会社員達の何気ない梅雨時会話生活
「ええ!??優さん、女の子じゃなくて男の子だったんですか!??」
「え、ええ。そうですけど。もしかして…?」
「…すみません。今まで女の子だと思っていました。」
「そ、そうですか…。」
「それは仕方がないわよ。だってそんな可愛らしい格好で仕事しているんだもの。ま、私的にはもっとフリルをつけて可愛くしたいけど。」
「そんなこと、絶対にさせませんからね!」
「…とりあえず、昼飯食おうぜ、な?」
6月に入り、なんとなくジメジメし始めているこの季節。
そうなると、雨が降る日も増えてくるだろうと少し憂鬱気味に考えてしまうこの頃。
そんな時期でも、もちろん仕事は待ってくれないわけである。
6月初旬のとある昼休み、私は会社で仕事を片付けてから、お昼とみなさんのお茶を桐谷先輩と一緒に用意していた。そんな時、桐谷先輩は、
「なんか最近、女子トイレが綺麗になった気がしませんか?」
と、桐谷先輩に言われたのだ。私はその発言に違和感を覚えたのだが、
「へ、へぇ~。そうなのですか。それは良かったですね。」
と、当たり障りのない返しをする。私も、
(女子トイレにも色々あるのかな?)
と、それぐらいにしか捉えなかった。だが、その返しがよくなかったのだろう。そしたら、
「やっぱり優さんもそう思います?優さんはあんまり女子トイレ使っていないみたいですけど、一度使ってみたらどうです?」
ピタ。
瞬間、お茶を入れる優の手は止まる。あまりの不自然さに。
「…あれ?どうしました?もしかして、女子トイレの使い方が分からないわけじゃないですよね?女の子なわけですし。」
優は違和感の正体に気づく。
もしかして桐谷先輩、私のことを女の子だと思っているのでしょうか?
いやいやいや!
そんなわけない!…訳ないよね?
だが、自分の容姿から、性別を間違えられることもあったので、
「…あの、一応聞きますが、桐谷先輩は私のこと、女の子だと…?」
「え?もちろんそう思っていますけど?…もしかして、男の、子、ですか?」
私は重い頭をゆっくりと下げる。
「え、ええ!??だって、ええ!??」
「…本当ですよ?何なら今から工藤先輩に聞きましょうか?」
「え?あ、え?ええ!??だって、ええ!??」
「言いたいことはあると思いますが、本当ですよ?」
「だって、あ、すいません。ですが、その服…。」
「今はそこまで畏まらなくても大丈夫ですよ?それにこれは菊池先輩に強要されて着ているので、あまり触れないでくれると嬉しいです…。」
「あ、なんかたびたびすみません。」
そう。
私はこの会社で働くとき、ジャージで勤めるわけにはいかなかったので、どうしようかと悩んでいたとき、
「それじゃあ、これを着るといいわ!!」
と、菊池先輩が提案してきたのだ。
この、エプロンドレスを!
ちなみにこのエプロンドレスは菊池先輩の手作りで、着心地は抜群、さらに夏服、冬服もある。今月から通気性が良く、動きやすい夏服を着用している。もちろん、公式の場では別の服を用意してもらうが、それ以外はこのエプロンドレスで会社に勤めている。
最初は奇異の目で見られていたが、慣れとは恐ろしいもので、改めて言われない限り、自分の異常さに気づかないものである。
ちなみに、いくらかけたのか聞いたところ、
「優君のためだもの!金と手間は思う存分かけたわ!!」
と、返された。なので、相当手間とお金がかかっているのだと思い、今も大切に着ている。もっと言えば、このエプロンドレスは数年前の私にピッタリ合うようなサイズだったのだが、今もこうして着られるのは、おそらく、身体的に成長していないためだろう。
・・・私って今、成長期、ですよね?
こんな経緯があったため、今もこのエプロンドレスを大切に着ているわけだ。
加えてこの身長。
改めて自分の服装を客観的に見ると、女の子と間違えない方がおかしい格好である。
とりあえず、桐谷先輩に、私がメイド服を着ることになった経緯を簡単に話した。
「あ。なるほど。菊池先輩が関わっていたわけですか。納得です。」
入社して数か月で菊池先輩の性格を理解したためか、意外とすんなり理解してもらえた。
それほど、菊池先輩が個性的な性格をしている、ということなのだろうか。
そんな雑談を交わしていくうちに、話はだんだん深まっていき、
「優さんって、何型なんですか?」
生年月日の話をし始める。
「はい。菊池先輩は緑茶、工藤先輩はブラックコーヒー、橘先輩はカフェオレ、ですよね?」
「おう。サンキューな、優。」
「ありがと~、優君♪。」
「なんか、いつも悪いな。」
「いえいえ。今回は桐谷先輩も手伝ってもらったわけですし、問題ありませんよ。」
「はい。私、優さんのあの手際の良さに驚きの連続です。」
「ま、本来なら全自動でコーヒーを淹れてくれる機械でも導入すればお前らの負担は減るかもしれないが…。」
「そんなの駄目よ!私は、『優君がいれてくれた緑茶』じゃないと飲む気すら起きないわ!」
「…俺も飲み比べしたけど、どうも優が淹れてくれたカフェオレの方が美味しく感じるし。」
「というわけで、優のコーヒーが一番美味いんだな、これが。」
と、工藤先輩達は私を持ち上げる。
もう。そこまで言われるとなんだか恥ずかしいな…。
「ところでなんだか話が弾んでいたようだが、何の話だ?」
「あ、は。優さんって何型ですか、話をしていまして…。」
「ああ~…。優は桐谷に言ったのか?」
「いえ、まだ言っていませんけど?」
もしかして、自分の血液型を言うことで何か不都合が!?
「いや。だったらこれを機に、桐谷にクイズを出そうと思ってな。」
「「「クイズ???」」」
「ま~た、下らないことに精を出して。これだから酒が生きがいの酒豪は。」
「おい。ここで酒豪は関係ないだろ。それに、こっちの方が面白そうだし。」
と、工藤先輩は二カッとした顔をこちらに向ける。
一体何を企んでいるのでしょうか?
「それじゃあ、桐谷に問題!ここにいる全員の血液型は?」
と、お昼休憩が急きょ、血液型当てクイズになった。
「さ、まずは桐谷から言ってみよう。」
「え?私から、ですか?」
「こういう企画って、言い出しっぺが最初に言うべきだろ?」
「言い出しっぺはあなたな気がするけど。」
「そ、そうですね。私はA型です。」
「へぇ~。確かに、桐谷は真面目そうだし、合っているかもな。」
合っているって、何を基準に言っているのでしょう?
「次は橘だ。」
と、工藤先輩は橘先輩に視線を移す。
「え~っと…。結構さりげなく助けてもらったし、寡黙ですし、真面目ですから、A型ですか?」
「さて、正解をどうぞ。」
工藤先輩はノリノリだ。何故そこまでノリノリなのかは分からないけど、楽しいなら別にいいかな。
「…お、O型です。」
「ということで不正解!」
「え?す、すいません。間違えてしまって。」
「な~に。こんなのはただの遊びだ。気楽にいこうぜ、な?」
「そうですね。」
「で、ですが…。」
「それに、こんなことでいちいち怒る心の狭い奴はここにはいないぞ、な?」
「…はい。」
「そうね。そんなころで怒るほど、私は暇じゃないの。今は優君にあ~んすることで忙しいの。」
「そんなことはさせませんからね?あ、私も同じです。」
それより、こんなことで怒る人がいるのだろうか。血液型を知られて困ること、か。
「はい第二問!俺の血液型は?」
「それは分かります。ズバリ、O型ですね?」
「残念!正解はB型でした。」
「え?ええ?えええ!!?」
「…そこまで驚くことなの?」
「俺も最初は驚きました。工藤先輩の性格はO型とよく似ていたものですから。」
「そうか?俺は結構自由奔放だと自覚しているが?」
「そうよ。こんな酒のことしか頭にない、体の水分の8割がアルコールで出来ていそうな酒人間がそんなわけないでしょ?ねぇ優君?」
「…おい。俺のことを酷く言いすぎじゃないか?いくら俺でも体の水分の8割がアルコールなわけないだろ!?せいぜい4割くらいだ。」
「それでも十分酷い言われようだと思いますけど…。」
「さ~て、次の問題だ。菊池の血液型は?」
「…B型、ですか?」
「さぁ、正解は!?」
「…合っているわ。けど、私のこと、自由人みたいに捉えられているってことかしら?」
「ち、違います!!決してそんな風に言ったわけではありません!」
「そ、そうです!そんなこと、一度も考えたことありません!!」
「…橘に聞いたわけじゃないんだけど。ま、いいわ。」
(それでも、優さんに関することは、行動が破天荒な気がしますけど。)
桐谷はそんなことを思っていた。
事実、菊池の行動は、優が関わると誰もが考え付かないようなことを行動に移す。そんな破天荒でありながら、仕事も完璧にこなし、会社の人達からの人望も厚いため、優への行き過ぎた行動も黙認されているのだ。
「それでは最後の問題!優の血液型は!?」
「これは一番簡単です。ズバリ、AB型ですよね?」
「その心は?」
「何事も几帳面で、常に皆さんに気を遣っていますし、これはAB型以外ありえません。」
「では、正解をどうぞ!」
「・・・。」
い、言いづらい…。
「…どうした、優?」
「優君?」
「あ、すいません。ただちょっと言いづらくて…。」
「もしかして、聞いちゃいけないことですか?」
「いえ、そういうわけではないのですが…。私、B型です。」
「「え??」」
あれ?
桐谷先輩はともかく、何で橘先輩まで驚いているんだ?
「私、B型です。」
「え?だって、え?ええ!?」
「う、嘘だろ!??」
「何で橘も驚いているんだ?」
「だって、優がB型なんですよ!?そりゃあ驚きますよ!!」
「そう、ですか?」
自分の血液型なんて気にしたことがないから分からないけど、そういうものなのでしょうか。私は菊池先輩に視線を送ってみる。
「そうね。私は優君と同じ血液型で良かったと思っているわ!」
「えっと、ありがとうございます?」
「ま、橘や桐谷の言いたいことは分かる。俺も最初に聞いた時は驚いたからな。」
「ええ。あれは傑作だったわ“う、う、嘘だろおおおぉぉぉ!!??”って、エコーつけながら叫んでいたわね。」
「よくもまぁ、そんな前のことを覚えていること。」
「あ、あの。本当に優さんはB型なんですか?」
「ん?ああそうだぞ。そのとき、菊池が証拠を見せて話していたからな。間違いないぞ?」
「ほ、本当に優がB型、なのか…。」
「し、信じられません…。」
「そ、そこまでですか。」
そんな珍生物を見るような目で見なくても…。
「…あれ?優君、そのカチューシャ…。」
「え?あ、すいません。変えるのを忘れていました。」
私は仕事中、カチューシャをしている。ほんとは髪を短く切ればいいのだが、菊池先輩に、
「髪を切る、ですって!?だ、駄目よ!切らないで!おねがい!おねがいじまず~。」
と、最後は土下座までさせられそうになったので、この長さを維持している。
ともあれ、この髪を毎日手入れするのも少し面倒くさいので、そのことを菊池先輩に相談したところ、
「なら、ゴムでまとめるか、カチューシャをつけるかにしましょう。どっちがいい?」
と聞かれたので、私はカチューシャにしたのだ。
その後、菊池先輩はもう一つ私にカチューシャをプレゼントしてくれたので、夏用と冬用に分けて2つを使用している。
今使っているのは冬用の白いカチューシャで、夏用は瑠璃色のカチューシャである。
菊池先輩は、衣替えをしていたのに、カチューシャだけ冬用の白いカチューシャに気づいたのだろう。私は白いカチューシャを外し、瑠璃色のカチューシャを付ける。
「…これでどうですか?」
確認のために、周りの人達に聞いてみる。
自分の頭を直接見ることは出来ないよね。あ、鏡を使えば良かったか。
「うん!ばっちりよ!さっすが優君!!」
「うん。やっぱりそっちのカチューシャも似合うな。」
「いいと思う。」
「…あれ?男の子でもカチューシャ、するっけ?」
一人、首をかしげていた人はいたけど、
「何言っているの!?こんなに似合っているのよ!別に性別なんか関係ないじゃない!」
と、菊池先輩が桐谷先輩に抗議する。
「…そうですね。すいません、ちょっと固定概念が邪魔をしていました。」
「こっちこそ、ちょっと熱くなっちゃったわ。ごめんなさい。」
「ま、確かに普通の男子は、カチューシャは付けないわな。」
「そうですね。」
そう、でしたっけ?
そういえば、普段、工藤先輩や橘先輩はカチューシャを付けた姿なんて見たことなかったっけ?
「なんなら一度付けてみます?」
と、白のカチューシャを二人に渡そうとする。
が、
「「ヒィ!??」」
「??どうかしましたか?」
「な、何でもないぞ!な、橘!?」
「は、はい!もちろんです!」
「???そうですか。」
「あ。カチューシャは菊池からもらった大切なものだからな。大切にしとけよ、な?」
「はい。もちろんです。」
と、また菊池先輩に視線を向ける。
「そうよ。私は優君のために買ったんだから。そんじょそこらの男につけさせるために買ったわけじゃないんだから。」
ん?
なんか言い回しに違和感が?
それに、なんか工藤先輩と橘先輩が首を激しく上下に振っているし。
一体、どうしたのだろう?
「あ。そろそろお昼休憩が終わりますよ。」
「お。それは良かった。それじゃ、これをさっさと片付けて仕事を再開しようか。な、橘?」
「は、はい!」
「私達も片づけましょうか?」
「そうですね。」
なんかさっきから、工藤先輩と橘先輩の行動がおかしい気がするのですが…。
ま、気にしないでおきましょう。
こうして、私達は仕事を再開した。
次回予告
『小さな会社員の京都出張前学校生活~月曜日~』
京都出張を2週間前に控えた優は、菊池から、”優君。今週は学校に行っていきなさい。”と言われる。それは菊池なりに優を気遣った発言だった。その菊池の提案を受け入れ、優は学校に通うことを決める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
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