小さな会社員達の屋台準備生活
テストの一件からおよそ一週間。世間では終業式が終わり、夏休みに突入したとか言っていますが、今の私には関係ありません。何せこれから私は屋台で料理を作る、という大切な仕事がありますからね。
(幸い、屋台の設置等は、商店街の方々がやってくれるということですので、私は料理に集中しましょう。)
さて、と。
私はネットニュースを見る。
“あの伝説の屋台が復活!!??誰もが一度は食べたくなる絶品の焼きそば!!!”
このニュースに添付されている画像の背景は確か、一昨年私が料理を出した屋台のはず。その屋台が宣伝されていますね。宣伝してもらうのは嬉しいですが、伝説の屋台ってそこまでなのでしょうか?・・・まぁ、派手に宣伝されたことでこの商店街が盛り上がるならいいですかね。私は美味しい焼きそばを作るだけです。
「屋台の準備、ありがとうございます。」
私は、屋台の設置に協力してくれた商店街の方々にお礼の言葉を述べる。私より短時間で屋台の設置をしてくれましたからね。
「いいんだよ。今の俺達にはこれくらいしか出来ないからな。」
「それより優ちゃんは料理に集中し、頑張ってほしい。」
「何せ、伝説の屋台、の料理人だからな!」
「が、頑張ります・・・。」
みなさん期待してくれていますし、その期待に答えられるよう頑張りましょう。
「焼きそば作るのに必要だと言われた食材は一通り用意してあるから、頑張れ!」
「私達にも協力出来ることがあるなら言ってね!」
「いつでも駆けつけるわ!」
そう言い、商店街の方々は去っていきました。私は頭を下げて見送りました。
「・・・さて、頑張りますか。」
私は振り返り、屋台を見る。その屋台は、一昨年とほとんど変わらない見た目だった。
だが一個所だけ、一昨年と異なる個所があります。
「伝説の味、か。」
この言葉に合うよう作らないと、ですね。
「優君、おまたせ。」
「菊地先輩、準備は終わりましたか?」
「ええ。さっき、商店街の人達にもお礼を言っておいたし、お願いもしてきたわ。」
「お願い、ですか?」
お礼はおそらく、この屋台の設置だと思うのですが、お願いとは何のお願いなのでしょうか?
「ええ。人手が必要になったら手を貸して欲しいってお願いしてきたのよ。」
「私からもお願いしたのに・・・。迷惑ではないでしょうか?」
同じようなお願いを何度も何度も聞かされていい気分はしないでしょう。不機嫌になっていないでしょうけど・・・あ!
「もちろん、菊地先輩がお願いをしてくれたこと自体はとても感謝していますよ。ですが・・・、」
お願いされた方々の気持ちを考えますと・・・、
「大丈夫だったわよ。」
「そう、でしたか?」
「ええ。笑いながら、“私達に出来る事ならなんでもするわ!”と豪語していたわよ。」
「そうでしたか。」
私達のお願いで気分を損ねていないようで安心しました。
「それでは今日明日と、よろしくお願いしますね、菊地先輩。」
私は菊池先輩に対して頭を下げます。何事も言葉にすることが大事ですからね。感謝の気持ちも言葉にしないと、ですね。
「ええ。せっかくの優君のお願いだもの。私の全てをかけて成功させてみせるわ!」
「・・・いつも通りで十分ですからね?張り切り過ぎて倒れないようにしてくださいね?」
私の全てをかけて、なんて言葉を聞いてしまったら、菊地先輩は命をかけてしまいそうで怖いです。
「もちろん!優君が悲しまない程度に頑張るわ!」
「ええ。・・・ところでく・・・・、」
「おーい!」
工藤先輩がどこにいるのか菊地先輩に聞こうとしたところ、工藤先輩本人の声が聞こえてきました。
「工藤先輩、本日はよろしくお願いいたします。」
私はさきほど菊池先輩にしたのと同じように、工藤先輩に頭を下げます。
「おう!今日はよろしくな!・・・まぁ、一切料理が出来ない俺に出来ることなんて限られていると思うがな。」
「いえいえ。料理以外でもやることはありますので、工藤先輩にはそちらの業務を任せるつもりです。」
「そうか。力になれるのならよかった。」
「せいぜい何も出来ずにただ突っ立っている木偶の棒にならないことね。そんなことしていたら花火玉の中に突っ込んで打ち上げてやるわ。」
「言葉がこえぇよ・・・。」
工藤先輩、私もそう思います・・・。
「それじゃあ屋台の方、確認していきますか。」
「ええ。」
「おう。」
こうして私達は屋台に向けて歩き、設備や食材を確認しました。
「それで優君、どういう風にまわすか決めているの?」
「ええ。まず工藤先輩は基本、表に出てもらい、オーダーを聞き、商品や金銭のやりとりの方をお願いします。」
「おう、任された。注文は焼きそば一択、と考えていいか?」
「今日はそのつもりですが、小盛り、中盛り、大盛りの3種類がございますので、そこの確認もお願いします。」
「よっしゃ!任せろ!」
「菊地先輩は、負担が大きくて申し訳ないですが、工藤先輩や私のアシストをお願い出来ますか?」
「もちろんいいけど、優君はどうするの?」
「私ですか?私はひたすら焼きそばを作り続けます。」
その為に私がいるのですから。
「・・・一応聞いておきますが菊池先輩、先日私が渡した焼きそばのレシピは覚えていますか?」
私のアシストをお願いする時に聞いておくべきでした。迂闊でした。
「ええ。それなら一目見て覚えたわ。」
「分かりました。調理手順はレシピ通りですので、レシピ通りに作ればまったく同じ味になりますので、レシピ通りに作るようお願いします。」
「了解!」
ひとまず説明は出来ましたかね。
(一応、自宅でも食材の準備はしてきましたが、それでも足りない気がしますね。)
一昨年は予想以上の来客数でしたからね。どれほど準備しても準備し足りない気がします。
「・・・なんか今年の予想来場者数、例年の数倍、下手したら十倍以上なんじゃないかって。」
「確か例年では一万人前後・・・とかではありませんでしたか?」
「この近辺で行われる小規模の夏祭り、のはずだったんだがな・・・。」
「原因は間違いなくこれね。」
菊池先輩はこの屋台を指差します。
「ですよね。」
私もそう思います。
「それじゃあ準備、始めようぜ。」
工藤先輩のこの声に、
「はい。」
私はハッキリと答えます。
「・・・なんかあんたに指示されるとやる気が萎えるんだけど。」
「いいからさっさと動け。」
「へいへい。」
・・・菊池先輩は嫌々動き始めました。
菊地先輩は工藤先輩の言う事に対して、いつも反抗的な気がします。どうしてなのでしょう?
私達が屋台の準備をし始め、そろそろ夏祭りが始まる時、
「・・・おい。今年の夏祭り、やばいぞ。」
「やばいとはどういう意味なのですか?」
なにがどうやばいのでしょう?
「・・・商店街の入り口にすんごい行列があるんだよ。」
「へぇ~。」
そんな行列が毎年出来るのですね。長年この町に住んでいるのに知りませんでした。
「もしかしてその行列って・・・?」
「ああ。十中八九この店の行列だろうな。先頭の人の前に、この店の看板があったわ。」
「そ、そうですか・・・、」
まさか夏祭りが始まる前に長蛇の列が出来るとは思いませんでした。それほど私が作る焼きそばを楽しみにしている、ということなのでしょう。
「早乙女君、大丈夫かい?」
この声は商店会長さんの声ですね。
「ええ、問題ありません。こうなることも予測して、最初から菊地先輩と工藤先輩に最初から手伝ってもらいますので。」
「・・・そうかい?分かった。」
?一瞬、商店会長さんの顔が歪んだように見えたのは気のせいでしょうか?
まぁ、気のせいでしょう。
「それじゃあ頑張ってくれ。私達にも出来ることがあったら遠慮なく言ってくれ。惜しみなく力を貸すからな?」
「ありがとうございます。必要になったら言いますので。」
私は商店会長さんに向けて頭を下げます。商店会長さんは手を振りながら去って行きました。
「・・・優君、本当に私達だけでいいの?私は別に構わないけど。」
「負担が大きければ人を呼んで仕事を分担してもいいんだぞ?まぁ俺は一切料理は出来ないが。」
「心配ありがとうございます。本当に人手が必要になりましたらその時に頼むつもりですので大丈夫です。問題ありません。」
いざという時は商店街の方達が手伝ってくれることですしね。
「開店準備、進めていきますよ。」
これ以上、お客様を待たせるわけにはいきませんからね。
(頑張ろう!)
私は気合いを入れ直し、調理の準備を始めます。
「「・・・。」」
その際、菊地先輩と工藤先輩の顔色を見ずに。
そして、夏祭りが始まる。
次回予告
『小さな会社員達の屋台運営生活~1日目~』
夏祭りが始まり、早乙女優、工藤直紀、菊池美奈の3人がいる屋台に長蛇の列が出来る3人が順調にさばいていると思いきや、想定外の出来事に早乙女優は振り回される。そんな中、ある人物達が早乙女優、工藤直紀、菊池美奈を助ける。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




