小さな会社員の京都出張生活~歓迎会~
私はそのまま走ってさっきの衣装レンタル店に向かう。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
途中、お土産を買い、出来るだけ揺らさないように走った。
着いたときには息は上がりっぱなしで、呼吸を整えるのに数分かかってしまった。
そして、私は再びその店に入った。
「いらっしゃ、い?」
店員さんは困惑していた。それは当然か。さっき見送ったはずの人が来たんだもの。
「さきほどのお礼を改めて言うために来ました。あ、これどうぞ。」
「…ありがとう。取り敢えず入って。主人に会わせたいし。」
「はい。」
こうして、再びお邪魔することになった。
「おお。また来たのか。」
「あ、はい。この度は大変お世話になりましたので、改めてお礼をと思いまして。」
「いやいや。そこまでしなくていいから。俺も助かったから。」
「?と、言いますと?」
「ああ。俺は、小さな店を経営しているんだ。それで、新メニューを試作したのはいいが、誰に味の感想を言ってもらおうかと悩んでいたところでな。」
「そこにタイミングよく私達が来たと?」
「そういうことだ。」
「ということは、さっきの場所は?」
「ああ。俺の店だよ。」
なるほど。これで納得しました。あの店は本人が持っているから使用出来た、というわけですか。
「それでは、私はこれで。」
「ええ~?もうちょっといてもいいじゃない?ねぇ?」
「だな。料理人としては、一度、お前の腕を見てみたいんだが?」
「…。」
私はちょっと悩んだ末、
「すみません。今日はちょっと用事がありますので。」
断ることにした。
今夜はわざわざ私のために歓迎会をすると寮母さんが言っていたので、万が一にも遅れるわけにはいかないのだ。
「そう。残念ね。」
「だな。」
と、しゅん、となる二人。
「あの。店っていつ、開いていますか?」
「店って俺の店のことか?だったら、今月はもう休みなしだし、7月の頭も稼ぎ時だから、多分やっている、と思うぞ?」
「分かりました。では、その時にまた来ます。」
私は席を立ち、頭を下げ、
「今日は本当に、ありがとうございました。」
感謝の意を示した。
「…少しそこで待っていろ。」
「はい?」
男性は台所に行ってしまった。
そして、手に何かを持って私の前に現れた。
「ほら。こいつは土産だ。受け取っておきな。」
「え?ですが…!?」
あんなによくしてもらったのに、お土産までもらうなんて!
「そこまでしてもらう理由なんて…!」
「だったら今度、家に来てなんか作ってくれよ。これでいいだろ?」
と、お好み焼きが入っているタッパーを男性は私に押し付けてくる。
私は、
「…分かりました。必ず、作りに来ます。」
そう誓い、タッパーを受け取った。
「おう。」
どうやら、私の行動に男性は満足したみたいだ。
「じゃあまた近いうちに、早乙女君に会えるの?」
「はい。おかげさまで。」
「そう。それじゃあまた会いましょう?」
「ええ。本日は本当にありがとうございました。」
「ええ。」
「お好み焼き。美味しかったです。」
「そうか。」
「それでは、失礼しました。」
私は店を後にし、歩いて社員寮に向かった。
お昼はとうに過ぎ、空が青から少し赤く色づき始めた頃、
「た、ただいま帰りました。」
今日からお世話になる社員寮に戻ってきた。夕飯時にはかなり早いが、いつまでもお客様気分、というわけにもいかないので、改めて気を引き締める必要がある。なんせ、観光までさせてもらったわけですから、恩はきちんと返さないと!
玄関でそんな意思表示をしていると、
「さ~て。今日も買い物に…あら?」
寮母さんがバックを二つ持ってやってきた。片方は大きめのバックで何も入っていないようですね。今からどこかに出かけるのでしょうか。
「あ、寮母さん。ただいま帰りました。」
「優君。おかえりなさい。随分早いかおかえりね。もっとゆっくりしていけばよかったのに。」
「いえ。もう充分過ぎるほど観光しました。なので、これから寮母さんのお手伝いをしようかと。」
「でも、あなたは客人なのよ?もてなされる側なのよ?」
「それでも、寮母さんのお手伝いをしたいです。」
ここは譲れないところだ。私だってお世話になるのだから、どれくらい出来るのか見せなくては!
「…分かったわ。でも、あくまであなたは客人だからね?それだけは忘れないこと、いいわね?」
「はい。」
こうして、私は寮母さんのお手伝いをすることになった。
「ところで、寮母さんは何をしに行くのですか?」
「ん?今日の夕飯の買い物だけど?」
「私も行きます。」
「…私が駄目って言っても付いてくるつもり、よね?」
「もちろんです!」
寮母さんを手伝うのですから!
二人で買い物をし、社員寮に戻ってきて、
「いや~。優君、人気者だったね~♪」
「…いえ。単に初めて見る顔だったから、ではないでしょうか?」
買い物途中、
「おや?」
「あらあなたは…。」
寮母さんの知り合いらしき人達と出くわし、
「ちょっとあなた!いつの間にそんな可愛い子を授かっていたのよ!ちゃんと私達に報告しなさいよ!」
「「そうよそうよ!!」」
と、寮母さんの知り合いらしい人達に囲まれ、
「こんなにかわいい子が子供だなんて…羨ましい。」
「それに、お母さんの手伝いまでしているなんて…。」
「え?しかも自分から言いだしたの!?なんていい子なの!私の子にしたい!」
と、しっちゃかめっちゃかにされた。寮母さんは、
「そうなの~♪この子、本当にかわいくて~、自慢の子なの♪」
と、何故か偽りの発言をし、自慢げに話し始める始末。
結局、騒ぎがおさまるまで、私はされるがままとなり、自分で説明することとなった。最後は、
「あら、そうだったの。」
「ごめんなさいね~。君があまりにもかわいかったから、つい。」
「またお話ししようね~♪」
誤解が解けたのかは微妙だった。
「…それにしても、ずいぶん個性的な人達でしたね。」
「そう?主婦なんて、みんなあんな感じじゃないの?」
「そ、そうなのですか…。」
主婦とは恐ろしいものです。
と、そんな話は後にして、
「これ全部台所でいいですか?」
「え?え、ええ。」
「それじゃあ持っていきますね。」
ちょっと重いですけど、持てないわけではないので、持っていく。
「帰り道も思ったけど、優君って力持ちよね。そんなに重い物持って、疲れない?」
「?いえ、そんなことはまったく。」
ちょっとは疲れますが、強がったり、見栄を張ったりしてもいいよね。
「あ!待って優君!私も行くから!」
寮母さんは、私の後を小走りで追いついてきた。
そして、
「さて、今日は何を作るつもりですか?」
「…やっぱり、優君も作るつもりなの?」
「出来ればそうしたいところですが、今日は寮母さんのサポートに回ろうかな、と思いまして。」
「のんびりテレビを見てだらける、という選択肢はないの?」
「え?ありませんが?」
そんなことをしても、恩人に恩を返せるわけがない。従って、私は常に恩を返せるよう、最善の行動をとり続ける。それだけだ。
「…それじゃあ、野菜の下ごしらえをお願いできるかしら?」
「それはもちろん喜んで引き受けますが、どんな料理を作るつもりなのですか?」
「ふっふっふ。それはね、」
「それは…。」
「秘密よ!」
「・・・そうですか。」
ま、作っていけば後々分かるからいいかな。
「…あれ?もしかして、拗ねてる?」
「いえ。言いたくないのなら仕方ないかな、と思っているだけですので。」
なんか、菊池先輩とノリ?みたいなものが似ているような気が…?気のせいでしょうか?
「それじゃ、シチュー作るから冷蔵庫から牛乳を出してくれる?牛乳は見たら分かる場所に置いてあるから。」
「…はい。」
結局、作っている料理はなんなのかを教えてくれた。なるほど、シチューですか。確かに美味しいですよね。私は寮母さんの献立にちょっとワクワクしながら、料理を手伝った。
夕飯を作り始めてからある程度時間は経ち、食卓に料理が並べられる。今並べられたのはサラダとお酒のおつまみですけど。
ご飯も後三十分も経たずに炊けるだろう。後、私がお土産としてもらってきたお好み焼きをだしてもいいですか、と聞いたところ、
「いいわよ。その方があの子達もきっと喜ぶわ。」
と、二つ返事でOKされた。みなさんが集まり始めた頃に温めて持っていくことにしよう。他にも、ロールキャベツ、ミニハンバーグ、ゴボウのキンピラ…。様々な料理がテーブルを埋め尽くす。
「こんなに作って大丈夫なのでしょうか?」
作った私が言うのも変ですが、これでは余ってしまうのではないでしょうか?
「大丈夫よ。余ったら明日の朝食、そして明日の弁当に詰めるから。」
「なるほど。」
あっちにいた時の私と、やっていることは大差ないですね。
「いつもこんなに豪勢なのですか?」
私も毎日料理を作っていますが、これを毎日やるのはすごいです。
「いやいやいや。毎日ではないわよ。毎日だったら私、過労で倒れちゃうわ♪」
と、火を見ながらおどけていた。
「優君は毎日作っているの?」
「料理ですか?そうですね…。まぁ、一応、ですけど。」
それでも、主婦の方々には劣るだろう。主婦の方が時間もゆとりもあるのだから。それをいいわけにするのはよくないな。
「すごいわねぇ。家に住んでいるこのほとんどは、料理なんてしないわよ。」
「え?」
本当に?
…そんなわけないか。おそらく、『平日は』という意味でだろう。確かに、仕事をするだけでも辛いのに、その上家事をやるなんて精神的にも体力的にもきついですよね。さらに時間も限られているわけですから、料理にまで手が回らないというのも当然かもしれません。ですが、それは平日の話です。
「それで、休日はどうなんですか?」
「え?どうって?」
「料理です。休日はみなさん、どんな料理を?」
おそらく、時間のかかる料理とか、作り置きできる料理を作っているのでしょう。
「…もしかして、休日に料理をしている、なんて思っているの?」
「そうですが?」
「…ごめんね。休日も料理はほとんどしないの。あ、でも、ここのキッチンを使って料理しないだけで、もしかしたら自室で料理しているのかも?」
「なるほど。」
確かに、休日に部屋から出てこの共用の台所で料理するのは面倒くさいのかもしれません。私もよく自室で料理していますし。
そんな雑談を交えていた時、玄関が開く音が聞こえた。寮母さんは手についている水分を拭き取り始める。
「それじゃあ優君。火を見ていてくれる?」
「あ、はい。任せて下さい。」
私が返事すると、台所から姿を消した。
「あーもー。今日も疲れた。早く楽になりたい。」
「あら、おかえりなさい。ご飯はどうするの?今日は優君の歓迎会だから豪勢よ?」
「優君?…ああ、明日からくる子の歓迎会ね。着替えたらすぐに行くわ。」
「そう?待っているわ。」
と、二人で軽く話をしていたと思っていたら、
「あのこが帰ってきたってことは、そろそろみんなが帰ってくる頃だわ。今日は飲み会も寄り道も控えるように言ってあるし、後二十分もしないうちに、みんなが帰ってくるわ。」
そして、私に視線を送り、
「これから忙しくなるわよ。優君、覚悟はいい?」
「は、はい!」
さっきよりちょっと重い口調で言われたので、私はいつも以上に気合を入れ、調理に取り掛かった。
そしてニ十分が経過した。私はというと、
(何故、台所で隠れなくてはいけないのでしょうか?)
台所で丸くなっていた。
寮母さんが言うには、
「みんなをビックリさせたいから、どんな容姿かは知らせていないの。私と一緒に驚かせましょ♪」
と、ちょっと小悪魔めいた提案に思わず乗ってしまい、こうして隠れているというわけだ。幸い、誰も台所付近に来ていないため、今の今までばれてこなかったが、こんな風に紹介されるのはちょっと恥ずかしい…。
「それにしても、今日は豪勢ね。いつも作らないお好み焼きまであるなんて。」
「ああそれね。それは優君のお土産よ。他にも、私の料理の補佐をしてくれたわ。」
「へぇー。そんなに料理が出来るんですか?」
「そうね。あなた達より出来るわ。あなた達も少しは見習ったら?」
「「「・・・。」」」
寮母さんの発言に、どうやらみなさんは固まったらしい。
「わ、私は別に、ね?」
「そうね。私は結婚するつもりもないし。」
「料理は寮母さんに任せるとするわ。」
・・・あれ?
もしかして、ここに住んでいる人達は、料理をしていないのでしょうか?さきほどの発言からそう推測出来るのですが…。気のせい、ですかね。うん、気のせい、ということにしておきましょう。
「それでは、今からご本人に登場してもらいましょう。どうぞ!」
「・・・。」
どうしよう?
ものすごく、登場しづらいです。
この緊張感、久々な気がします。そういえば、小鳥遊さんはいるのでしょうか?それよりも今はこの状況を何とかしませんと!息を整えて、行きましょう!
私は丸まった体を伸ばし、台所から出て、寮の皆さんに顔を見せる。
瞬間、
「あれ?もしかして、あの子?」
「なんか、小っちゃくない?」
「それに、なんか可愛くない?」
「…お持ち帰りしていいかしら?」
なんて発言が飛び交っていた気もするが、今の私には口パクしているようにしか見えなかった。こんなに緊張するのなら、ちょっと練習すればよかったかな。
「は、初めまして。しばらくここでお世話になります。早乙女優と申します。これから、よろしくお願いいたします。」
一礼して、と。
・・・これでいい、かな?一礼している最中に、ちょっと視線を上げると、
「「「・・・。」」」
固まっていた。約一名を除いて。
(あ。あの人は小鳥遊さん。)
そう。小鳥遊さんだけは笑顔でいた。そして軽く手を振ってくれた。そんな親切心が身に染みます。
「「「えぇーーー!!!???」」」
他の人達は全員ビックリ仰天、という感じで驚いていました。
…もしかして、私の見た目は予想外、だったのでしょうか?そうですよね。私の見た目って、小学生の低学年、もしくは幼稚園の年長組に間違われるほど小さいですもの。早く大きくなりたいです。
「こんな見た目ですが、よろしくお願いします。」
頭を下げながら言った。本当はこんな自虐、言ってもしょうがないというのは理解しているが、言わずにはいられなかった。
「え?ほんとにあの子が?」
「明日の仕事ってどうなっていたっけ?」
「今週は比較的暇だから大丈夫じゃない?」
「私、あの子に何教えればいいの?算数?」
と、まぁとりあえず自己紹介は済みましたし、これでいいかな?内心泣き始めている私に肩を置いてくれたのは、
「それじゃ、自己紹介も済んだことだし、乾杯しましょうか?かんぱーい。」
寮母さんだった。しかも、乾杯の音頭をとり、話を逸らそうとしてくれていた。今の私にはありがたいです。
「「「かんぱーい!!!」」」
みなさんも、手に持っていたグラスを上げ、互いのグラスを軽くぶつけ合う。
「さ、優君も♪」
寮母さんの手には二つのグラスがあり、もう一つを私に渡してきた。…このグラスに履いている飲み物は一体何なのでしょうか?みなさんの飲み物と同じ色なのですが…。そんな心配をよそに、
「か、かんぱーい。」
私もみなさんのグラスに軽くぶつける。
これから、歓迎会が始まった。
歓迎会が始まり、数時間が経過した。
共用のリビングでは、
「う、うへぇ~…。も、もうらめぇ~。」
「なんれあのひろはよわらいの~?」
「は、はんろくよ~。」
酔い潰れた人が大量発生していた。そんな中、
「もうおしらい?みんなたいしたことないらね。らたしはまだまだいけるらよ♪」
テンションが上がった寮母さんはみんなにお酒を勧め、
「も、もうらめなの~。」
意識を保っている人がほとんどいない状態となっていた。
…一体、何をどうしたらこんな状況に…?
話は歓迎会の始まりまで遡る。
歓迎会が始まり、私はとあることに気付いた。
(あれ?私の席はどこでしょう?)
目の前に空いている席はおそらく寮母さんの席だとしても、他に空席がなかった。かといって、椅子一つ入るスペースもありませんし。このまま立ち食いかな、と思っていたら、
「優君小さいから、私の膝の上で食べなよ?」
と、寮母さんは席について、自分の膝をポンポンと軽く叩いていた。おそらく、おいで、と言っているのだと思いますが、どうしましょう?
…ここは、寮の伝統、ということにしておいて、甘えさせてもらいましょう。座れる席もないことですし。そう思い、私は寮母さんの膝の上に座り、食事を続けました。
ですが、それを見ていた女性の方々は、
「寮母さんいいなー。」
「私にも優ちゃんを乗せたい!」
「優ちゃん、こっちおいでー。」
と、みんなして膝をポンポンしてくることに。悩んだ末、私は順番にみなさんの膝の上に乗ることにしました。その間も、
「はい、あ~ん。」
と、料理を食べさせようとしたり、頭を撫でてきたり、完全に子供扱いだった。子ども扱い、でいいんですよね?赤ちゃん扱い、ではないですよね。そんな心配をよそに、何人もの人達に回され、一周したころ、
「それじゃあ今日はめでたい日だし、みんなで飲み比べよ!」
その寮母さんの発言に、
「「「おぉー!!!」」」
多少、酔っ払っていることもあってか、全員承諾し、飲み比べが始まってしまった。
結果、今の様な、寮母さん以外が酔い潰れるという状態になりました。
最初のうちは、
「出身は?好きな体の部位は?好きな女性のタイプは?」
と、色々聞かれていましたが、お酒が入ると、全て忘れたかのようにまた最初から聞き始めるんですよね。酔っぱらいのさが、なんですかね。
・・・さて、
「寮母さん。この状況、どうするつもりですか?」
酔っぱらいが一名。酔い潰れた人が、私と寮母さん以外の全員。無事な人が私一人。
…一体、何をどうするのがいいのでしょうか?
「らいじょうぶらいじょうぶ。あとはわたしにまかせ、て…。」
と、寮母さんはテーブルに突っ伏し、そのまま動かなくなった。
あれ?
もしかして、今動けるのは私だけ?
・・・。頑張りますか。
私はジャージの袖をまくり、これからすべきことを考え始める。
まずはテーブルの食器やグラスを片づけて水に浸け、寝ているみなさんに毛布をかけて、食器を洗って、それから…。よし!気合いをいれて、
「がんば!?りましょう…。」
みなさんは寝ているのですから、なるべく起こさないようにしないと、ですよね。危ない、危ない。その後、私はみなさんを起こさないよう静かに片づけを始めた。
日付が変わる前、私は、
「ふぅー。ちょっと休憩。」
片づけが大体終わり、きりもよいのでお茶を飲んで小休憩することにした。この間もみなさんはずっと寝ており、一向に目を覚ます気配がありません。今日の仕事がよほどきつかったのでしょうか。だとしたら、こんな時期にきてしまって申し訳ないです。
「う、う~ん…。」
と、誰かが起きてきたので、私は慌ててコップに水を入れる。
「あれ?なんでこんなところで?確か…?」
「はい。お水をどうぞ、小鳥遊さん。」
「あ、ありがと。」
さっき汲んできた水を起きてきた人、小鳥遊さんに渡す。
「どうですか?気分、優れませんか?」
「いや、大丈夫だから。わざわざありがとうね。」
「いえいえ。」
これからお世話になるのですから、これぐらいは当然というものです。
「…あれ?テーブルの上に置いてあった料理やグラスは?」
「あ、それらは全部片づけました。もしかして、何か軽く食べます?お茶漬けぐらいならあると思いますけど。」
しまった。お茶漬けの元がどこにあるのか聞いておけばよかった。冷蔵庫にあった梅干しと緑茶で冷茶漬けにでもしようかな。
「ええ!?ぜ、全部片づけたの!?そんなの気にせずに寝ればよかったのに!そういえば、今何時?」
「ええっとですね。もうそろそろ日付が変わりますね。」
「そう。明日も仕事あるし、そろそろ寝ないと。あ、そうだ。」
と、小鳥遊さんはこちらに向き、
「改めて自己紹介するわ。私は小鳥遊陽葵。これからよろしくね。」
「はい。私は早乙女優です。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
私はそう返事をした。
「ところで、」
「うん?」
「この人達、どうします?」
私は周りの人達を見てみる。みなさん、ラフな格好に着替えているとはいえ、明日仕事のはずなのに、こんなところで寝ていて大丈夫なのでしょうか?
「う~ん…。そのまま寝かしといても大丈夫だと思うよ?」
「そ、そうですか。」
「それじゃあ、お風呂に入ってもう寝るわ。お休み、早乙女君。」
「はい。お休みなさい。」
と、小鳥遊さんはここで自室に戻る。
そういえば、明日の朝食の準備がまだでした。今から下ごしらえしつつ、みなさんがおきてくるのを待つとしましょう。こうして私は、朝食の仕込みをしつつ、みなさんが起きるのを待った。
最初に起きてきたのは寮母さんで、夜明け前に起きてきた。
私は仕込みを中断し、お水を持っていき、容態を聞いたところ、
「だ、大丈夫よ。ごめんなさいね。」
と、お水を飲んでから目を丸くさせて、
「い、今何時!?」
と私に聞いた後、近くにある時計の針を見て、口が開いたままになっていた。その後、
「ごめんなさい!優君に後始末をさせちゃって私…!」
どうやらテーブルの上の様子にも気付いたらしく、全力で頭を下げてきそうでしたので、
「人は助け合う生き物ですから心配ありませんよ?」
となだめた。そしたら目をウルウルさせながら自虐を始めてきたので、
「リビングに寝ている人達をどうしますか?」
と、話を無理やり逸らした。
「…そのままでいいわ。もしかしたら、お風呂に入りたいって言う人もいるかもしれないから、お風呂でも沸かそうかしら?」
だったら私も手伝いますよ、と言ったら、
「お願い優君!少しは休んで!」
と、泣きそうな顔で言われたので、私は自室に戻り、目を瞑った。
少し休んだ後、時刻を確認したら、朝の6時ジャストだった。
いつもは6時前に起きるのに。ちょっと疲れていたのかな。そんなことを考えながら共用のリビングに行き、朝食の用意を手伝おうとすると、
「お願い優君!もっと休んでいいから!」
と、無理やり自室に戻らされてしまった。なので、空いた時間を有効活用するため、私は着替えることにした。着替えた後、1つ思い出したことがあった。
「そういえば、課長からの手紙を読んでいませんでした。」
ちょっとゴタゴタしていたため、読む時間が無かったんだよね。今のうちに読んでおこう。
手紙の内容を簡単にまとめると、以下の通りだった。
・今回、こんなこと(京都への出張のこと)になってしまって申し訳ない
・だが、今回の出張で早乙女君にとっていい経験になるよう、影ながら応援する
・出来るだけ、見た目だけで判別しないように言ったつもりだが、不快になることがあったら、後でいくらでも私に文句を言うとよい。君の愚痴の捌け口ぐらいにはなるつもりだ
・是非とも、頑張ってほしい
そんな感じの手紙だった。
・・・。
さ、さすがに上司に向かって、
「アルド商事の奴らがうざくてさ~。今日も私の身長の事をグチグチ言ってくるんだぜ?嫌になるよな?」
みたいに言えるわけがないでしょうに。
でも、
「ありがとうございます。」
その手紙を通して、感謝の意志を課長に届けた。…どうすれば、感謝の気持ちを届けることが出来るのでしょうか。後で直接言おう。
その手紙を読み終え、片づけた頃、時刻は間もなく7時。私は再び共用リビングに行くと、
「「「・・・。」」」
まだラフな格好をしているが、全員起きているらしい。だが、様子がおかしかった。
全員下を向き、誰一人私と視線を合わせようとしなかった。それに、無言。寮母さんが何かを焼いているのか、ジュ―っと音が聞こえてくるだけで、一切動かなかった。そういえば、毛布、片づけたのかな。数時間前まではかけてあったと思うけど。
「…さ、朝ご飯よ。」
どうやら朝ご飯の準備ができたらしく、寮母さんが持ってきてくれる。なるほど、今日の朝ご飯は、私が仕込んでおいたうどんに油揚げのお味噌汁、それに…って!何をボーっと見ているんだ!
「私も手伝います。」
私も手伝わないと!
「いいから、ね?昨日は疲れたでしょ?だから、ね?」
「わ、分かりました。」
寮母さん、やけによそよそしい態度だったような…?
そして、
「いただきます。」
「「「いただきます。」」」
こうして朝食を食べることになったのだが、
「「「・・・。」」」
全員、黙々と食べていた。私の席もいつの間にか用意されていたのでそこに座り、一緒に朝食をとる。それにしても、やっぱり子供椅子、なのですね…。
「あの。今日の予定は何ですか?」
私のこの発言に、全員体をピクっと反応させてから、
「あ、あー…。確か、一緒に出社してもらって軽く自己紹介してもらった後、実際に仕事をしてもらうつもりだよ?」
と、小鳥遊さんが話してくれた。
「教えてくれてありがとうございます。」
「いや、別に構わないんだけどさ。その、怒ってない?」
「…はい?」
何故私が起こっていると思っているのでしょうか?
話を聞いてみた。
結果、昨晩、私を除いて酔い潰れてしまったため(寮母さんも、らしい。)、私に雑事を全部任せてしまって申し訳なく、会わせる顔もないまま俯いていたらしい。
私は呆気にとられつつ、
「とにかく、私は怒っていないので安心してください。」
と、優しく言った。
その言葉を皮切りにようやく、雑談をし始めた。
けど、時間的にあまり余裕は無いらしく、みなさんは急いで出社準備をしていた。
それにしても、この社員寮女性ばかりですね。男性はいないのでしょうか?
みなさんと一緒に会社に通勤し、
「さ、ここがアルド商事よ。」
小鳥遊さんともう二人が案内してくれた。他の人達は所属する部が異なるらしく、途中で別れてしまった。
「さ。今日からここが早乙女君の職場だよ。」
「一緒に頑張ろうね。」
その応援に、
「はい!」
私は力強く返事を返した。
まずは自己紹介です。しっかり頑張らないと!
こうして優の、京都での仕事生活が始まる。
次回予告
『目つきが鋭すぎる会社員と新人女性社員のラノベ談義生活』
優が京都出張に行った日、それはとあるラノベが発売される日でもあった。橘はその本を買いに店に寄ったが、桐谷に現場を見られてしまう。そこから、二人だけで食事を始めることとなる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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