい自分が。

「あ、そうだ!今週末、あれをやるわよ!」

「…?あれって何ですか?」

「そんなの、決まっているじゃない!もちろん…!」

次回予告

『小さな会社員の京都出張生活~学校での終了報告~』

 無事に京都出張を終えた優は、学校での帰宅報告を済ませる。そこで優は夏休みのことについて聞かされる。だが、優は夏休みに関してある勘違いをしていた。そして、水曜日のクラブを終え、優雅から仕事を始める。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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