小さな会社員の大学祭支援生活~その3~
あれから私は、森さんが勤めている店を後にし、峰田さん達がいる場所に無事戻ることが出来ました。
「おかえり。」
「どう?ゆっくり出来た。」
「宣伝も無事出来たみたいで、多くの人が見に来てくれたわ。これも優君のおかげね。ありがとう。」
峰田さん達は私と菊池先輩を労ってくれました。
(それより、さきほど私がいた時より人が多いですね。)
さきほど川島さんが言っていた通り、私の宣伝が効いたのでしょうか?私からすればそこまで必死で宣伝していないのでお礼を言われてもピンときません。だからと言って川島さんの称賛を簡単に否定するのは気が引けますので、ここは称賛を受け入れるとしましょう。
(さて、私も川島さん達のお手伝いをしますか。)
今の私に何が出来るか分かりませんが、出来る事をこなしていきましょう。
そして私は、川島さん達の手伝いをして、さらに時間を経過させていった。
人に衣服に関する説明を一通りし、人が少なくなってきました。きっと、そろそろお昼時だから、飲食可能なお店に向かっている方々が多くなっているのでしょう。ここ、衣服や衣服を作製する道具はあっても、食材、料理はありませんからね。
「・・・そろそろお昼だし、人も少なくなってきたし、お昼休憩でもとる?」
「いいわね。全員が一気に抜けるわけにはいかないし、誰からご飯行く?」
そんな峰田さん達の会話に、私はある提案を思いつき、話すことにしました。
「それでしたら、峰田さん、川島さん、下田さん、菊地先輩の4人は先に食事してください。私はここに残っていますので。」
さきほどケーキとコーヒーだけだったとはいえ、食べ物を摂取したことには変わりありません。なので、多少食事する時間が遅くなっても問題ありません。
「優君独りでここに残らせるわけにはいかないわ!私も残る!」
菊池先輩が何か言ってきました。私としては、菊地先輩をいつまでも空腹にさせるわけにはいかないと考え、私以外の4人で食事でも行ったらどうなのかと提案したのですが、菊地先輩は不服みたいです。
「ですが菊池先輩、お腹、空いているのではありませんか?」
菊池先輩の空腹具合が分かりませんからね。私がお腹空いていなくても、菊地先輩のお腹が空いている可能性があります。
(それにせっかくの機会ですから、菊地先輩には他の知り合いの方と親交を深めて欲しいです。)
私の勝手な思い込みですが、菊地先輩と峰田さん達の4人の間でつもる話があるでしょう。こういう時でないと集まることなんてあまり出来なさそうですし、つもる話を少しでも多くして、普段のストレスを出来るだけ解消してもらいたいです。
「全く空いていないわ!だからあなた達3人で食事に行ってきなさい!」
・・・どうやら私の勝手な思い込みは菊池先輩の事を考えていない、いきすぎた考えのようです。菊池先輩は私にひっつき、ここから離れようとしませんでした。
「・・・すみませんが、下田さん、峰田さん、川島さんの3人でお食事に行ってください。ここは私と菊池先輩の2人で引き続き来訪して下さった方々の案内を致しますので。」
私の気遣いは誰にも知られることなく終わり、私は菊池先輩の提案をのむことにして、三人に食事するよう言いました。
「・・・分かったわ。」
「優君、あなたも大変ね。」
「本当に辛かったらいつでも言うのよ?力になるからね。」
「ありがとうございます。」
下田さん、峰田さん、川島さんの3人は私に労いの言葉をかけてから退室しました。私は3人の言葉に感謝の言葉を返しておきました。
「?あいつらは一体何を言っているのかしら?」
「さ、さぁ?」
あの3人は間違いなく菊池先輩の事を言っていると思います。言われている本人は気づいていないようですが。
「それより優君!」
「な、なんでしょうか?」
急に大きな声を出すとは、改めて何か言うつもりなのでしょうか?
「私、優君があまりにも魅力的だから、発情しっぱなしなの!だから責任とって!」
「・・・そうですか。それは大変ですね。」
私は菊池先輩の話を聞き流しました。時々、菊地先輩の言い分が分からなくなります。一体、私の何に発情したというのでしょう?訳が分かりません。
その後、私は菊池先輩と協力しながら展示物を見に来てくださる方々に詳細な説明をして、おもてなしをしていきました。
峰田さん達が退室してから数十分後、
「優く~ん。人もいなくなったし、そろそろ・・・しよ?」
「・・・一体何をする気なのですか?」
何故か急に自身の服を一部つまみ、自身の肩を露出させているようです。
(・・・もしかして?)
暑いのでしょうか?だとすれば、肌を露出させる理由も分かります。そう考えると、まず先にこの部屋の気温を下げた方がよくないですか?せっかくこの部屋にエアコンがついているのですから、使わない手はないと思います。
(これですね。)
私は菊池先輩の横を通り過ぎ、エアコンの設定温度を下げました。
「・・・優君、何をしているの?」
「何って、エアコンの設定温度を下げているんですよ?」
「・・・どうして急にエアコンの設定温度を下げたの?」
「どうしてって、暑いのかなと思いまして。」
私は、エアコンの設定温度を下げた理由に関して話し始めました。
「・・・なるほど。私の体調を気遣っての行動だったのね。ありがとう、優君・・・。」
ありがとうと言う割には落ち込んでいるように見えるのは私の気のせいでしょうか?もしかして、本当は暑くなかったのでしょうか?一応聞いてみますか。
「もしかして、本当はまったく暑くなかったのですか?」
だとしたら、いきなり肩を露出させた意味が分かりません。まぁ、菊地先輩なりの理由があるのでしょう。
「ううん。暑くはあったのだけど、なんか違うと言うかなんというか・・・。」
菊池先輩はどこか歯切れの悪い返事をしました。どうして歯切れが悪いのでしょうか?私には分かりませんが、きっと菊池先輩なりの考えがあるのでしょう。出来ればその菊池先輩なりの理由を私に話して欲しいですが、何か話したくない理由でもあるのでしょうね。だとすれば、そこまで踏み込んで聞くのは野暮というものでしょう。
「そうですか。分かりました。」
これで、菊地先輩が急に肩を露出した理由が分からなくなりました。まぁこのまま気にしない方がいいのかもしれません。本当は肩を露出しないと死んでしまい、誰にも相談出来ない状況下に置かれている、なんて理由があるかもしれないですしね。私個人としてはそんな理由、あるわけないと思いますが。
私が菊池先輩の行動に色々思考していると、一人の女性が入室してきました。私はその女性を特別視していなかったのですが、
「!?」
一瞬、菊地先輩が驚いた表情を晒しました。私は菊池先輩の驚愕した表情を見逃しませんでした。
(菊池先輩が驚くなんて・・・。あの人は一体・・・?)
私は密かに、さきほど入室してきた女性を注視することにしました。
「・・・あれ?」
さきほど入室してきた女性は、菊地先輩の顔を見始め、菊地先輩に近づきました。ここは展示物である衣服を見る場であって、展示している人物を見る場ではないのですが・・・。
「・・・。」
そして菊池先輩は何故か少し後ろに退いていました。
(?菊池先輩にしては珍しい反応ですね。)
確か、峰田さんと会う時、あからさまに嫌な顔はしますが、後退はしませんでした。ということは、峰田さんとは異なる嫌な思い出があったのでしょうか?
(そういえば確か・・・。)
私は自作したあるデータベースにアクセスし、そこに記載している情報を閲覧することにしました。
(これですね。)
私が見たい情報を見つけ、内容を確認していると、
「あれれ~?」
さきほど入室してきた女性はこちらに向かって歩き始めました。私と菊池先輩は入室してきた方々の邪魔にならないよう端に避けています。なので、私達の周囲に展示物はありません。なのにこちらに来るという事は・・・、
(私達に用事がある、ということですね。)
展示物に関して何か聞きたいことがあるのでしょう。もしくは、私達に何か用があるのでしょう。私はあの女性に見覚えが無いので、用があるとするなら菊地先輩でしょう。
「あなた、もしかしなくてもメカ女の美奈じゃな~い?」
その女性は菊池先輩の方を向いて話しかけてきました。
(あの人、もしかして菊池先輩に話しかけたのでしょうか?)
ですが、どこかおかしいように感じられます。
私の間違いでなければ、あの女性は菊池先輩の事を、【メカ女】、と言ったように聞こえました。この真偽は菊池先輩本人に確認するのは不味そうですし、菊地先輩の様子から判断するとしますか。
「・・・。」
菊池先輩は、さきほどの女性の発言に対し、何の反応も示しませんでした。
(どういうことでしょう?)
さきほどの発言はあの女性の虚、なのでしょうか?それとも、菊地先輩がポーカーフェイスをし、上手く表情を隠しているということなのでしょうか?
「何々~?久しぶりに会ったというのに無視するなんてひどいじゃない?」
その女性は菊池先輩に向けて笑顔で話しかけ始めました。ということは、菊地先輩の知り合い、ということになりますね。
(菊池先輩の知り合いにしては何故か違和感を覚えてしまいます。)
人の友好関係に口を挟むのは失礼かもしれませんが、この人はなんだか私達と異なる雰囲気を覚えます。私と菊池先輩、そして目の前の女性は同一人物ではないので異なる雰囲気を持っていないのは当然のことだと思うのですが、そうではなくて・・・説明が難しいです。とにかく、今後関わりたくないような、そんな雰囲気を覚えます。私の直感なのでそこまで当てに出来ないのですが。
「・・・。」
「・・・もしかして違う?いや、そんなことはないわ。私があなたを見間違えるわけないもの。ねぇ、メカ女?」
・・・私の直感が私の脳内でこう言っています。
「私よ、私。小学生の時同じクラスにいた三島美香子よ。」
目の前にいる女性は危険だと。
次回予告
『小さな会社員の大学祭支援生活~その4~』
突如現れた三島美香子という女性。その女性は、小学生時の菊池美奈のクラスメイトだった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




