有名なモデル達の有名番組撮影生活~不審者対処~
(さて、まずは説得を試みてみますか。)
出来るだけ穏便に済ませる事が出来るのなら、それに越したことはありませんからね。
「いやー、あなたも実に不幸ですね。」
私は潮田さんと男性の間に入り、男性に向けて発言します。
「あ?お前、誰だ?」
「私ですか?私は優と言い、この番組の出演者です。まだまだ無名故、知らないのも無理はないかと思います。」
「はん。別に僕はお前みたいなチビに用はない。用があるのは・・・、」
そう言うと、男性の視線は私から潮田さんに移される。
「僕の未来のお嫁さんである詩織たんだけだお!」
男性は潮田さんを指差して宣言する。
「あなたは不幸にも、観客席にいた方々に押されてしまい、このステージまで誤ってきてしまった。違いますか?」
本当、自分で言っていても無理があると思います。観客席から押されたとしても、警備員を気絶させていい理由にはなりませんし、ステージまで押され続ける、なんてこともないでしょう。それに今私の目の前にいる男性の体型はとてもがっしりしていて、押される側というより押す側に近いです。
(ですが、今のこの場だけでいい。なんとか理由をこじつけることが出来れば、この場だけでもなんとかできます。)
なんとか事故とかハプニングとか、少なくとも意図的、人為的ではないことを宣言してくれつつ、このまま何もせずにステージから降りてくれたら嬉しいのですが・・・。
「は?そんな訳ないだろう?僕は未来のお嫁さんである詩織たんを連れて帰る為にここにいるんだお!!」
・・・どうやら私の案の一つは潰されてしまったようです。
なら、別案で臨むだけです。
「・・・そうですか。潮田さんはどうです?あの方と一生を共にしたいですか?」
「え?・・・え??」
潮田さんはいきなり私に話を振られて驚いているようです。
「どうなのです?」
「えと・・・。」
どうやら返答に困っているみたいです。
(おそらくですが、返答の内容によってあの男性が襲いかかってくるのではないか、そう考えているのでしょう。)
目の前にいる男性、かなり体格がいいですからね。あの男性に襲われたら・・・考えたくないですね。
「大丈夫です。私がいます。私に、任せて下さい。」
私は潮田さんを安心させる為、守ると宣言します。まぁ、守ると言っても、私だけでなく峰田さん達も守ってくれるのですが。なんならもう既に守ってくれているのかもしれません。
「私は・・・私は・・・、」
どうやら悩んでいるようです。
「そんなの決まっている!詩織たんは僕のお嫁さんとして、一生一緒にいるんだお!」
「ごめんなさい。それは無理だわ。」
「!!!???」
潮田さんの返答に男性は驚いています。当然の返答内容だと私は個人的に想っているのですが、何をそんなに驚いているのでしょう?
「私はこれからもモデルとして活動していくの。だからあなたと一生一緒にいることは出来ないわ。」
潮田さんの言葉に、
「・・・嫌だ。」
「え?」
「そんなの、嫌だ!!」
「「「!!!???」」」
突然、男性が叫び始めました。この流れ、なにか嫌な予感がしますね。
「詩織たんは一生一緒にいるべきなんだ!!一緒にいて、詩織たんのお金で一生を過ごし、詩織たんと共に家族を作るんだ!」
・・・それってもしかしなくても、この男性は潮田さんのこれまでの稼ぎだけで一生過ごそうとしているヒモ、になろうとしているのでしょうか?
(心なしか、潮田さんが嫌そうな表情をしているような、そんな気がします。)
「だからお前みたいなチビに邪魔されてたまるかー!」
そう言いながら、男性は私に向かって走り出しました。
速さこそそこまでありませんが、勢いといいますか、気迫といいますか、目力が凄いです。
(潮田さんや他のモデルの方達は・・・あの男性を躱すほどの余裕はなさそうです。)
あの男性の尋常じゃないご様子に、みなさん足がすくんでいるみたいです。
(出来れば乱暴な事はしたくなかったのですが、あちら側が強行突破してくるのであれば、止むを得ません。)
ですが一応、制止するよう言ってみますか。素直に聞いてもらえるとは思えませんが、声にだしてみましょう。
「これ以上その勢いで近づかないでください。怯えている様子が分かりませんか?」
「うるせぇ!!てめぇみたいなチビには用はないんだよ、チビ!!!」
「これ以上近づくと、こちらも正当防衛の為に動かせてもらいますが、構いませんよね?」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ、クソチビ!!!」
・・・そう、ですか。
(さきほどから私の事をチビ、チビ、チビ・・・。私、自身が低身長であること、結構気にしているのですがね。)
個人的に2,3発ほど殴りたいところですがやめておきましょう。過剰に力をふるうことはよくないですからね。このイライラは後で発散するとしましょう。
「忠告は、しましたからね。」
男性は今も潮田さんに向かって走っています。
(タイミングは・・・ここです。)
私はタイミングを伺い、男性の真横まで一瞬で近づきます。
そして、足をのばしながら体を回転させ、男性のかかとに直撃させました。すると、男性は派手に転びました。
(どうやら上手くいったようです。)
これで気を失ってくれたら嬉しいのですが・・・あ。
(現実は理想ほど上手くいかないらしいです。)
男性はすぐに起き上がってきました。
「てめぇ。やってくれたな、クソチビィ!」
男性は完全に潮田さんから私に視線を動かしました。これで潮田さんが狙われなくてよかったと思います。ですが代わりに私がロックオンされたようです。
「お前だけは・・・恥をかかせたお前だけは、絶対に許さねぇ!!」
そして目の前の男性は正気を失っているようです。まぁ、この場に上がった時から正気かどうか怪しいところですが。
「優!」
ここで潮田さんが私に声をかけてきました。せっかく男性の意識が潮田さんから私に変わったのに、また潮田さんに変わってしまう恐れがありますので、出来れば話しかけてこないでほしいのですが、一体何用でしょうか?
(いえ、どんな用なのか、なんて分かり切ったことです。)
おそらく潮田さんは、私の身をあんじてくれているのでしょう。優しいですが、今は大丈夫なのでその旨を伝えておきましょう。
「私は大丈夫ですので、そこで見ていてください。」
「で、でも・・・、」
「随分と余裕だなぁ、おい??」
「「「!!!???」」」
私が潮田さんと話をしていたら、男性が分かりやすいほど怒っていました。私はただ潮田さんと話をしていただけなのですが。
「決めた。お前はこれからボコボコにして裸にひん剥き、標本化して全国に晒してやるよ。」
「!?」
こ、これはもう、気絶させるしかあの男性を止める方法はなさそうです。今のあの男性を言葉だけで説得、なだめることは不可能そうです。
「クソチビ、覚悟しておけよ?俺のこの張り手で吹っ飛ばした後、自慢の力で四肢を引き千切ってやるからよ!」
「張り手?」
それにあの体型・・・。
(そうか。この人、力士だ。)
さきほどの走りもやけに特徴的な気はしていたのですが、納得しました。
(・・・念のため、攻撃を受けておきますか。)
攻撃を受けておけば、相手を暴行罪で罪に問う事が出来るかもしれないですからね。一発張り手をもらっただけで暴行罪になるかどうかは怪しいところですが、なんのお咎めもなし、という訳にはいかないでしょう。
「吹っ飛べ!」
私は意を決し、男性の張り手を左手で受けました。
(・・・衝撃は確かに凄いですが、吹っ飛ぶほどではありませんね。)
それにしても左腕が痛いです。
「俺の張り手をまともにくらって平然としている、だと!?」
何故か目の前の男性は私を見て驚いています。別に私は平然としているつもりはないのですが。さきほど張り手をくらった左腕、痛いですし。
「それじゃあ、正当防衛の為にやらせてもらいます。」
私は男性の服の襟に狙いを定めます。
「ふん。何をしようとしているのか検討はつく、だが無駄だ。お前みたいなクソチビに持ち上げられるほど俺は軽くないぞ?それとも、そんなことが分からないくらい、クソチビは馬鹿なのか?」
「無駄かどうか、やってみないと分からない事だってありますよ?」
「はん!それくらいやらなくても分かるわ、このクソチビ!」
「そう、ですか。」
なら、見せてあげましょう。
(今の私の力を。)
私は男性の腕と襟を掴み、自身の背中に乗せます。
「「「!!!???」」」
そして、
(確か背負い投げってこんな感じで背負って、投げるんでしたっけ!)
思いっきり床に投げつけます。
男性の背中が床に直撃しました。
(・・・正直、背負い投げがこんな投げ方なのかは知りませんが、上手く投げられたようでよかったです。)
これも、目の前の男性が私を侮ってくれたおかげでしょう。
「お、おま、え・・・。」
何か言いたそうにしていましたが、そのことを言い終える前に気絶しました。
(さて、これで男性の件は何とか出来ました。)
ですがまだ私にはやるべきことがあります。
(次はこの場をどうにかしないとなりません。)
さて、まだ頑張るとしましょう。
例えその結果として、私に多くの非難が集まるとしても。
次回予告
『有名なモデル達の有名番組撮影生活~番組存続の為の印象操作~』
なんとか壇上に上がってきた不審者を撃退した早乙女優は次に、この番組を存続させる為、非難される覚悟で嘘をつく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




