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小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その1~

「優君、おはよ~♪」

「菊地先輩、おはようございます。今日も早いですね。」

 やはり、今日も夏祭りの準備があるから、早起きしてくれたのでしょうか。

「ええ。早く起きたら優君が早起きご褒美として、私にチュッチュさせてくれるかなって♪♪」

「そうですか。」

 さきほどの菊池先輩の発言内容について、深く考えないようにしましょう。どうせ考えても無駄になるだけです。

「もう~、優君のい・け・ず♪♪♪」

「どうでもいいですけど、私は朝食を食べ終えたら商店会長さんにお願いしたいことがありますので、商店街の方に顔を出そうと思っていますが、一緒に行きますか?もちろん、私は強制しませんのでご自由に決めて下さい。」

 菊池先輩にも予定がありますからね。確か前に確認したところ、本日の予定はないと言っていた記憶はありますが、先日急用が出来て今日の夏祭りの手伝いが出来なくなった、なんて可能性もありますからね。

「もちろん行くわ!例え今この瞬間、テロリストがこの社員寮に乗り込んできたとしてもね!」

「物騒なことを平然と言わないでください。」

 まったく。菊池先輩は何を言っているのやら。

 私は菊池先輩に呆れながら、共に朝食を食べた後、商店会長さんに会うため、商店街に向かいました。


 商店街に到着した私と菊池先輩は、商店会長さんの元へ向かう途中、先日私達が働いていた屋台の前を通ったのですが、

「・・・なんか、増設していません?」

「しているわね。」

 何故かは分かりませんが、昨日より屋台が大きくなっています。おそらく、今も作業している人達が増設してくれているからでしょうが、どうして増設しているのか分かりません。何をしているのかは分かりましたが、どうして屋台の規模を大きくしているのか分からないので聞いてみますか。

「すみません。」

「ん?お前さんは・・・もしかしなくても優か!!??」

「え?あ、はい、そうです。」

 私は質問してきた男性に応えると、いきなり両手を掴んできました。

「昨日はありがとな!優のこの屋台が大繁盛してくれたおかげで、俺達の屋台も例年以上に繁盛したわ!がっはっは!!」

「そ、そうですか・・・。」

 この男性、急に私の背中を強く叩きながら笑っていますね。どう反応すればいいのか分かりません。

(だからといって、今の菊地先輩みたいに嫉妬するのは間違いだと思いますけど。)

 私は、菊池先輩の感情の変化に呆れました。

「それと、昨日は手伝えなくてすまなかった。だからお詫びに、こちらから人員を出そうと思ったんだ。そうなると、この屋台のサイズだと小さいと思ったから、思い切ってこの屋台を増設しようと思い、行動しているところだ。」

 なるほど。

(考えていることは同じ、ですね。)

 私は自然と頬が緩んでしまった。

「?優君、どうしたの?」

「いえ、ちょっと嬉しくなりましてね。」

「嬉しい?どういうこと?・・・あ。」

「ええ。菊池先輩が考えている通りかと。」

「そう。それなら良かった♪」

「?どういうことだ?説明してくれ。」

 男性は私に説明を求めてきました。

 無理もありません。さきほどのやりとりは私と菊池先輩の二人で完結していましたからね。説明しますか。

「私は今日、商店会長さんにあることをお願いしようと思いまして、ここに来ました。」

「ほぉ。それでそのお願いというのは何だ?」

 私は男性のこの質問に笑みをこぼしながら、商店会長さんに会う目的を話します。

「今日の屋台について、商店街の方々にも協力してもらいたかったので、そのお願いに来たのです。」

「ん?てことは・・・?」

「はい。商店街のみなさまも同じことを考えていたようですので、嬉しくなってしまいました。」

「そうか。それはよかった。」

 その時、商店会長さんがこちらにやってきました。

「おはようございます。」

 私は商店会長さんに挨拶をします。

「おはよう、早乙女君。それで、どうしてこちらに?まぁ私としては助かるのだが。」

「今日の夏祭りの件でお願いしたいことがあるのですが、どうやら私と商店会長さんが同じ考えのようです。」

「同じ考え?・・・なるほど。それはよかった。どうやら私の行動が無駄にならなさそうだな。」

 そう言いながら、商店会長さんは自身を私から見て左右方向に移動する。

「そちらの方々は?」

 商店会長さんの後ろには、あまり見慣れない方々がいました。

 性別は男女両方いて、年齢はいずれも二十代、といったところでしょうか。この方々と商店会長さんは一体どのような関係なのでしょうか?

「ああ、紹介するよ。」

 商店会長さんがそう言うと、まず若い男性の方が一歩前に出ます。

「俺はこの商店街で八百屋をやっている店長である父の息子だ。次期店長になる予定だから、野菜の扱いは俺に任せてくれ。」

「次は私だね。私はこの商店街の肉屋をやっている店長の娘よ。こいつと同じ、次期店長になる予定だから、肉の扱いは私に任せて♪」

 そう言った後、二人の男女は睨み始めました。

(なんだかこの二人を見てると、菊地先輩と工藤先輩を連想しますね。)

 工藤先輩と菊池先輩、あの二人が揃うと、いつも険悪な雰囲気を出している気がします。心の底から嫌っている、というわけではないと思うのですが、だとしたらどうしていつも睨んだり言い合いになったりするのでしょうか?・・・まぁ、今考える事ではないと思うので放棄して考えを戻しましょう。

「他にも、この商店街の仲間で、早乙女さんの元で働きたいやつを何人か募ったからよ。」

「中には料理が出来ない人もいるけど、その人には昨日みたいな長蛇の列の整理とか、事前に注文を聞くとか、別の仕事をさせるわ。」

 更に後ろから何人もの成人がやってくる。

(これほどの人数が手伝ってくれるなら・・・。)

 私は商店街の方々と、商店街の方々が増設してくれている屋台。

(いける!)

 この時、私は確信した。

 今日の夏祭りは上手くいく、と。

「商店会長さん、これほどの方をありがとうございます。ありがたく、手伝ってもらいます。」

「ああ、こちらこそ、今日もよろしく頼む。」

 私は商店会長さんと手を結び、共に協力関係となったことを周囲に示す。

(正直、この協力はとてもありがたいです。)

 なにせ、昨日の人手、社員寮に住んでいる先輩方の手を今日は借りられなかったのですから。


 実は昨日、明日も手伝ってもらえないかと聞いてみたところ、予定があるから手伝えない、と断られてしまったのだ。まぁ、せっかくの休日ですし、予定だってあるでしょう。正直、日曜にどこかでかけて、その日の内に英気を養い、月曜日に出社出来るのでしょうか。中には月曜日に有休をとっている方もいましたが、それでも半数以上の方が月曜日に出社するはずです。月曜日にきちんと出社出来るのか不安になります。

(まぁ、先輩方はみんな社会人ですし、大丈夫でしょう。いざという時は電話からコールしますか。)


 そんな経緯があり、社員寮の先輩方の協力を得られなかったので、どうしようか考えたところ、商店会長さんの言葉を思い出し、商店街の方々に協力してもらおうと、こうして商店街まで足を運んだのです。

「菊地先輩も、今日もよろしくお願いしますね。」

「ええ、もちろん!」

「それじゃあみなさん、夕方までなんとしてでもこの屋台の増設を完了させましょう!」

「「「はい!!!」」」

「それじゃあ早乙女君達は今日の夕方まで、ゆっくり休んでください。」

「別に私は大丈夫ですよ?それで、私でもなにか手伝えることはありませんか?」

 私が商店会長さんに聞いてみたのですが、

「優君、ここは素直に甘えましょ♪ね?」

 ・・・。

「分かりました。ここは素直に甘えます。」

 私は素直に菊池先輩の言葉を信じ、甘えることにしました。理由は・・・特にないです。ただ今は菊池先輩の言葉に対し、素直に従うべき、と直感で判断しました。

「ここはすみませんが、みなさまにお任せしてもよろしいでしょうか?」

 私は商店会長さんと、商店街のみなさんに頭を下げます。

「!?頭を上げてくれ、早乙女君!!それと、」

 商店会長さんは自らの胸を叩き、

「ここは私達に任せてくれ。」

「はい。それでは失礼しますね。また夕方頃にお会いしましょう。」

 私は再度、商店会長さんと商店街のみなさんにお辞儀をし、商店街を後にしました。


 商店街から社員寮までの帰宅途中、

「菊地先輩、気を遣っていただきありがとうございます。」

 私は菊池先輩の顔を見ずに感謝の言葉を言う。

「・・・なんのことかしら?私はただ優君と出来るだけ一緒にいたくて我が儘を言っただけよ?」

「そうですか?私が過労で倒れることを危惧し、夕方の屋台に集中してもらおうと、さきほど発言してくれたのではないですか?」

 おそらくですが、菊地先輩はある未来を予知していたのかもしれません。

 ある未来というのは、今日私が屋台の増設に協力した後、屋台で焼きそばを作り続けてぶっ倒れてしまう、という未来です。

 私はそんな未来を想像していませんでしたし、そのような悲劇が怒るとは思えませんでした。

 ですが菊池先輩は最悪の事態を想定し、私の体を想い、帰らせてくれたのでしょう。

 証拠も何もなく、あくまで私の想像でしかありませんが、そんな感じがします。

「そんなことはないわ。ただ私は我が儘なだけよ。」

「そうですか。では、そういうことにしておきますね。ですが、これだけは言わせてください。」

 私は菊池先輩の前に立ち、菊地先輩の視界に入るようにします。

「その菊池先輩の我が儘のおかげで、私は倒れずにすみました。ありがとうございます。」

「・・・優君だってあの時、私の体を心配して、私の言葉に従ってくれたのでしょう?」

「?なんのことでしょうか?」

「自身がお昼も夏祭り関連で手伝ったら、必ず私も手伝う。土曜日の夕方は激務だった上、今日もそれ以上忙しくなることが予測されるわ。そんな激務が待っているのに、お昼も働いたら、最悪倒れるんじゃないか。そう危惧した優君は、私の言葉に従った。違う?」

 ・・・。

「いえ、違います。」

「それじゃあどうしてあの時、私の言葉に対し、素直に従ってくれたのかしら?」

「直感です。」

「・・・直感?」

「ええ。勘、とも言いますかね。」

 私のこの答えに、

「勘、ね。ふふ♪」

 菊池先輩は笑いをこぼします。

「?どうしたのですか?」

「なんだかおかしいなと思ってね。」

「??何がおかしいのですか?」

「・・・そうね。何もおかしくないわね。優君は勘に従い、私は我が儘を通した。ただそれだけ。」

 菊池先輩は私より前に出る。

「さぁ、帰ろうか?」

「はい。」

 その後、私と菊池先輩委は社員寮に戻り、夕方の屋台に備えて英気を養うことにしました。

「・・・優君、英気を養うというのは休むことなのよ?それなのにどうして優君は今も台所に立って料理をしているの?」

「そういう菊地先輩も、私と一緒に台所で料理しているではありませんか。私は夕方の屋台で作る焼きそばの最終調整です。」

「それじゃあ私も優君の最終調整をしないとね!」

「一体私の何を調整するつもりなのでしょうね・・・。」


 そして刻は刻み、夕刻。

「それではみなさん、今日はよろしくお願いします。」

「「「はい!!!」」」

 小さな会社員のかけ声に呼応し、多くの成人が声を返し、各々行動を始める。

「やっべー。あの行列の長さ、見てみろよ。やべーよ、本当にやべーよ。」

「お前、やべーしか言っていないじゃん。とはいえ、あの行列の長さはやばい、としか言い表せないな。俺が生きてきた中で一番の行列じゃないか?」

「あの人だかりを全てさばくのは、とても骨が折れそうだわ。」

「何言っているの!?一番辛いのは、もう料理を作り始めているあの2人なんだからね!私達が弱音吐いている暇なんてないわよ!」

「だな。」

「分かった。」

 屋台の準備が進められ、日曜日の夏祭りが始まる。


「それじゃあみんな、これからあの店の焼きそば買いに行こう?」

「分かったけど、あの長蛇の列、相当待つことになりそうよ。それでも大丈夫?」

「うん!」

「・・・ちなみに太田君、そのホットドックは何?」

「これか?長いこと待つと思ったから、待っている間に食おうと思って買っておいた。」

「これから私達、焼きそばを食べるのよ?それなのに太田君は・・・。」

「俺、成長期だから食欲旺盛なんだよ。」

 ある中学生は、焼きそばを求めて並び始める。


「確かここだよな?」

「ああ。ここのこの屋台の焼きそばがめっちゃ美味いと好評なんだとよ。」

「へぇ。まぁいい。その焼きそばをあげれば、俺の彼女である実子も・・・お前ら、行くぞ!」

「「はい。」」

 ある青年達も、焼きそばを求めて商店街にやってくる。


「・・・確かこの駅、だったよな?」

「はい。確かこの駅が最寄りの駅だったはずです。」

「そうか。」

「楽しみですね。やっと兄弟子の焼きそばが食べられるのですから。師匠も楽しみ、ですよね?」

「・・・俺はただ、お前の下見に付きあわされた哀れな老人だよ。」

「老人?師匠みたいな頑固老人がいてたまりますか。何せ師匠は俺の・・・、」

「頑固老人、だと?まさかお前、俺のことをそんな風に思っていたのか?」

「ひっ!?そ、そんなわけないじゃないですか~。やだな師匠。僕はいつでも師匠のことを心優しき恩人だと思っていますから!」

「ふん!」

 とある成人男性2人組も、焼きそばを求めて最寄り駅までやってくる。


 それぞれの目的を持って、夏祭りに足を向ける。

次回予告

『小さな会社員達の屋台運営生活~2日目その2~』

 様々な人が伝説の焼きそばを期待している中、早乙女優と菊池美奈は列に並んでいる者達の為に焼きそばを作り続ける。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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