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小さな会社員の京都出張前学校生活~月曜日~

 2週間後に京都本社のアルド商事への出張を控え、気を引き締めなおして出社しようとしていた時、

「優君。今週は学校に行っていきなさい。」

 こんなことを進言された。

 え?

 何で急にそんなことを?

 もしかして、私はもういらない子?

 何かやらかして、解雇!??

「ご、ごめんなさい!!!精一杯!精一杯謝りますから!!解雇だけはどうか!」

「ちょお!??ゆ、優君!??」

「お願いします!お願いします!お願いします!…。」

 それだけは何としても阻止したい!

 けど、本当に私がいらないというのであれば…。

「優君!何か勘違いしているようだけど、違うわよ!?」

「…え?」

「再来週には優君、京都に行っちゃうから、来週は会社に来てもらうけど、今週はそこまで忙しくないから、学校に行って見聞を広めてきて、って意味で言ったつもりだったけど、言葉足らずだったわ。ごめんね。」

「いえ。僕、用無しじゃなかったんですね。」

 菊池先輩の言葉に思わず、

「もう。何も泣くことなんて無いのに。」

「こ、これはちが!違くて、ですね…。」

「ごめんね。ほんと、ごめんね…。」

 私と菊池先輩は互いに体を引き寄せる。

 そして、

「…なに朝っぱらからこんな場所で抱き合っているんだ?」

「「…。」」

 工藤先輩に注意されてしまった。

「ちょっとね。ね、優君?」

「あ、はい。」

 流石に恥ずかしくて言えないかな。

「相変わらず二人は仲良しというかなんというか…。あ、そういえば菊池。優にあのこと言ったのか?」

「え?え、ええ。ついさっき言ったわ。」

「そうか。と言うわけだ。優、一応今日から学校に行ってもらおうと思っていたのだが、」

「もう間に合わないと思いますよ?」

 時刻は8時20分を過ぎている。もうそろそろ8時半になろうとしている。

「ま、俺が連絡入れておくから、今からでも行ってこい。それとも、明日から行くか?」

「いえ。せっかくのご厚意ですし、今日から行きます。それでは失礼します。」

 と、急いで自室に戻ろうとしたところで、

「ちょっと待った。」

「はい?」

 なんだろう?

「…その、なんだ。急にこんなこと言って悪いな。いつもお前には世話になって、迷惑をかけている。」

「い、いえ!私こそ、こんな好待遇にさせてもらって、会社のみなさんには頭が上がりませんよ!」

 こうして会社で働いていられるのも菊池先輩や工藤先輩、社長等、様々な人達のおかげですし。

「ですから、今後も私に出来ることがあればいつでも電話してきてください。いつでも駆けつけますから。」

「さすがにそこまで厚顔無恥じゃねぇよ。それに、いざとなったら菊池に頼るさ。」

「あ~!?そうやって私をこき使う気なんだ~。」

「お前はこうでもしないとやらないだろ!?」

「だって~。優君、今週は学校に行っちゃうから寂しくて…。」

「だ、大丈夫ですよ!学校が終わればちゃんと会社に行きますから!」

「…ほんと?」

「ええ。ですからそれまではお互いに頑張りましょう。」

「…ま、優君がそういうなら頑張ろうかな。」

「ったくお前は…。」

 この会話が終わったころには、時刻は8時半を過ぎていた。

 そして、私達3人は慌ててそれぞれの目的地に向かって駆けって行った。


「それにしても、今日は珍しく遅刻だったわね。何かあったの?」

「まぁちょっとあったんですけど、大したことじゃありませんよ。」

「そう。」

 今、私は保健室の先生と雑談を交わしている。

「それにしても、最近はある話題で持ち切りなの。知っている?」

「ある話題、ですか?」

 何でしょう?私もそれなりにニュースを見ているつもりですが、全く心当たりがありません。天気の欄しか見ていないからでしょうか。

「それはね、これよ!」

 と、得意げにある本を広げ、おもむろにある箇所を指さす。

 これはいわゆる…ファッション雑誌、でしょうか?

 その雑誌には、

『潮田詩織、謎の美少女とツートップか!?』

 という文章と、とある写真が写っていた。

「この娘のプロフィールが一切不明なの。詩織ちゃんに聞いても、知らない、の一点張りなんだって。」

「へ、へぇ…。そう、ですか。」

「?どうかした?」

「い、いえ。」

 その写真は、私が女装して潮田さんと一緒に撮った写真だった。

“なんで雑誌に載っているの!??”

 と、内心ムンクの叫び状態である。

「…この人、そんなに人気なのですか?」

「は?当たり前でしょ!男女問わず大人気なのよ!」

「は、はぁ…。」

 そ、そうだったのか。全く知らなかった。今度から態度に気を付けるべきかな。

「でね、この娘のことなんだけど、何か知らない?」

 と、保健室の先生は隣の女の子(女装した私)を指差しながら聞いてくる。

「し、知りませんねぇ。」

 さすがに、

“あ。それ、私です。”

 と、言えるわけがない。

「そう…。」

 と、あからさまに落ち込んでいた。

「そんなにそのモデルさんの個人情報を知りたいのですか?」

「それもあるけど、この潮田詩織の行動には、全国の人達が注目しているのよ。」

「はぁ。それはなんでなんですか?」

「モデルはもちろんのこと、この子は今、マルチに活躍しようと奮起しているみたいなの。風の噂によると、映画やドラマの主演オファーがきているらしいのよ。」

「そ、そうなんですか。」

 映画やドラマはほとんど見ないからどういうものかは分かりかねますが、すごいこと、ということだけは分かります。

「そうなの。そんな子がいきなり無名、それどころか個人情報が一切謎の美少女と一緒に写っているんですもの!今でも様々な噂がネット中を駆け巡っているわ!」

「え?ほ、本当ですか?」

 それが本当だとしたら、かなり不味くないですか?あの方々が上手くやってくれているといいのですが。

「ええ。何でも、出身がロシアなんじゃないかとか、実は年齢を偽っていて、幼稚園児じゃないかとか、はては本当に女性なのか、とか。どれもこれも眉唾ものだけどね。」

「そ、そうですね。」

 やはりネットとは恐ろしいものです。嘘とはいえ、とんでもない話がどこからともなく湧いてくるのですから。

 終始、冷や汗をかいてしまった。


 そして、給食の時間。といっても、私は自宅からお弁当を持参しているので、給食とは言えないかもしれないけど。

「相変わらず早乙女君はお弁当なんだね。毎日作ってもらって大変じゃない?」

「いえ。これが日課ですので。」

「…そういえば、そのお弁当、君が作っていたんだっけ。小学生なのに偉いよね。」

「いえ。これぐらいは当然ですよ。」

「小学生とは思えない発言だね。ちなみにだけど、このお弁当を一から作った、というわけじゃないよね?」

「?一から作りましたが?」

 材料の下準備から調理、それに詰め込み作業もしましたし。でも、菊池先輩と一緒に作っていたわけですから、一人で、というのは違うのかもしれません。

「あ。でも菊池先輩、大人の人に手伝ってもらいました。」

「そう。ならいいけど。」

「?」

 何がいいのだろうか?

 そんな疑問を抱えたまま、給食の時間が終わる。


 午後の時間、5時限目は、

「たまには保健室以外で授業してみようか?」

 という保健室の先生の考えで、図書室に行くこととなった。

 この学校の図書室は都市の図書館より狭く、冊数も少ない。ま、当たり前だと思うけど。そんな図書館に2人で来た。

「今日は図書館で授業ですか?」

 図書館内だと、原則静かにしていないといけないのでは?

「そうだよ。だから今日はずっと、自分に合った本を探すのと、その本の黙読が、今日の授業だ。」

 …それは授業なのでしょうか?

 いや、図書館の利用の仕方を学ぶ、と言う意味では、授業が成り立っているのかもしれない。私は自身にそう言い聞かせ、

「分かりました。」

 図書室で本を探し始める。


 数十分探し、私が見つけたのは、

「…あなた、やっぱり変わっているわね。ここにきても料理の本を選んで読むなんて。」

「そうでしょうか?」

 料理の本である。

 私自身、もっと料理の腕を磨き、会社の方々にもっと美味しい料理を食べさせてあげたいと思っている。そのためにも、料理の勉強は日々、欠かさないようにしている。といっても、この本に載っている情報は、ほとんど私が知っている事ばかり。どうやら、知識の復習くらいにしか役に立ちそうにありませんね。

「私はこの本にしたわ。」

 一方、先生が手にしたのは、人体に関する本であった。おそらく、保健室の先生と言えど、勉強すべき項目があるのだろう。そういうところを自分で探し、知識を得ようとする努力はさすがだと思います。

「そうですか。いい本をお選びになったと思いますよ。」

「あ、ありがとう。それじゃ、」

 と、先生は二つの椅子を引き、

「ここで読んでいきましょうか?」

 先生の提案に、

「分かりました。」

 私はのり、その後は静かに本を読み始めた。


 本を読み終えるころには、

「あら?もうこんな時間だわ。」

 数時間経過していた。

 あれから私は何度も料理関連の本を探し、それらを読んでいた。

 一方、先生はと言うと、

「これの最新刊、来月の下旬に発売なのね。早く続きが読みたいわ。」

 人体関連の本を1冊だけ読み、その後は何か物語を読んでいたようだった。…意外に飽きやすい性格なのでしょうか?それでも、その物語は何冊にも渡って続いているらしく、この数時間で全巻読破したらしい。それに、最新刊も発売されるとか。私には分かりませんが。

「読めるといいですね。」

 私はさきほどの先生の発言を肯定するかのように話を振る。ま、何かに没頭できるということはいいことですし。

「そうね。あ、それだったら、君も読んでみるかい?結構面白くてね…。」

「あ。私は結構です。」

 その本を読んでいる間にご飯が炊けそうです。

「ええ~。面白いのに。勿体ないよ?」

「ご忠告ありがとうございます。ですが、今は予定がそれなりに詰まっていて、読んでいる時間がありませんので。」

「大人みたいな断り方をするのね。」

 こうして、月曜日は終わりを迎える。

次回予告

『小さな会社員の京都出張前学校生活~火曜日~』

 雑誌を見たり、図書室で本を読んだりと、一日中書物に触り続けていた月曜日。そんなゆったりとした月曜日が終わり、次は火曜日である。だが、保健室の先生は月曜日に伝えるべきことを忘れていた。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

 感想、評価、ブックマーク等、おまちしております。

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