小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その6~
「くそが!あのくそガキ、何が地方公務員、国家公務員だ!」
「あのクソガキ、俺達のことを騙しやがって!」
「絶対許さねぇ!次会ったらただじゃおかねぇ!」
桜井綾達に絡んできた青年達は憤慨していた。
理由は、さきほど会った子供の一人、早乙女優である。
その子供は青年達に、警察が近くにいることを匂わせたのである。
だが実際には、警察なんていなかった。
そのことに対して、とても苛立っているのである。
「結局、焼きそばは奪えなかったし、あのクソガキはこけにしてくるし。」
「あぁー!思い出したらまたむかついてきた!」
「本当、あのガキだけはこの手で始末しないと気が済まねぇ!」
そう言い、青年の一人は思いっきり木を殴る。
「呼びましたか?」
「「「!!!???」」」
青年達はいきなり声が聞こえてきたことに驚き、声が聞こえてきた方角を見る。
「てめぇは・・・!!??」
「さっきのくそがきじゃねぇか!!??」
「さっきぶりだな、さおとめぇ!」
するとそこには、さきほどまで憎悪の対象だった張本人がいた。
(さて、このクソガキをどう潰してやろうか・・・。)
青年達は、目の前の子供をどうしようか考え、心の中で笑みを浮かべる。
(さきほどはつい声を出してしまいました。)
さきほどまで探していた張本人達が私の苗字を呼んでいたので、つい反応してしまいました。
なにせこの方達を探す為、今まで夏祭りの会場を歩き回っていましたからね。そして、つい出会った場所にいないかどうか確認の為に足を向けたところ、まさかいるとは思いませんでした。
(そもそもこの夏祭り会場に監視カメラが少な過ぎると思います。)
なのでこうして足で探す事になったのです。こういう事態を想定して、もっと監視カメラを増やしてもらうよう、来年提案してみようかな?
(いえ、やめておきましょう。)
監視カメラ増設の提案をすると、必ず経緯を聞かれます。経緯を聞かれてしまうと、今回の件を商店会長さん達に話さなくてはならなくなります。そうなっては、今回私が独りで動いている意味が無くなります。
(であれば、近頃物騒なので監視カメラを増やしませんか、と相談してみますか。)
現状の監視カメラの位置と、具体的な希望設置場所を商店会長さんに提案すればいけるかもしれません。来年、頼んでみようかな。
「おい、クソガキ!聞いているのか!!??」
しまった。考え事をしていたら、目の前の青年達の話を聞き逃してしまいました。正直に聞き逃していたことを伝えて謝罪したら許してくれる・・・なんてことはなさそうですね。おそらく逆効果でもっと怒らせる事間違いないでしょう。
「もちろん聞いています。」
私は当たり障りのない嘘をつきます。ばれないと嬉しいです。
「だったら分かるよなぁ?」
「俺達、今!すっごく苛ついているの!!だから・・・分かるよなぁ?」
嘘はばれていないようですが、どうやって答えればいいのか分からない質問がきました。
(とにかく、苛つきを解消させる何かをすればいい、ということでしょうか?)
苛つきを解消させる何か・・・。
(工藤先輩ならお酒を飲ませれば解決するので、お酒を渡せば解決するのでしょうか?)
そういえば、目の前のこの方達は成人しているのでしょうか?未成年が飲酒するのはまずいですからね。とにかく、一応成人しているかどうか聞いてみますか。
「あなた達は成人していますか?」
すると、
「「「あぁ!!!???」」」
どうやら私の質問が理解出来なかったようです。私が突拍子なことを言ったからでしょうか。そこまで意味不明な質問を振ったわけではなかったのですが。
(そういえば、意図を言っていませんでしたね。)
どうしてさきほどの質問をしたのか、その理由を伝えればきちんと伝わったかもしれません。私の伝達能力不足です。
「なんだ、こいつ?」
「いきなり意味不明な質問しやがって。サイコパスか?」
「・・・はぁ。分かったよ。俺が分かりやすく教えてやる。」
私が反省していたら、話が進んでいました。ここで口を挟むのはまずそうなのでやめておきましょう。
「慰謝料だよ。てめぇみたいなガキには難しいか?」
慰謝料、ですか。
「つまり、受けた被害を金で補填しろ、ということですね?」
「そうだ。分かっているじゃねぇか。」
なるほど。
「その考えで言うなら、あなた達は先ほどの子達に慰謝料を支払うべきではありませんか?」
「・・・なんだと?」
私が意見を述べた瞬間、空気がさきほどより重くなる。それでも私は意見を述べ続ける。
「理由としては、さきほどあなた方は男の子に怪我を負わせたではありませんか。その怪我を負わせた被害分、お金を補填するのが話の流れではありませんか?」
私がこう言ったら、
「うっせんだよ!!!」
青年の一人が私に向かって殴ろうとしてきました。
(きましたか。)
私は青年の拳をしっかり見て、
「!?」
わざと頬で拳を受けます。そのせいか、私はふっとび、木にぶつかってしまいます。
「お前ら、やれ。」
「「おう。」」
その後、私は3人の青年によって蹴られ続けました。
「いいか!?てめぇみたいなクソガキが一番ムカつくんだよ!!」
「この世の中何も分かっていないクソガキが、俺達に生意気なこと言ってんじゃねぇぞ!」
「てめぇみたいな雑魚は、俺達強者に奪われるんだよ!何もかも、全て!」
何か言っていますが、今の私には、青年達の言葉に対する反論の言葉を用意する余裕はありません。
(これでいい。これで・・・。)
実は、私がわざと殴られたのも、今も暴行を受け続けているのには理由があります。
その理由とは、証拠集めです。
こいつらを暴行罪で連行させるために、私の傷をもって、こいつらに暴行されたと証明させるため。
こいつらを脅迫の罪で連行させるために、今も録音しているこの録音機を以て、こいつらと脅されたと証明するため。
私はわざと、こいつらの暴行を、暴言を受ける続けています。
「やめてー。」
「痛いよー。」
「どうしてこんなことするのー?」
「ひどいよー。」
時折、録音機に聞かせるように、青年達にやめるよう進言します。
ですが、
「馬鹿が!」
「やめてといってやめる奴がどこにいる!?」
「そんなことも分からないからクソガキなんだよ!」
青年達は私の言葉に対し、笑いながら馬鹿にし、暴行を続けていきます。
(そうだ。それでいい。)
このまま私に暴言を浴びせ、暴行を加え続けてくれ。
そうすればこの青年達を、刑務所送りにすることが出来る。
この青年達の罪をもっと重くするために、我慢するんだ。
その後も、青年達は私にひたすら汚い暴言を浴びせ続け、暴行を加え続けた。
(事前にくると分かっていても、この痛みは辛いな。)
正直、辛いと感じ始めた時、
「なぁ?」
「どうした?」
「よく考えたらさ、こういうクソガキを作った親にも責任があるんじゃないか?」
・・・え?
「・・・それもそうだな。」
「それで、具体的にどうするんだ?」
「決まっているだろう?」
そして、青年の一人は、私にとって信じられない言葉を放つ。
「その親達に責任とってもらうんだよ。金と体でな。」
・・・。
「お♪いいな、それ。」
「父親からは金を強奪するとして、このクソガキの母親がくそ婆だったらどうするんだよ?」
「そうだな~・・・まぁ、裸にひん剥いて、熟女用で撮っておいて、売ってやるよ。」
「それはいい金づるだな。」
・・・・・・。
(もういい。)
必要な証拠は十分とったし、後は病院によって診断書をもらうだけだ。
(その前に、この録音機の電源を切っておこう。)
・・・よし、切った。これでもう、この後の会話はデータとして残らないな。幸い、ここは監視カメラに映らない場所で、夏祭りの雑音の影響で、音でこの状況が伝わることもない。
「・・・あ?」
「なんだ、こいつ?急に立ちやがって。」
「今度は立って俺達のサンドバックになるってかぁ!」
青年の一人が、俺に向けて殴ってくる。
(工藤先輩や菊池先輩にまで危害が及ぶかもしれない。そんな危険因子、放っておくわけにはいかないな。)
あの2人は私にとって大事な、大事な恩人だ。
だから、あの2人の幸せが脅かされるかもしれないのなら、その原因を徹底的に叩き潰す。
「あ?」
「おいどうした?」
「こいつ、殴ったのにさっきみたいに吹っ飛ばねぇんだよ。急にどうしたんだ、こいつ?」
「まさかこいつ、殴られ過ぎ、蹴られ過ぎで頭がおかしくなっちまったんじゃねぇか?」
「はは、違いねぇや。」
「だな。」
ふと、私の体が視界に入りましたが、随分汚れていますね。
服は所々破れ、土汚れが目立ちます。その土汚れの中に赤いシミが複数個所あるようです。
(ですが、今の私の服や怪我、痛みなんて関係ない。)
私自身の心配より、工藤先輩、そして菊池先輩の心配です。
「・・・知っていますか?」
「あ?何をだよ?」
青年達は私の質問に笑いながら返答します。
「心の傷は体の傷に比べ、証明し辛いんですよ。なにせ、心の傷は目に見えないからな。」
「・・・は?お前、何言っているんだ?」
「俺はお前らと違う。俺は絶対、お前らに手はださない。だが、覚悟しろよ。」
「はん!クソガキが粋がってんじゃねぇ、ぞ!」
青年の一人が、私を殴る。
私は殴られましたが、全然痛くありませんでした。
これから受けるかもしれない工藤先輩と菊池先輩の痛みに比べたら・・・!
私の両腕に力が入りますが、無理矢理力を抜く。
「粋がる?冗談じゃない。」
私は殴られたまま言葉を返す。
その様子が異常だったのか、青年達は私から距離を取り始めました。なので私は距離を詰めます。
「こっちは大切な人を裸にひん剥くとか、金を強奪するとか言われたんだぞ?怒らないわけ、ないだろう?」
これがまだ、知っている人なら悪い冗談を言われたと思い、我慢が出来たかもしれない。注意だけで済ますことが出来たかもしれない。
だが、言われたのは見ず知らずの男性。
それも、知り合いに手を出した男性だ。
そんな男性共に、注意だけをして大人しく言う事を聞いてくれる、なんて思えない。
現に俺はさっきまで、こいつらに暴力はやめてと言っていたが、それでもやめなかった。
なら、俺だって遠慮はしない。
暴力ではなく、あくまで、心を徹底的に潰す。
「安心しろ。俺はお前らとは違う。お前らを殴る蹴る、なんて真似はしないさ。」
「そうか。それでも俺達は、」
青年の一人が、俺の足を思いっきり蹴ってきた。いきなりで少し驚いたが、驚いただけだ。痛みも、これから受けるかもしれない工藤先輩と菊池先輩の痛みに比べたら・・・全然痛くない。
「遠慮なくやらせてもらうがな。」
青年達は黒い笑みを俺に見せてくる。
その笑みに対し、
「!?な、なんだ、お前!?」
「どうして笑った!!??」
笑う?
そうか。俺は今、笑っていたのか。
「覚悟しろよ、お前ら。」
私が一歩近づくたびに、青年達は一歩退く。
「俺の大切な人に対して侮辱したんだ。お前らの人生全てを使って、懺悔させてやる。」
「や、やれ!こいつの息の根を止めろ!」
「「お、おう!!」」
青年達は、俺の心臓を止める気だった。
(上等だ。俺は手を出さない。絶対に手をだすわけには、いかない!)
どれだけ殴られようが蹴られようが構わない。
耐えて、必ず後悔させる!
時間は経ち、形勢は大きく変化していた。
「・・・なんなんだよ、なんなんだよ、お前ぇ!!」
3人の青年の内、2人は木に体を任せ、意識を失っていた。そして最後の一人は、腰を抜かしたように崩れていた。
「それはこっちのセリフだよ。いきなり出てきて暴行して、暴言を吐いて、俺がなんかしたのかよ。」
「しただろうがよぉ!俺の仲間に一体何をしたぁ!!??」
「何をしたのか?俺は何もしていない。奴らはただ倒れた。それだけだ。」
「嘘だ!てめーが絶対何かしたんだろう!?そうなんだろう!!??そうじゃなきゃ説明出来ねぇ!!!」
「・・・そういえばお前ら、さっき面白いことを言っていたな。」
「は?」
俺はある言葉を言う事にした。
「てめぇみたいな雑魚は、俺達強者に奪われるんだよ。何もかも、全て、だったか?」
「!?」
「今は、どちらが雑魚で、どちらが強者、なんだろうな?」
「や、やめろ!俺に手を出したらどうなるかわかっているんだろうな!!??」
「どうなるんだ?」
俺は興味本位で聞く。
すると、青年は笑う。
「警察が来るぞ。いいのか、俺に手を出しても?」
「お前、俺の話を聞いていないのか?ならもう一度言ってやる。」
俺はため息をつき、呼吸を整えてから発言する。
「俺はお前らに手は出さない。だから安心しろ。だが、」
「だが?」
青年は私の発言を繰り返す。
「お前らの心までは保証しない。この先、死んだ方がマシ、と思えるくらい、後悔させてやるよ。」
「や、やめろ!」
「やめろ?」
俺は青年の言葉を繰り返す。
出来るだけ圧を込めて。
「や、やめてください!あ、争いは何も生みませんよ!?」
「・・・そうかもしれないな。」
俺の返答に、青年はホッと安心した顔を見せる。
が、次の言葉で青年の色は絶望一色へと変わる。
「だが、何もしなければ俺の大切な人が被害に遭う。だから、何も生まなくても争うんだ。」
「わ、分かった!」
「何がだ?」
俺はなんとなく分かっていたが、敢えて聞く。
「もうお前に手は出さない!だから・・・、」
「お前に、か・・・、」
俺は青年に一歩、歩みを近づける。
「あ、あなた様だけではありません!あなた様と関りがある者全員に今後、一生近づきません!だから・・・!」
「お前のその言葉に、どれほどの価値があるんだ?」
「え?」
青年は俺の発言に対し、間抜けな声を返す。
「お前の言葉を、俺が素直に信じると思うのか?さっきまで嬉々として暴行し、大切な人に危害を加えると宣言した男の言葉を、俺が素直に信じると思うのか?」
俺はさらに近づく。
青年はさらに後退しようとするも、後ろには木の幹があり、もう後ろに下がることが出来ない。
「あ、ああぁぁ・・・・、」
「いい加減、お前も覚悟を決めて、後悔するといい。」
俺の同級生に手を出したこと。
そして、俺の大切な人に手をだそうとしたことを。
次回予告
『小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その7~』
桜井綾の父は一人で祭り会場に戻り、ある小さな会社員と青年達を探す。早乙女優を確認することは出来なかったが、警察署で奇妙な景色を目撃する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




