小さな会社員の京都出張生活~女性会社員だけの送別会~
休日の土曜日。
私は明日の日曜、それも最終便の新幹線に乗って帰るつもりである。従って、帰るうん日は既に大体終わらせていた今日は暇なのだ。やることもなくボーっとしようかと思ったのだが、
「今日の夜、女性社員だけの送別会をやるわよ!」
と、昨日、寮母さんから進言されたのだ。何でも、寮母さんが中心となって用意してくれるらしい。用意って料理の事ですよね。みなさん、料理はあまり出来ないと言っていたのきがするのですが、大丈夫なのでしょうか?いや、もしかしたらそれ以外の事を手伝うのかもしれません。飾りつけとか…。
ちなみに私が手伝おうとしたら、
「主役に手伝わせるなんて、そんなことはさせないわ!」
と、言われてしまった。
昨日の送別会の会費も断られましたし、もしかして、私に支払い能力、もしくは手伝えるだけの力がないとか?あ、身長がないわけですから、高いところの飾りつけは出来ないですね。
・・・。
今日は大人しく、寮母さんの言うとおりにしましょう。
さ、まずはどこに行きましょうか。
こうして優は、休日に出かけることにした。
出かける場所は既に一つ決まっていた。
それは、
「こんにちはー。」
「…あら?もしかしなくとも、早乙女優君よね?」
京都に来た初日にお世話になった、衣装レンタル店の女性従業員と、
「おう、いらっしゃい。」
お好み焼き店を経営している男性従業員である。ちょうどお昼時でもあったので、このお店にお邪魔したのだ。それにしても、ここはお好み焼き店なのに、どうして衣装レンタル店の従業員がいるのでしょう?夫婦ならではの働き方、なのでしょうか?
「ようこそ、旦那の店へ。まずは席を案内するわね。」
「はい。」
こうして私は、女性従業員の案内を受け、席に案内される。
「ここにどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「それでメニューの方は…。」
「あなたの夫のおすすめでお願い出来ますか?」
「…分かったわ。最高のお好み焼きを作るように言ってくるわ。」
「それと…、これとこれで注文をお願いします。」
「抹茶アイスとコーヒーね。それでは…。」
こうして注文をうけた女性従業員は、厨房に向かった。
待つこと十数分。
出てきたのは、
「よう。一週間ぶりだな。」
あの店主が来た。
「お久しぶりです。」
「だな。後、これが今日の俺のおすすめだ。召し上がれ。」
と言って出してきたのは、
「これは当店一番の豚玉だ。味は保証するぞ。」
らしい。私はそのお好み焼きを食べると、
(お、美味しい!?)
さすが、これで生活を営んでいるだけのことはある。私なんかが作るお好み焼きとは大違いだ。シンプルだけど、いや、シンプルだからこそ、店主の作業のこだわり、手間暇が舌から脳に伝わってくる。
「さすがです。」
私はそれだけしか言えなかった。
ちなみに、食後にいただいたアイスも美味しかったです。
本来ならここで店を出る手はずなのだが、
「はいこれ、サービスよ。」
「え?」
私が出ようとしたところに、またデザートを追加で持ってきて、私に渡してきた。ですが、
「私、イチゴのアイスクリームは頼んでいませんよ?」
さきほど注文し、食したのは抹茶のアイスクリームのはず。アイスを間違えて持ってきたとは思えませんし…。
「あのね。あともう少しで休憩時間に入るから、それまでここで待っていて欲しいの。お願い、ね?」
と、頼まれてしまった。
ま、頼まれた上に、アイスを常温のまま放置するわけにもいかないですし、仕方がない、ですよね?
「分かりました。それでは店内で待たせていただきます。」
「ありがとー♪」
私はそういってアイスを受け取り、さっき座っていた席まで戻り、またアイスを食べ始めた。アイス美味しー♪
アイスを食べ終え、少し待っていると、
「さ~て。これでお昼は終了だな。」
「ええ。片付けも終わった事だし。」
「だな。」
そんな会話が耳から聞こえ、足音が大きくなっていく。
「それじゃ、待たせたな。」
「いえいえ。そんなことはありませんよ。」
あのイチゴのソフトクリームは無料で食べさせてもらえたのですから、文句を言う筋合いなんか私にはありません。
「…この子、本当に小学生なの?さっきから礼儀、というか作法が淑女そっくりなんだけど?」
「…俺もこういうサラリーマン、見たことあるぞ。就活を思い出すなぁ。」
「あの、それで私に何の用で…。」
と言いかけた時、男性の従業員はとあるものをテーブルの上に並べ始める。
「あなた。ヘラ、忘れているわよ?」
「…あ。迷惑をかけてすまねぇな。」
「これぐらいいいわよ。それより、」
「ああ。」
「???」
一体何が…?
「前来た時、俺はお前に言ったよな?」
「言った?何をですか?」
心当たりがあるとすれば…、
「あ!?」
このテーブルに並べられた材料。そして今の発言の意味を考えると、
「そうだ。お前のお好み焼きが食べたくて、わざわざとどまってもらったんだ。」
男の従業員はニヤリと笑みを浮かべ、私にヘラを渡してくる。
ですが、
「私、一般的なものしか作れませんよ?」
確かに色々な料理を学んだし、実際に何回も作っている。だから、作り方は頭の中に記憶しているし、体にもしっかり刻まれている。けど、あくまで一般的なお好み焼きの話だ。人様に、それもその道のプロに敵うはずがないだろう。さっき食べたお好み焼きを作れるかと言えば、答えはNOだ。つまり、この人の作るお好み焼きを再現するには、数カ月練習しても出来ないだろう。まさしく、その道を究めたプロのお好み焼きだった。
「今の私では、あのお好み焼きを再現することは出来ませんよ?」
この私の言葉に、
「いや。今食いたいのはお前のお好み焼きだ。」
「え?」
それこそありえない。
さっき言った通り、私が作れるのはあくまで、普通のお好み焼きだ。それを食べたいなんて…。
「お前。他のガキどもと料理していた時、自分の料理よりガキどものことを優先させていたな。」
「え?」
私はお好み焼きをみんなで作っていた頃を思い出す。
…そういえば、確かに私はみんなの手伝いを優先させていましたね。
「それが何か?」
「その様子を見て、こいつの本気のお好み焼きを食べてみたくなったんだ。」
「・・・?」
分かるような、分からないような…?
…やっぱりよく分かりません。
「どういうことでしょう?」
私は直接聞く。
「その歳で他人を思いやることが出来、お好み焼き作りにも精通しているやつなんか、そうはいない。だから、俺にお前のお好み焼きを食べさせて欲しい。この通りだ。」
と、男の従業員は急に頭を下げてくる。
ちょお!?私なんかに頭を下げなくても…!
「私からもお願いするわ。あなたの料理を食べさせて欲しいの。」
「わ、分かりましたから!どうか頭を上げて下さい!」
こうして、二人の目の前でお好み焼きを作ることとなった。
お好み焼きを作りながら、私は二人に、
“どうして私なんかのお好み焼きが食べたいと思ったのですか?”
と、詳しく話を聞いてみることにした。
男性の従業員の方は、
“俺は、お好み焼きを食べるだけで、作った人の気持ち、熱意が分かるんだ!”
と話してもらった。
…詳しく話を聞いてもよく分からなかった。
つまり…どういうことでしょう?
お好み焼きを食べた時、作った人がどんな思いで作ったのかが分かる、ということなのでしょうか?さすがプロってことなんでしょうか?私みたいな半端者ではたどり着くことのできない境地、なのでしょうね。
女性の従業員の方はと言うと、
「昔、義理姉からあなたの料理の事を散々聞いてきたから、どんなものか食べてみたかったの。今回は無茶言ってごめんね。」
とのことだった。
…あれ?
数年前といえば、私はそれほど料理が上手く出来なく、まだ唐揚げを時々黒焦げにしてしまうくらいの腕だったはずです。料理のレパートリーも少なく、いつも卵焼きを作っていました。そういえば最近、だし巻き卵ばかり作っていて、甘い卵焼きを作っていませんでした。今度、作ってみようかな?
と、そんなことはともかく、今の私に出来る、最高のお好み焼きを作らなくては!
「「・・・。」」
二人が見守る中、優はお好み焼きを作っていく。
出来上がったのは、
「…ふぅ。何とかできました。」
見た目が普通のお好み焼きだった。それを食べた時、
「「美味!!??」」
という掛け声が返ってきた。私も最初、大げさかと思いましたが、自分で一口食べてみて分かった。
(あ。今まで作ってきた中で一番美味しいかも。)
材料の火の通り具合、具材の混ざり具合、食感。どれもこれまで以上の出来栄えで、今までで一番味のあるお好み焼きとなっていた。
二人は、
「…なるほど。この歳でこれほどのお好み焼きを…。」
「美味しいわね。味に優しさを感じるわ。」
満足してくれたみたいだった。
これで私の用事も済ませたことですし、時間は…夕方くらいですね。ま、この時間帯なら大丈夫ですよね。
「それでは、今日はご馳走様でした。」
私は一礼した後、店を去ろうとした後、
「「待った!!」」
呼び止められた。
「な、なんでしょう?」
急に大声をあげられたものですから、驚いてしまいました。
「…お前、この店を継ぐ気はないか?」
「え?い、今の私ではとても…!」
「だから、お前が一人前になるまで、俺が面倒を見るぞ。」
「ですが…。」
私には今の生活がありますし…。
「あなた!いくらなんでも突然すぎるでしょ!早乙女君、戸惑っているじゃない!」
「だって、あんな逸材、そうはいないぞ?」
「だとしても今は、」
女性の従業員が私の手をとり、何かを乗せる。
「名刺交換ぐらいで済ませなさい!」
名刺だった。
「あの。私、名刺なんて持っていないのですが…。」
こういう時、互いの名刺を交換すると思いますが、あいにく、私は名刺を持っていません。自分の名刺でも作っておくべきなのでしょうか?
「いいのよ!それと、これ、持って行って。」
「え?これって…。」
衣装レンタル店の割引券?
「ええ。早乙女君とは今後、長い付き合いをしたいからね。今の内に仲良くしようとね。受け取ってくれる?」
「ええ。それはもちろん、ありがたく頂戴させていただきます。」
私はそれらを財布の中にしまう。
「まった。そういうことなら、俺の名刺も受け取ってくれ。」
と、またも名刺を渡されてしまった。それと…、
「これはお土産だ。」
「ええ!?そんなの、申し訳なくて受けとれませんよ!?」
前も受け取ったわけですし、今回もいただくというのはさすがに…、
「大丈夫だ。今回はタコ焼きだから、味に飽きがくることはないはずだ。」
「いえ!そういうことを気にしている訳で…!?」
急に口の中に何かが入ってくる。かなり熱いが、丸くて、中に噛み応えのある…、
「ふぉれって…。」
「そう。うちの特製タコ焼きだ。美味いだろ?」
「…美味しいです。」
確かに美味い。お好み焼きもそうだったけど、このタコ焼きも相当だ。まさにプロが作るタコ焼き、と言ったこところでしょうか。ぜひとも作り方を教わりたいのですが、時間も差し迫っていることですし、ここで言い合いをしている場合ではありませんね。
「…今後の参考にさせていただきます。」
「おう。いつでも来い。ご馳走した後、修行させて、立派なお好み焼き屋にさせてやるぞ。」
「あなた!この子は私の衣装レンタル店を継ぐの!この店はあなたの代で閉店だわ。」
「なにをぉ!?」
「なによ!?」
さきほどまでの仲良し夫婦は嘘であったかのように、一気に険悪になる二人。
私は、
「それでは、失礼しましたー…。」
静かに店を後にした。
またもお土産を片手に持ち、社員寮へと帰る。
やはり、関東とは異なる風景で、ついつい周りを見渡してしまう。
「そういえば、観光やら仕事やらで、ゆっくり景色を見るなんてことはしなかったですね。」
平日は仕事、休日は寮母さんのお手伝いに忙しかったですから、外をゆったりと歩く時間があっても悪くないですね。
「この風景も、最初で最後ですね。」
明日帰るのですから、当然と言えば当然です。ま、明日も同じ景色が見られるかも知れませんが。
優はそんなことを考えながら、歩みを遅くし、景色を堪能していく。
「ただいま帰りました。」
私が社員寮に帰ると、
「「「おかえりー♪」」」
「!!?」
既に全員スタンバっていた。想像していない事態につい驚いてしまう。
「み、みなさん、ずいぶん早いお帰りですね。」
「そうよ!だって明日で優君、帰っちゃうんだもん!」
「「「ねー。」」」
「えっと…。」
こういう時、どう返事を返せばいいのか分からない。
「今日は一杯、いーーーっぱい、盛り上がってくわよ!」
「「「おおーーー!!!」」」
「優君も盛り上がって!」
寮母さんの掛け声で、
「お、おー…。」
全員、盛り上がっていた。
早速、共同リビングに入ると、
「どう?この日のためにみんなが頑張ってくれたんだよ?」
「みなさんが?」
「ええ。」
「だって、ねぇ?」
「先週からずっと、優ちゃんにはお世話になりっぱなしなんだもの。これぐらいはむしろ当然でしょ。」
「「「ねぇー。」」」
リビングが綺麗にデコレートしてあった。
紙で作ったリング、大きな画用紙に書かれた文字。
これをわざわざ私のために?
「あ、ありがとう、ございます。」
圧巻の景色だった。
すごいデコレーションをして驚いた、というより、私のためだけにここまでしてくれたこと。そのことに驚いていた。
「後はこれよ。」
「これは?」
「サイン色紙よ。みんなの感謝の言葉と、名刺が入ったゴージャスな色紙よ!」
「…ここで開けてもいいですか?」
「いいわよ。」
私は袋を丁寧に開け、中のブツを丁寧に取り出す。
「…すごい。こんなにびっしりと書かれているなんて…。」
「当然でしょ!だって、」
「優ちゃんがいたから、私達がこれまで以上に楽に過ごせたんだもの!」
「仕事も出来て、寮の事も出来て、弁当まで作ってくれて、感謝しかないわ。」
「「「ねー。」」」
「…本当に、本当にありがとうございます。大切に保管させていただきます。」
こんな物をもらえるなんて、私は幸せ者ですね。
「さ!みんなで乾杯するわよ!」
この寮母さんの掛け声で、グラスに透明な黄緑色?の液体を注ぎ始めるみなさん。あれはシャンパン、でしょうか?
「優君にはぶどうジュースね。」
寮母さんが私のグラスにジュースを注いでくれる。
「ありがとうございます。」
「いいのよ。さぁ、みんなで言うわよ。せーの、」
「「「かんぱーーーい!!!」」」
ニ回目の送別会が始まった。
数時間経過。
「えへへー。」
「優ちゃんは私の子よ…。」
「もう、誰にも渡さない…。」
酔い潰れた人が大量発生した。だが、
「まったく。またみんな潰れちゃって。よっぽど嬉しかったのやら悲しかったのやら。」
寮母さんは酔い潰れた人達に毛布をかけていた。
「ごめんねー。結局手伝わせちゃって。」
「いえ。これぐらいは手伝いなんかに入りませんよ。」
「…本当のことを言うとね、みんなは優君に、ここに残ってほしいと思っているの。」
「そうなのですか?」
「ええ。でも、それは無理だって分かっているの。それは自分達の願望で我が儘だってことがね。」
私は黙って寮母さん話を聞く。
「だから、精一杯送り出そうとしているのよ。後悔を残さないよう、今まで最高のおもてなしをしてね。」
「おもてなし、ですか。」
「ええ。みんな、優君を膝の上に乗せていたでしょ?あれもおもてなしの一部よ。」
「そ、そうだったのですか。」
「結局、張り切り過ぎちゃって、見ての通りの状態になってしまったのよね。」
「あはは…。」
「「・・・。」」
会話が途切れてしまった。何か話題を…、
「待っているから。」
「…何をですか?」
「みんなが、優君がまたここに来ることを待っているから。一度でいい。絶対に来て欲しいの。」
と、真剣な目で、真剣なトーンで私に語り掛ける。
「…安心してください。また、ここに来ますから。」
私は寮母さんの問いかけに精一杯答える。
「…ありがと、優君。」
「礼には及びません。私もまた、ここに来たいと思っていますから。」
こんな語らいをした後、夜はふけり、みんな、幸せな夢の世界へと旅立っていった。
次回予告
『小さな会社員の京都出張生活~帰路~』
歓迎会を済ませ、女性寮に住む人達に別れを済ませた優は、会社で仕事をしている菊池達にお土産を買おうとお土産を選び始める。そこで優は意外な人と出会う。そして、菊池達との距離は物理的に近くなっていく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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