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小さな会社員の京都出張前学校生活~水曜日~

 水曜日。

 時は5限目を終え、帰る用意を始めていた。

「…あれ?早乙女君、クラブはでないの?」

「クラブ…。」

 あ。しまった。忘れていた。

「…その顔。さては忘れていたな?」

「…やっぱり、分かってしまいますか?」

「そりゃあね。こうやって毎日、ではないけど君と過ごしていれば、ね。それに、」

 先生は保健室にある冷蔵庫から卵を取り出す。保健室に冷蔵庫、あったんだ。

「早乙女君。今朝はクラブの事、憶えていたでしょ?だからこうして卵を持ってきたのでしょう?」

「いや、まぁそうなんですけど…。学校で先生と話をしている内に頭からクラブの事が抜け落ちてしまって…。」

「はぁ。それじゃ、行きましょうか?」

「え?先生も、ですか?」

 先生って、家庭科クラブの担当だったのか?

「そうよ。最も、私は早乙女君、君の付き添いだけどね。」

「それってどういう意味ですか?」

「簡単に言えば、君が悪さをしないよう見張れ、とのことよ。」

「…分かりたくありませんが、分かりました。」

 つまり、あのカンニング(くどいようだが、やっていない)事件から、また何か悪さを働くのではないか、と他の先生方は考えているのだろう。そして、保健室登校していることから、保健室の先生に監視させ、面倒ごとを起こさせないようにしている、ということか。何も悪いことをしていない私から言わせてみれば、何ともひどい扱いだ。

「だから、私も一緒に家庭科室に行くわ。」

「…分かりました。」

 私は自身の扱いの悪さに気付き、落ち込んでしまう。

 何故、何も悪いことをしていないのに、腫れものを扱うような対応をするのか。もしかして、カンニング以外にも、何か悪いことをした、という虚偽の報告でも上がったのだろうか。そんな心配をよそに、私と保健室の先生は家庭科室へと向かう。


 家庭科室。

 私はその扉を前にし、

(ふぅ…。なんか、心臓がちょっとうるさいな。)

 少し、緊張していた。

 前にも一度入ったことはあったが、何故か今回は緊張していた。何故だかは分からない。けど、

「…そんなにビクビクしなくいいのよ?なんなら、私が開けましょうか?」

 …どうやら、保健室の先生には、私の異変に気付いていたらしい。さすが先生。生徒である私の事をよく見ている。

 私は大きく深呼吸をし、

(いざ!)

 ガラガラガラ。

 家庭科室の扉を開けた。

「お、来たか。」

 そこには前回見た男性と、

「あ!今日は一緒に頑張ろうね、早乙女君!」

 同学年の桜井さんと、

「さて、こっちでは初めまして、かしらね、早乙女君?」

 風間さんがいた。


 簡単に挨拶を済ませ、私達はホワイトボードに視線を送っていた。

 メンバーは同学年の桜井さんと風間さんだけでなく、あのカツ丼大好き男もいた。それに数名の男女と先生2人。計11名がこの家庭科室に在室している。

「さて、今日はオムレツを作ってもらおう。作り方はこのホワイトボードに全部記載したから、各自で見るように。それでは調理始め。」

 と、男性は言い終えるよ、椅子に座り、本を読み始める。そして、私と保健室の先生以外の人達は家庭科室特有の机に戻り、手を洗い始めた。

 ・・・。

 え?

 説明、これだけですか?

 オムレツを作るときのポイントとか、詳しい調理手順とか、そういう説明はしないのか?

「…やっぱり、あの先生は放任主義なのね。」

「え?どういうことですか?」

「…あの先生は基本、放任主義なの。あの先生にも考えはあるだろうけど、クラブはもちろん、授業でも必要最低限のことしか教えていないのよ。後は各自の予習復習に任せているの。前の時もほとんど口をだしていなかったでしょ?」

 前の時って、あのカツ丼づくりのことだよね。あの時は…確かに、あの先生は一切口を挟んでいなかったな。

「確かにそうでした。」

「でしょ?だから、あの先生はそういう人だと思ってくれていいから。」

「そ、そうですか。分かりました。」

 確かに、他の人達は一切文句なく行動している。今は調理手順を確認しているのか、ホワイトボードを凝視している。

「さ、あなたもオムレツ?だっけ。作っておいで。」

「え?先生は作らないのですか?」

「早乙女君こそ何を言っているの?私は早乙女君を監視するためにここに来たのよ。一緒に料理はしないわ。」

「そうですか。分かりました。それでは料理してきますね。」

「ええ。存分にしていらっしゃい。」

 私は手を洗い、調理器具、食材を用意する。

「さて、それでは始めますか!」

 さて、料理を始めよう。

 


 オムレツ。

 それは卵料理の一種。

 ある人は、

 “この料理で、料理人の実力が分かる!”

 とか言っていたような、言っていなかったような…。

 だが、作るのにコツがいるのは確かだ。ボーっとしながら作っていると、焦がしてしまい、苦くて黒いオムレツになってしまう。…ま、これは自身の不注意が招いた結果なのだが。

 とにかく、簡単にまとめると、

 

 ・卵を割って混ぜる

 ・熱したフライパンに混ぜた液を入れる

 ・フライパンのうえで混ぜる

 ・半月上に形を整える

 ・用意した皿に盛りつける


 ざっとだが、大体こんな感じだろうか。

 要点を確認し、注意しながら何回も練習すれば作れる料理だ。私も昔は何度も失敗し、その度に菊池先輩に迷惑をかけていたな。

 さて、感傷に浸るのは後にするとして、今はオムレツ作りだ。

 材料は卵だけでも作れるが、ホワイトボードによると、卵だけでなく、牛乳も入れるらしい。確かに、牛乳を入れた方が、風味がまろやかになると聞いたことがあります。今度、牛乳を入れて、オムレツを作ってみようかな。

 だが、

(私、牛乳を持ってきていないのですが。)

 そう。必要な材料である牛乳を持ってきていないのだ。これではホワイトボードに記載されているオムレツが作れない。いや、最悪卵だけで、

「…ん?お前もしかして、牛乳忘れたんか?」

 私の様子に気付き、家庭科の先生が近づいてくる。ここで嘘ついてもいずればれるでしょうし、嘘をつくメリットがない。なので、

「すいません。牛乳を忘れてしまいました。すいません。」

 と、頭を下げる。

 自分が悪いと思ったら頭を下げる。

 今回は牛乳を忘れた私が悪いので、先生に頭を下げる。

 しかし、牛乳が必要になるなんて聞いていなかったけどな。もしかして、メモし忘れていたのかもしれないな。もっとしっかりしないと。

「ん~。ま、忘れちまったものはしょうがない。ちょっと待ってろ。」

 と言い、教壇の上にある牛乳パックを一つ手に取り、

「ほい。」

 と、私に渡してきた。

 え?でもこれって、

「これは先生が持ってきた物では?」

「あ?そうだぞ。だが、俺は一切料理なぞしない。俺が提供するのは材料と調理場だ。対価として、みんなが作った料理を一部もらうぞ?」

「?はい、分かりました…?」

 ・・・?

 つまり、どういう事だ?

 私が先生の言ったことについて考えていると、

「早乙女君、ちょっといい?」

「はい。なんでしょう?」

 桜井さんが話しかけてきた。何の用でしょう?

「さっき先生が言ったことなんだけど、つまり、先生は材料を多めに持ってきてみんなにあげて、みんなに作らせて、その完成品の一部をもらっているの。」

「…な、なるほど。分かりました。」

 つまり、

“材料費はある程度負担するから、作った料理を分けてくれ。”

 ということか。

「確かに、最初はあなたと同じように戸惑っていたけど、材料費が少し浮くからみんな助かっているの。ま、持ちつ持たれつ、と言ったところかしらね?」

 ここで風間さんが補足してくれる。

 持ちつ持たれつ、ですか。

 なるほど。そういうことでしたら納得です。現に今、先生に助けてもらったわけですし。

「それでは、オムレツを作りましょうか?」

「うん!」

「そうね。」

 こうして、オムレツ作りが始まる。


「…なんで、なんで上手く出来ないのかしら?」

「うう…。早乙女君はいいなぁ…。」

「う~ん。さすが、早乙女君ね。」

 数十分後、それぞれが作ったオムレツを見て、桜井さん、風間さん、保健室の先生が感想を述べる。といっても、何故か私の作ったオムレツに、みんなの視線が集中していた。

「…お?このオムレツ作ったのは誰だ?」

 不意に、男の先生がはっきりとした声で質問してくる。

「え?わ、私ですけど、」

 まさか、このオムレツがすごく不味かったとか!?

 …食べていないのにそんな判断が出来る訳ないか。となると一体…?

「…ふむ。一口もらっていいか?」

「あ、どうぞ。」

「それじゃ。…うん、美味いな。」

「ありがとうございます。」

「みんな!このオムレツを目標に作るんだぞ!」

 と、男の先生は周りの生徒達を周囲に呼ぶ。

「ええ!?これ、さっきの子が作ったの!?」

「すごくきれい。それに美味しそう。」

「ほら。倉橋君も見習ったら?」

「うるせー!オムレツなんか作れなくたって死にはしねぇからいいんだよ!」

 それぞれの感想?愚痴?を述べてくる。

「何か困ったら、彼に聞くように。」

「え?」

 何故急にふるの!?

「「「はーい!!!」」」

「え?ええ!??」

 しかも、決定事項なのか!?

「ねぇーねぇー。どうしたらそんなきれいなオムレツが作れるの?」

「作っているところ見せてー。」

「ええっと…。」

 私は保健室の先生に視線を送る。

 困った時の先生頼みだ。

「いいんじゃない?作っているところ、見せてあげれば?」

 と、返されてしまった。こうなったら、男の先生にも意見を求めよう。

「あの。先生は…。」

「それじゃあ、後は頼むぞ、早乙女?」

「え?あ、あ、はい。」

 あ。つい返事してしまった。これは、やらないと、かな。

 でも材料がもう、

「あ、材料が無いのか?材料ならこっちにあるから、これを使ってくれ。」

 と、先生自ら持ってきてくれた。

「あ、ありがとうございます。」

「これぐらいは別にいいさ。それより、」

 と、後ろを親指で差す。その方向には、みんな、何かを期待するかのような眼差しで見てくる。これって間違いなく、

「頑張って教えてやってくれよ?それと、後で一口もらいに行くからな?」

「…分かりました。」

 何故、男の先生がここまで期待をよせているのか分からないけど、今の私にできることをしよう。私はみんなに説明しながら作り始めた。


 結果、みんなの腕は目に見えて上達した。

 というのも、最初がちょっとあれだったからかもしれない。

 最初、オムレツという名の焦げを生産していた人も、教えながら作っていったらオムレツに見えるオムレツを作ることが出来るようになっていた。桜井さんや風間さんも半月上のきれいなオムレツを作れるようになり、半熟トロトロのオムレツに挑戦していた。ま、時間足らずで出来なかったのだが。他の人もオムレツを作ることが出来るようになり、ワイワイ騒ぎ、喜んでいた。その様子を見ただけでも、この大量のオムレツを作った甲斐があったというものです。

 試食の時も、全員、私が作ったオムレツを食べようとしていたので、個別に切り分けていたその時も、

“うわ~。”

 とか、

“半熟のトロトロ。すご~い。”

 という声が聞こえてきた。なので、

「大丈夫ですよ。今日の調子なら、みなさんもすぐに作れるようになれますよ?」

 と言ったら、また大騒ぎしていた。あんな短時間でこれだけ作ることが出来れば、充分な気がしますが、極めることに関しては個人の自由ですし、そっとしておきましょう。

 何気に、

「私の分ってある?」

「俺の分は当然あるよな?」

 先生達からもオムレツの催促をされた。これ、そんなに美味しいですか?普通に作ったただのオムレツなのですが。

 そんな忙しいひと時を終え、みんなで片づけを済ませ、解散となった。

 帰り際、

「「「ありがとーございました!!!」」」

 と、みんなにお礼を言われたことに驚いた。

「私からも、今日はありがとう!とっても分かりやすくかったよ!」

「うん。私も今日なら何でも作れるって感じがするわ。」

 桜井さん、風間さんも大変満足していた。

 だが、

「おいお前!オムレツが作れるからって調子に乗るなよ!俺だったらもっと美味い…!」

「はいはい。そういうのは、オムレツが作れるようになってから言おうね、倉橋君?」

「うっせー!」

 カツ丼大好き男、じゃなかった、倉橋君は納得がいっていないみたいだった。

「それでは、失礼しました。」

「おう。また来いよ、早乙女。」

「バイバイ!」

「また明日ね。」

「はい。」

 そう言って、私は家庭科室の扉を閉めた。

「どう?久々のクラブは?楽しかった?」

 保健室の先生の問いに、

「ええ。それはもう。」

 私は笑顔で返した。

 こうして、水曜日は終わりを告げる。

次回予告

『小さな会社員の京都出張前学校生活~木・金曜日~』

 家庭科クラブでオムレツを作った優は一時期、みなの視線を牛耳っていた。そんな水曜日を終えた木曜日、桜井達は、優がいる保健室へと足を運ぶ。

 そして金曜日。家庭科クラブのメンバー全員にアンケートを行い、その結果を先生は拝見する。その結果を吟味した先生は…。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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