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小さな会社員の大学祭支援生活~その2~

 大学内を宣伝しながら歩いていると、私は奇異な目で見られ始めました。

(理由は間違いなく、この服装、でしょうね。)

 私は今着用している衣装によって突き刺さっている視線の数々に耐えながら、パネルをみんなに見せるようにして歩いています。

(この宣伝が本当にきくのですかね。)

 視線集めにはもってこいでしょうが、こんな視線は欲しくないです。こんな私、見られたくないなぁ。

「ん?」

 大学の敷地内に入った時もそうですが、食べ物の屋台が複数ありますね。

(焼きそばや焼きともうもろこし、ケバブまでありますね。あのセットって、まさか焼肉までここで食べられるのですか?)

 そういえば私、大学祭に来たことが無いので、大学祭で出る料理がどんな味なのか分からないんですよね。何か特別な味付けでもしているのでしょうか。一度でいいから食べてみたいです。

(そして・・・、)

 何か大きなセットがありますね。見たところ、大きな機材が用意してあります。あの機材は・・・スピーカー、でしょうか?あそこで何をするつもりなのでしょう?

「・・・。」

「どうしたの、優君?歌いたいの?」

 私が大きなセットを見ていたら、菊地先輩が声をかけてきました。

「いえ、まったく。私は歌うより、屋台で売られている食べ物がどんな味なのか食べてみたいだけです。」

 私は咄嗟の言い訳に屋台を使いました。

「もしかして優君、屋台で出されている料理、食べたいの?」

「あ、はい。そうですね。」

 屋台で出される料理、確かに気にはなっているので、嘘ではないことを確認します。

「ですが、この衣装ですと食べられないので少し残念です。」

 飲食をすることでこの衣服を汚すかもしれません。それだけは絶対にダメです。

「大丈夫!そのために私がいるわ!!」

「・・・どういう意味ですか?」

 菊地先輩の言葉の意味を少し考えてみたのですが、私には分かりませんでした。なので、菊地先輩に質問の意図を聞きます。

「優君が料理を、服を汚すことなく食べられるよう、私があ~んしてあげるわ!」

「・・・。」

 どうしましょう。普段なら断るのですが、この大学祭で出ている料理は食べてみたいです。となると、菊地先輩の協力は必須です。

(服を汚さずに食べることくらい出来ますが、絶対ではないですからね。)

 どんなことにも絶対はありません。私は普段、食事で服を汚すことはないのですが、もしものことを菊池先輩は考慮したのでしょう。そう考えると、菊地先輩の考えを無下に断るわけにはいかなくなります。断るにしても、なにかしらきちんとした理由で断る必要があります。

(菊池先輩の提案を断ることが出来る理由ですか。なにかあるのでしょうか?)

 ・・・。

 特に思いつかない。

 なので、

「それでは、お願いします。」

 私は菊池先輩の提案を受け入れることにしました。大学の屋台で出される料理を食べてみたいですし、服を汚す可能性は少ないにこしたことはないですからね。恥ずかしいのは・・・諦めて我慢しましょう。時には諦めも重要なのです。

「はーい♪」

 私が承諾の意を伝えると、菊地先輩は喜んでどこかに向かいました。

(おそらく屋台ですね。)

 私が推測していると、菊地先輩は私の推測通り、屋台へ向かいました。

「優くーん♪」

 ・・・何か、いっぱい持って戻ってきました。あれってケバブですね。

「はい、あーん♪」

 菊池先輩はさっそく購入してきたケバブを私に向けてあーんしてきました。

「・・・あ、あーん。」

 私は菊地先輩からケバブをいただきました。

「どう?どう?」

「美味しいです。」

 いつもと異なる場所で食事をしているからか、いつもより新鮮な感じがします。

「やった♪それじゃあ優君、もっといろんな種類の食べ物や飲み物があるから、そっちに行ってみる?」

「可能であれば行ってみたいです。」

 まだ私のお腹の中に入りますからね。入る時に食べてしまいましょう。

(あ。)

 そういえば私、今汚してはならない服を着ていましたね。ということは、また食事をする場合、再び菊地先輩のお世話になるということですね。

(・・・ま、いいか。)

 せっかくの機会ですし、この場を楽しむとしましょう。

「♪♪♪」

 菊池先輩も楽しんでいるご様子ですし、引き続き楽しむとしましょう。

 それから私と菊池先輩は、飲食物が売られている屋台を出来るだけ回り、飲食し、峰田さん達へのお土産をいくつか購入しました。

「それでは、峰田さん達へのお土産を購入したことですし、戻りましょうか?」

 いつまでも峰田さん達だけに任せるわけにはいきませんからね。私達も協力しませんと。

「え~。私、優君ともっと屋台を回りたいわ。駄目?」

「駄目です。きっと峰田さん達もこの大学の屋台を見たいはずですから。」

 それに、大学では屋台だけでなく他の出し物もやっているようですし。何か話し声や歓声が聞こえてきますからね。何をやっているのかは詳細には知らないのですが。

「それでは菊地先輩、戻りますよ。」

「は~い。」

 私の声に、菊地先輩は嫌そうな態度を見せつつも、峰田さん達のところへ戻ろうとしていました。

(菊池先輩、遠慮していただきありがとうございます。)

 菊池先輩のそういうところ、私は好きですよ。

「・・・ん?何か優君から好意を寄せられている気がするわ!こうなったら優君と外であんなことやこんなことを・・・、」

「何を言いたいのか分かりませんが、しませんからね?」

「えぇ!!??そ、そ、そんな!!!???」

 何故菊池先輩は見てわかるほど驚き、がっかりしているのでしょう?菊池先輩の考えていることが分かりません。ま、無理に分かろうとするつもりなんてありません。世の中、私に分からないことが多々あるわけですから。

 分からないことに関する思考を展開していたら、いつの間にか峰田さん達の元へ到着していました。

「ただいま戻りました。」

 そう峰田さん達に報告しました。

「おかえりなさい。どう?ちゃんと宣伝してきた?」

「それはもう、ちゃんと色々買ってきました。さっそく召し上がりますか?」

「・・・大学祭を堪能していたみたいでよかったわ。せっかくだしいただくわ。」

 そう言ってくれたので、私はみなさんにさきほど購入してきたものを渡しました。

「・・・結構いけるわね。」

「美味しい♪」

「これら、いくらかかったの?お金は払うわよ?」

「いえいえ。これくらい奢らせてください。そして私に、恩を返させてください。」

 私がそう言うと、

「・・・分かったわ。優君のその気持ちを尊重して、素直に奢られるわ。ご馳走様です。」

 峰田さん達は私の言葉に納得してくれたのか、峰田さん達はこれ以上言わなくなりました。

 そして一通り食べた後、

「それじゃあ私達もちょっと見て来るわね。」

「その間、この部屋の事、任せてもいいかしら?」

 そう言いながら、峰田さん、川島さん、下田さんは貴重品を手に持ち、外出の準備を始めました。

「分かりました。この部屋の管理は任せて下さい。」

「・・・今からこの部屋には、私と優君の二人だけになるのね。であれば、性的に優君を襲ってもいいんじゃ・・・?」

「「「それは駄目!!!」」」

「ちぇー。」

 菊池先輩は本当、欲望に忠実ですね。まぁ、性的に襲わせませんけどね。襲われたくないので。

 峰田さん達が部屋から出て少し時間が経過し、

「・・・。」

 女性方が入室してきました。女性方は展示している衣服を閲覧しています。

「うわー。」

「きれー。」

 なんて言葉が聞こえてきました。服に関して説明は出来ますが、して欲しいとお願いされたら出来るよう準備だけは怠らないようにしましょう。

「あのー。」

「はい、なんでしょう?」

「この服なんですけど・・・、」

 菊池先輩は服に関する説明を始めました。

(さて、私も菊地先輩みたいに振る舞いますか。)

 と、息まいていたのですが、

「かわいー♪」

「「ねー。」」

 ・・・何故か私は、多くの方々から優しく頭を撫でられていました。私だって、菊地先輩のように振る舞いたいのに・・・。

「優君可愛い♪」

「菊地先輩まで私の頭を撫でないでください。」

「えー?だって、優君が可愛過ぎるんだもん。これはもうナデナデ案件よ!」

「はぁ。」

 ナデナデ案件って一体・・・?もう菊池先輩が分かりません。


 私と菊池先輩が展示している服の確認をしていると、

「うっす。失礼します。」

 とある方が声をあげて入室してきました。その方は、メイドの服を着た女性・・・女性?

(女性が、うっす、なんて言うでしょうか?それに先ほどの声、どこかで聞いたような・・・?)

 私がさきほど入室してきた女性?について考えていると、女性?は私を見るなり、

「優の兄貴、お久しぶりっす!」

 という言葉が私に向けられてきました。

(この方は一体・・・?それにさきほど私の事を、優の兄貴、と言っておりましたね。そのような呼称で私を呼ぶのは確か・・・。でも・・・、)

 私は改めて女性?を見ます。そう言われれば面影があるような、ないような?

「もしかして、森さん、ですか?」

「そうっす!優の兄貴の弟分である森亮介っす!」

「そ、そうですか・・・。」

 まさか目の前にいるメイド服を着ている女性が女性ではなく、森亮介さんという男性だったとは。

(かなり女装が様になっていますね。)

 一目で森さんだと気づきませんでした。おそらく、女装に関する技術を独学で習得していったのでしょう。ですが、一言だけ言わせてください。

「その言葉遣いは直さなかったのですか?」

 女性の服を着ているにも関わらずさきほどから語尾に、す、をつけています。その、す、がどうしても気になってしまいます。私だけでしょうか?

「言葉遣いっすか?」

「ええ。語尾が気になるのですが、女装している時だけでも直さないのですか?」

 普段の口調に関して口を挟むつもりはありません。口癖も個性の一つでしょうし、時や場所等をわきまえていれば問題ないと考えているためです。ですが、女装している時までその口調で話していると、なんだか違和感を覚えます。

「これっすか?なんか、優の兄貴と話していると、自然とこの口調になるんすよ。優の兄貴以外と話す時は普通っすよ?」

「・・・ならいいです。」

 どうして私だけその口調なのでしょう?

 ・・・もう気にしなくていいや。なんだか考えるのがバカバカしくなってきましたし。

「そうだ!優の兄貴も、菊地の姉御も、是非俺達の店に来てください。このチケットを使えば、どんな料理も一品だけ無料で食べられますので。」

「そんなチケット、私に渡していいのですか?」

 このようなチケットであれば、他にも渡したい人物がいるのではないでしょうか?例えば肉親とか、恩を返したい人とか。

「もちろんっすよ!優の兄貴には返しきれない恩があるっすからね!」

「・・・そう言う事なら、ありがたく使わせていただきます。ありがとうございます。」

 私は森さんの意見を尊重し、森さんからチケットをいただきました。

「菊地の姉御も受け取ってくだせぇ。」

「そう?それならありがたく使わせてもらうわ。」

 どうやら森さんは菊池先輩の分も持っていたらしく、菊地先輩にもチケットを渡していました。

(森さん、私達にこのようなものをくださり、ありがとうございます。)

 私は心の中で感謝の言葉を述べました。

「それじゃあ優の兄貴、菊地の姉御。それでは。」

 森さんは私達に敬礼してから、この部屋を去っていきました。

 ・・・何故敬礼をしたのかはこの際、考えないようにしますか。森さんなりに敬意を表したのでしょう。

「ねぇ優君、さっそく行ってみない?」

「駄目ですよ。私達がこの場を離れたら、この部屋に誰もいなくなってしまうじゃないですか。」

「別にいいんじゃないかしら?どうせこんな場所に誰も来るわけないでしょうし。」

「現に来てくれた人もいるじゃないですか。ちゃんといなきゃ駄目ですよ。」

「ちぇー。」

 私と菊池先輩は森さんの来訪後も番を続け、

「戻ったわ。」

「いやー。なかなかいい踊りを見させてもらったわ。」

「若いながら結構カップルがいたわね。・・・カップルは全員爆発すればいいのに。」

 どうやら下田さんと川島さんは満足したようです。峰田さんは・・・なんか纏ってはいけない何かを纏っているみたいです。とりあえず、峰田さんに話を振らない方がいいかもしれません。

「すみませんが、さきほど知り合いの方に誘われたので行きたい店があるのですが、行ってもよろしいですか?」

 本当は誘われているわけではないのですが、少しくらい話を盛っても問題ないでしょう。下手に話を掘り下げられたら困りますが、その場の機転でなんとか乗り越える事にしますか。

「そうなの?まぁ面白そうなお店はいくつかあったしね。」

「なにより、優君達は準備の段階でかなり協力してくれたから、こういう時くらい思う存分楽しんできて。」

「私はもういいわ。もうイチャイチャしているカップル、見たくないから。」

 みなさん、私の我が儘を受け入れてくれました。本当に優しくて素敵な方々です。後でまた恩返しをしないと、ですね。

(峰田さんは・・・強く生きて下さい。)

 峰田さん、よほどカップルに恨みがあるのですね。詳しくは聞かないでおきましょう。

「それではまた行ってきます。」

「私は優君とラブホに行って、優君の子を孕むわ♪」

「・・・馬鹿な事を行っていないで、森さんのお店に向かいますよ。」

「はーい♪」

 ・・・菊池先輩の言動は深く考えてはいけません。深く考えると頭が痛くなるので。

(はぁ。)

 冗談にしても、質が悪いと思います。少なくとも、今の私は菊池先輩を孕ませようだなんて考えていません。なので、菊地先輩の言動は流すにかぎります。

 私は菊池先輩の言葉を流し、森さんのお店に向かいました。

 少し歩き、ふとあることに気付きました。

「菊地先輩、なんだか人、多くありません?」

 それは、人の多さです。同じ大学内でも、人の交通量がかなり違うように感じます。

「そうね。さっきまで小川にいたのに、今は大河にいるって感じね。」

「そうですね。」

 菊池先輩の言う通り、人の交通量は小川と大河くらい違うと思います。

「この先にある店って確か・・・、」

「さきほど森さんがくれたチケットに記載してあるこの・・・男女装カフェ、ですか?だと思います。」

 どうやらこの先に私達の目的地であるお店、男女装カフェがあるらしいです。そのカフェに近づくたび、人が多くなっています。もしかして、この人達全員、森さんがいる男女装カフェに向かっているのでしょうか?

「優君もこの機会に乗じて女装してくれないかな~♪あ、もう女装していたんだった♪♪」

「菊地先輩、ぶん殴りますよ?」

 菊池先輩のぶっ飛んだ発言に、私の発言もぶっ飛んでしまいました。私の発言がぶっ飛んでしまったのは菊池先輩のせいですので、私は悪くありません。全て菊地先輩のせいなのです。

「優君が私をぶっ飛ばしてくれるの!?それもいいかも♪」

「・・・。」

 どうやら、私が菊地先輩をぶっ飛ばしたとしても、菊地先輩にとってご褒美になるみたいです。

(はぁ。)

 どうすれば、菊地先輩に反撃が出来るのでしょう?

(罰として、工藤先輩とキスしてください、とか?)

 ・・・辞めておきましょう。キスという行為を罰ゲームで強制させるのは良くないでしょう。本当、どうしましょう?

「さて、着いたわ・・・よ?」

「・・・なんか、ものすごく混んでいませんか?」

 なんだか、待っている方々がとても多いし、店内も見たところ満席みたいです。

「これは・・・戻りますか。」

「そう、ね。明日もこの店は営業しているみたいだし、他の店に行って、もっとデートを楽しもうよ、優君♪」

「デートではないですけど、楽しむことには同意します。」

 このような行事ごとにはあまり出たことがありませんので楽しみたいです。そんな心境を菊池先輩に見破られてしまったのでしょうか?だとしたら少し恥ずかしいです。

「そうね。もっと私と優君のデートを楽しも―♪」

「さきほども言いましたが、これはデートではありませんよ?」

「分かった、分かった。」

 なんか、菊地先輩の返事が雑な気がします。本当に分かっているのでしょうか?

 そして、私達が男女装カフェを目の前にして去ろうとした時、

「あ!優の兄貴に菊池の姉御じゃないですか!?」

 この聞き慣れた声は・・・。声が聞こえた方角に視界を向けると、

「うっす!」

 女装している森さんがいました。

「うわー。」

「あの子、なんだか綺麗だな。」

「あれで男とかまじかよ。俺、男でもいいかも。」

「「それは分かる。」」

 ・・・なんか、森さんを見て顔を惚けている男性の方々がいます。・・・もしかして、この美貌があそこまで繁盛している理由なのでしょうか?だとしたら、女装でこれほど

変われる森さん達は本当に凄いです。これほど多くの人達の心を手に取り、お金を支払わせているのですからね。

「お二人のそのチケットはVIPチケットなので、特別にあの列に並ばなくても入店可能っすよ。」

 と、森さんは当然の事のように言ってきました。私、初耳なのですが?もしかして、菊地先輩には事前に話していた、とか?私は菊池先輩に視線を向けてみました。

「そういうことならこのチケットを渡した時に言って欲しかったわね。」

 菊池先輩は森さんに嫌味をぶつけていました。どうやら菊池先輩も知らなかったようです。

「あれ?言っていませんでしたっけ?」

「私の記憶では言っていなかったと思います。」

 おそらく、菊地先輩も私と同じように記憶していると思います。そうでなければ、さきほど森さんに嫌味をぶつけていないでしょう。

「まぁ過ぎたことはいいじゃないっすか。それじゃあ早速入店するっすよ。」

「「・・・。」」

 私と菊池先輩は森さんに一定の視線を送った後、森さんの後を追うかのように入店しました。


 入店すると、綺麗な店内と、

「「「いらっしゃいませ。」」」

 綺麗な店員さん達が私達を出迎えてくれました。この綺麗なメイドさん達全員が男性なのですか・・・。なんだか複雑な気持ちです。

「なんだか優君を見ているみたいね♪」

「菊地先輩、冗談もほどほどにしてくださいね。質が悪過ぎますよ。」

 まったく。どこが私だと・・・、

(まさか・・・。)

 メイド服を着て女装している男性方。

 そういえば私、普段はメイド服みたいな服を着て仕事をしていましたね。

 ・・・確かに、私自身を見ているような気がしますね。まさか、菊地先輩はそのことを察知して言っていたのでしょうか?

(なるほど。)

 分かりたくありませんでしたが、分かってしまいました。私って普段、このような恰好で視線を集めているのですね。

(はぁ。)

 なんだか自分の装いを客観的に見ているようで複雑です。

「・・・優君、目が死んでいるわよ。」

「別に目が死ぬくらいいいじゃないですか。」

 自分の女装姿がどのように見られているのかが分かりました。やはり、女装という行為は普通ではないということですね。

 さて、これらの席のどれかに座るのですか。一体どの席に座るのでしょう。そんなことを考えていたら、

(あれ?)

 席を素通りしていきました。

「この部屋で飲食しないのですか?」

 私は森さんに、疑問に思ったことを聞きます。

「違います。お二人には、こちらで十分なおもてなしを受けてもらいます。」

 そう言い、カーテンみたいな布に視線を向けていました。もしかして、あの布の向こうに空間があるのですかね。

「さ、どうぞ。」

 森さんは、布を引き、私達はカーテンの向こうに足を踏み入れました。

(・・・どうやら、先ほどの空間とは少し異なるようです。)

 さきほどより席の数は少なく、テーブルは3つ・・・ですね。おそらく、この空間に案内出来るのは3組まで、というところでしょうか。その分、気合いが入ったおもてなしをしてくれるのかも?

「では、こちらにお座りください。」

 森さんに案内され、私と菊池先輩は席に着きました。

「まずはお水をどうぞ。」

 森さんから水を受け取ります。私は森さんの行為に対し、無言でお辞儀をします。

「それでは、どちらのセットをいただくかこちらからお選びください。」

 そう言いながら、森さんはメニューを私と菊池先輩に渡してくれました。

「ありがとうございます。」

 今度は感謝の言葉を述べ、森さんからメニューを受け取り、どんなメニューがあるのか閲覧し始めました。

(なるほど。)

 森さんの言葉から、複数のセットがあることは容易に想像出来ました。私の想像通り、セットメニューは複数ありました。メニュー表を見るに、いずれも飲み物とケーキのセットみたいです。

(・・・見たところ、アイスはないようですね。)

 メニューに記載している料理名から察するに、どうやら私が好きなアイスは出していないようです。もしかしたら要冷凍の食品は出せない、なんて縛りがあるのかもしれません。だとすれば納得です。そんな縛りが本当にあるのかは不明ですが。

「ではこのコーヒーとティラミスのセットをお願いします。」

「私は優君と同じセットにするわ!それ以外は絶対にありえないわ。」

「わ、分かりました。」

 なんだか、森さんが若干困っているような反応です。無理ありません。菊池先輩があまりにも鬼気迫る勢いで森さんに注文していますからね。森さんは菊池先輩に対し、どのように対応すればいいのか困っているのでしょう。ここは私が助け舟を出すべきですね。

「菊地先輩、ただ注文するだけなのにそこまで必死にならないでください。森さんが困っているじゃないですか。」

「あら、そうだったの?それは申し訳ないわね。」

「い、いえ!気にしないでください。すぐにお持ちします。」

 森さんはすぐに私達から離れていきました。おそらく、私達が注文したものを持ってきてくれるのでしょう。もしかしたら今から作る可能性もありますが、まぁどちらでもいいです。手作りか既製品かどうでもよくなる問題があるのですから。

「菊地先輩、このメイドサービス、とは何なのですか?」

 注文する時に金額が書かれていなかったので気にしなかったのですが、今になって気になってしまい、菊地先輩に聞くことにしました。このメイドサービス、最悪な事態を想定するなら、私が菊地先輩に何かサービスをしないといけないのでしょうか。ある程度なら許容出来るのですが、菊地先輩なら私の許容を大幅に超えるような要求をしてきそうですからね。そんな事態は絶対に避けなければなりません。

「このメイドサービスはきっと、さっきのメイドが何かサービスするのよ。」

「ということは、私が菊池先輩に対して何かサービスすることはない、という認識で問題ないでしょうか?」

「・・・ええ、残念ながらね。」

 菊池先輩は何故か残念そうな顔をして俯きました。私としては残念どころか、変な事を要求される心配がなくて安心しています。

 その後、森さんが二人分のセットを持ち、私達の前に置いてくれました。

「メイドサービスにより、あ~ん、等のご要望があれば聞きますが、どうしますか?」

 どうするかと聞かれても、私は別にそんなサービスを受けるつもりなんてないのでお断りの意志を伝えました。

「流石は優の兄貴っすね!メイドサービスを断ったのは優の兄貴が初めてっすよ!」

 そんなことを言われました。普通の人は赤の他人にあ~ん、なんてされたいのでしょうか?・・・もしかしたら、赤の他人ではなく、美人なメイドや執事達にあ~んされたいのかもしれません。そう考えて周囲を見渡すと、確かにみなさん、店員の人にあ~んされていますね。している方もされている方も恥ずかしくないのでしょうか?

 そういえば、この部屋に入るまでに見てきた従業員の方々はお客の方々にあ~んなんてしていなかったような気がします。まぁ、私が見ているタイミングでしていなかった可能性もあるのでなんとも言えないのですが。

 ティラミスを完食し、コーヒーを飲み切り、会計を済ませようとしたところ、

「あ。このVIPチケットに代金も含まれているので、お代は結構っす。」

 ・・・そう、だったのですか。それは知りませんでした。それならそうと言ってくれたらよかったのに。まぁ会計時に言ってくれたのでよかったと考えましょう。

(それなりに時間が経過しましたし、いい休憩となりましたので、そろそろ戻るとしますか。)

 あまりここに長居しては森さん達に迷惑がかかってしまいますし、峰田さん達を長時間同じ部屋で拘束させるのも申し訳ないですしね。

「それでは菊地先輩、そろそろ戻りますか。」

「えぇ!!!??これでもう優君とのデートが終わってしまうと言うの!!??」

「菊地先輩うるさいです。後、これはデートではありません。」

 まったく。菊池先輩は何を勘違いしているのでしょうかね。

「それでは森さん。今日はありがとうございました。美味しかったです。」

 私は森さんに対しお辞儀をします。

「いえいえ。こちらこそ、ようやく恩を少し返すことが出来たので良かったっす。」

「そうですか。」

 この受けた恩は、いつか返すとしましょう。いつになるか分かりませんが、時が来たら返せるように準備でもしておきましょう。

「それではまた・・・、」

「あ、待ってほしいっす。」

 そう森さんは言い、どこか行ってしまいました。どこに行ったのか考えようとしたら、すぐ何かを持って戻ってきました。あれは何でしょう?

「これ、受け取ってほしいっす。」

 森さんが渡してきたのは、さきほど森さんに渡した二人分のVIPチケットでした。

「これ、さきほど森さんに渡しましたよね?」

「いえ。さきほど優さんから受け取ったチケットは今日の分っす。このチケットは明日の分っす。」

「明日の分、ですか?」

「そうっす。明日も来て、俺にこれまで受けてきた恩を少しでも返させてほしいっす!」

 恩を返させてほしい、ですか。

(その気持ちはよく分かります。)

 私だって、お世話になった方にはいつだって恩を返したいと思っています。ですから、この森さんの気持ちは尊重したいです。

「分かりました。明日は是非、」

 おっと。言い間違えてしまいました。

「明日も是非、この店に来ますね。」

 今日、この店に来たのですから、明日は、ではなく明日も、ですね。言い方を間違えてしまいました。

「うっす!明日もお待ちしているっす!」

 その森さんの言葉をしっかり聞いてから、私は再び森さんにお辞儀をし、退店しました。

「あ~あ。優君と二人っきりのデートが~~~。」

「何度も言っていますが、これはデートではありません。それに、二人っきりでもなかったですよ。」

 森さんがいましたからね。それに周囲にも何人かいましたし。どこの誰かまでは分かりませんでしたが。周囲の方々をじっくり観察していたわけではないですからね。

「そうね。入店した時にそいつら全員物理的にぶっ飛ばして二人っきりにすればよかったわ。」

「・・・そんなこと、、絶対に許されませんからね?」

 入店してきた人達を全員物理的にぶっ飛ばすなんて、具体的に何をするおつもりなのでしょう?怖くて詳細な内容は聞けませんが、絶対にさせないよう阻止しないと駄目なことは確かです。

「それじゃあ、これで勘弁してあげる♪」

 菊池先輩は私の手を握ってきました。まぁ、握手くらいなら問題ないでしょう。変な事ではないはずです。

「そうですか。それではこれで勘弁されます。」

 私は菊池先輩の行動を許容し、このまま峰田さん達の元へ向かい始めました。



 一方、

「お姉の執事姿、よく似合っているわね。」

「うん!流石は美和お姉ちゃんだね!」

「そ、そう?恥ずかしいけどありがとう。」

 森亮介が勤めているお店で働いている風間美和は、

「うんうん♪」

「娘の執事姿も悪くないわね。」

 風間一家と桜井一家をお客としてもてなしていた。

「もう~。私の顔はこれで十分見せたんだから、別のお店に行ってよ~。」

「嫌だ。もっと注文して、もっと美和の勇姿を見るんだ!」

「・・・親馬鹿め。」

 美和は自身の親に対して呆れ顔を晒しつつ、どこか嬉しそうな感情をかもしだす。

「・・・あれ?」

「?どうしたの、綾?」

「今、早乙女君に似ている人が奥から出てきたような・・・?」

 桜井綾は、早乙女優と似ている人物を見かける。

「気のせいじゃない?本当にいたとしても、早乙女君がどうしてこの大学にいるのって話にならない?」

「・・・そう、だよね。私達、中学生だし。大学見学にはまだ早いよね。」

 桜井綾はすぐに、自分の気のせいだと判断し、視線を戻す。

「そういえば、あの奥の部屋ってどうなっているの?」

「あの部屋?あの部屋はね、従業員が招いた人達しか入れない特別な部屋なの。」

「へぇ~。」

「だから、あの部屋に入っていったという事は、私達従業員の誰かと知り合いじゃないと入れないんじゃないかな。」

 風間美和は風間美和なりに推測し、桜井綾達に話す。

「そうなんだ。早乙女君にこの大学の知り合いがいるわけないよね。」

 桜井綾はそんなことを言い、家族間での会話に参加し、さきほどみた人物を忘れていく。

 さきほど見た早乙女優に似た人物が、早乙女優本人だと気づかずに。

次回予告

『小さな会社員の大学祭支援生活~その3~』

 順調に手伝いをし、時間は過ぎていく。

 そして早乙女優達の元に、一人の女性が現れる。

 その女性は、あるOLと深く関わりがあった。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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