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小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その2~

 夏祭りが始まり、しばらくの時が経過。

「小5,中7、大2、お願いします!」

「「「はい!!!」」」

「これ、追加の野菜と肉です!麺は・・・追加で持ってきます!」

 私達は相変わらず忙しく、今も鍋を振っています。

 ちなみにさきほどの小5、中7、大2というのは、焼きそば小盛り5つ、中盛り7つ、大盛り2つ、という意味です。

「優君、大丈夫?疲れていない?」

「問題ありません。菊地先輩こそ疲れていませんか?」

「私は平気よ!なにせ、優君の横顔を見ているのだから!」

「・・・そうですか。」

 菊池先輩の理由はよく分かりませんが、とりあえず元気、ということは分かりました。

(きっと、この商店街の方々が協力してくれたからですね。)

 今、私達の周りには、若い男女の方々がいます。その方々はいずれもこの商店街で育ってきた人達で、今も私達の屋台で協力してくれています。その協力のおかげで、私と菊池先輩は昨日ほど疲弊していないのです。

(その上、他の方々が注文を聞いたり列を整理してくれたりしているおかげで、私と菊池先輩は焼きそば作りに集中出来ます。)

 本当、商店街の方々に感謝です。

「・・・ん?え??」

「おい、どうした?」

「食材が、ないって。」

「は?そんなわけないだろう?今日はどれほど来ても大丈夫なように、いつもの何倍も仕入れたはずだぞ?その量が消えただと?そんなはずは・・・。」

「ないだろう?」

「・・・ないな。」

「どうしよう、これ?」

「どうしようかね・・・。」

 ん?何か話し声が聞こえてきますが、もしかして、もう焼きそばを作る材料がないのでしょうか?

「優君、大丈夫よ。」

 私が話し声に耳を傾けていると、菊地先輩が私に声をかけてきました。

「私達はただひたすら、焼きそばを作り続けましょう。これは今のところ、私と優君にしか出来ないのだから。」

「・・・ですね。分かりました。」

 私は目の前の焼きそばに集中し続けました。

(例え、仕入れた食材が底を尽いたとしても、今の私はただ、焼きそばを作るだけです。)

 この商店街の方々の為に。

 私は、商店街の方々に対する恩をかみしめつつ、焼きそば作りに励む。


「・・・やっぱ、もう焼きそばの材料がないな。」

「どうする?まだ長蛇の列が解消どころか長くなっているんじゃない?」

「このままだと、2人が潰れるな。」

 この会話に、ある男性が乱入する。

「なら、もう屋台の営業は終わりだな。あの2人を潰してまでこの屋台を続けることは、俺が絶対に許さない。」

 その男性は、工藤直紀だった。

「だからといって、今並んでいるお客様を無下にするわけには・・・、」

「そもそも、焼きそばを提供するだけの食材がないし・・・、」

「・・・俺が隣町に行ってくる。」

 工藤は車の鍵を取り出し、手に握る。

「隣町まで行けば、野菜や肉くらいはあるだろう?ありったけ買ってくる。それまで持つか?」

「持たせます。」

「そうか。それと、食材運搬用に何人か付いてきてくれ。」

「分かりました。」

「それじゃあ、これ以上列が長くならないよう周知してくれ。俺達は隣町まで車を向かわせ、食材を調達してくる。」

「分かりました。それではいってらっしゃいませ。」

「ああ。」

 工藤直紀は、早乙女優と菊池美奈を一目見て、

「無理しないよう、制限を頼む。」

 工藤直紀のこの言葉に、菊池美奈は無言で肯定する。

(・・・まだ列は長そうね。でも、終わりは見えてきたわ。)

 そして、目の前の焼きそばを仕上げる。

「優君、ここが踏ん張り時よ。」

「はい。」

 菊池美奈は自身を鼓舞しつつ、早乙女優も鼓舞する。

 この数分後、ある情報がネット上に広がる。

 その情報とは、ある伝説の焼きそばが販売に制限をかけたことである。制限とは、現在並んでいる人達をもって、焼きそばの販売を終了する、というものだった。

 その情報が発信された直後、

“まじかよ!?”

“俺、もう少しで最寄り駅に着くんだけどな。残念だぜ。”

“俺、今買ったばかりなんだけど、列の長さやべぇぞ。今載せるわ。”

“どれどれ・・・うわぁ。これ、本当に屋台の列かよ。”

“この列が2日間も続いたら、制限をかける気持ちも分かるわー。”

“それにしても、あの長蛇の列に並んでまで食べたい焼きそばか。一体どんな味なんだ?知っていたらコメントよろ。”

“俺、今車内で食っているんだが、これは他の焼きそばより格段に上だわ。まさに伝説の焼きそばって感じ。”

“まじか。俺、一度食ってみたかったわ。”

“もしかしたら来年、もしくは再来年になったら食えるかもしれないから、それまで普通の焼きそばでも食って待っとけ。”

“あぁ~。来年再来年が楽しみだわ~。”

 そんな書き込みがネット上に載る。


 その後、食材を買い込んだ工藤直紀達が屋台に到着し、買い足した食料でなんとか残りのお客様に十分な焼きそばを届けることが出来、列に並んでいた人達全員が満足してくれる結果となった。

 その中には、

「・・・やった。やっと買えたよ、洋子!」

「よかったわね、綾。」

「私達も買えてよかったわね、太田君!」

「だな。早く帰って食いたいぜ!」

 とある中学生達は、焼きそばを買えたことに対して喜ぶ。

「あ~あ。買えなかったすね。」

「ち!こうなるんだったら、ナンパするんじゃなかったぜ。」

「本当ですね~。」

 ある青年達は、焼きそばを買えずに後悔する。

「・・・やっと買えたか。」

「ですねー。それにしても、流石は兄弟子。凄い行列でしたね。」

「どんなに長い行列でも、美味しくなければ意味がない。」

「またまた~。そう言いながら師匠は中盛りを5つも買っていたじゃないですか。普段はそんなに食べないくせに、どうしてそんなに買ったのですか?もしかして、一番弟子の料理が気に入ったから・・・いで!?し、師匠!!??今、僕の頭をはたきました!!!???」

「うるさいぞ。それに俺はお前の頭をはたくなんて暴力行為はしない。」

「じゃあこの頭の痛みはなんなんすか!?僕の気のせい!?」

「ああ。」

「正面から嘘つかれた!?」

 ある成人男性2人組は、焼きそばが買えたことに一喜する。


(・・・これでようやく、焼きそばを作り終えることが出来ました・・・。)

 屋台に置かれていた食材は全て使い切りました。これでもう、今日の分は作らなくていいはずです。

(まさか、ここにきて追加の食材とかない、ですよね?もう作らなくていい、ですよね?)

 私は確認の為、周囲を見渡します。・・・どうやら、追加の食材はないようです。

「それでは片付けを始めましょうか。」

 私は片づけを始めようとしたのですが、

「いやいいから!」

「二人はとても頑張ってくれたから、もう休んでいいよ。後は私達に任せて、ね?」

「ですが・・・。」

 みなさんのおかげでまだ余力が残っていますので、片付けする体力は残っています。

「いいんじゃないかしら?みんな休める時に休むのも必要なことよ。」

 菊池先輩のこの言葉に、

「・・・分かりました。ここはみなさんに甘えさせていただきます。」

 素直に従うことにしました。

(きっとみなさん、私の体調を気遣って休むように進言してくれているのでしょう。その優しさを無下にしてしまうのは駄目な気がします。)

 それに、私が片づけを手伝うとなれば、菊地先輩も必ず片づけを手伝います。私と同じくらい、いえ、それ以上に働いてくださった菊地先輩にこれ以上の労働をさせるのは酷、というものでしょう。ここはみなさんのご厚意、菊地先輩の体調を考慮して、大人しく帰るとしますか。

「昨日今日と、本当に、本当にありがとう。」

 商店会長さんは、私と菊池先輩の手を取りながら、私達に頭を下げてきます。

「いえ。頭を上げて下さい。」

 私の言葉に、商店会長さんは頭を上げます。

「私こそ、貴重な体験をさせてくださりありがとうございます。今後も私を助けて下さった方々の為に、この力、ふるわせていただきます。」

「早乙女君・・・。」

 商店会長さんは私の手を強く握る。

「君が困った時、いつでも言ってね。私達は必ず、早乙女君の力になると約束するよ。」

「ありがとうございます。その言葉だけでも嬉しいです。」

 こうして私と菊池先輩は、屋台を後にしようとした。

「ちょっと今、いいですか?」

 誰かが声をかけてきました。

(一体誰でしょう?)

 誰なのか顔を見てみたのですが、マスクと帽子で隠れていて見えません。本当に誰でしょう?

「いいですけど、どなたですか?」

「あ、ここで名乗るのはちょっと・・・、」

 その人は周囲を気にし始めます。

(もしかしてこの人、有名な方なのでしょうか?)

「早乙女優さんに用があるのですが・・・、」

「え、私、ですか?」

 このような怪しい方と知り合いになった覚えはないのですが、本当に誰なのでしょう?

「僕ですよ、僕。」

 そう言い、目の前の方は私の前まで来て、帽子を上げて自身の顔を見せます。

(なるほど。この方でしたか。)

 私は目の前の方の正体が分かり、ほっと一安心します。

「あの~、そちらの方は一体・・・?」

 そういえば周りに商店街の方々がいましたね。

(正直に言うと、ちょっとした混乱が起きるかもしれません。どう言いますかね。)

 少し考えた私はこう言うことにします。

「私の料理仲間です。ですよね?」

 私は帽子を深く被った者に質問します。

「まぁ、そうだね。そう、僕と早乙女優さんは料理仲間です。」

 どうやら帽子を深く被った者は私の意図を汲み取っていただけたようです。

(この方が・・・となると隣にいて一切話さないこの方は・・・なるほど。)

 この2人が一緒でここにいるのは珍しいですね。一体どんな用で・・・?

「そ、そうですか。」

 どうやら信じていただけたようです。よかった。

「ふ~ん。そういうことね。」

 ・・・もしかしなくても、菊地先輩は分かってしまったようです。今、私が誰と話しているのか。出来ればこの場でばらさないでほしいです。

「それじゃあ早乙女君、後は私達に任せて下さい。募る料理の話もあるでしょうし、ね?」

「はい。昨日今日と、お世話になりました。」

 私は商店会長さん、商店街の人々にお辞儀をし、二人と共にこの場を後にします。

「それじゃあ私も行くわ。後、お願いするわね。」

「おう。優のこと、頼むわ。こっちは任せてくれ。」

「言われなくても、優君の貞操は、私が守る!」

「いや貞操じゃないから。」

 こうして菊池先輩は、私達に付いてきてくれました。


「・・・本当によかったのですか?」

「なにがだ?」

 早乙女優と菊池美奈が屋台を去った後、商店会長は工藤直紀に質問する。

「だってあの人、見るからに妖しかったじゃないですか。もう一人に至っては一切話していませんでしたし。」

「まぁ確かにそうなんだが、平気じゃねぇか?」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。何せ、」

 工藤直紀は、早乙女優と菊池美奈の後ろ姿を見る。

「あの菊池がついているんだ。なにかあったら、あいつが対応してくれるだろう。あいつ、優のことが大好きだからな。」

「まぁ、工藤さんがそう言うならいいですけど。それじゃあ私達はこの屋台の片づけをしますね。」

「あ、俺も手伝う。なにせあの二人が頑張ったんだ。俺も頑張らないと。」

「ありがとうございます、工藤さん。」

「気にするな。困った時はお互い様だからな。」

 そう言い、工藤直紀は屋台の後片付けを始める。

(それにしても、優の料理仲間、か。そういえば昔、優は菊池の紹介である料理人から料理を教わっていたよな?その人物は確か・・・?)

 工藤直紀はそんなことを考える。その間も、早乙女優達4人は、ある場所へ足を向かわせていた。

次回予告

『小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その3~』

 ある料理仲間2人に出会う早乙女優と菊池美奈。早乙女優がその料理仲間2人と談笑していく中。不穏な計画が浮上し始める。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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