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会社員達の飲み会生活

「ふぅ…。」

 一方、

「あ~あ。優君ともっとお話ししたかったな、したかったなー。」

「いつもでも子供みたいなこと言ってないで、仕事に戻れ。今日も残業だぞ!」

「え~。」

 と、菊池は全身で不満を表現しつつも、渋々デスクにつく。

「…あの。優はどうなったのですか?」

「橘か。優は急きょ仕事で、帰りが一週間ほど遅くなるそうだ。」

「それはまた大変な時期に出張しましたね。」

 橘、桐谷も話に加わる。

「だな。なんでも、昨日の今日に仕事を頼まれたらしい。それでも、優は十分にやっているみたいで安心した。」

「そ、そうなんだ。」

「さすが優さんですね。」

 橘、桐谷は驚くが、すぐに納得した。日ごろ、優の仕事ぶりを見ていたからである。

「それにしても、優さんはどこに行ってもやれそうですね。」

「あ?そりゃそうだろ?なんだって、いつ、何が起きてもいいように資格をたくさんとっていたからな。」

「「資格??」」

 ここで、橘と桐谷、二人の声がはもる。

「ああ。優はこの数年、働きながら資格の勉強、そして家事を両立させていたんだ。家にも参考書があったし。」

「それって、両立って言えるのですか?三つのことを同時にこなすなんて…。」

「そうです!それに、どんな資格を取ったのか気になります!」

「そうか。それじゃあ少しだけ…。」

 こうして、三人でつかの間の休憩を過ごす。

 その間、

「あー…。優君、今週も帰ってこないのか…。」

 誰が見ても分かるくらい、菊池は落ち込んでいた。


 残業も終え、菊池、工藤、橘、桐谷の4人はそれぞれ帰る準備をしていた。ここで、

「今日はみなさんで飲みに行きませんか?」

 桐谷から他の3人を飲みに誘う。

「そういえば、俺はちょくちょく行くが、お前らはどうなんだ?」

「いえ。私はほとんどなくて…。」

「俺も…。」

「一応聞いておくが、菊池、お前はどうなんだ?」

「優君と何度も行ったわ、夢の中で。」

 この菊池の発言で、

((あ、そうなんだ。))

 思考を停止する橘と桐谷。

 対して、

「はぁ~。」

 大きくため息をこぼす工藤。

「気分を一新するためにも、飲みに行くのも悪くないな!」

 と、菊池を無理やり押しながら、

「さ、お前らも行くぞ!」

「はい。」

「ま、待ってください!」

 こうして、優を除いた4人の飲み会が始まる。


 とある居酒屋。

 そこに4人が集結し、席に座っていた。

「さて、飲み物はどうする?俺は断然生ビールだな!」

 と、工藤は早速メニューを取り、飲み物の欄を見る。

「俺もそれでお願いします。後、鳥の唐揚げもお願いします。」

 橘もメニューを見て、そうオーダーする。

「私はハイボールと、焼き鳥のおすすめをお願いします。」

 橘から渡されたメニューを受け取り、オーダーする桐谷。

「私は、優君と、優君と、優君。」

「え?」

 菊池の発言により、硬直する店員。

「あ!あ、こいつにも生ビールを一つで。」

「あ。あ、ああ。か、かしこまりました!」

 工藤の助けにより、店員は注文を受け、その場を去っていく。きっと従業員の間では話のタネにされるだろう。

「まったくお前ってやつは…。」

「ああ、優君天使が見える。きっと私を…。」

「迎えに来ていないからな!?」

「…。」

「あはは…。」

 二人の聞き慣れた会話に、出された水を飲む橘と、乾いた笑みを浮かべる桐谷。

「…それで、急に飲み会に行こうだなんて、どうしたんだ、桐谷?」

 工藤は今回の飲み会を提案した桐谷に話を振る。

「えっと…。そういえば私、みなさんとこういった場でお話ししたことなかったなって思いまして。」

 桐谷の発言に、

「確かに。」

 橘は頷く。

「そういえば、うちの会社は飲み会自体、あまりないからな。大体寮で済ませるし。」

 とここで、

「あなた達二人は入寮を断っていたわよね?なんで?」

 と、寮のオーナーである菊池が二人に尋ねる。

「俺は、独りでいた方が楽だから…。」

「私も、近所付き合いとか苦手で…。」

 と、少し小さくなる二人。

「ま、そのことに関しては賛成だけどな。俺も基本独りだし、近所付き合いも面倒くさいし。」

「え、違うでしょ?あなたにはお酒という愛人がいるじゃない?」

「誰が酒の愛人だ!人ですらないだろ!?」

 そんな会話を続けていくうちに、

「お待たせしました!」

 オーダーしたものが届き、全員に酒が行き渡る。

「お♪これでお酒もきたことだし、全員で乾杯だな。桐谷、乾杯の音頭をとれ。」

「え?わ、私ですか!?」

 突如、工藤に振られた桐谷は驚いてしまう。

「そうだ。お前の一言がなければ、この飲み会はなかったわけだからな。」

「ま、別にいいわ。」

「そうだな。」

 工藤の案に賛成する菊池と橘。そして、少し考えた後、

「それじゃ、今後の私達に向けて、乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」

 グラスをぶつけ合う音が店内に響き渡った。


 飲み会の間、色々な話が設けられた。

 やれ、近所に大型の施設が建った。

 やれ、近所にうざい人が出没するようになった。

 やれ、酒がちょっと美味くなった。

 

 本当に色々な話をした。

 だが、主に話をしていたのは、

「何でも、あそこに新しい酒を入荷したとらしいぞ?それが結構評判でさ…。」

「へぇ~。工藤先輩は本当にお酒に詳しいんですね。」

 工藤と桐谷だった。

 一方、菊池と橘はというと、

「「・・・。」」

 お互い、ちびちびお酒を飲んでいた。

 菊池は、優がいないので元気が出ず、お酒を飲んで気を紛らわせていた。

 橘は、仕事以外で人と話すこと自体ほとんどないので、こういう時、どんな話をすればいいのか困っているのだ。なので、酒を飲んでいるという体を貫いていた。もちろん、

「橘先輩は普段、どんなお酒を飲んでいるのですか?」

 話を振られたときは、

「そうだな…。主にビールや焼酎、たまにカルピスサワーとか飲んでいるかな。」

「へぇ~。」

 普通に返答している。

 だがそれ以外は、空気と同化しているかのように気配を消していた。まるで、他の人と話したくないような。そんな雰囲気を纏わせて。だが、橘本人はそんなことを一切考えていない。長年の習性により、無意識で行っている事だからである。

「桐谷。お前も社会人なわけだし、俺がここで大人な酒の飲み方を伝授してやろう。」

「はぁ。あんた、二十代前半の子にあの飲み方を教える気?しかも女性に?下手したら通報されるわよ?」

「「え??」」

 ここで、工藤が何を教えようとしているのか知らない橘と桐谷は驚く。それもそうだろう。場合によっては警察沙汰になりかねないと、菊池はそう進言してきたのだから。

 ちなみに、橘がなぜ、二十代後半なのに、工藤からその飲み方を知らないのかというと、教えてもらう場がなかっただけである。

「…おい。二人がびっくりしているじゃないか!冗談!菊池の冗談だからな!」

 その工藤の言葉に、

「あ、冗談だったんですか。冗談でよかったです。」

 と、桐谷は安堵する。

(ほっ。)

 そして、橘も安心した。

 こうして、楽しい飲み会の時間は過ぎていく。


 そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ、

「…そういえば、お前らは時間、気にしなくて大丈夫か?」

 工藤は、橘と桐谷の二人に言う。工藤と菊池は、近くに家があるから困らないのだが、二人は違うだろうと思い、気にして声をかけたのである。

「そういえば。それでは、俺はそろそろ失礼します。」

「あ。それじゃあ私も。会計の方は割り勘ですよね?」

「いや。今日は俺のおごりでいいぞ。簡易的ではあるが、桐谷の歓迎会、ということで俺が全部払うよ。」

「え!?い、いいんですか!?」

「ああ。本当の歓迎会も、もう少し遅くなるし。それだと、桐谷に申し訳ないからな。」

「あ、ありがとうございます。ご馳走様です!」

「おお。」

 桐谷は工藤に頭を下げ、工藤は席を立ち、伝票を持って会計を済ませに行く。

「何かあったら私に言ってね。今後も力を貸すから。」

 と、菊池は宣言する。

「俺も。出来るだけ手伝うよ。」

 菊池に続くように、橘も宣言する。

「ありがとうございます!菊池先輩!橘先輩!」

 桐谷は再び頭を下げる。

「おい。会計は済ませ…何やっているんだ?」

「別に。あなたには関係ないことよ。ね、橘?」

「え?あ、ああ、はい…。」

 声が小さくなっていく橘。そんな様子の橘を見て、

「???」

 首をかしげる工藤であった。


 居酒屋を出て、

「そういえば。桐谷、あなたは大丈夫なの?」

 菊池は桐谷に声をかける。

「え?何がですか?」

「夜道よ。こんな暗いし、痴漢に襲われる可能性は考えていたの?」

「あ。」

 今は照明や、店の明かりがあるから明るく見えるものの、それらがなくなれば、真っ暗な道へと変貌するだろう。そんな道に、女性が一人で歩いていくのはどうなの?と、菊池は心配しているのだ。

「大丈夫ですよ。私、こう見えても強いですし。」

「ほんとか~?なら、ここを通りたければ俺を倒してからにしろ!なんて言ってもいいか?」

「も~。何を言っているのですか、工藤先輩。」

 そう言って、朗らかな雰囲気になる一同。

 だが、

(嘘、だな。)

(嘘ね。)

 橘、菊池は嘘だと見抜いた。

 何故嘘をついたのか。その理由は容易に考え付く。

 だが、何故嘘だとわかったのかはわからない。

 根拠もない。

 けど、確かに二人は嘘だと直感で判断した。

「でもやっぱり、こんなご時世だもの。危険を回避できるなら、それに越したことはないわ。」

「でも、本当に私は大丈夫ですし…。」

 ここで、

「なら、俺が途中まで送る。」

「え?」

 橘自らが名乗りを上げた。

「お?なんだ?橘が桐谷を送っていくのか?」

「ええ。それなら、大丈夫ですよね?」

 と、橘は菊池に視線を送る。

「…そうね。むしろ、あなた以上の適任者はいないんじゃないかしら?」

「え!?で、でも!橘先輩にそこまでしてもらう理由が…!」

「途中まで帰り道が一緒だから、そのついでってことで、いいだろ?」

 と、橘は意味ありげな視線を桐谷に送る。その視線の意図に気づいた桐谷は、

「…分かりました。それでは、よろしくお願いします。」

 橘の意思を尊重した。

「話は終わったか?」

「あ、はい!橘先輩が送ってくれるので、それに甘えることにしました。」

「そうか。それじゃあ、俺たちはあっちだから、これで失礼するわ。」

「そうね。それじゃあまた来週。」

 そう言って、工藤と菊池は橘と桐谷に背を向ける。

「今夜はご馳走様でした。」

「ご馳走様でした!」

 そんな背中に、感謝の言葉を告げる二人。その言葉に、

「おう。また今度、一緒に飲もうぜ~。」

 そんな声が、二人の耳に届き、

「…それじゃあ俺達も…。」

「はい。行きましょうか?」

 四人は二手に分かれ、自分の家へと、足を動かした。


「…なぁ?」

「…なによ?お酒に関する話だったら、壁と話していなさいよ。」

「ちげぇよ。てか、その返し酷くね?俺、そこまで酷い?」

「酷いわ。酒の神様と話が合うくらいに。」

「…それは酷い、のか?て、そんな話じゃなくて!」

「それじゃあ何よ?」

「あの二人だよ。」

 と言って、工藤は立ち止まって後ろを振り向き、橘と桐谷を見る。菊池も工藤に合わせて後ろを向く。

「あの二人、なんか、いい感じ、だよな?」

 橘と桐谷は会話に夢中で、二人だけの世界を作っている。

 それが遠くからでも分かるくらいであった。

「そうね。何かあったのかしら?」

「さあな。でも、」

 工藤は少しためて、

「あんな幸せそうな顔を見せること、滅多にないぞ?」

 そう述べた。

 今も橘と桐谷に話に夢中で、工藤と菊池が見ていることに一切気づいていないようだった。

「さしずめ、理想のカップル、と言ったところかしら?」

「初々しいな。」

「ね。」

 そんな会話を続け、

「なんかあんな光景見ていたら、また酒が飲みたくなってきた。」

「はぁ~。私は優君を愛したいわ。」

「はいはい、好きにしろ。そういえば、家に焼酎あったかな?」

「あ~。優君、早く帰ってこないかしら?」

 そんな会話をしながら、二人は向きを変え、再び歩き始めた。


 一方、

「…あの。本当にすみません。」

「何が?」

「私にわざわざ付き合ってもらっちゃって…。」

「別にいい。慣れているし。」

 橘と桐谷も帰るため自身の足を動かしていた。

「それにしても、今月の最新刊も面白かったですね。」

「ん?…あ、ああ。」

 最初、桐谷が何のことを言っているのか分からなかったが、すぐに小説、ラノベアルカディアのことを言っているのだと分かり、納得する。

「主人公とヒロインが繰り広げる痴話喧嘩がまた…。」

「だな。」

「まるで、さっきの工藤先輩と菊池先輩のようでした。」

「そういえば、確かに似ているかもな。」

「ですよね!」

 そう言って、二人は工藤と菊池の方を向く。

 その二人は今も口論しているが、本気でしているわけではなく、喧嘩そのものを楽しんでいるような、そんな感じに受け取ることが出来た。

「今も、か。」

「ですね。」

 その様子はまるで、結婚済みの夫婦のとある生活風景そのものに見えた。

「私、将来は菊池先輩みたいになりたいなって思っています。」

「え!?」

 桐谷の発言に、橘は盛大に驚く。

 無理もないだろう。

 確かに菊池は優秀な人である。何をしても素晴らしい成績を収めてきたのだから。だが、優に対しては、常軌を何度も逸脱している発言や行動を何度もしているのだ。素直に褒められたものではないのだ。

「あ、もちろん、あれはやりすぎだと思っていますけど、息子を敬愛する母親に、私はなりたいなって。笑っちゃいますよね?」

 と、若干悲しみの色を織り交ぜた顔で笑う桐谷。

 そんな顔の桐谷を見て、

「いいと思う。」

「え?」

「俺は将来、工藤先輩みたいになりたいと思っているから。」

 橘は憧れていた。

 みんなから慕われる上司、工藤直紀みたいな人になりたいと、橘は考えていた。

「初めて聞きました。」

「俺も初めて言ったからな。」

 そして、二人は再び歩き出す。

 自分達の家へ、着実と。

次回予告

『女子小学生モデルのドラマ撮影生活』

 優が京都で仕事をしているころ、女子小学生モデル、潮田詩織も京都に向かい、到着していた。それは自身にとって新たな試みである、ドラマ撮影のためであった。他にも新たな試みをしており、その背景には、優が関係していた。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

 感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします。

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