小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その3~
屋台を後にした私達4人は、社員寮に戻ってきました。なんでも二人が、あまり人が来ない場所で話をしたい、ということでしたので、社員寮に戻ってきました。
(共有のスペースで話をしても構わないませんが、念のため、私の部屋に案内しますか。)
共有スペースですと、他の先輩と鉢合せしてしまうかもしれませんので、私の部屋で話をしますか。
「いやー悪いね。なんか気を遣わせたみたいで。」
「いえ。お二人の身分を考慮すればこれくらい当然かと。」
「身分って。僕と優さんの間でそんな言葉をつかわないでくださいよ。」
「それより、そろそろ帽子とマスクを外してもいいのではないですか?」
「そうだね。この場にはこの4人しかいないわけだし。ほら、師匠も外しましょう?」
「・・・分かった。」
そう言い、二人は帽子とマスクを外しました。
すると、二人の素顔は明らかになりました。
「やはり、マスクは息苦しかったな。」
「ですね、こんなご時世だから簡単にマスクを外すことは出来ないですけどね。」
「改めまして、お久しぶりです。」
私の目の前にいる二人は、二人とも料理人です。
若い方の男性は、川越成也さん。
プロの料理人で、テレビの出演経験もあり、カリスマ料理人と世間で評価されている著名な料理人です。
そして隣にいる男性は、落合重彦さん。
この方もプロの料理人で、テレビにほとんど出演していませんが、料理の腕は料理界で随一、と呼称されるほどの腕を持っています。
この二人は師弟で、川越さんが昔、落合さんの元で修行していました。その関係が今も続いているのか、川越さんは落合さんの元で料理を教わっているらしいです。
そして、そんな二人と私の関係なのですが、菊地先輩の紹介で、私も落合さんの元で料理を教わっていたのです。そして、私が落合さんの元で料理を教わっている時期に、川越さんが落合さんの元で料理を教わりたいと懇願し、落合さんは受け入れ、共に料理を教わったのです。
簡単にまとめると、落合さんは私の料理の師匠で、川越さんは弟弟子、という関係ですね。
(でも確かこの二人、東京で店を開いていたはずです。)
それがどうしてここにいるのでしょう?ここ、東京都ではないですよ?まぁ同じ関東圏なので、いてもおかしくはないと思いますが、それでも疑問は残ります。
(まさか、この地域に出店でもするのでしょうか?)
であれば、下見をするために来た、と言われても納得出来ます。
「それで、どうしてこちらに何用で来たのですか?」
「まぁまぁ、少しくらい世間話しようよ。これをつまみに、ね?」
そう言いながら落合さんは焼きそばを出した。
(この焼きそば、私達が作った焼きそばではありませんか。)
まぁ、私は別に構わないのですが。
(にしても、つまみが焼きそばだけ、というのも寂しいですね。何か作りますか。)
私は立ち、台所に向かいます。
「手伝うわ。何作るの?」
菊池先輩が自然と私の隣に来ていました。
「そうですね・・・無難に野菜炒め、ですかね。」
後は・・・冷蔵庫に煮物の残りがあるので、それを温めてお出しするとしますか。
「何か作るのかい?僕も手伝うよ。」
「俺も何かやる。」
川越さん、落合さんも手伝ってくれるらしいです。
「ありがとうございます。それじゃあお願いしていいですか?」
そして、私を含めた4人で簡単な料理を作りました。
「相変わらず優さんは凄いね。全然、衰えていないね。」
「ふん。少しでも衰えていたら鍛え直していたところだったのだがな。」
私達4人は同じ食卓を囲み、さきほど作った料理を食べ始めます。
(それにしても、流石はプロの料理人です。たった数分でこれほどの料理を作ってしまうのですから。)
感心していたところですが、私は聞きたいことを思い出し、川越さんと落合さんに質問することにしました。
「ところで、ここに何用で来たのですか?こちらに出店するための視察ですか?」
「視察といえば視察だけど、出店するためじゃないよ。」
「出店の為ではない、ですか。では、どういう目的で視察していたのですか?」
どうやらさきほどの私の推測は間違いのようです。
「近々、この近くで料理の大会が行われるんだよ。その大会のサプライズ審査員として、僕が呼ばれたんだよ。それで、せっかく優さんが住んでいる地域の近くだし、ついでに有名な焼きそばを食べてみようと、今日、下見に来たんだよ。ね、師匠?」
「・・・ん。俺は単なる付き添いだ。どうしてもとこいつが来てほしいとうるさくてな。」
「え~?師匠、この焼きそばを食べに行くと言ったら迷わず付いてきて、独り身なのに中盛りの焼きそば5つも買ったくせに~。」
そ、そうだったのですか。私、知りませんでした。
「・・・。」
落合さんは川越さんに無言で頭を叩く。
「いた!?ちょっと師匠!!??また僕を叩きましたね!?僕、モグラたたきマシーンじゃないんですよ!?そう何度も何度も叩かないでくださいよ!!??」
「・・・知らんな。お前の気のせいじゃないのか?」
「白々しい!?たく、師匠は素直じゃないんだから。」
「ふん。」
この二人は相変わらずですね。
寡黙な落合さんを川越さんが茶化し、叩かれる。本当、変わらないです。
・・・ん?
「さきほど、サプライズ審査員、と言いましたか?」
「ん?言ったよ?」
「普通の審査員とは何か異なるのですか?」
「ああ。本当は誰にも言っちゃいけないんだけど、大会の決勝戦で、特別審査員として登場することで選手を驚かせよう、と画策しているんだ。」
「・・・誰にも言ってはいけないことを落合師匠や私、菊地先輩に話してよかったのですか?」
落合さんは川越さんの師匠ですから関係があり、話しても問題がない、と思います。
ですが私や菊池先輩は完全に一般市民です。そのような秘匿情報をペラペラ話してよかったのでしょうか?
「・・・師匠はまだいい、と思う。優さんや菊池さんは・・・黙っておいてくれない?」
「分かりました。菊地先輩もいいですよね?」
「ええ。優君のお願いならなんでも聞くわ。なんならスリーサイズなんかも・・・、」
「そんな個人情報は私に不要ですので言わなくて結構です。」
「そ、そ、そ、そんな!!!???」
「驚き過ぎですよ・・・・。」
落合さんと川越さんは相変わらずでしたが、菊地先輩も相変わらずでしたね。
「それで、さきほど下見と言っていましたが、宿泊場所は確保しているのですか?」
もし確保していないのであれば、この部屋をお貸ししますか。
「問題ないよ。ホテルは既に確保済みだから。ですよね、師匠?」
「ああ。」
「というか、あまり長居すると失礼だね。僕達はこれで失礼するよ。ほら師匠、行きましょう?」
「邪魔したな。」
こう言い、二人は立ち始めます。
「久しぶりに、優さんと料理が出来て楽しかった。こんな機会をくれてありがとう。」
「いえ。こちらこそ川越さん、落合師匠と料理が出来て刺激をいただきました。ありがとうございました。」
私は川越さんと落合さんに対して頭を下げる。
「ほら、師匠からも優さんに向けて何かいったらどうです?ほらほら~?」
「・・・腕が落ちていなくて安心した。」
「それはよかったです。」
料理についてはほぼ毎日していますからね。日々の研鑽は怠っていないつもりです。
「・・・暇だったら、今度うちに来い。今回のお礼でご馳走してやる。」
「ありがとうございます、落合師匠。」
「!?ずるいです師匠!時間があったら僕の店にも来てくださいね、優さん!」
「伺う機会があれば是非、寄らせてもらいます。」
「それじゃあ、今日はご馳走様でした。」
「また、来る。」
「はい。」
私の言葉に二人は頷き、私の部屋を出ていきました。
「行ってしまいましたね。」
「そうね。これで優君に思い残すことなく私のスリーサイズを・・・、」
「言わなくていいです。」
「ひどい!?・・・て、優君、どこかにでかけるの?」
菊地先輩は、私が出かける準備をしていることに質問してきます。
「ええ。商店街の方に顔を出してこようかと。」
「大丈夫?私も行こうか?」
「いえ、一人で十分です。私一人で屋台を見てまわりたいのと、花火を見ようかと思いまして。」
「ふ~ん・・・は!?ま、まさか優君、私を誘って・・・!!??」
「絶対に誘っていませんので安心してください。」
「分かった。体を清めながら、フォーエバーラブするための準備をしておくわ!」
「はぁ、そうですか。」
「楽しみに待っていてね。体を濡ら・・・、」
私は菊池先輩の言葉を最後まで聞かずに部屋を出ました。
(そういえば、菊地先輩を私の部屋において出てしまいました。)
菊池先輩、私の部屋で変なこと、しないといいですけど。
(・・・まぁ最悪、私物が漁られていなければよしとしましょう。)
あの菊池先輩のことです。大人しく私の部屋で待っているとは思えません。おそらく、私の部屋を色々見てまわっているでしょう。触っていたら・・・今度から触らないよう厳重注意をしましょう。
(さて、行きますか。)
私は自分の部屋を後にし、さきほどまでいた夏祭りの開催場所に向かいます。
一方、
「ちっ!全然ナンパが上手くいかねぇ!」
「どうする?まだ続けるか?」
「いや、いい。」
青年達はなんぱをしていた。だが、いい結果が得られず、不機嫌になっていた。
「焼きそばは買えないわ、女は捕まえられないわ、本当に最悪!」
青年は近くのごみ箱を蹴る。ゴミ箱は凹み、普段している住民が使い辛くなる。
「あ?」
その男の目にとまった光景は、
「このチョコバナナ、美味しいー♪」
「早くこの焼きそば食いてぇ。」
「太田君、駄目だよ?家に帰るまで我慢しよ?家族みんなで食べるんでしょう?」
「うぅ。この香り、早く食いてぇ~。」
「本当、太田君って食いしん坊よね。」
「な!?お、男はみんな食いもんに目がねぇんだよ!」
「・・・早乙女君もそうなのかな?」
それは、自身より背が小さい子供達だった。
その子供達は手に様々な食べ物を手に持っていて、その中には、青年達が狙っているある食べ物を所持していた。
「・・・おい。あれって・・・、」
「確かこの夏祭りって、焼きそばはあの伝説の焼きそばしか売っていなかったはず、だよな?」
「つまり、あのガキ共が持っている焼きそばは、あの伝説の焼きそばってことか!?」
「ああ。そうと分かったらとる行動は一つだな。」
青年の一人は歩き始める。
「とる行動って、具体的には何をするんだ?」
「決まっているだろう?」
歩み始めていた足を止め、仲間の青年達に邪悪な笑みを見せる。
「誰もいないところで奪うんだよ。」
「そうか。誰もいないところまで後をつけて・・・、」
「あいつら以外誰もいないことを確認して、奪う。やるぞ。」
「「おお。」」
こうして人知れず、青年達の焼きそば強奪計画が始動する。
次回予告
『小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その4~』
早乙女優に料理を教え、共に料理をした料理人二人と再会し、話に花を咲かせた早乙女優。その後、早乙女優は再び外に出る。そこで早乙女優はある現場を目撃する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




