何でも出来るOLのかつての生活~小学生編~
菊池美奈は昔から飛びぬけて優秀だった。
運動においては、出来ないスポーツが一つもないくらい優秀だった。
勉強においては、同学年の人にテストの点数で負けたことなど一度もない。
まるで、英才教育を施されたエリートのようであった。
(・・・もしかして私、悪目立ちしている?)
菊池美奈は最初、他の人の視線を気にしていなかった。
ある日、その視線、正体に気付く。その視線は、嫉妬からくる視線だと理解した。
「なんだよ。まるで出来て当たり前って顔しやがって。」
「出来ない人の気もしないで。」
「なんかむかつく。」
嫉妬の元凶は、自分の能力のせいだと、自分の実力を公表し過ぎたせいだと理解した。
(そんなことも分からなかったのね。私って馬鹿ね。)
菊池美奈は、自身が悪目立ちしていたことに気付き、自身の実力を学校で過剰に発揮しなくなった。
「ねぇねぇ?どうして何でも出来るのに、顔色一つ変えないの~?
「どうしてどうして~?」
悪目立ちしないようにしても時すでに遅く、菊池美奈のスペックの高さに多くの生徒は驚き、菊池美奈の周囲に集まっていく。菊池美奈は多くの質問に答えていったのだが、無表情で返答していった。その無表情が、周囲の子供達の嫉妬をかってしまったのである。かってしまった嫉妬の範囲は、同じクラスに留まることを知らなかった。何故なら、菊池美奈が見せた能力は、同年代の子供だけでなく、上級生、そして先生すらも出来ないようなことを平然とこなしていたからである。
運動能力に関しては、先生が見せるお手本以上に上手く出来た時もあった。
勉強能力に関しては、重箱の隅をつつくような誤記を指摘したり、テスト問題の作製に関してアドバイスしたりしたこともある。
それらの事を、無表情で行い続けた。まるで出来る事が当たり前のように、淡々とこなしていった。不愛想な態度を周囲にし続けたせいか、いつしか同級生だけでなく上級生、先生の間でも噂になり、嫉妬、嫌悪へと感情が変化していき、負の感情をぶつけられるようになった。
そんな負の感情の渦の中心にいながらも、菊池美奈は相変わらず、表情一つ変えずに生活し続けた。
最初は無視、そして菊池美奈という人間がその場にいないような対応をされた。それでも菊池美奈は顔色一つ変えずに生活していく。
「ねぇ?なんであんなに顔色変えないの?」
「もしかして機械なんじゃないの?」
「機械女?」
「メカ女の方がよくない?」
「それいいじゃん!」
無視をしても表情一つに生活していくことから、菊池美奈という人間は、実は人間ではなく機械ではないかと噂に出回った。だが、ある人物が機械ではなくメカという言い方に固執し、いつしか菊池美奈のあだ名がメカ女となった。
「・・・。」
その決定に、菊池美奈は何も口を挟まなかった。
(もう何を言っても遅いだろうから諦めるわ。)
菊池美奈は心の底で、自分の評価がもうこれ以上よい方向に変わらないことを悟っていた。だから、自分から進んで弁明せず、そのままあだ名等を放置していった。
ここまでの出来事は、菊池美奈が小学一年生の時に起きたのであった。
年月が過ぎ、菊池美奈が小学二年生になった時、菊池美奈に対する無視行為はどうなったのかと言うと、
「・・・。」
「「「・・・。」」」
相変わらず周囲の人間は菊池美奈を無視し続けていた。
いつの間にか菊池美奈と同じ生徒だけでなく、生徒を導く立場である教師陣も、菊池美奈を無視することに抵抗がなくなっていた。
最初、教師陣の中には、一生徒を無視するのはいかがなものかと異議を唱えた者がいた。その者は、菊池美奈が二年生になった時、異動で別の学校に移っていった。何者かの圧力がかかったかどうかは不明である。
一つ年をとり、去年より知識を蓄えてきたからか、菊池美奈に対する無視行為は加速していく。
「・・・。」
ある日、菊池美奈が登校し、自身が使用している机に座ろうとすると、机の違和感に気づく。その違和感の正体は、机に記載していた落書き。その落書きには、菊池美奈を侮蔑する言葉の数々。菊池美奈の身体的特徴を嘲笑うかのような言葉や、勉学に関する蔑みの言葉が書き並べていた。
(とうとう、ここまで来たか。)
菊池美奈は周囲を見る。その周囲は、菊池美奈の様子を見て嘲笑し、嘲笑っていた。その嘲笑だけで、誰がこの机に罵詈雑言を並べ立てたのかすぐに分かった。
(ほんと、馬鹿な人達。こんなことをして何の意味があるのやら。)
菊池美奈は心の中で周囲の人達に呆れ、表情一つ変えずに座る。
やがて先生が入ってきて、菊池美奈の机の異変に気づく。だが、先生は菊池美奈の机に関して一切触れることなく話を進めていった。
(期待なんてするだけ無駄ね。)
菊池美奈は去年、この学校に通っている生徒だけでなく先生に対しても期待しなくなったのだが、、改めて教師という人間に期待しないことを決めた。
そして、落書きされるのは机だけにとどまらなかった。
机だけでなく、菊池美奈が使っている文房具、鞄にも落書きされるようになった。
(ほんと、幼稚。そして、これを見て見ぬふりをする大人も、ほんと・・・はぁ。)
ため息をつきたくなっても、顔には一切出さず、日常生活を送っていった。
そんな日常生活に、最悪の転機が訪れる。
菊池美奈が個室で用を足している際、突如上から大量の水分が菊池美奈めがけて降り注がれる。
「!?」
菊池美奈は、さきほど体に浴びた何かの正体を掴むため、さきほど浴びた水分に触れる。
(・・・これは水ね。しかも臭い。泥水・・・違うわね。掃除後の雑巾に浸けた水ね。なんとも悪趣味な。)
菊池美奈は、使用済みの雑巾を洗う際に使用した水をかけられたと確信する。その汚水をかけられたことで、自分から異臭を放っていることに気づく。
(これは・・・早退するしかないわね。)
菊池美奈はこれ以上異臭を周囲に放ち続けたくないため、早々に帰宅し、着替える事を決意する。帰宅する際、
「あの子、どうしてビショビショなの?」
「さっきバケツを持っていた子達いるじゃない?きっとあの子達よ。それにあの子、例の子よ。」
「例の?・・・ああ、例の。」
多くの児童から見られていたが、同情の視線より、侮蔑、非難の視線を送られていた。菊池美奈はそれらの視線を気にすることなく帰宅した。
汚水をかけられた次の日。
「あんたさぁ、調子乗ってんじゃないわよ!」
三島美香子達は、物理的な実力行使に及んだ。この日、菊池美奈は大怪我を負ってしまった。
小学生にして大人以上の能力を見せた結果、周囲の人からは無視され、汚水をかけられ、暴力をふるわれた。
だが、菊池美奈は決して、三島美香子達に反撃しなかった。
その理由は、どうでもよかったからである。
菊池美奈にとって、学校という存在そのものがどうでもよかった。学校という存在がどうでもいいから、学校に付随する生徒、先生という存在もどうでもよかったのである。
では、どうして学校に関してどうでもいいと思っているのか。
その理由は、菊池美奈自身の能力の事である。
菊池美奈の能力は子供ながら大人以上の能力を秘めていて、小学校に入学する前から、学校で学んでいく知識等は習得済みである。だから、菊池美奈自身学校に行く必要性を感じず、どうでもよいと思ってしまうのである。
学校に対してどうでもいいと思っていたのだが、それでも無視をされ、モノを壊され、怪我をさせられて気分が良いわけない。
(・・・仕返ししたいわね。いっそ殺して・・・いえ、それじゃあ駄目だわ。)
菊池美奈はすぐ、自分の考えを否定する。
菊池美奈の中に殺意が芽生え始める。その殺意は、菊池美奈に傷が出来ればできるほど成長し、大きくなってしまう。
(どうでもいいのに、殺意だけ大きくなるなんて・・・。ほんと、自分が嫌になるわ。)
菊池美奈は自分の心境に嫌気がさす。
(これはもしかしたら、ふとした時に殺すかもしれないわ。)
そして、自分の殺人衝動がいつか抑えられなくなり、人を殺める可能性について考察し始める。
(あまりしたくないけど、やってみるか。)
菊池美奈は殺人衝動を抑えるため、ある試みを実行に移した。
その試みとは、暗示である。
菊池美奈は自己暗示をかけるため、暗示に関する本を購入して熟読し、ネットで調べ、自己暗示をかける。
(学校に関する全てのものがどうでもよくなる。学校に関するすべてのものがどうでもよくなる・・・。)
自己暗示の内容は、学校に関わる全ての事がどうでもよく感じる、そんな暗示である。
学校に関わる全ての事、その事には三島美香子のような小学生、教師も含まれている。
暗示をかけ終え、菊池美奈は学校のことについて思考を始める。
(・・・どうやら成功したみたいね。)
すると、全てがどうでもよく、怒りや悲しみ、何の感情も湧かなかった。今まで無視され、モノに落書きされ、肉体的にも精神的にも散々傷つけられてきたのに、である。
次回予告
『小さな会社員の大学祭支援生活~その5~』
早乙女優の予感は悪い意味で当たってしまい、三島美香子の攻撃により、傷ついてしまう。
その傷に、その理不尽に、早乙女優は黙っていられなくなる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




