小さな会社員の京都出張生活~手紙~
「ふー。ここが京都駅ですか。」
東京駅ほどではないけれど、広いです。
さて、京都駅に感心している暇はありません。
あれ?そういえば、手紙を読んでいませんでした。ま、後で読むとしよう。それより今は、
「…お?おーい。」
と、こちらに手を振ってくる女性がいた。
こんな時間に待ち合わせをしているのだろうか。私と同じ境遇の人がこんな身近にいるなんて驚きですね。
ま、とにかく待ち合わせ場所の、
「ねぇねぇ。さっきから何無視しているの、早乙女君?」
「え?」
何故私の名前を?
いや、もしかしてこの人が、待ち合わせの、
「そ。君を迎えに来たのよ。」
…思考を読んでいるのでしょうか。
「さ。話は後。まず車に乗って。それから話をしましょう。」
「あ、はい。」
…どうしよう。これがもし誘拐だったら…。
「…ん?どうしたの…あ!そういえば自己紹介がまだだったわね!」
と、その女性の方は名刺を取り出し、私に見せる。フリガナが見えず、漢字しか見えなかったが、 これはもしかして、
「アルド商事の小鳥遊陽葵さん、で合っていますか?」
「…なるほど。私の名前が言えるってことは、そんじょそこらの小学生よりは、教養がありそうね。」
そう言いながら、私を車に案内する。小鳥遊って、誰でも読める気がするのですが。
そう思いつつ、私は安心して女性、小鳥遊さんの運転する車に乗った。
「それでまず向かうのは、君が泊まる場所だ。一応、台所、トイレ、浴室付きで、君が今も住んでいる場所に限りなく近い社員寮だよ。」
そう言って小鳥遊さんに連れられてきたのは、とある寮。
「さ、数日の間だけど、よろしく頼むね、早乙女優君?」
「あ、はい。」
「それじゃあ私は出社するから、後の事は寮母さんに聞いてね?」
「え?私も荷物を置いてすぐ行きますよ?」
そのためにわざわざ来たわけですし。
「え?もしかして、聞いていないの?」
「え?」
「君、出社は明日からでいいってことになっていたはずだけど?」
「え?…え?」
そんな話、1ミクロンも憶えがないのですが。
「あら。もしかしてあなたが早乙女君?」
「あ、はい、そうですけど…?」
寮の中からとある女性が玄関前に箒を持って現れた。
こんな時間に箒を持っている、ということはもしかして、
「この寮の管理人さん、ですか?」
「そう。私はこの寮の管理人、寮母さんよ。」
「あ、ちょうどよかった。寮母さん。早乙女君のこと、任せてもいい?もう出社しないと。」
「ええ、任されたわ。」
と、その会話を皮切りに、車に乗り、会社に向かってしまった。
ああ。私も乗せてもらいたかったのに。
「…さて。早乙女君からお手紙を預かっているわ。」
「え?私に、ですか?」
誰が私宛に送ったのでしょう?ここに住んでいる訳じゃないのに。
「っと、その前に、部屋に荷物を置いてから渡しましょうか?」
「あ。それもそうですね。」
二人で軽く笑いあった瞬間だった。
案内された部屋は、私がいつも使っている部屋とほとんど変わらなかった。変わっている箇所といえば、部屋の間取りが少々違うくらいだろうか。台所用具、掃除用具もある程度揃っていた。寮母さん曰く、
「前の人が置いて行ってくれたのよ。」
だそうだ。それじゃ、気兼ねなく使わせてもらうとしよう。
そんな部屋に荷物を置き、必要なものを取り出した後、寮母さんに話を聞いた。
「それで、届いた手紙って何ですか?」
「これのことよ。」
と、差し出してきたのは、どこに店にも売っているような普通の茶色い封筒だった。そこには、
“早乙女優様へ”
と、
“菊池美奈”
がきちんと書かれて…え!??
き、菊池先輩が書いたのか!?
私はその封筒を受け取り、封を開け、内容に目を通す。
そこには、
~~~
拝啓
吹く風も次第に夏めいてまいりましたが、優様にはその後いかがお過ごしでしょうか。私も相変わらず無事に過ごしております。毎度何かとお世話になり深く感謝いたしております。
さて、突然ですが、優君には京都を観光し、楽しんでもらいため、出勤は翌日ということにしてもらいました。なので、本日は同学年のみな様、もしくはお一人で京都観光を楽しんでください。
くれぐれも体調を崩されませぬようご自愛ください。 敬具
平成〇〇年××月△△日
菊池 美奈
早乙女 優 様
~~~
と、こんな丁寧な内容の手紙を渡された。
これは…親しき仲にも礼儀あり、ということなのかな。それで、内容の方は…なるほど。
つまり、今日は会社に行かないで、京都観光を楽しんできて、ということでいいんだろうか。…もう。これだから菊池先輩に返す恩が増えていくんだよね。まったく、いつになったら返しきれるのやら。本当、感謝してもしきれないな。
「…分かりました。それで今後、私は京都観光すればいい、ということですか?」
「ええ、そのとおりよ。後、もう少しであなたのお知り合い達が京都駅に到着する時間だから、私がそこまで送るわ。」
「え?何故そこまで私の学校の修学旅行のスケジュールを把握しているのですか?」
「これも菊池さんから頼まれたのよ。」
「菊池先輩…。」
ほんと、私の行動を先読みしているというかなんというか…。
「それじゃ、さっきまでいた京都駅に行きましょうか?」
「…はい。」
とりあえず今は京都観光だ。
私は気持ちを切り替えて、寮母さんの車に乗り、京都駅に向かう。
次回予告
『小さな会社員の京都出張生活~観光~』
菊池から思わぬプレゼントをもらい、感謝する優。そして、優は班の人達と修学旅行を行うべく、京都駅へ再び向かう。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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