小さな会社員の京都出張前学校生活~木・金曜日~
木曜日。
私は学校で勉強をしていた。といっても、軽い復習くらいしかやることがない。というのも、小学校で習うものはどれもこれも憶えていることばかりで退屈なのだ。先生から渡された予習のプリントも全部解け終え、再び雑談タイムへと突入していた。
「それでね、数年前の英語検定ではなんと、8歳で英語検定準1級に受かった人がこの千葉県にいたらしいのよ!これってすごいことじゃない!?」
「そ、そうなんですか…。」
それより先生の圧がすごいです。
そんな時、
コンコン。
シャー。
「失礼します。早乙女君はいますか?」
「え?早乙女は私ですけど…?」
何か用なのだろうか。いや、用があるから来たのか。
そして、よく見てみると、
「えっと、再来週の修学旅行のことについて相談しに来ました。」
と、女の子、桜井さんの後ろに女の子2人、男の子1人の計4人がいた。
この4人は確か、
(修学旅行で同じ班だった人達、だよね?)
だが、私は修学旅行には行けない。そのことは既に言ってあるはず。
「あれからみんなで話し合ったんですけど、やっぱり早乙女君が考えてくれた案で行くのが一番良い、ということになったんだけど…。」
と、何故か言いづらそうにしている桜井さん。
あれ?おかしいな?
確か、あの時書いた予定表は誰かに渡したはず。誰に渡したかまでは憶えていないけど。それを確認すれば、一発でどこにどれくらい滞在すればいいのかが分かるはずだ。そのように予定表を作ったのだから。
「…実は、その紙が破かれちゃったのよ。」
と、言いづらそうにしていた桜井さんに代わり、風間さんが説明してくれた。
破かれた?一体誰…あ。
「もしかして?」
「ええ。本人はわざとじゃないと言っているけど、あれは嘘よ。あなたが気に食わなかったみたいなの。」
なんともまぁ暇なお人で。そんなことをしている暇があるのなら、勉強や遊びに時間に費やせばいいものを。どうしてそう余計なことに時間を割いてしまうのやら。ま、既に過ぎたことみたいですし、今更どうこう言ったとしても変わらいないでしょう。
「…分かりました。」
そうして、私は白い紙と筆記用具を用意し、サラサラと書いていく。何度も書いていることだし、内容も大体憶えているのが幸いしたかな。
「…はい。これを見れば大体分かりますよ?」
と、今しがた書き終えた予定表を渡す。だが、みんなの顔が浮かない、というより落ち込んでいる感じだ。なんでだろうか?用件はこれだけなはず。
「あの、あの時はありがとう。」
「え?」
急に桜井さんから急に感謝の言葉を聞いたと思ったら、すぐに保健室から颯爽と消えてしまった。
…一体、何だったんだ?
「私も。あの時、綾を守ってくれてありがとう。親友としてお礼を言うわ。それじゃあ私は綾を追いかけるわ。二人も早乙女君に言いたいことがあるなら、今の内に言っておけば?」
と、やや早口に言い終えると、桜井さんを追いかけるように去っていった。
それにしても、この二人が言いたいこと?何だろうか?もしかして、私に文句でもあるのだろうか。
「あの!あの時はごめんなさい!」
「すまん!俺達が馬鹿だった!」
「…え?」
二人は急に私に頭を下げてきた。
何故?
そんなことを考えている内に、すぐに頭を上げ、保健室からいなくなってしまった。
…?結局、何を伝えたかったんだ?謎多し行動だ。
「…なるほど。そういうことね。」
どうやら、保健室の先生は察しがついたらしい。さすが先生、と言ったところかな。
「どういうことですか?」
「どうやら、あなたのカンニング疑惑が晴れたみたいね。」
「…あ。そういうことですか。」
でも、
「どうやって晴れたのでしょう?」
「さぁ?それは私にも分からないわ。でも、」
先生は一呼吸おいてから、
「誤解が解けて良かったんじゃない?」
そう言いながら微笑み返してきた。
確かに、
「そう、ですね。」
私も先生に微笑み返す。
爽やかな木曜だった。
それでも、優の疑惑は完璧に晴れたわけじゃない。
その疑惑は今後、どう影響するのか、誰も知らない。
金曜の放課後。
とある男が家庭科室で唸っていた。
「…やっぱり。」
その紙に書かれている内容を見て、一人で納得している。
その紙は、今日、家庭科クラブの面々に書いてもらった物で、内容は、
“一昨日来た早乙女についてどう思うか?”
を、文面にしてもらった物である。
最初、みんなは書く気など一切無かったが、
「書かなかったら、来週のクラブは無しだ。」
と、半分脅して書かせたものである。
最初は嫌々だったが、一昨日の料理を思い出してきたのか、徐々に会話が弾み、鉛筆を走らせていった。そして、みんなが紙を提出して帰った後、一人でその紙に書かれている内容をチェックしていたのだ。その内容を確認してみると、個性はそれなりにあったが、どれも、
“早乙女君はいい人だと思う。”
という結論に達していた。
確かに、先生の目線で言っても良く出来た生徒だと言える。
みんなをよく見て、一人一人に合ったアドバイス、もとい技術指導を施す。今回は十人程度だったが、将来先生になれそうな素質を感じさせた。その行為や紙に記されている内容を見て、より疑惑が大きくなる。
“本当に、あいつはカンニングをしたのか?”
と。
職員の間では、『カンニング魔のチビ』という蔑称が、教師の間に流行っていた。
やれ、学校に来たくないから学校を何日も平気で休んだ。
やれ、あいつはカンニングをした。
やれ、あいつは万引きで警察に補導された。
やれ、あいつは人を殺した。
前はなんとなく聞き流していたが、今思えば、どれも不確かな情報である。そして、職員達はそのことを信じていた。理由は分からないが、とにかくあの小さな少年には近づかないよう、職員間で密かに伝達されていたようだった。
だが、今はその噂に疑念を抱いている。そして、保健室の先生そう考えたのか、そんな噂を一切信じなかった。 それどころか、今も保健室に早乙女は登校し、授業を受けているのだとか。
カンニングをした人が、今もこうして学校に通えるのか?
俺が小学生だったら、不可能だっただろう。間違いなく不登校になっていただろう。
それほど心が強いのか、それとも…。
「どちらにしても、本人に直接確認した方がよさそうだな。」
誰もいない家庭科室の中、男はそう呟いた。
次回予告
『小さな会社員の京都出張生活~出発~』
いよいよ京都出張間近に控えた優は着々と用意を済ませる。そして当日、優が新幹線に乗ろうとしたところで、菊池は、わが子が離れていく親の心境を悟ったかのように泣き始める。そんな行動に対し、優はとあることを思い出す。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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