小さな会社員の京都出張生活~帰路~
翌日。
私は社員寮のみな様に別れを告げ、社員寮を後にした。
とはいっても、今はまだ昼前。新幹線の時間までたっぷり時間がある。何故、時間に余裕をもたせたのかというと、この時間の内にお土産を買おうと考えていたからだ。私は京都駅ビルでお土産を探し始める。
「さて。お土産は何にしましょうか?」
八つ橋、京都限定お菓子、それにアイスクリー…、アイス!?しかも、京都限定の氏抹茶金時味のアイスじゃないか!?
「これください!」
「はい。」
欲しいと考えるより先に足と手が動いていた。
う~ん♪これが京都限定の氏抹茶金時味のアイス。美味しそうです。私はさっそくアイスを食べ始める。
「美味し~♪」
この小豆の甘さと抹茶のほろ苦さがマッチしていてとっても美味い!買ってよかった~♪私はそのまま幸せ気分でアイスを味わい終えると、
「…あ。そういえば、みなさんにお土産買うこと、危うく忘れるところでした。」
危なかった。あまりにも幸福過ぎて、他のことがどうでもよくなっていました。これではいけませんね。さて、それでは再びお土産を…、
「…あ!?あんたがなんでこんなところにいるのよ!?」
突如、私の後方から大きな声が聞こえる。
今日は週末なのですから。待ち合わせに京都駅を使う人もいるのでしょう。ちょっと声が大きいですが、気にしないようにしましょう。それにしても、京都のお土産と言えばやっぱ…、
「ねぇ。ねぇってば」
急に肩に触られ、揺らされる。ほんとに誰なのでしょうか?後ろを振り向くと、
「私よ。わ・た・し♪」
「・・・?」
…本当に誰なのでしょう?
帽子を深くかぶっていて顔が良く見えないですし、身長も、私より大きいので当てになりません。ですが、私よりちょっと大きいくらいですので、小学生、なのでしょうか。
「…もしかして、本当に分からないの?」
「…面と向かってオレオレ詐欺をされても困ります。」
「はぁ。だから私よ。」
と、その人は帽子のつばを持ち、顔が見えるように持ち上げる。
「…どう?これで私が誰か分かったかしら?」
「…もしかして、潮田さん?」
「そう。約2月ぶりね。」
と、口角を上げて返事をしてくる。
ですが、2月前は関東のテレビ局で会ったはずなのに、何故ここで?
「…ここだと目立つわね。場所を変えましょう。ちょっとついてきて。」
「え?あ、はい。」
私はスーツケースを引きながら、潮田さんの後を追う。
そして、とあるファミリーレストランに入っていった。そういえば、4月の時以来です。確か、私が学校に行き始めた記念、でしたっけ?
「そういえば、勝手に決めちゃったけど、ここで良かった?嫌なら別の店に…。」
「いえ。ここで大丈夫です。」
「そう。それじゃあまずはお昼にしましょう?お腹空いちゃったわ。」
と、潮田さんはメニューをとり、注文するものをどれにしようか悩み始めていた。時刻は正午ですし、お腹が空くのも無理ありません。私もどれにしましょうか?
「・・・あなたは何にするの?」
不意に潮田さんが私に聞いてくる。
「私ですか?私は・・・。」
少し悩んでから、
「このハンバーグのセットと、バニラアイスクリームですね。」
「そう。それじゃあ私は、これと、これにするわ。」
「…ハンバーグステーキのセットと、バニラアイスのパフェ、ですね?」
私は、潮田さんが指差した品を読み上げる。
「うん。後で少し分けてくれない?」
「それは構いませんが、いいのですか?」
私は構わないのですが、人によっては嫌がる人もいますし。潮田さんはそういうところ、きにしないのでしょうか。
「いいのよ。今回、私が誘ったわけだし、私のおごりってことにしてちょうだい。だからそれくらいいいわよね?」
「料理は構いませんが、勘定はきちんと割り勘にしましょう!」
こういうお金がらみのことは後々、人間関係を悪くすると言いますし、私自身、奢ってもらう程、潮田さんになにかしたってこともないですし、これは当然でしょう。
「え?」
何故か私の発言に驚く潮田さん。
「え?これぐらい普通じゃありません?」
「…みんな私に奢らせようとしてくるから、てっきりそれが普通なことだと持っていたけど…。」
「それは普通じゃありませんよ…。」
奢ることが普通って、どんな人付き合いをしていたのでしょうか?私は潮田さんの発言に呆れながらも、
「ここは割り勘。いえ、私が奢りますよ。」
「え!?そんなの悪い…!」
「すいませーん。」
私は潮田さんの言葉を遮るかのように店員さんを呼び、
「これと、これと、これと、これをください。」
「ハンバーグのセットと、ハンバーグステーキのセット、バニラアイス、バニラアイスのパフェ、で間違いないですか?」
「はい。それでお願いいします。」
「ちょ…!」
店員さんは私の注文を聞き、厨房へと向かう。
「行っちゃった…。」
「あれ?もしかして、頼む品を間違えてしまいましたか?」
私はさっき、潮田さんが言っていた料理を思い出す。…間違っては、いないな。
「そうじゃなくて!ほんとにあんたの奢りでいいの!?」
「?構いませんが?」
お金なら十分にありますし。
「それにお金が…!」
「お金ならあるので心配いりませんよ?」
とは言ったものの、さきほどまでお土産を買っていたので、少し心配になってきたな。私はカバンから財布を取り出し、お金を確認する。…うん、十分にありますね。よかった。
「三千円あれば足りますよね?」
「え?え、ええ。」
私も一応、メニューにかいてある値段を足して計算してみる。…足りそうですね。
「三千円って、痛くないの?」
「はい?」
三千円が痛いってどういうことでしょう?三千円が鋼鉄で出来ていて、これでビンタされて痛い、なんてわけがないですし…。
「出費、大きくない?」
ああ。そういうことでしたか。
「全然問題ありませんよ?」
お金ならお土産のこともあったので多めに持ってきましたし、無駄遣いもしてきたわけではありませんし。
「…あなたって、変わっているのね。」
「それは褒めているのですか?」
いや、確実に褒め言葉ではないでしょう。私は変わっている、つまり私は変人である、ということを言っているわけですから。
「それで、要件とはなんでしょう?」
私は無理矢理話題を変える。私が変わっている理由なんて聞きたくありませんし。
「え?え~っと…。」
潮田さんはちょっと悩んでから、
「そうだ!あの話をしましょう。」
そうして、潮田さんは私に話し始める。
料理が来るまでの間、潮田さんは京都に来た理由を話した。
まず、潮田さんは何かの収録でここに来ていたらしい。何の収録かは教えてくれなかったが、言えない事情があるのだと思い、深くは聞かなかった。
それに、何かの試験を受けたらしい。その何かというのは、何かの資格を取得するための試験だというのだが、
「それは、結果がきてからの秘密♪」
と、指を唇に当てて答えた。
私は、
「受かっているといいですね。」
無難にこう返しておいた。何の試験かはわかりませんが、上手くいっているといいですね。
「きっと受かっているわ。」
そう言って、楽しそうに頬を緩めていた。なんか、テレビ局で見た潮田さんとは別人みたいだ。
…それもそうか。仕事とプライベートが一緒のはずはないか。なにかしら違いはあるし、むしろ気持ちの切り替えが出来ていてすごいと思う。菊池先輩は仕事に私情を挟んでくるからね。そういうところを見ているから、潮田さんが立派に見えるのだろうか。
会話に花を咲かせていた時、
「お待たせしました。」
料理がきた。
「ありがとうございます。」
私はお礼の言葉を言い、料理を受け取る。
うん。きちんと焼けていて、今でも焼き音が聞こえてくる。潮田さんのハンバーグステーキも美味しそうです。
「こちらが伝票になります。ごゆっくりどうぞ。」
そう言って、店員さんは私達から離れ、別のテーブルへと向かっていった。
「それじゃあ食べますか。」
「ええ。」
二人の食事が始まる。
食事も終わり、私が会計を済ましてくると、
「…どうしたのですか?」
驚いた表情をしている潮田さんがいた。バニラアイスのパフェを食べている最中にも関わらず、その手を止めていた。
「嘘。本当に奢ってくれたの?」
「え?」
もしかして、勝手にお金を払ったことに怒っているのでしょうか?
いや、これは違うな。
「もしかして、先ほどの発言を嘘だと思っていたのですか?」
「ええ。てっきり、トイレに行くふりをして、荷物を持って店から出ていくものばかり思っていたわ。」
「…だとしても、伝票を持って店から出ませんよ。」
潮田さんの交友関係って、実はあまりよろしくないのでは?そんなことを考えさせてくれる昼飯となった。
ご飯の後も数分だが話をした。何でも、こっちが主な理由だとか。だったら最初に話せばよかったのに、なんて言うのは失礼な気がしたので、心の奥底にしまい込み、その話を聞いてみた。
何でも、8月に通っている塾の実力テストがあるらしく、そのテスト勉強を手伝ってほしい、とのことだった。それが前に頼んできた頼みですか、と聞いたら、
「これもだけど、他のことも頼むつもりよ。」
と、私に手伝わせる気満々だった。ま、私も勉強を欠かせてはいけないと思うので、了承した。日にち等の詳細は後日伝えるとのことらしい。私は相槌をうちながら、
(後、お土産はどうしましょうか?)
お土産の事を考え始めていた。
そして、
「それじゃあ、また後でね。」
「はい。」
潮田さんを見送った。
私も、
「新幹線の切符を買わないと。」
駅の窓口に向かう。
お土産を買い、新幹線に乗った後、
「菊池先輩達は無事でしょうか?」
もちろん、無事だと確信している。だが、それでも考えずにはいられなかった。2週間も離れて暮らしていたので、何かと心配なのだ。特に、
「菊池先輩、変なことになっていなければいいですけど。」
私の事を過剰に心配してくれる大切な人。だからこそ、帰ってきたとき、どんな反応をするのか想像が出来ない。泣いて歓迎するのか。愛情がおかしな方向に向かい、私をビンタするか。本当に想像がつかない。
「あ!そういえば、菊池先輩に連絡しないと!」
この時間帯に乗ることが出来たのですから、帰りは夕方になりそうです。私はそのことをメールで送ると、
「うわ!?」
すぐに返信が来た。おそらく、
「菊池先輩だ。返信速すぎですよ。」
ちょっと嬉しいですけど、頑張る箇所、間違えていませんか?え~っと文面は、
“早く!早く帰ってくるのよ!!”
・・・。
私は、
“はい。”
と返信し、アルド商事の方々に渡された色紙等を見て、時間を潰した。
時刻は夜目前。
空も、橙色から黒く染まり始めていく時間帯。そんな時間帯に、
「ふぅー。やっと、やっと帰ってきました。」
小さな子が駅から出てくる。
その子は、見た目に不釣り合いなスーツケースを引っ張りながら、駅を後にしようとすると、
「ゆ、ゆ、優君!!!」
大人の女性の声が小さな子周辺に響き渡る。その小さな子も、大人の女性の存在に気付き、近づいていく。そして、
「菊池先輩、ただいまです!」
「おかえりなさい、優君!!」
二人、優と菊池は再開を果たす。その瞬間、駅周辺の光が強くなる。
まるで、二人の再開を祝すかのように。
そして、長針と短針の角度がちょうど150度になった。
次回予告
『小さな会社員の京都出張生活~会社での終了報告~』
無事に京都出張を終えた優は、菊池達が待つ場所へと戻ってくる。会社の人達は、優に声をかける。その状態に優は、自身がいかに愛されているかを実感しつつも、京都出張の報告を始めた。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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