小さな会社員の大学祭支援生活~その8~
「ふ、ふん!何よ!急に調子乗りやがって!!」
三島美香子は、菊池美奈の突然の変貌に感情を隠せずにいたが、それでも傲慢な態度を改めることはなかった。
「「・・・。」」
三島美香子の言葉に、菊池美奈と早乙女優は一切反応を示さない。ただ、手に持っている電子機器を、画面を見ずに操作していた。
「優君、そっちはどう?」
「婚約者とその両親の個人情報はあらかた把握しまして、さきほどの内容は伝達済みです。」
「こっちも、あいつと関わってきた奴らから証言を得て、拡散したわ。これでもう終わりよ。」
「・・・は?あんた達、一体何を言っているの?」
早乙女優と菊池美奈の会話が聞こえたものの、理解出来なかった。
「・・・あぁ!そういうこと!」
だが、理由を理解したのか、三島美香子は納得し、気に障るような笑顔を作り出す。
「あんたら、ついに壊れたのね。」
三島美香子は、菊池美奈と早乙女優にとって見当違いな答えを言い放つ。言うさまは、まるで勝ち誇った王者だった。
「壊れたのなら、さらに壊してあげ、る!」
三島美香子は、手持ちに持っているハイブランドのバッグを菊池美奈に向けて思いっきり振る。
「はぁ。」
菊池美奈は三島美香子の行動に対し、手のひらで軽くバッグを受け流す。
「私が壊れるんじゃない。あなたが壊れるのよ。」
「!?こ、こいつ・・・!」
三島美香子は、菊池美奈の行動、態度に驚く。
(さっきから何なの!?まるで別人じゃない!?)
そして、ある変化に気付く。
「?なんかバッグが振るえている・・・?」
三島美香子は、バッグが振動している原因である携帯を取り出す。その携帯の画面をつけると、既に複数の着信があったことに気付く。
「え!?な、なんで!!??」
三島美香子の友人、両親が何度も電話をかけてきたようだった。三島美香子は最初、携帯の故障かと考えてたが、ある可能性に辿り着く。
「まさか・・・あんた達がやったの!?」
それは、全部聞こえなかったが、さきほど聞いた話が全て事実である可能性である。その可能性を想像してしまった三島美香子は、顔を少しずつ青くしていく。
「「・・・。」」
三島美香子の言葉に、早乙女優と菊池美奈は一切反応を示さない。その反応に苛ついたのか、三島美香子は言葉に棘を含ませる。
「なんとか言いなさいよ!!??」
三島美香子の大声に、
「はぁ。仕方がないわね。人生終了したあんたに分かりやすく説明してあげるわ。」
菊地美奈は冷静に答える。表向きは冷静だが、心の内は復讐で燃えていた。今までの怒りを、三島美香子に今までやられてきたこと全てを返すように。
「あなた、今まで私達に散々言ってきて、色々してきたじゃない?それらを上手く切り取って、あなたの知り合いに一斉送信したのよ。」
「今まで言ってきたこと?してきたこと?」
三島美香子は、菊池美奈の言っていることが理解出来ずにいた。その様子を見た菊池美奈は呆れる。
(仕方がない、か。)
菊池美奈は、三島美香子を絶望させるため、口を開く。
「あなたにとって、この世は金と地位なのよね?なら、その2つの供給源を断ち切っちゃえば、あなたはこの世界にとって生きる価値なんてない。つまり、死んだというよ。」
「・・・何言っているの?」
菊池美奈は三島美香子の質問に答えることなく話を続ける。
「だからまず、あなたの金の供給源を絶たせてもらったわ。」
「金の、供給源?」
菊池美奈は無言で、三島美香子が今も所持しているハイブランドのバッグを指差す。
「そのバッグ、少なくとも何万・・・もしかしたら十万以上すると思うわ。そのお金は一体、誰が出したのかしら?」
「そんなの・・・!?」
三島美香子は菊池美奈の問いに、
「そんなの、私の婚約者と両親に決まっているじゃない!?」
と、言おうとした。だが、言う前に気付く。
(私の携帯に着信あったのも、私の婚約者やうちの両親だったわ。)
そして、背筋に寒気が走る。その様子を察したのか、菊池美奈は三島美香子より先に話し始める。
「ええ。あなたの婚約者に両親、まずはそっちに、あなたに今までの言葉を聞かせてあげたわ。」
「・・・ど、どうだった、のよ・・・。」
三島美香子は恐る恐る菊池美奈に質問する。さきほどまでの勝ち気な様子は一切なく、様子を窺い続ける小動物のようである。
そんな三島美香子の様子に、菊池美奈は三島美香子の携帯を指差す。
「そんなの、直接聞いてみたらいいんじゃない?せっかくの機会なんだから。」
苛立ちや嘲笑の感情を殺しながら、三島美香子に宣告する。だが、完全に殺しきれなかったのか、
「ふざけんじゃないわよ!聞けるわけないでしょうが!!??そんなふざけた声出しやがって!」
三島美香子に指摘されてしまう。そんな指摘も、今の菊池美奈には響かない。
「じゃあ答えてあげましょうか?」
菊池美奈の提案に、三島美香子は一切言葉を発さなかった。だが、答えを知りたいという意欲に負け、行動で肯定の意を示す。三島美香子の意を理解した菊池美奈は答えを話す。
「確か、あなたがそんな人だとは思わなかった。正直幻滅したよ。忠告ありがとう、だってさ。」
「!!!???それってつまり、婚約破棄・・・!?」
三島美香子は婚約破棄と述べた後、自身の口を塞ぐ。
「あなたまさか、私に婚約者がいることを知って・・・!?」
「ええ。私にはとても優秀で愛らしい優君がいるからね。ね、優君♪」
さきほど三島美香子に見せた負の感情とは異なり、喜び等正の感情を含む。
「あなたの近況、家族住所、個人情報、友人関係は既に掌握済みです。」
「う、嘘、でしょ・・・?」
三島美香子は早乙女優の言葉を聞き、目で見て簡単に分かるほど怯える。
「嘘なら、あなたの婚約者、ご両親から連絡が来ている理由に心当たりがあるのですか?」
「・・・。」
三島美香子には、今の出来事以外、連絡してくる用件に心当たりがなかった。だから、早乙女優の問いに答えることが出来なかった。
「あなたの婚約者、ご両親達に理解があって助かりました。おかげで話が早くて助かりました。」
(こいつら、いつから私の婚約者や両親と連絡をとっていたのよ!!??)
三島美香子は心の中でツッコミを入れ、苦い顔をする。
「ああ。そういえばだけど、昔は何もしないからって、よくもまぁあそこまでやってくれたものね。」
菊池美奈の言葉に心当たりがあった。いや、心当たりしかなかった。
(・・・こうなったらとぼけるしかないわね。)
だが、三島美香子は知らないふりを演じ、白を切るつもりでいた。
「・・・何の事?私があなたに何かしたのかしら?」
その言葉に、すかさず菊池美奈は反論する。
「あら、全部忘れたのなら言ってあげるわ。あなたはまず、私に水を被せてくれたわね。週に2日くらいの頻度だったかしら?そのおかげで私は、教室内でも傘を常備するはめになったわ。次に、上履きを隠したり、切り刻んだりしてくれたわね。それが複数回あったから、毎回上履きを持ち帰ることになって面倒くさかったわ。後、同級生の奴らと共謀して教科書を水に浸けたり切り刻んだりもしてくれたわね。まだ思い出せないのならもっと言うけど、まだ聞きたい?」
菊池美奈は流れるように言った。流れるような菊池美奈の言葉に、
「え・・・え?」
三島美香子は何も言えなくなってしまう。
急に多くの事を言われ、脳が処理しきれなくなったかもしれないが、そんなこと、菊池美奈や早乙女優は構うことなく話し続ける。
「ちなみに、証拠がないからとか言われたくないので、証拠は既に掴んでいるので、醜い言い訳はしなくていい。聞きたくもない。」
早乙女優の冷徹な言葉も三島美香子の耳に入ったが、さきほど言い放った菊池美奈の言葉を理解するのに手一杯で、早乙女優の言葉の意味を理解するまで余裕がない。
「ああ。そういえば学生時代、あなたとつるんでいた友達がいたわよね。」
「!!??そ、そうよ!!まだ私にはあいつらが・・・!!」
菊池美奈の友達、という発言を聞き、三島美香子は生気を取り戻し、自ら携帯に番号を入力し、友達に電話をかける。
「もしもし・・・、」
「ふざけんじゃないわよ!?あんたよく電話にかけてこられたわね!!!」
だが、友達からかけられた第一声は、三島美香子という級友に対する罵りの声だった。
「ど、どうしたのよ・・・?」
三島美香子は訳が分からず、その級友をなだめようとする。
「どうしたって、あんた、何も知らないの!!??冗談じゃないわよ!!??たく、まさか昔少しやんちゃしていたことが、今になってうちの旦那にばれるなんて思いもしなかったわ!!そのせいで今離婚騒動にまで発展しているのよ!!??たく、今あんたに構っていられるほど暇じゃないのよ!」
そう言い、三島美香子の電話相手は三島美香子の言葉を聞くことなく電話を切った。
(なによ!?あいつ、昔はもっと私に媚びをうっていたくせに・・・!)
「どうだった?頼みの綱は?」
まるで全て掌で転がされているような気持ちになった三島美香子は、自身の顔から血の色が完全に消失する。
「かつてお前は、菊地先輩を、理不尽にいじめ、モノを破壊し、精神的に追い詰めた。」
早乙女優は、言葉に重みを乗せつつ、三島美香子に言葉の意味を理解させる。
「その結果、お前はこれから一生、まともな人生も送れずに死んでいくんだ。もちろん、お前と共に菊地先輩を理不尽にいじめていた奴らも似たような人生を歩ませていく。」
(だからあんなにあの子、焦っていたのか!!!???)
その早乙女優の言葉で三島美香子は、どうしてさきほど電話をかけた級友が焦っていたのか納得する。
「一生、学生時代の愚行を後悔しながら生きていけ。」
ここで、誰かの通知音が鳴る。
「・・・大方、お前のLEALの通知音だろう?このタイミングできたってことは、お前の婚約者が婚約破棄に伴う慰謝料に関する話し合いの日時について、じゃないか?もちろん、お前が慰謝料を支払う立場だ。」
(!?そんな馬鹿な!!!???まるで私が・・・、)
「もちろん、貴様が有責だ。どうせお前の婚約者に嘘八百ついていたのだろう?様々な大手企業の御曹司とコネを持っているとか、これまでいじめに遭ってきて辛い日々を過ごしてきたとか。虚勢を張り、同情を誘う。まるで結婚詐欺師だな。」
「!!??誰が・・・!!??」
「ああ、そうだ。お前の勤め先、もとい、コネ入社した大手企業だけどな、後日、お前の親共々解雇、だってよ。」
「!!!???どうして!!!!!????」
「どうしても何も、当たり前だろう?」
早乙女優は携帯の画面を操作し、別の画面を開く。
「こんな結婚詐欺まがいの事をしている社員、ましてや昔、人をいじめていた人が会社に勤めているなんて、会社のイメージがマイナスになるからな。ああ、そういえばさっき言っていなかったが、お前が複数の既婚男性と肉体関係を持っていることは報告済みだ。無論、証拠のデータは添付済みだ。」
「!!??」
三島美香子は、驚くことしか出来なかった。
(まさか、これらを全部調べ上げたというの!!!??)
何せ、菊池美奈と早乙女優からは、驚くことしか聞いていないのだから。
「それに、問題があるのはあんただけじゃなくて、あんたの父親にも問題があったそうじゃない。何人もの女性を脅迫し、肉体関係を持ち、携帯に証拠写真を何枚も保有していて・・・気持ち悪い。」
「!!!???」
父親の気持ち悪い出来事を聞いてしまい、何も言い返す気力がなくなってしまう。
「さて、これでお前が言う地位も金もなくなったわけだが、お前にあるものをプレゼントしてやる。」
「???」
早乙女優の言葉に、三島美香子は僅かに芽生えている疑惑の感情を露呈させる。早乙女優はある方向を指差す。指差した方向を見ると、指先にカメラがあった。
「お前、今まで俺や菊池先輩、工藤先輩に何したか覚えているか?中には傷害罪、暴行罪にあたる行為もあっただろう?」
早乙女優は、指先をカメラから三島美香子に向け直す。
「何が言いたいかと言うと、お前に前科をプレゼントしてやるよ。これでお前も前科者だな。」
「・・・!!!!!????」
流石に前科、という言葉の意味が理解出来たのか、三島美香子はガタガタ震えだす。
三島美香子は、これからの生活を想像してしまった。
その生活は、毎日極貧生活。
まともな職に就くことも出来ず、日々慰謝料分を稼ぐために、身を粉にして働く毎日。優雅な生活をしている今と真逆の生活に怯えてしまう。
「・・・本当は、ここまでする気なんてなかった。」
突如、早乙女優は目を瞑り語り始める。
「俺のことはいい。だがお前は、今の今まで、菊地先輩や工藤先輩に一切、謝罪をしなかった。それが、俺をここまで非情にさせた要因だ。今まで一切謝罪しなかった自分を、今までの自身の行動を改めようとしなかった自分を恨み、一生体を売り続けて生活してくんだな。」
「!?ご、ごめんなさい!」
早乙女優の謝罪、と言う言葉に三島美香子は今謝罪をすれば許されると判断し、謝罪の言葉を述べる。
だが、
「今更言ったところで遅いんだよ。例え菊池先輩や工藤先輩が許したところで、お前が、お前らが菊地先輩にしたことが帳消しになるわけないだろう?しっかり前科者になって、一生後悔しながら生きていけ。」
早乙女優の言葉に、
「う、うわあああぁぁぁーーー!!!」
三島美香子は早乙女優に向けて走り出す。
「させない、わ?」
「あぶ・・・ない?」
早乙女優を護ろうと、菊池美奈と工藤直紀が間に割って入る。だが、三島美香子はそのまま早乙女優に突進しなかった。
(こうなったら、このまま逃げてやる!)
三島美香子は、早乙女優に危害を与えるふりをし、いきなり逆方向に向かって走り出す。そしてそのまま走り続け、早乙女優達から逃げようとした。
だが、
「・・・。」
「!?こ、このガキ!!??」
早乙女優は先回りし、逃走経路を完全に断つようにしていた。
「どけぇ!!!」
三島美香子は、早乙女優を蹴り飛ばす様な勢いで走り始める。
(・・・。)
早乙女優は三島美香子を見た後、横に移動し、三島美香子が通れる分だけのスペースを確保した。
「!?」
三島美香子は、どうして早乙女優が避けたのか分からなかったが、そんな疑問を考えている余裕なんてなく、そのまま部屋を出た。
「優君!」
菊池美奈は、部屋を出た三島美香子に芽を向けず、早乙女優に抱きつく。
「大丈夫だった!?どこか怪我していない!?」
菊池美奈は早乙女優を心配し、体のあちこちを触り、怪我していないか確認する。
「お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫です。」
「・・・そうか。それは良かった。お前にも怪我がなさそうで安心だ。」
工藤直紀は早乙女優だけでなく、菊池美奈を見て、赤い血がないか確認する。
「あなたに心配されるまでもないわ。」
「・・・そうか。」
(菊池もいつも通り、だな。)
工藤直紀は、菊池美奈の態度に心なしか安堵する。
「それで、あの女はあのまま逃がしてよかったのか?」
「あれ?・・・ああ。優君、説明よろ♪」
菊池美奈は早乙女優に説明を任せ、早乙女優を強めに抱きしめる。
「・・・あれに関しては大丈夫です。応援を呼び、捕縛する包囲陣は既に完成しています。」
「捕縛?包囲陣?」
工藤直紀は早乙女優の説明を聞き、疑問が湧いた。
「ええ。警察に連絡済みです。今は大学祭の途中ですので、制服姿ではなく、私服姿で巡回し、あの女を見つけ次第、捕縛して連行してもらうよう頼んであります。もちろん、事情は話してありますし、証拠も電子データで送信済みです。」
「お、おぉ・・・。」
工藤直紀は何も言えず、口から漏れたような返事をする。
「さて、私達もゆっくり、あの女の行く末を見ていくとしましょうか?」
「ええ。」
「あんまり無茶はするなよ?」
工藤直紀の忠告に、
「ええ。もう大丈夫です。」
「まったくよ。この私を誰だと思っているのよ。」
(さっきまで別人みたいに大人しかったのにな・・・。)
「ですが、この場を離れるわけにいかないので、この場で見てみますか。」
そう言い、早乙女優は部屋の入口で三島美香子の様子を見始める。
「そうね。私は優君の意見に賛成♪」
「二人がそれでいいなら俺もそれでいいや。」
早乙女優に続き、菊池美奈と工藤直紀も三島美香子の行く末を見ていく。
(・・・ん?)
早乙女優は、三島美香子の先にいる男女二人が目に入る。
(あの二人、どこかで・・・あ!!??)
早乙女優は、その二人の服装から、今日会った人物に該当することが判明した。
(あのメイドの装い、まさか森さん!!!???)
早乙女優はまさかの人物の登場に驚く。
何せ、色々想定して動いてた早乙女優だったが、ここに森亮介が通ることまで想定していなかったのである。
「森さん!その人は危ない!?」
「!?その声、もしか・・・!?」
森亮介は早乙女優の声に反応し、話しかけようとした。だが、目の前から走ってくる女性の異常さに気付き、話を中断させる。
(さっき、優の兄貴は危ない、と言っていたっすね。)
森亮介は改めて、正面から走ってくる女性を見る。
どこか顔色が悪くも、目は血走っている。
(確かにやばいっすね・・・。)
森亮介は気を引き締める。
「そこを、どけえええぇぇぇーーー!!!」
三島美香子は、バックを振り回しながら森亮介に向かって走っていく。
「・・・。」
森亮介は冷静に三島美香子の行動を見て、このままだとバッグがどこに当たるか推測し始める。そして、
(まさかバッグを振り回してくるとか、頭がいかれているのか?)
三島美香子が振り回しているバッグを躱す。
「なんでメイドが避けられるのよ!?」
三島美香子は、メイドの恰好をした森亮介がバッグを躱したことに腹を立てる。
(こんな攻撃、誰でも簡単に躱せるっつーの。)
森亮介は内心でツッコミを入れる。
「なら、」
三島美香子は、攻撃対象を、メイド姿の森亮介から執事姿の女性、風間美和に変更する。
「え?」
風間美和は突如、風間美和にとって初見の女性に睨まれたことで声を漏らしてしまう。
「お前がしねえええぇぇぇ!!!」
その声から、狂乱していることが一目瞭然であり、関わり合いたくもなかった。
「きゃあ!?」
だが、三島美香子のただならぬ雰囲気に風間美和は動けなくなってしまい、無意識に目を覆う。
(!?)
その様子を見ていた森亮介は、一瞬で三島美香子と風間美和の間に割って入る。
「うっ!?」
森亮介は三島美香子からバッグを当てられてしまい、腕が赤く腫れてしまう。
「生徒会長!!??大丈夫ですか!?」
風間美和は生徒会長である森亮介に声をかける。
「だ、大丈夫だ・・・。」
森亮介は腕を抑える。さきほど出来た赤いあざから液体が流れ始める。
「ひひ。お前らが悪いんだからな。」
三島美香子は、森亮介が怪我を負った事に関して、笑っていた。
「お前らが私に歯向かうからだ。歯向かわなければ、そんな怪我なんて負わなくて済んだんだ!」
三島美香子は、森亮介が負傷したことを森亮介自身のせいにして、自我を保っていた。
「あんた、自分が何をしたのか分かっているのか?」
森亮介は、怪我した個所を抑えながら三島美香子に語り掛ける。
「だ、大丈夫ですか!?」
風間美和は森亮介を支える。
「ありがとう。」
森亮介は、風間美和が支えてくれた事に関して感謝の言葉を告げる。
「何言っているの?私は、何も間違っていない!」
三島美香子はさらに声をあげる。
「私は間違っていない!私を否定するあいつらが、お前らが悪いのよ!!」
三島美香子の眼は既に常人の目をしていなかった。バッグを振り回し、危険人物と認定されそうな行為をし続ける。
「うおおおぉぉぉ!」
回し続けた後、遠心力を利用して森亮介に向けてバッグを投げる。さきほどより勢いが強まっており、不意打ちなら確実にとれないような勢いである。
だが、
「おい。」
森亮介はそのバッグを軽々受け止める。
楽々疎めることが出来たのは、かつて、色々とやんちゃしていたおかげで、他の人より身体能力が高かったことが要因だろう。
「さっきからいい加減にしろよ、お前。」
「あぁ!!??」
森亮介の言葉に、三島美香子は激怒する。
だが、この場で怒っているのは三島美香子だけではない。
「あの部屋で、この場で暴れやがって・・・。」
森亮介はさきほど受け止めたバッグを床に置く。
「俺がいる限り、この場で、この学校で好き勝手することは許さねぇ。」
「どいつもこいつも、私の邪魔をするなー!!!」
聞いていて耳が痛くなるくらい甲高い声を放ち、森亮介に襲い掛かる。
「危ない!?」
風間美和は声をかけ、目を閉じる。
「それが、俺が生徒会長になった時の、俺の抱負だ。この学校の奴らに、手を、だすな。」
森亮介は三島美和子の腕を掴み、低い声でドスを効かせる。
「なにより・・・、」
森亮介は、三島美香子が出てきた部屋の入口を見る。
「俺の大事な兄貴に、姉貴に、何かしたのか?だとしたら、俺はお前を絶対許さねぇ!!!」
「!!??ひ、ひいいぃぃ!!??」
三島美香子は、完全に腰を抜かしていた。
「君、大丈夫か!?」
ここで、私服の男性が森亮介に声をかける。
「?誰ですか、あなた?」
「ああ。私はこんななりをしているが、こういう者だ。」
私服の男性は胸ポケットからある物を取り出し、森亮介と風間美和に見せる。
「「け、警察!!??」」
その手帳は警察手帳だった。
「こちらに三島美和子という危険人物がいるという連絡を受けてね。連絡通り、尋常じゃない様子の女性がいたということだよ。」
警察は三島美香子を立たせ、自身が警察である事を明かす。
すると三島美香子は観念したのか、何も言わず、大人しくなる。
「連絡してくれてありがとう。助かったよ。」
警察は森亮介に感謝の言葉を言い、三島美香子を連れて去っていった。
(連絡?一体何の事だ?)
森亮介は警察に連絡なんてしていなかった。それなのに、警察からは感謝の言葉を言われ、混乱してしまう。
「流石生徒会長!既に警察に連絡し、捕まえてもらうよう連絡していたんですね!」
「いや、俺は・・・、」
ここで森亮介は気づく。
(そういえば、あの部屋に優の兄貴と菊池の姉貴がいたな。となると、警察に連絡したのはもしかして・・・?)
警察に連絡したのは、早乙女優か菊池美奈ではないかと。
「まずはあの部屋に行きましょう。そうすれば、きっと分かります。」
「は、はい!それと・・・、」
「?なんですか?」
「ちょっと失礼します。」
風間美和は森亮介の怪我している個所を応急処置する。
「あ、ありがとう。」
「いえ。私こそ、さきほどは守っていただきありがとうございました。助かりました。」
風間美和はどこからか絆創膏を取り出し、傷口を消毒してから絆創膏を貼る。
「いえ。当然のことですので気にしないでください。」
森亮介は軽く腕を動かし、動かしても問題がないか確認する。
「さ、いきますよ。あの部屋に俺の恩人がいると思いますので。」
「恩人、ですか。どんな人なのか気になります。」
「ええ。俺にとって、一生恩を返すべき人物です。」
そして、森亮介は風間美和と共に部屋に入ると、早乙女優達が部屋を片付けていた。
「優の兄・・・きぃ!?」
「な!?いったいここで何が・・・!?」
「あ、森さん。さきほどぶりですね。お疲れ様です。」
早乙女優はメイド姿の森亮介に挨拶を交わす。
「呑気に挨拶している場合じゃないっすよ!?一体ここで何があったんすか!?」
「あ~~~・・・。まぁ、色々あったんですよ。」
「そんな遠い目をしないでくださいっす!?こんなぐちゃぐちゃ・・・本当に何があったんすか!!??」
この後、早乙女優は簡単に、森亮介と風間美和に事情を説明した。
突如この場に現れ、菊池美奈を罵り、怪我を負わせたこと。
怪我を負わせただけでなく、ソーイングセットに入っている針やハサミ等を投げてきたこと。
その後現れた工藤直紀には、三島美香子自身が持っていたバッグを当て、怪我を負わせたこと。
それらのことを早乙女優は、三島美香子と菊池美奈には何の関係もないように話した。
あくまであの女性、三島美香子は突発的にこの部屋にいた私達を襲ったのではないか。そう早乙女優は考察し、そのことを二人に伝える。
「何ですかそれ?そうだったらあいつのこと、もっと殴っておくべきだったっすね。」
「ひどくないですか!?優さん、何も悪くないのに!?」
ちなみにあらかじめ、この場にいる森亮介、風間美和それぞれに早乙女優と風間美和、森亮介の関係を伝えていて、
「へぇ~。流石は優の兄貴っすね!尊敬に値するっす!」
「優さん。私の知らないところでそんなことをしていたんですね。やっぱ、優さんは凄いです。」
森亮介と風間美和は互いのことを少し見てから、早乙女優を褒めた。
少し友好を深めた後、
「ただいまもど・・・て、何があったの!!??」
「ひどい・・・一体誰がこんなことを・・・!」
「これはもう、警察に連絡しなきゃ・・・!」
峰田不二子、川島優香、下田光代の3人が戻ってくる。すると3人は、部屋の惨状に驚きを隠せない。
「実はですね・・・。」
早乙女優は、部屋の惨状の理由を説明するため、森亮介、風間美和にもしたような説明を実行する。
「こんなことってある?」
「でもこの惨状・・・納得するしかないわね。」
「ここまでしておいて何もお咎めなしとか、そんなわけないわよね?法の裁きを受けるべきなんじゃないかしら?」
それぞれ、怒りを隠せずにいた。
無理もないだろう。せっかく用意した衣装や、展示用に並べていたソーイングセットが床にばらまかれ、壊れている物もあったのだから。
その後、早乙女優達は部屋を片付け、急遽展示物を引き上げる事にした。
「このような結果になってしまい、申し訳ありませんでした・・・。」
「いえいえ!あんな事態が起きてしまったわけですから仕方がありませんよ!」
帰宅する準備をし終えた峰田不二子達は、生徒会長である森亮介に挨拶をする。
「それで例の件、お願いします。」
「う~ん・・・。まぁ、優の兄貴たってのお願いですからね。いいっすよ。」
早乙女優は森亮介にあることをお願いした。
そのお願い事は、
「ええ。森さんがあの女性を捕まえた、という話を大学中に流しておいてください。」
「いいんすか?だって、」
それは森亮介を、大学構内で暴れていた女性を捕まえた者として話を広める事だった。
「構いません。何せ、森さんがあの方を捕まえたことは事実ですから。」
「でも優の兄貴、あの人って優の兄貴、もしくは菊池の姉御の知り合いなんじゃ・・・?」
「いえ、私や菊地先輩とは何の関りもありませんので問題ありません。」
「そうですか?分かりました・・・。」
森亮介はどこか納得していないものの、早乙女優の願いだからと聞くことにした。
そんな話をしていると、峰田不二子、川島優香、下田光代の3人は森亮介に挨拶をし、この場を離れていった。
「・・・。」
「・・・。」
その際、峰田不二子は工藤直紀の近くに寄り、何か呟いた。
(分かった。ちゃんとやるさ。)
工藤直紀は無言のまま、峰田不二子を向いて頷く。
その様子を見ていた峰田不二子だけでなく、川島優香、下田光代は、工藤直紀に向けて会釈した。
(さて、やるか。)
工藤直紀は誰に言われるわけでもなく、独り、覚悟を決めた。
「それでは、今日はこれで失礼しました。本当、申し訳ありませんでした。」
「!!??いえいえ!優の兄貴が謝る事じゃないっすよ!?あんなの、単なる事故みたいじゃないっすか!?」
「それでも、今思えばもっとやりようはあったと思います。結局、下田さんのハサミ、壊してしまいましたし。」
「・・・そればかりは何とも言えないっすね。優の兄貴の力に驚かされましたし。」
早乙女優は森亮介と話をし、
「それでは優さん、また会いましょうね。」
「はい。今度はもっとゆっくり話が出来るといいですね。」
「はい!今度は、森生徒会長とどのようにして知り合ったのか詳しく知りたいです。」
風間美和とも話をしてから、早乙女優、工藤直紀、菊池美奈は大学を去る。
「・・・この後、私は警察に事情を話してきますが、お二方はどうしますか?」
「私も行くわ。行く以外の選択肢なんてないもの。」
「俺も。俺、当事者だし。」
大学を去った後、三人は警察署へ行き、今回の経緯を一通り説明する。
 
一通り事情聴取を終えた頃には、周囲の景色は暗みを帯び、夕飯も食べ始めている時刻となっていた。
「ふぅ。やっと解放されたな。」
「ええ。長かったわ。」
「ですが、解放されて良かったです。」
工藤直紀、菊池美奈、早乙女優の3人は警察署から出て、自宅に戻り始めていた。
「こんな時間だし、近くの店で夕飯でも買って行かないか?どうせこれから夕飯作らないだろう?」
「分かりました。では近くにあるコンビニは・・・こちらの道の先にあるみたいですので、こちらを経由しましょうか?」
「さんせーい♪」
早乙女優達はコンビニで夕飯を購入し、社員寮へ戻っていった。
「それでは私はこれで失礼します。」
早乙女優は菊池美奈、工藤直紀に頭を下げ、二人から離れようとする。
「私も今日はなんだか疲れちゃったし、優君の部屋でそのまま襲っちゃおうかな♪」
「それは是非ともお控え願います。」
「ちぇ~。」
菊池美奈は早乙女優の拒否にガッカリしつつも、菊池美奈は自身の部屋に戻ろうとする。
「待て。二人とも、これからいいか?」
工藤直紀の真剣な言葉、お願いに、
「これからですか?夕飯食べた後でも問題なければ大丈夫です。」
「優君が行くなら私も行くわ。何せ私と優君は一心同体だからね!」
「・・・そうか。なら夕飯後、俺の部屋の前まで来てくれ。なんなら夕飯も俺の部屋で食っていっても構わないが、どうする?」
「・・・工藤先輩の部屋で食べた方が時間の節約になると思いますので、ご厄介になります。」
「優君が言うなら、厄介になろうかしら。・・・念のために言っておくけど、ゴミだらけだったらぶっ飛ばすわよ。」
「真面目なトーンで言わないでくれよ・・・。俺の部屋は十分綺麗だから大丈夫だ、多分。」
「多分と言うあたり不安ね。」
こうして、工藤直紀、菊池美奈、早乙女優は工藤直紀の部屋で夕飯を食べる事になった。
「ふぅー。美味かった。最近のコンビニの飯は美味いな。もう一生コンビニでいいかもしれないな。」
「それでもいいかもしれませんが、栄養面もきちんと考えて食事してくださいね。」
「おう。それにしても、片付けまでさせて悪いな。」
「いえ。私が好きでやっている事ですので気にしないでください。」
「私は、優君の隣にいたいからこうしてキッチンにいて、優君の役に立とうとしているだけだから。」
早乙女優と菊池美奈は食事に使用した食器を洗っていく。
そして、食器を洗い終えた二人は椅子に座る。
「それで、話ってなんなの?」
菊池美奈は話を切り出す。
「今日の事について、言いたいことがあってな。」
この工藤直紀の言葉を聞き、
「「!!??」」
菊池美奈と早乙女優は見てわかるくらい動揺する。
これから、工藤直紀、菊池美奈、早乙女優にとって、いつもより少し長い夜を過ごす事になる。
次回予告
『小さな会社員の大学祭支援生活~その9~』
大学や警察署で色々話をし、社員寮に戻るころには既に夕飯時だった。
夕飯後、工藤直紀は早乙女優と菊池美奈の2人にある話をする。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
 




