小さな会社員の有名番組出演準備生活
「それにしても優君、本当に大丈夫?なんなら休んでもいいのよ?」
「だから先ほど何度も言っているではありませんか。私は大丈夫ですって。」
「でも・・・本当に大丈夫?」
「だから大丈夫ですって。」
骨にヒビが入ってしまうほど大きな怪我をしてしまった私ですが、一晩休んだら体はもう大丈夫でした。
元々、自分としてはたいして痛くなかったですし、大げさと思っていたのですが、そのことを菊地先輩に報告したら、
「・・・優君?私は早く元気になってほしいとは言ったけど、優君の怪我は一晩二晩で簡単に治るほど軽い怪我じゃないのよ?分かっている?ねぇ?」
そんなことを言われてしまいましたが、大丈夫だと分かってもらう為、ジャンプしたり回転したりと、色々体を動かしてみせました。
「・・・まさか優君、本当に大丈夫なの?でも・・・え?」
なんとか信じてもらう事が出来ました。ひとまずよかったです。
ですが、
「例え大丈夫になっても、せめて一週間は休んで!今は大丈夫でも、優君の体はいつ壊れてもおかしくないくらいボロボロなのだから!お願い!!」
と、言われてしまいましたので、一週間ほど休みをいただきました。
それにあたり、今週用事がありましたので、その用事をやむなくキャンセルすることにしました。
それは、潮田さん達とのリハーサルです。
本当は今日リハーサルに参加するべきなのですが、骨にヒビが入ってしまったわけですからしょうがない、と菊池先輩は判断してしまったようです。私個人としては、別にこれからリハーサルに臨んでも問題ないと思い、話してみたのですが、
「優君・・・、」
とても切なそうな目で見つめてきたので、キャンセルさせてもらう事にしました。その連絡は申し訳ありませんが、菊地先輩に任せました。
そういえば、保健室の先生から電話がきましたね。
なんでも、桜井さん達は私にお礼を言いたかったようです。私はそのお礼の言葉を聞きました。
(お礼を言われると、体を張ったかいがあったというものです。)
その為にも、来週の同好会活動に出席するとしますか。
ですがその前にまず、あの番組の収録です。
私が今どこにいるのかと言いますと、あるアリーナ会場にいます。何故私がアリーナにいるのかといいますと、あるテレビ番組を撮影する為です。
そしてあるテレビ番組というのは、著名なモデルを集め、モデルの一番を決める番組で、私が出なくてはならないらしいのです。
ちなみにそのモデルというのは女性限定です。
なので、私がそのモデルの一人として選ばれることが絶対間違っていると思うのですよね。そのことを言うのであれば、そもそも女装をするな、という話になるのですが。本当、どうしてこんなことに・・・。
さて、既決した事に対していつまでも愚痴るわけにはいきませんので、前を向くとしましょう。
私は今、女装をして最終確認をしています。番組の流れを確認し、どのようにうごけばいいのか大体でも把握する必要がありますからね。
(分かっていた事なのですが、出場するモデル全員女性ですね。)
私の目の前にいる女性はきっと全員女性で、女装している人など一人もいないでしょう。それに対して私は女装をして・・・。
おっと。また考えが逸れてしまいました。
今はミーティングに集中しましょう。
(・・・ん?)
そういえばさきほどからずっと私の事をチラチラ見てきますね。最初は私の自意識過剰かと思い出来るだけ気にしないようにしていたのですが、どうも私の気のせいではなさそうです。
(菊池先輩は仕事で既に帰りましたし、峰田さんに相談・・・あれ?)
何故でしょう?峰田さんもチラチラと私を見ている気がします。
(もしかして、先週の私の急病の件が気になっているのでしょうか?)
そういえば、先週の急病の件に関して誰一人聞いてきませんでしたね。私はてっきり誰も気にしていないのかと思い、先週休んだ件に関して謝罪しただけでどうして休んだのか詳しく話していませんでしたね。まぁ詳しく聞こうとしても話をはぐらかすつもりなのですが。
変な空気が流れていても、私のやるべきことは変わりません。私はミーティングでこれからの流れや説明を聞き、これからどのように動けばいいのか頭の中で整理していきます。
「・・・それでは少し休憩した後、撮影に入ります。それまでに各自、準備をして撮影に臨んでください。」
「「「はい。」」」
そして、ミーティングが終わりました。
(さて、私はアピールタイムで何をするのかの最終確認でもしますか。)
ここで番組の流れについて簡単に説明しましょう。
まず、各々の簡単プロフィールの紹介。
次に、一人一人のアピールタイム。
アピールタイムの内容から、第一審査を通過した者8名の発表。
二次審査の内容として、自分の中でベストなポーズを披露してもらい、何故そのポーズがベストなのか理由を発表。
二次審査を通過した者4名の発表。
最後に、自分が最も好きな水着の披露と、会場にいる方々に対しての一言。
その後、個人と水着のマッチ具合、一言の内容から、ベストモデルの発表。
こんなところでしょうか。もちろん私が聞き逃している可能性もありますが、おおむねこんな感じです。私個人としては、言いたい事はたくさんありますが、今はそんな愚痴は後回しにしましょう。
なお、今回はこのような審査方法ですが、審査方法は毎回変えているようです。
(せっかくの機会ですし、会場を見てみるとしますか。)
時間が少しありますので、私は早速入場します。会場には既に多くの人が入場しています。
(・・・ん?)
この違和感は一体・・・?私は会場の全貌を見て、何か不思議な感覚に陥りました。何かおかしいのですが、言葉に出来ないもどかしい感覚です。
(気のせい、ですかね。)
それにしてもかなりの人がいますね。これほどの人達の前で話したりモデルのポーズをしたりするなんて・・・今から想像するだけでも嫌になります。
(おっと。これ以上嫌な気持ちにならないよう戻るとしますか。)
自己嫌悪する前に戻り、最終チェックするとしますか。
そしてステージ裏口に戻る途中、
「ふふ。これで大金が俺の手元に・・・!?」
男性とすれ違ったのですが、その男性が私を見るととても驚いた表情をした後、急に口を閉じ、喋らなくなりました。
(?急に黙り込むなんてどうしたのでしょう?)
まぁ、今の私には関係ないことです。そんなことを想っていたら、
「あら優ちゃん。」
「峰田さん。今日はよろしくお願いします。」
峰田さんが私の正面にいました。もしかして私がさきほどすれ違った男性となにか話していたのでしょうか?私は気になったので何を話していたのか聞いてみたら、
「何でもないのよ、なんでも。」
と、濁してきましたので、
「では先ほどの男性に聞いてきますがよろしいですか?」
と聞いてみました。
すると峰田さんはため息をつきました。
「そんなに聞きたいなら私から教えるわ。実は・・・、」
私がさきほどすれ違った人は警備会社勤務の人で、今日の警備に関する相談をしていたそうです。
「相談って、何の相談だったのですか?」
「警備の人が施設の広さに対して少ないなと思って聞いてみたのよ。そうしたら、今回警備を務める人達は全員ベテランだから大丈夫、と言われたんだよね。」
「なるほど。そういうことですか。」
先ほど感じた違和感の正体は、警備員の人数でしたか。言われてみたら警備員の数が少なかったような・・・気がします。とはいえ、今いる施設に必要な警備員の数なんて把握していないのですが。
「?何がそういうことなの?」
「いえ、さきほど会場を下見した時違和感を覚えましたので、その違和感の正体が分かってよかったです。」
「そう?それならいいのだけど。後・・・、」
「ええ。他の方々に言いふらすつもりはありませんので。」
私は峰田さんに今後の対応を言う。
「・・・時々思うけど、あなたって大人みたいな対応をするわよね。・・・実は有名な高校生探偵の生まれ変わり、とかじゃないわよね?」
「・・・何を言っているのですか?」
時々、峰田さんが何を言っているのか分かりません。
「・・・いえ、なんでもないわ。それじゃあ番組の撮影がもう少しで始まるから、私と一緒にステージ裏まで行く?」
「そう、ですね。」
目的地が同じなら、一緒に行っても何も問題ないでしょう。
向かう道中、あまり私と峰田さんは雑談をしなかったのですが、
「出来ればなんだけど、この撮影が終わったら、時間を私にくれない?聞きたいことがあるの。」
と、質問してきました。
(撮影が終わった後、ですか。)
確か、撮影が終わった後は特別な用事なんてありませんし、今日は仕事をお休みしていますからね。
「分かりました。」
峰田さんのお願いに答えられると判断した私は、峰田さんのお願いを聞くことにしました。
「ありがとう。撮影、頑張ってね。私、応援しているから。」
「応援なら私より潮田さんを応援した方がいいのではありませんか?峰田さん、潮田さんのマネージャーですし。」
「マネージャーとしては、詩織に勝ってほしいわ。でも私個人としては、詩織だけでなくあなたにも勝ってほしいの。」
「・・・一番を決めるのであれば、私と潮田さんが同時に勝つ、なんて状況はあり得ないと思うのですが?」
「そう思うくらい、二人には頑張って勝ってほしいと思っているのよ。矛盾していることは承知しているわ。それでも、頑張って。」
「・・・はい。」
人に応援されることがこれほど嬉しいこととは。応援のありがたみを感じます。
「あ!?いた!!」
私と峰田さんがステージ裏に到着したら、潮田さんがこちらに向けて走ってきました。
「詩織、走ったら危ないわよ。」
「なら二人が急いでこっちに来なさいよ。もうそろそろ時間よ!」
「・・・まだ時間はあると思うのですが。」
時刻を確認したところ、まだ集合時間まで十五分ほどあります。常に十五分前行動を心掛けているのであれば、私は遅刻したことになりますが、そんなことはないと思います。
「まさか優、時間ギリギリまでそこらをほっつき歩いているつもりだったの!?」
「いえ、そんなことはありませんが、一人で色々整理しようかと・・・、」
「さてみなさん、そろそろ準備を始めて下さい。」
私と潮田さんが話をしていたら、いつの間にか本番直前の時刻になっていました。
「撮影が終わったら話があるから。それじゃあ。」
「え?あ、」
私が返事をしないまま、潮田さんは定位置についてしまいました。
(私、まだ返事をしていませんのに・・・。)
ですがまぁ、峰田さんの後でいいでしょう。
(さて、番組の収録がそろそろ始まりますので、集中するとしましょう。)
この時、早乙女優達にとって想定外の事案が発生するが、誰も思わないだろう。
その事案が、早乙女優達の心を大きく乱す事になる。
次回予告
『有名なモデル達の有名番組撮影生活~不審者襲来~』
いよいよモデル達のトップを決める番組の撮影が始まる。最初、番組が順調に進んでいるのかと思いきや、突如、何者かが襲来する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




