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小さな会社員の大学祭支援生活~その9~

(今日の事と言いますと、大学での出来事ですよね。)

 私は、工藤先輩のただならぬ雰囲気に、ただ工藤先輩の言葉を待つのみとなっていました。

「始めに言っておくが、今回の事でお前ら二人を責めるつもりは一切ない。」

(一切ないのであれば、何故この場を設けたのでしょう?)

 言う事が何もなければ、この場を設ける意味なんてないと思います。それなのにどうして・・・?

(・・・駄目ですね。自分一人で考えていても何もいい考えが思いつきません。これは工藤先輩の言葉を待つとしましょう。)

「だから、そこまで落ち込まなくていいんだ。お前らがそこまで気に病む必要なんてないんだからな。」

 ・・・?

(工藤先輩は何を言っているのでしょう?)

 私が大学で起きた事に関して落ち込んでいる?自分は落ち込んでいないと思っているのですが、そうなのでしょうか?私はいつも通り振る舞っているつもりですし、自分も自身に違和感なんてありません。

(となると、菊地先輩の様子がおかしかった、という事でしょうか?)

ですが、菊地先輩の様子がおかしいようには見えないのですが・・・?

(ん?)

 私はここで菊池先輩の顔を見てみます。

 すると、いつも見ていた菊池先輩の顔とどこかおかしいことに気付きました。

 いつもみたいに笑っているのかと思っていたのですが、いつもと異なり、顔は笑っていたけど、目が笑っていませんでした。

(そういえば、大学での出来事以来、菊地先輩の顔をまともに見ていませんでしたね。)

 となると、私がさきほど思い浮かべた菊池先輩の顔は、大学であの害虫と会う前の今朝の顔でしたか。

(なるほど。)

 確かに今の様子であれば、菊地先輩の様子がおかしいと思う事も納得です。

「菊地先輩はともかく、私は落ち込んでなんかいませんよ?」

 工藤先輩の言葉、菊地先輩の様子から、菊地先輩がどこかいつもと違う事は分かりました。ですが、私はどこもおかしくないと思います。おかしかったら自分で気づけるはずです。

「優君の言い分はちょっと傷ついたけど、私は何も問題ないわ。心外よ。」

 菊池先輩のこの言葉に、

「はぁー。」

 工藤先輩は長めのため息をついた後、こちらを向き直りました。

「あのな、俺が何年お前らと共に仕事し、生活してきたと思っているんだ?」

 私と菊池先輩は、工藤先輩の言葉を聞き続けます。

「なんとなく分かっちまうんだよ。お前らがどんなことで喜ぶのか。そして、今どんな気持ちなのか、とかな。」

(工藤先輩の言葉を真実とするなら・・・、)

 工藤先輩は今、私がどのような気持ちなのか分かっていることになります。

(私の、今の気持ち・・・。)

 私は別に、悲しいとか辛いとか、そんな気持ちは抱いていません。嬉しいとか楽しいわけではありませんが、少なくともそんな負の感情は抱いていないはずです。

「優。どうやら俺の考えに納得していないようだな。」

「はい。」

「お前らが今、どんな顔をしているのか、お互い見てみろよ。」

「「??」」

 工藤先輩が何を言いたいのか分かりませんが、ひとまず従ってみますか。

 私は工藤先輩の言う通り、見慣れている菊池先輩の顔を見てみました。菊池先輩も私の顔を見てきました。

(別にいつも通りの顔をしていますけど・・・?)

 工藤先輩は一体何を伝えたかったのでしょう?

「まだ分からないみたいだな。お前らが今、どんな目をしているのか、よく、よ~く見てみろ。」

 目、ですか?今更目を見たところで・・・、

(え?)

 なんか、顔は笑っているのですが、目が笑っていないように見えます。

「優君!」

 私同様、菊地先輩も私の目を見始めたところ、急に菊地先輩が私に抱きついてきました。一体どうしたのでしょうか?

「ごめんね。私、優君に辛い思いを抱かせていたのね。本当、ごめん。」

 菊池先輩は何に対して謝罪しているのでしょう?さきほどから分からない事ばかりです。

「優、分かったか?お前は今、そいつと同じ目をしているんだ。さっきからずっと顔は笑っているようだが、目は笑っていなかったぞ。」

「・・・そう、ですか・・・。」

 もし、私が菊地先輩と同じ目をしていたなら・・・。工藤先輩が心配するのも納得です。

「もう一度言う。お前らはあの事件に対して、責任を負う必要も、感じる必要もないんだ。何せお前らは完全に被害者で、仕掛けてきたのはあの女なんだからな。」

 そういえば、工藤先輩も警察署で行われた事情聴取から、多少の事情を聞いていましたね。なので、事情をある程度把握しているのですね。

「・・・でもまぁ、言葉だけ言い聞かせたところで、すぐに気持ちを切り替えられるわけじゃないからな。」

「ふん!私をあまり甘く見るんじゃないわよ!私に出来ない事なんてないわ!」

「そりゃあ、お前には容易い事だろうな。お前だけじゃなく、優だって出来るだろう。」

(菊池先輩はともかく、私はそう簡単に出来ないのですが。)

 すぐに気持ちを切り替えることが出来るのなら、もっと上手く立ち回ることが出来ていたと思います。

 例えば、今日起こったあの大学での出来事なんか、気持ちを即座に切り替えることが出来たら、あの害虫の事を一切気にせず、あの状況を事無く切り抜けられたのかもしれません。そう考えると、私もまだまだ子供です。

「それだけじゃない。お前ら二人は、俺や他の人達以上に色々な事が出来る。例えば、料理とか、料理とか、料理とか、料理とか、料理とかだな。」

「料理ばかりじゃない・・・。」

(確かに菊池先輩の言う通り、料理の事ばかり言っていますね。)

 それほど、自身が料理を出来ないことに対して気にしているのでしょうか?それとも、別の理由があるのでしょうか?

「・・・まぁ、他にも家事とか仕事とか副業とか、色々俺より出来るだろう。だが、いつでも出来るわけじゃないはずだ。」

(いつでも、ですか。)

 私自身、常に力を発揮出来るようコンディションは調整しているつもりです。なので、工藤先輩の言い分にあまり納得出来ませんね。

「例えば菊池、優が去年関西に行った時、元気を無くしていつも通りの仕事が出来なかったよな?」

「・・・あんたも仕事でミスしていたじゃない。」

「ああ。俺も菊池同様、優がいないといつもの調子が出なくてな。優だって少し前、桐谷を心配している時、仕事でミスを繰り返していたよな?」

「う!?」

 そこを突いてきましたか。工藤先輩の言う通り、確かにあの時は桐谷先輩の事が心配で仕事に集中出来ず、ミスをした記憶があります。

(そう言われると、確かに工藤先輩の言う通りかもしれません。)

 いつでも出来るわけじゃない。工藤先輩が具体的な例を出してくれたことで、この言葉の意味が理解出来ました。

「何が言いたいかと言うと、お前らは俺や他の人よりも色々出来るだろうが、いつでもってわけじゃない。」

「「・・・。」」

 工藤先輩の言葉に、私は何も反論出来なくなってしまいました。菊地先輩も私と同じ気持ちを抱いているのか、工藤先輩に対して何も反論していませんでした。

「しかし、急に気持ちを切り替えろ、なんてことは無理だろう。だから明日の昼、外で飯を食おうか。」

「「??」」

 ・・・工藤先輩は急に何を言い始めたのでしょう?

(明日のお昼に外でご飯をいただくのは構わないのですが・・・。)

 どうして急にそのようなことを言い始めたのか、その理由が分かりません。直接聞いてみますか。

「どうして急にそのような話が出たのですか?」

「簡単な話だ。気持ちの切り替えが出来るようになるにはどうしたらいいのか。俺が出した答えは、欲だ。」

「欲、ですか?」

「ああ。人間にある三大欲求は知っているな?」

「性欲!性欲!!性欲!!!」

 工藤先輩の問いかけに、菊地先輩は自身満々に答えました。

 が、

(性欲しか言っていないではありませんか・・・。)

 しかも、私に視線を向けながら言ってくるなんて・・・。工藤先輩の様子を窺うと、私同様呆れている様子が見られました。

「・・・確かに性欲はある。が、三大欲求の内の一つしか答えていないぞ?」

「何言っているの?私にとって三大欲求は、優君に対する性欲、これしかないわ!」

「三大欲求の三、完全に無視していないか?」

 工藤先輩の言う通りだと思います。

「普通の人は、性欲、睡眠欲、そして、食欲だ。今回はそのうちの一つ、食欲を思う存分満たし、少しでも気持ちを切り替えて欲しい。完全じゃなくてもいい。少しでも薄めることが出来ればいいんだ。だから、どうだ?」

「もちろん、いいですよ。明日のお昼、一緒にご飯食べましょう。」

 まったく。私が工藤先輩の願いを簡単に断るわけがありません。あまりにも理不尽なお願いなら断るかもしれませんが、よほどのことがない限り断る事はありません。

「それで、お前はどうするんだ?さっき堂々と性欲性欲言っていたから、明日は独りで性欲でも発散するのか?」

「は?何ふざけたこと言ってんのよ?優君が行くなら私も行くに決まっているでしょう!!??何未来永劫変わることのない事象に変化をつけようとしているのよ。そんなの、この私が許さないわ!」

 ・・・どうしましょう。菊池先輩が何を言いたいのか分かりません。私の理解力が不足しているからでしょうか?

「え~っと・・・つまり明日、俺達と一緒にご飯を食べに行くってことでいいのか?」

「は?最初からそう言っているじゃない?」

「「・・・。」」

 菊池先輩、すみません。私、分かりませんでした。

「と、とにかく!明日の昼前、社員寮前に集合!これでいいな!?」

 なんか工藤先輩、投げやりな感じで言っていませんか?もしかしたら菊池先輩の対応に疲れてしまったのかもしれません。その疲弊する気持ち、よく分かります。私も菊地先輩と話していて疲れる時がありますからね。まぁ、私がもっと菊池先輩のことを理解出来れば、こんな疲弊なんてしたくないのですけどね。

「分かりました。」

「了解したわ。・・・ちなみにだけど、どこでお昼を食べるのか決めてあるのかしら?」

「ふっふっふ。それについてはもうどこで食べるか決めてある。予約も済ませてあるぜ。」

「へぇ。あんたにしては悪くない手際ね。」

「流石は工藤先輩ですね。」

 大人の余裕なのでしょうか。事前の準備にぬかりありませんね。

「まさか、どこで飯を食べるのかも言わずに連れて行くつもり?」

「・・・そうだな。それじゃああの店、で伝わるか?」

「!?そ、そんなあの店だなんて!?まさか私のことを気遣ってあのアイスバイキング出来たあの店で食事を!?そこまで気を遣ってもらわなくても大丈夫ですから!」

 私のこの言葉で二人の先輩が何を思ったのか、だんだん顔が笑い始めました。

「・・・何がおかしいのですか?」

 私がそう聞くと、二人は少し見合ってから言いました。

「俺、あの店とは言ったが、去年行った、数多くのアイスが陳列していた店だなんて一言も言っていないぞ?」

「え?・・・あ!?」

 そういえばそうです。工藤先輩、あの店とは言いましたが、店に関する情報は一切言っていませんでした。それなのに私は勝手に、去年行った、多くのアイスが魅力的に陳列していてとても美味しかったあの店に行くものだと勘違いしてしまいました。

「優君、どうやらあの店にまた行きたいらしいわね。」

「い、いえ!決してそのようなことはございませんのでご安心を!」

「いや、大丈夫だ。優が行きたがっているあの店を予約したからな。」

「!?」

 し、しまった!?工藤先輩の言葉が嬉しくて、つい表情に出てしまいました!ですが、出てしまったと思った直後、すぐに表情を戻したのでばれていないと思います。

「「・・・。」」

 ・・・いえ、ばれていますね。どうせ、嬉しそうだな、とか思われてそうです。こうなったら、こちらも素知らぬふりを続けるとしましょう。

「・・・それでは明日、また会いましょう。それでは私はこれで失礼しますね。」

「おう。」

「待って、優君。私も一緒に行くわ。」

 そして私は、菊池先輩と共に工藤先輩の部屋を後にしました。

「それでは菊地先輩、また明日。」

「ええ。でも優君、寂しくなったらいつでも私の部屋に来てくれていいのよ?なんなら今から私としっぽりしない?」

「いえ、私は寂しくありませんので。これで失礼します。」

「あ~ん。優君のいけず~♪」

 菊池先輩が何か言っていましたが、私は気にせず自室に戻りました。


 その後、私は自室に戻ってから入浴してから眠る事にしたのですが、なんだか少し眠れませんでした。

(やはり、今日の出来事が心のどこかで引っかかっているのでしょうか?)

 自分の事が分からなくなり、自問していました。

 菊池美奈は、

「はぁ。」

 いつもよりため息を多くつきつつも、眠ることにした。

 工藤直紀は、

「さて、これで予約の方は万全だな。」

 予約画面を見て、明日の予定に問題がないか、念入りに確認してから眠りにつく。

(これであいつらが少しでも元気になってくれればよいのだがな。)

 工藤直紀が今回、早乙女優と菊池美奈に少しでも元気になってもらいたく、この計画を実行に移したのである。

(あの人達にも言われたからな。)

 工藤直紀が思い浮かべるあの人達とは、峰田不二子、川島優香、下田光代である。工藤直紀達が大学を出る前、この3人と話をしていた。その時、3人からあるお願いをされたのだ。

(俺だけが、あの二人に言葉を届けられる、ねぇ。)

 そのお願いは、菊池美奈と早乙女優を元気つけて欲しいという願いだった。その願いを聞いた工藤直紀は最初、

「それなら、あなた達が何かしてあげた方がいいんじゃないか?あんたら、あいつの友達なんでしょう?」

 こう提案をした。

 だが3人は、工藤直紀の提案に対して首を横に振る。

「私達の言葉じゃあ多分届かないわ。私達は、あいつと共に苦楽を共にしたわけじゃないし、あいつや優君に関して詳細な事は何も知らないの。」

(そんなことないんじゃないか?)

 峰田不二子の言葉に、工藤直紀は疑問を抱きつつ、峰田不二子の言葉を聞き続ける。

「だけど、あなたは違う。優君だけじゃなく、あいつからも信頼されている。そんなあなただからこそ、あいつはあなたの言葉を聞くと思うの。だからお願いします。」

 そんな言葉を聞いた後、3人は工藤直紀に頭を下げたのである。

(まさか、あそこまであいつを慕ってくれる人がいたなんてな。)

 工藤直紀は自身のために、そして、あの2人を想い、頭まで下げてくれた3人のためにも、自ら行動に移していく。

(例え今日が最悪の日だったとしても、明日は最高の日にするか。)

 そんな考えを胸に秘め、明日に備えて寝る事にした。

次回予告

『酒好き会社員の二人気分転換計画実行生活』

 早乙女優と菊池美奈のメンタルを心配した工藤直紀は気分転換に、数多くのアイスが陳列している食事処に連れていく。二人の食事風景を、工藤直紀は見守る。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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