小さな会社員の京都出張生活~観光~
「はい。着いたわよ。」
「ありがとうございます、寮母さん。」
「別にいいわよ。それと、京都のどこをまわるか、もう決めてあるの?」
「はい。それは大丈夫です。」
修学旅行の時に書いた予定表どおりにまわってみようかな。
「後、夜までにはあの寮に帰ってきてね。今日は君の歓迎会をやるからね。」
「はい。楽しみにしています。」
「うふふ。うちの寮生達ははしゃぐことが大好きだからね。万が一にも遅れないでね?」
「はい!それじゃ、ありがとうございました!」
「ええ。困ったらいつでもさっき交換した電話番号にかけてね。どこでも飛んでいくから。」
「わ、分かりました。」
どこでも、ですか。絶対に呼ばないようにしよう。
寮母さんの車が走り去っていくのを目視してから、私は京都駅に向けて歩き出す。
(えっと…。確か予定表にはなんて書いたかな…?)
スケジュールを思い出しながら。
そして、京都駅の中に入ると、
(あれ?小学生らしき人が見当たらないな。もしかして、入れ違い?)
ほとんど成人男性と成人女性しかいなかった。
つまり、あの人達と一緒に京都観光出来ない、ということか。
ま、最初から分かっていたことだ。
自分の都合で修学旅行を欠席し、急に時間が空いたからってそう都合よくいくはずがないんだ。我が儘がそう簡単に通せるわけがないんだ。
私はそう自分に言い聞かせ、京都駅を出ようとする。
「だから!こっちにあの大きな電気屋があるから、こっちの道でいいんだって!」
「そっちこそ何を言っているんだ!?そっちは反対側で、向こうに行けばいいって書いてあるだろ!」
…なんか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声の方を向くと、
「だ、だからこういう時は…。」
さらに見知った女の子がワタワタオロオロしていた。
・・・あれ、桜井さん、だよね?
言いあいになっているのは風間さんと、同じ班だった男の子だ。
もう一人の女の子は…いないみたい。どっか行ったのかな。
そして、言いあいになっているのはおそらく、どの道を行けばいいのか、についてだろう。
…道、調べたんだよね?あ、でも、ネットで見た道と、自分の目で見る道って違く感じるよね。それで戸惑うのはなんとなく予想できるけど、全員が道に迷う、なんてことがあるのだろうか。
こんなところでコソコソ見ているのはなんか申し訳ないし、
「あの、良かったら私が案内しましょうか?」
と、話を切り出してみる。
そして、言い合っていた人達も含めた3人がこちらを向き、一言、
「「「ええ!!!???なんでいるの!!!???」」」
…ま、そうなるよね。行けないって言った人が来ているんだもんね。そりゃ驚くよね。
私は急に予定が空き、この時間だけ参加できることを伝え、
「もしよければ、私が案内しましょうか?」
と言ってみたら、
「「「お、お願いします…」」」
と、やや申し訳なさげに頼んできた。そこまで恐縮する必要、ないと思うけど…。
「え!?なんで早乙女君がここに!!??」
あ、残りの一人が帰ってきた。残りの一人に関しては、桜井さんと風間さんが事情を説明してくれたらしく、数分後には、
“ここまで頼っちゃってごめんね?”
と、何故か謝られた。ほんと、そこまで腰を低くしなくていいと思うのに…。
そして、私達は京都観光のため、京都駅を後にする。
向かう前、予定表を見てみると、私が作成したプランより細かく、緻密なプランとなっていた。よく調べきたんだなと感心した。それと同時に、なぜ最初でつまずいたのだろうか、と不思議に思った。でも、大まかの予定は変わっていないようだったので、これなら案内できそうだ。街並みも、車で移動していた時にも見ていたが、どうやら大幅に変わっていなかったようだし。
私はこの貸してもらっている計画表と、過去の記憶、地図を頼りに観光を始めた。
最初は、衣装レンタル店である。
この店についてよ~く調べていたらしく、自身でかいたであろう地図が載っていた。その店の看板が見えてきただけで、
“やった!”
とか、
“これで一安心だ!”
とか言ってくる。この後も観光していくのに、そんな調子で大丈夫なのだろうかと心配になってくる。だけど、修学旅行ではしゃいでいるのかもしれないな。そう思った私はなにも言わず、その店に入った。
「いらっしゃい。」
そんな掛け声が目の前の店員さんから聞こえた。店員さんの案内のまま、奥に連れられて行った。
「それで、どのご用件は何でしょう?衣装の試着と撮影ですか?それとも、レンタルですか?」
と、店員さんが話しかけてくると、全員私に視線を向けてきた。これはもしかして、私に対応を任せる、と解釈していいのか?視線だけの会話を数秒経て、
「衣装のレンタルでお願いします。時間は、慈照寺までの往復を踏まえまして…。」
「慈照寺?何それ?」
「銀閣があるお寺の名前よ。」
「へぇ~。」
そんな会話を片方の耳から聞こえてくるが無視し、私は引き続き店員さんと話を進め、試着を始める。
「あ!ごめんなさい!今、店員不足で全員同時に着替えさせることが出来ないの!誰か着付けの方法を知っているかしら?」
「あ。私、知っていますよ。」
前に菊池先輩から教えてもらったんだよね。まさかこんな場面で役立つとは思わなかったけど。
「そ、そう。なら君は…ごめん。君は女の子?それとも男の子?」
「男ですが!?」
「「「「ぷっ。」」」」
まさか店員さんにも性別を聞かれるとは思わなかった。…そこの4人。私を笑っていないで着替える準備でもはじめたらどうですかね!
「それだったら、もう一人の男の子の着付け、お願い出来る?衣装は奥の部屋にあるから。あ、女の子達はこっちの部屋で着替えますかからね。」
と、桜井さん達は終始、笑いをこらえながら部屋を後にした。
「そ、それじゃあおね、お願い、ぷぷっ。」
「…はい。」
私と、今も笑っている男の子は奥の部屋に行き、用意してあった衣装に着替えた。もちろん、男の子の着替えを手伝い、着替えを終わらせた。その後、私も用意された衣装に着替え、さっきの部屋に戻る。
「うん!…うん!みんな、よく似あっているわ、その衣装!!」
私達が来ているのは新選組の衣装である。
鮮やかな青にダンダラ模様だっけ?という模様が入った羽織に袴である。後ろには大きめに、“誠”なんて文字が入っている。
そういえば、この衣装を試着するのは初めてだな。前は…あれ?そういえば、
「あの、ここの店長さんは今どちらに?」
「え?それはわた…あれ?そういえば君、どこかで…?」
私もこの店員に見覚えがあるんだよね。それに何か大切なことを忘れているような…?そうは考えても、何も思い出せない私は隣のふすまの開く音が聞こえ、そっちを向く。
「おお!」
後ろの男の子はなんだか興奮している様子だが、興奮するほど、なのかな?
確かに、印象は着替え前後で大きく異なっている。服はもちろんそうだが、髪型も少し変えていて、纏っている雰囲気も少し違う感じがする。でも、声をあげるほどなのだろうか?う~ん…。もしかしたら、大人なら分かることかもしれないな。そう考え、
「みなさん、似合っていますよ。」
と、定型文を言ってみる。
「だな、だな!俺もそう思うぜ!!」
と、隣に来た男の子は鼻息を荒くしながら何度も顔を縦に振る。
「そうですね。とてもよくお似合いですよ。」
と、店員さんも相槌をうってくる。
確かに似合っているよね。と、言った後に自覚した。
「そ、そうなのかな?」
「これは着こなせているって言えるのかしら?」
「鏡でも見たけど、二人とも、よく似あっているよ!」
「そんなことないよ!」
と、三人は褒め合いを始めた。
「それで、ここで記念撮影されていきますか?」
「「「「はい!!!!お願いします!!!!」」」」
「…お願いします。」
こうして写真は撮られた。
「…七五三みたい(ボソッ)。」
「え?」
「い、いえ!何も言っていませんよ!?」
「???」
何か言ったような…?
「ほ、ほら!早く行かないと時間、間に合わなくなるのでは!?」
「え?…あ、はい。そうですね。わざわざ知らせてくれてありがとうございます。」
私は、違和感を覚えながらも、知らせてくれた店員さんに頭を下げる。
「それでは、いってらっしゃいませ。」
と、私達を外に追いやり、お辞儀をした。確かに必要な話は済んだけど、なんだかなぁ…。
あんな対応をする店だったかな、と心にあるしこりが大きくなったが、そんなことは気にせず出発することにした。
次は慈照寺銀閣に向かうところである。電車を用いて移動するのだが、とある搭乗者が、
「ねぇねぇ。あの子の衣装、よくない?」
「あの衣装を着ている子?」
「そうそう。その中でも一番小さいあの子よ。」
「もしかして今の季節に、七五三の撮影でもやっているのかしら?」
そんな会話を、私を見ながらしてくるのだ。その会話が聞こえてきて、
「「「「し、七五三って…。」」」」
4人はその発言に笑いをこらえていた。
正直、電車に乗った時の羞恥心を考慮していなかったため、最初は視線を下げ、周りを見ないようにしていた。だが、私に対する七五三発言を聞いてからというもの、常に笑いをこらえている様子となっていた。新選組の衣装を見てヒソヒソするというより、小さい私が七五三の様な衣装を着ているところを見てヒソヒソしている感じだった。この視線、慣れはしているけど、京都でもこんな目にあうとは思わなかったよ…。
目的の駅に着き、目的地である慈照寺に向かうまでは、また人々の視線を集めることとなった。電車で散々な目にあったので、もう慣れてしまった。嫌な慣れだな。
そして、慈照寺銀閣に着いた時、
「やっぱ、ネットで見た時と大差ないわね。」
「これ、そんなに歴史ある建物なの?」
「確か室町幕府の…なんだっけ?」
「おい。そこは憶えておけよ。」
…特にこれといった感動はなさそうだった。
私も銀閣を生で見て、感情が大きく揺れ動いた、なんてことはなかった。どちらかというと、どこで記念写真を撮るか、という思考に集中していた。
そして、銀閣が一望できる場所で記念写真を撮り、軽食をとった。寄る予定だった店が見つかり、そこで休憩していた。
「それにしても、なかなかいい写真じゃない?みんないい顔しているし。」
「ねー。」
「そうだね。」
「だな。」
「「「「ただ一人を除いて。」」」」
と言いながら、アイスを食べている私に4人の視線が集中する。
「…何ですか?」
「何ですかって、それはこっちのセリフよ。この顔はなんなの?」
と、さっき撮った写真を見せてくる。そこには、
「早乙女君だけ、笑顔が引きつっているのよ。」
「だね。なんか無理矢理笑っている、みたいな。」
「見ていて、こっちが苦笑いしそうだよね。」
「なんで笑えないんだ?笑うのって簡単だろ。」
と、男の子は私に笑顔を向けてくる。
私も作り笑顔はそこまで下手、というわけではない。だが、写真撮影時の笑顔だけがどうしても上手く出来ないのだ。何故なのかは今でも分からない。そういえば、菊池先輩はいつも笑顔な状態の私をカメラに捉えているんですよね。一体、何が違うのでしょうか?それに、営業スマイルもこれまで問題なくできていたはずですし…。
私は残りのアイスクリームを食べ、
「誰にも得手不得手はあるものです。それより、そろそろ駅に向かいましょう。」
私はそう納得し、みんなに移動するよう伝える。
「「「「はい。」」」」
こうして私達は駅に向かい、あの店に戻る。途中、お土産屋により、雑貨を見ていた。男の子が、
“この服にはやっぱこれだろ!”
と言って、木刀を腰に差してきた。…木刀買う人がいるとは。ちょっと驚いた。
そして、また写真を撮っていた。
「これが本当の新選組だぜ!」
と、木刀を掲げながら高笑いしていた。女の子達の視線が明後日の方向を向いていたが、その気持ちは分かる。今は、今だけは、あの人と同類とは思われたくないよね。私達は気持ち、男の子から離れた。
目立ちに目立った時間を過ごした私達は、さっきの店に戻ってきた。電車内でこれでもかと目立っていたのに、普通に道を歩いていても目立つんだよね。今更ながら、計画に衣装レンタルをいれなければよかったよ。
「あ。おかえりなさい。どうでしたか?」
「「「「楽しかったです!!!!」」」」
「君は?」
と、店員さんは私に返事を聞いてくる。さっき返事していないこと、気付いたのかな。
「ためになりました。」
「そう。ならよかったわ。」
と、店員さんは満足そうな顔をしていた。
「それじゃあ、前使った部屋でそれぞれ着替えてほしいのだけど、男の子達の方は君に任せても大丈夫かな?」
「はい。あ、脱いだ後の衣装はどうすればいいのでしょうか?」
「ああ。それは部屋の中にハンガーがあるから、それにかけといてくれればいいよ。」
「分かりました。わざわざありがとうございます。」
「いえいえ。」
私は軽くお辞儀をしてから、
「それじゃ、私は奥の部屋に行きましょうか?」
「おう。」
「それじゃあ、女の子達はこっちの部屋ですからね。」
「「「はい。」」」
こうして、男女別で着替えを始める。
着替えを済ませ、いつもの服に戻った私達は、
「「「「「今日はありがとうございました。」」」」」
お礼を言った。こっちがお金を払ったとはいえ、感謝の気持ちはある。だからこうして言葉にしてみた。
「いえいえ。こちらこそご来店いただきありがとうございます。」
と、店員さんも頭を下げる流れとなった。
そんなちょっと気まずい雰囲気が数分漂った後、私達はお金を払い、この店を出ようとした。だが、
「あの。この後は暇、ですか?」
「「「「「え?????」」」」」
私は4人を見る。暇ではないが、予定はあるので、どうしようか相談したい。
「あ、大丈夫、だよね?」
と、風間さんは、私と時計を交互に見てくる。
ちなみに時計は間もなく12になろうとしている。つまり、お昼時であるということだ。さっき間食していたとはいえ、さっきまで歩いていたのでお腹が減ったのだろう。それにしても、何故私に視線を送るのだろうか。
「大丈夫だよね、早乙女君?」
「大丈夫だと思う。そうだよね、早乙女君?」
「何とかなるよな、早乙女?」
…何故、4人そろって私に聞く?
予定ではこの後、お昼をとり、目的地の京都駅に向かいながらお土産屋を覗き、ゆっくりと歩く、だったかな。お土産もみんなさっき買っていたし、問題はない、のかな?
そして、店員さんは、私達が時計を気にしていたことにきづき、
「あ、なんなら家でお昼食べる?ご馳走するわよ。」
この店員さんの言葉に、
「「「「「ええ!!!!!?????」」」」」
戸惑う私達。
「…ちょっと集合。」
風間さんの一言で集まるみんな。
「ねぇ、どうする?」
「どうしよう?」
「ご馳走になったらいいんじゃない?」
「迷っているなら、早乙女に決めてもらえばよくねぇか?この班の班長だし。」
「「「なるほど!」」」
「いや、さすがになるほどではありませんよ。」
この場合、どうすればいいのやら。
奢ってもらうのは嬉しいですし、あまり出来ない体験になるかもしれない。けど、この店員さんがここまでしてくれる理由が分からない。
菊池先輩みたいに、下後心丸わかりの善意だったらこんな悩まずに済むんだけどな。
それに、
(あの店員さん、誰かに似ているような気が…。)
と、色々悩んでいる内に、
「あなたー!今日のお昼、5人前追加で!」
と、店員さんの声が聞こえ、
「はいよ。」
と、どこからか男性の声が聞こえた。
「ごめんなさい。勝手に頼んじゃったわ。」
と、悪びれもせずに言ってのけた。
私達に気をつかってくれての一言か、それとも単なる我が儘なのか、どちらなのでしょう?その言葉で、
「えっと、ありがとうございます。」
私は諦めがついたので、奢ってもらうことにした。ここまでしてもらっておいてご馳走にならないのは失礼だしね。私が店員さんに頭を下げてお礼を言うと、
「「「「ありがとうございます。」」」」
4人も頭を下げる。
「いいのよ。それより、こっちでご飯をたべましょ?」
と、店員さんは私達を案内してくれた。
連れられてきた場所は、とある家の中。それも台所。そこで、一人の男性が料理をしていた。テーブルにはフキンが置いてあり、綺麗に拭いた跡が見られる。
「はいはい。それじゃあみんなはここに座って。」
「「「「「はい。」」」」」
私達はテーブルにつこうと椅子を引く。ここで、
「それじゃ、テレビでも見ていて待っていてね。それと、」
ここで、店員さんは私の肩に手を置き、
「早乙女君。ちょっと手伝ってくれる?」
「え?…は、はい。」
・・・?
何でしょう、この違和感?
「あ。私達も手伝います。」
「そうね。ただテーブルに座るだけっていうのも失礼だし。」
「そうよね。」
「だな。」
と、みんな席を立ち始める。
だが、
「あ、君達はいいの。家のキッチン狭いから3人までしか通れないんだよ。だから、」
と、ここで店員さんはテーブルの上に置いてあったリモコンを取り、テレビの電源をつける。
「座ってゆっくりテレビでも見ていてね?」
店員さんの言葉を聞き、
「「「「…はい。」」」」
4人は再び椅子に座り、テレビを見始める。
「さ。早乙女君はこっちに来てね。」
「はい。」
店員さんに言われるがまま、私は台所に向かう。
「は~い。助っ人、連れてきたわよ。」
「おう。それじゃ、そこの野菜をみじん切りにしてくれないか?」
「え?あ、はい。」
私は男性の言うことに従い、渡された包丁を持って、野菜を切り始める。
「…なるほど。やっぱりお姉ちゃんの言っていたことは本当だったみたいね。」
「そうだな。」
「それより、私は何をしたらいい?」
「そうだな…。とりあえず、ボウルを出してくれないか?」
「了解よ。」
と、引き出し、棚からボウルを取り出す。さりげなく菜箸を男性に渡すあたり、以心伝心がかなり出来ているみたいだ。
「…それにしても早乙女君。聞いていた通り、料理はかなり上手みたいね。」
「聞いていた?」
そういえば、さっきも今もおかしなところがある。
何故、私の名前を知っているのか?
何故私が、料理がある程度出来ると知っているのか?
誰から聞いたのか?
「そう。私は2年前、姉からあの店を譲り受けたのよ。」
「お姉さんから、ですか?」
そういえば、この人を大人っぽくすると、あの3年前にこの店で会った店員さんに似ているような…?
「やっぱり、あんまり似てないわよね。よく言われるの。」
「そ、そうなんですか。」
「それと、姉からあなたのことを色々聞いていたの。何でも出来て小さい小学生がいるってね。写真もあったからすぐに分かったわ。」
「ち、小さい…。」
やっぱり、私は小さいのか…。もう何度言われたことか。
…あ!?そういえば、
「もしかして、最初に私の性別を疑ったのはわざとですか!?」
「え?…ああ。そのね、本当に君が早乙女君なのか疑っていてね、つい声に出てしまったの。ごめんね。」
「ま、まぁ、いいですけど。」
「それにしても、料理も出来ると義理姉から聞いていたが、まさかこれほどとはな…。」
「!?い、いえいえ!これくらい誰でも出来ます、よ?」
…え?
この男性、今、何て言った?
義理、姉?
つまり…?
私は店員さんと男性を交互に見る。確かに、そういう関係なら納得いくかも。
「早乙女君が今思った通り、私達は夫婦なの。」
と、左手薬指に付けている指輪を見せてくる。確かに、男性の方にも指輪が見えます。それであのような行動がとれるのですか。
「お。もう切り終えたみたいだな。」
「あ、はい。どうぞ。」
私は切り終えた野菜を入れたボウルを男性に渡す。
「よし。後はこれをかき混ぜて、仕込みはこれでいいか。」
「…ちなみにお昼ってなんなのでしょう?」
「それは見てのお楽しみだ…と言いたいところだが、大体検討はついているだろ?」
「大体、ですけど…。」
今まで切ってきた野菜、肉等を見れば少しは予想できる。けど、これで分かった気になるのはどうかと思うな。
「後は…おい、テーブルの方を頼む。」
「分かったわ。」
ここで店員さんが台所から離脱する。どこへ向かったのだろうか。
「よし。それじゃあ…早乙女君、だっけ?」
「あ、はい。そうです。」
「あの子達を移動させたいから、俺に付いてくるように言って来てくれ。」
「え?あそこのテーブルで食べるのではないのですか?」
「いや。あそこより、もっといい食事場所、確保してあるから大丈夫だ。」
と男性はニヤッと笑いながら私に告げた。
案内された場所は、どこかの店内であった。
そこには、
「お♪みんな来たわね。それじゃあ、始めましょうか?」
さっきまでいた店員さんが座っていた。
「準備は出来たか?」
「ええ。バッチリ♪」
「そうか。それじゃあ、」
ここで、男性は私達の方を向き、
「それじゃあ、これから特別授業として、お好み焼きを作ってもらおうか?」
先ほど私に見せた笑みを同級生の人達にも見せた。
それからはもう、男性、店員さん、そして(何故か)私の3人で4人にお好み焼きの焼き方を教えていた。授業というより体験、と言った方がいいかもしれませんね。なので、みんな緊張もせずにリラックスしてお好み焼きを焼いていたと思う。そのために多めにタネを用意していたわけですか。それにしても、ちょくちょく、「どうだ?美味しいか?」とか、「味の感想は?」と、ちょっとしつこいくらいに聞いていた気がしたけど、あれは一体…?食べさせてもらっているこの状況で文句は一切ありませんが、そんなに味の感想を聞いてどうするつもりだったのでしょう?それに、この場所を使わせてもらっていますが、持ち主に了承したのでしょうか?謎が一杯ですね。
お好み焼きを焼く体験もさせてもらい、せめてもの恩返しとして、片づけを手伝っていたら、もう時刻は午後2時をまわろうとしていた。確か、京都駅には4時集合だった気がするから、まだ大丈夫かな。とはいっても油断は禁物です。
私達はご飯の片付けも済んだところで、
「それでは今日は大変、大変お世話になりました。」
「「「「お世話になりました。」」」」
私が頭を下げると、みんなも頭を下げた。
「いやいや。こちらもいい参考になったから。」
と、男性の方は右手を左右に振る。
「それより、時間は大丈夫?なんだか無理矢理引き止めちゃったみたいだったけど。」
「だ、大丈夫です。」
確かに無理矢理感は否めないけど、それ以上の体験が出来た訳ですし、文句はないと思います。
「それじゃ、京都に来たら、必ずこの店に寄ってね~♪」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
とりあえず、それだけは保証してもいいと思う。
こんなに良くしてもらったお店だもの。今度、寄ってみようかな。
そう思いながら、私達はこの店を後にした。
途中、お土産屋さんに寄りながら、アクセサリーやお土産を漁ったり、試食したりしながらお土産を考えていた。私は、明日明後日に帰るわけではないので、今すぐお土産を買う必要はない。なので、みんなが何を買うのかを見ていた。
そして、時間は過ぎ、お土産も買い、京都駅近辺に着いた。
これで京都観光は終わりである。
「それじゃ、私はこれで。」
と、身軽なまま、京都駅を去ろうとする。
「あ、あの!!」
「え?」
ここで、桜井さんが声をあげる。
「きょ、今日はありがとう。本当に助かったよ。」
「いえ。私はただ道案内しただけですので。」
「それでも、助かったよ。だから、ありがとう。」
その言葉を皮切りに、
「私からも、ありがとう。」
「ありがとう♪」
「ま、サンキューな。」
次々と感謝の言葉を言われた。
「い、いえ。こちらこそ、ですよ?」
つい、正面向かずにそっぽ向きながらお礼の言葉を言ってしまった。ま、これぐらいの無礼はいいよね。
「それじゃあこれで。」
私は走って京都駅を後にした。
「行っちゃったね。」
「そう、ね。」
「ねぇ。早乙女君ってどんな子なの?頭もいいし、京都のことも知っているし。」
「だよな。それに、お好み焼きを焼くのも一番上手かったし、なんでだ?」
「そんなこと言われても…。」
「そうね。私も綾も分からないわ。けど。」
他の班が集まり始める中、
「私達より大人ってことは確かよ。」
風間洋子はそう言い放った。
次回予告
『小さな会社員の京都出張生活~歓迎会~』
観光を終えた優は少し寄り道をしてから、寮へと戻る。寮母さんと一緒に料理を作りつつ、みんなの帰りを待った。そして、夕飯の時間、歓迎会という名の飲み会が始まる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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