小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その5~
早乙女優が青年達を追い始めた一方。
「お母さん、お父さん!」
桜井綾達は、桜井綾の両親と合流する。
「それで、一体何があったの?」
「えーっと、まずはこれを読んで。それでね、まずは太田君を病院に連れて行ってあげて欲しいの。」
「太田君?」
ここで桜井両親は太田清志を見る。すると太田清志の頬には殴られた跡があった。
「大丈夫!?どこか痛いところはないかい!?」
桜井母は太田清志の元に駆け寄り、殴られた跡を優しく撫でる。
「へへーん。ちっとも痛く・・・いてて。」
「太田君、大丈夫!?」
「あなた、早く車を出しましょう!」
「ああ。みんな、早く車に乗ってくれ。急いで病院に向かうぞ。」
「「「はい。」」」
その後、桜井達は車に乗り、病院へ向かう。
病院へ向かう道中、桜井母は桜井綾達から事の顛末を聞いていた。
「・・・なるほど。そんなことがあったのね。」
「同じ男として許せないな。女を襲うなんて男の風上にも置けないな。」
「太田君、娘を、みんなを守ってくれてありがとう。この子達の保護者を代表してお礼を言うわ。」
「・・・別に。男として女を守るのは当たり前だ。」
太田清志は恥ずかしくなったのか、外を見て他の者達と目を合わせないようにする。その様子を見た桜井達の顔が綻ぶ。
「それで、もう一人の男の子・・・早乙女君はどうしたの?」
「えっと・・・、」
桜井綾は言い辛そうに言葉を濁す。
「早乙女君は何か、やるべきことがあるとかで行ったわ。」
「行ったわってどこへ?」
「そういえばどこかしら?二人は心当たりある?」
「私はないわ。太田君は?」
「俺もないな。」
「そう。」
桜井母は桜井綾達から聞いた話を元に、これまでのことを振り返る。
(まさか、早乙女君がこの子達を見捨てて先に逃げた?だとしたら、こんなメモをわざわざ残すかしら?)
桜井母は、桜井綾から渡されたメモを改めて見る。
そのメモには、今回の出来事の初めから終わり、その後どのように対応していけばいいのか、分かりやすく書かれていた。
(病院に行って診断書をもらいつつ、洋子ちゃん達のご両親に連絡し、事情を説明する。それぞれの家の電話番号まで!?どうやって知ったかについては、子供達から聞いた、ということにしておいて、口裏を合わせておいてください、ねぇ。)
何度読んでも違和感しかなかった。
(早乙女君って確か、今も不登校になっている子、だったわよね?そんな子がここまで考えられるかしら?あまりにもこの異常事態に慣れ過ぎていないかしら?)
今回の事態は異常事態。動揺し、まともな思考なんて出来るはずない。
少なくとも桜井母はそう思っていた。
だが、自分の娘と同じ年齢の子供は、異常事態を前にしても動揺せず、ここまでしっかり対処法を考え、メモとして残してくれた。
(綾と同じ年齢の時、私はこの子とまったく同じ行動が出来るかしら?少なくとも私は出来ないわ。)
「あなた。」
「ん?なんだ?」
「あなたは中学生の時、成人男性に襲われている同学年の子達を助けながら、このメモを残すことが出来る?」
桜井母は、自身が持っているメモを桜井父に見せる。
「・・・無理だな。見栄を張って、後ろに座っている太田君と同じことが出来るかどうか、というところだ。」
「そうよね。普通、ここまで出来ないわよね。」
桜井母は何度もメモを読み返す。
(翌年以降も夏祭りを開催してほしい為、出来ればむやみに言いふらさないようお願いいたします。なお、これは私個人の我が儘ですので、言う必要があると感じたのなら話して構いません。また、太田君達のご両親には、一から説明しないと事情を理解出来ないと思いませんので、太田君達の代わりに説明してあげてください。きっと色々あって精神的に疲弊していると思いますので、メンタルケアも行ってあげてください。)
何度目を通しても、とても中学生が書いたメモとは思えなかった。
(そうよね。洋子ちゃん達のご両親にも、メンタルケアが必要なことを言っておこうかしら。)
車が病院に到着し、太田清志は病院の先生に怪我を見てもらう。
桜井父が太田清志と共に怪我の状態に関する説明を聞いている間、桜井母は、風間洋子達のご両親に電話をかけ、事情を説明していく。
「太田君、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫なんじゃないかな?車の中でも結構元気にしていたし。」
「もしかして、気になっているから余計気になっているんじゃないかしら?」
「!?洋子ちゃん!」
そんな会話が病院の待合室で行われる。
少し時間が経ち、
「真紀!」
「清志!」
神田真紀と太田清志のご両親が到着する。急いできたからか、肩で息をしている。それでも我が子を見た瞬間、二人の両親は病院内でもお構いなしに走り、我が子を抱き寄せる。
「よかった。」
「無事で、本当に。」
二人の両親は、力強く我が子を抱きしめる。
「い、痛いよ、お母さん・・・。」
「母ちゃん、首、しめて・・・、」
「あ!?つい、ごめん・・・。」
太田母は慌てて太田清志から離れる。本当に苦しかったのか、太田清志は、太田母が離れてほっとしている。
「本当、無事でよかったわ。」
「まったく、無茶なんかして・・・私達の気も知らないで。」
「確かにちょっと痛かったが、後悔はしてないさ。なんたって、」
太田清志は周囲を見る。その周囲には、桜井綾、風間洋子、そして神田真紀が映る。
「俺がみんなを守ることが出来たんだからな。」
“どうだ?凄いだろう!”
と言っているような笑みを向ける。
「本当、私の自慢の息子だわ。」
「俺達の、だろう?」
太田父は自身の息子の頭を強めに撫でる。
「まったく。いつの間にかいい男に育ちやがって。父親として鼻が高いぞ!」
「えへへ。」
太田清志は両親の称賛に思わず笑みをこぼす。
「それじゃあ、少し話したい事がありますのでこちらへ。」
桜井両親は、太田両親と神田両親に、これまでの経緯、状況を再度伝える。
我が子の無事を間近で確認出来たからか、電話で事情を聞いた時より話が入っていく。
「・・・なるほど。」
「そうだよな。あの子達は辛い目に遭ったわけだからな。今日・・・いや、明日もずっと一緒にいて、安心させないとか。」
「ええ。お願いします。」
桜井母は、神田両親と太田両親に頭を下げる。
「!?頭をお上げください!」
「そうです!むしろ、このようなことをわざわざ伝えて下さり、ありがとうございました。」
「伝えてくれなければ、私達は一生このことに気付かなかったでしょう。私達こそ、教えて下さりありがとうございます。」
神田両親と太田両親も、桜井母に向けて頭を下げる。
共に頭を下げあう行為は、
「・・・お母さん達、何、しているの?」
「下になにかあるのか?・・・何もなさそうだが?」
子供達にとっては異様な光景だった。
「これは・・・なんでしょうね?」
「これは・・・お互い、感謝の気持ちを伝えあおうとしているんだよ。」
「だからって互いに頭を下げあっちゃ、その感謝の気持ちも伝える事なんて出来るのか?」
「・・・そうだね。」
互いに顔を上げ、
「それじゃあ最後に一言だけ。今回の件、うちの愚息を見て下さり、誠に、ありがとうございました。」
太田父は深々と頭を下げる。太田母も、太田父の後に続き、頭を下げる。
数秒経過した後、太田父は頭を上げ、太田母も頭を上げる。
「それで、私達に何か出来る事はありますか?出来る事なら協力致します。」
太田母の申し出に、桜井母は考える。
「それでしたら、」
桜井母は、太田清志を見る。
「息子さんのことを褒めてあげてください。あの子、凄いことをしたのですから。」
「ですね。」
「はい。」
その後、太田両親は太田清志を連れて、自宅に戻っていった。
「じゃあな。」
「本当に、ありがとうございました。」
「息子さんがいなければうちの娘がどうなっていたか・・・今回の件、ありがとう、ございました。」
神田両親、桜井両親、風間両親から感謝の言葉を浴びながら。
「それでは私達もこれで失礼します。」
「今回は本当に、本当にありがとうございました。」
その後を追うように、神田両親は神田真紀を連れて、自宅に戻ろうとする。
「洋子ちゃん、綾ちゃん、またね!」
神田真紀の言葉の後、神田両親は頭を下げ、病院から出る。
「さて、私達もでようか?」
「ええ。それじゃあみんな、私達の車に乗ってね?」
「「「はい!!!」」」
こうして桜井両親は自身の車に桜井家族、風間美和を除いた風間家族を乗せて、桜井家へ向かう。
「着いたぞ。」
「ありがとう。」
「先に入っていて。はい、家の鍵。」
「分かった。」
風間美和は車から降り、家の中に入る。
「今日、私達をそちらに泊めて欲しいのだが、泊まってもいいかな?」
風間美和がいなくなったところで、桜井父が風間両親に提案する。
「・・・分かった。異論、あるか?」
「ないわ。綾ちゃんが家に泊まれば、洋子も美和も喜ぶわ。」
「・・・えっと・・・本当にいいの?」
桜井綾は突然の話の展開に戸惑いを隠せない。
「ええ。今日は一晩中、洋子ちゃん、美和ちゃんとお話ししていいわ。」
「やったー!それじゃあ私、泊まる準備してきていい!?」
「ええ。はい、家の鍵。」
「ありがとう!」
桜井綾は勢いよく車から降りる。
「・・・どうしていきなり、家に泊まりたい、なんて言ったんだ?」
「そうね。うちは別に構わないけど、理由くらいは聞いても?」
風間両親は、桜井父の突然の提案に対し、質問する。
「もちろんだ。それは・・・、」
「子供達の心のケア。そうよね?」
「流石に分かるか。」
桜井母は、桜井父が言いたいことを先に言い当てる。
「多くの人と楽しくて濃密な時間を過ごせば、出来るだけ早く今日の出来事を忘れられるかと思っていてな。」
桜井父は、今しがた車から出た桜井綾の後姿を目で追う。その姿は既に確認出来なかったが、桜井父には見えていた。
「今綾は、洋子ちゃんとなんの話をするか、どうやって夜を過ごすか、そのことで頭が一杯だろう。そうやって楽しいことを考えて、今日の出来事がトラウマとして残らないようにしたいんだ。」
「・・・そうか。」
「・・・そうね。」
桜井父の考えを聞いた風間両親は、
「そういえば、美和に話していなかったわね。」
「だな。少なくとも、今日桜井一家が泊まることくらいは伝えておかないとな。」
「経緯は・・・二人っきりの時に話すわ。」
「それで頼む。」
「ところで、今日のご飯はどうするの?私達、していないわよ?」
「それなら、私達がいくつか作ってあるから、それを持っていくわ。」
風間母は自身の家に、ご飯がないことに気付く。その様子を見た桜井母は助け舟を出す。
「それじゃあお願い。もちろん、これから私もなにか作るわ。」
「なんなら、娘達にも手伝ってもらったらいいんじゃないか?」
「そういえば最近、料理作りを手伝っている気がするな。何かあったのか?」
「去年から早乙女君、という子から料理を教わっているらしいのよ。そしてその子の料理がとても美味しいのだとか。」
「また早乙女君、か。」
風間母の早乙女君という言葉に、風間父はポツリと言葉を漏らす。
「娘から少しは聞いているが、その早乙女君、という者は何者なんだ?」
「・・・少なくとも、私達の味方だと思う。でなければ、ここまでメモを残すなんてこと、しないもの。」
桜井母は、今も持っているメモを上に挙げ、みんなが見えるようにする。
「・・・そうだな。今はそれだけで十分だ。」
「それじゃあ、後は頼むぞ。」
「?あなたも一緒に泊まるんじゃないの?」
桜井父の発言に違和感を覚えた桜井母は質問する。
「私は周辺を見回り、不審者がいないか確認してくる。」
「「「!!!???」」」
桜井父以外驚く。
無理もない。
何せ、ついさきほど子供達が未遂とはいえ襲われたのだ。その上、男の子の方は怪我をしてしまった。そのような出来事の直後故、大人でも心配が拭えない。
「大丈夫なの?襲われない?」
「ああ。それに何より、」
桜井父は、自身が住んでいる家と、風間一家が住んでいる家を見る。
「洋子ちゃん、美和ちゃん、そして綾がその男共に襲われる、なんて事態は避けたいからな。」
我が子を危険から守りたい。その気持ちに全員賛同する。
「なら俺も行こう。多い方が色々助かるだろう。」
風間父は自ら名乗りを挙げたが、桜井父は首を横に振る。
「俺達の家に強襲、なんて可能性もある以上、男手は分散させた方がいい。だから何かあった時・・・頼んだぞ。」
桜井父の重い言葉に、
「分かった。この命に代えても、なにがなんでも守ると約束しよう。」
「頼む。」
「・・・本当に行くの?一緒にいてもいいのよ?誰も文句なんて言わないのよ?」
桜井母は、桜井父を心配する。
「俺は、家族を守りたい。そして、家族同然の親友と、その家族も守りたい。もし次に綾が危険な目に遭ったら、俺はもう止められなくなる。最悪、犯罪者になることもある。そんな事態が起きて欲しくないし、した後に後悔、なんてこともしたくないんだ。分かってくれ、なんて言わない。俺の我が儘を聞いて欲しい。男としてのちっぽけなプライドを。」
「・・・。」
桜井父は、桜井母の手を取りながら説得する。
「・・・必ず、帰ってきて。お願い。」
「ああ。必ず帰ってくる。」
こうして桜井父は、車からみんなを降ろした後、
(さて、行くか。)
桜井父は準備をしてから、周辺を歩き始める。
(さて、しっかり見回りしないとな。不審者は即通報ものだ。)
自身の家族と、親友の家族が危機に晒されないように。
次回予告
『小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その6~』
青年達は、早乙女優に騙されたことに気づき、憤慨する。そんな青年達の元に、小さな会社員が現れる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




