表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/222

小さな会社員の京都出張要請生活

今回も投稿します。

 時間は過ぎ、金曜日の夕方となる。

 優はいつも通り、学校から帰ってきた後、会社に出勤する。

「お疲れ様です。」

「「「お疲れ様。」」」

 そんな返しを聞いた後、優は自分のデスクに鞄を置いた後、

「優?その荷物は何だ?」

「これですか?これは後でみなさんが召し上がるかと思いまして持ってきました。あ、後でお茶淹れてきますけど、飲む人はいますか?」

「はいはいはい!!私飲むわ!」

「それじゃあ俺も頼むか。橘はどうする?」

「それじゃあ、頼んます。」

「あ!それでしたら私もお手伝いします!」

 桐谷先輩と一緒にお茶を淹れた後、

「早乙女君。後で会議室に来なさい。そこで話がある。」

 課長からそんなことを言われる。

 いつにもなく真剣なトーンで言われたので、

「はい。」

 しっかりと返事する。

(何の用事だろうか?)

 と、今までの仕事内容を振り返りながら今後の展開を数パターン頭の中で予測する。

「…優君。何かしたの?」

「…いえ。私にも分かりません。」

 …もしかして、いつの間にか失敗していたのかな?

 私は気を引き締め直して、会議室に向かう。


「…来たか。」

「はい。それで用件とは何でしょう?」

「うむ。それはな、これをとある場所に届けてほしいのだ。」

 と、課長はポケットから長方形の物をテーブルに置く。

 それって、

「USBメモリー、ですよね?」

「そうだ。これを京都にあるこの会社に届けてほしい。」

 と、四角い紙を私に渡す。

 これは、名刺、だよね?

 あれ?この会社って、

「これって私達が取引している会社の一つ、『アルド商事』、ですよね?」

「そうだ。」


 『アルド商事』。

 それは私達と取引している会社の一つである。

 支社は東京、北海道、福岡にあり、本社は京都にある。

 なので、いつも取引する時は電話でしたり、私達が東京に行って直接話しをしたりしている。なので、私達が本社に赴く、なんてことはほとんどない。取引はいつも支社でしているし、本社にも必要な資料も支社を仲介させて送っている。

 ここはアルド商事に許可をもらってこういう取引の仕方をしている。

 だが、顔合わせする時や、本社に直接送らなければならない重要な資料がある時は私達が経費で京都に行っている。

 つまり、

「このUSBに重要な資料がある、ということですか?」

「理解が早くて助かるよ。」

「あ、ありがとうございます。」

 私は課長の称賛を受け取る。

 だが、腑に落ちない点は二つある。


 一つ目は、何故私にこのUSBを届けてほしいのか、ということだ。

 もちろん、私を信頼してくれていることはとても嬉しい。

 だが、アルド商事本社に資料を送る時は大抵、アルド商事の社員と打ち合わせを行い、そこで数日一緒にプロジェクトを考案し、土台をまとめる必要がある。

 ここ何年かでビックプロジェクトを見事に当て、昇進した人もいるほどやりごたえのある仕事なのだ。だが、同時に私達が勤めている会社の看板を背負っている上、人は全員見知らぬ人達。まさにアウェイ、という言葉があてはまる状況の中、いつものパフォーマンスを発揮する必要がある。

 こんな大仕事を私に任せると課長が言っているのだ。

 工藤先輩や菊池先輩がやる分には問題ないと思うが、私となれば話は別だ。

 私は見た目、実年齢共に子供だ。いくら大人達の中に混じって仕事しているとはいえ、こんな大仕事を頼まれるのはお門違いだと思う。

 二つ目は、時期である。

 ビックプロジェクトなため、年に二回ほどしかこの企画会議は行われていない。そして、その企画会議は4月と10月に行われる。なので、この時期にアルド商事の本社に呼ばれる、ということ自体、大変珍しいのだ。これは何か裏があるのではと自然と考えてしまう。

 なので、

「せっかくのお話ですが、お断…。」

「まぁ待ちなさい。まずは話を最後まで聞いてから、な?その後に断っても罰は当たらないと思うぞ?」

 課長がこんなことを言うなんて珍しい…。

 課長は本来、物事をはっきり言う人だ。

 出来ない人には出来ないと言うし、無理なことには無理ときちんと言える。

 日本人にはあまりいない、物事をはっきりと言える人。

 そして、自分が悪いと思ったら、即座に頭を下げて謝罪する。

 はっきりとしていて良し悪しの分別もきちんと出来る。

 こんな人材がいるからこそ、うちの会社の取引先からの評判もいいのかもしれない。

 そんな課長からのご指名なのだ。それに、話は続いているみたいですし、最後まで聞かなくては!

「…すいません。早とちりしてしまいました。」

「いや。こっちこそすまない。要点だけ伝えるつもりだったが、かえって分かりづらくなっていたようだな。一から話すとしよう。ちょっと長くなるが、大丈夫か?」

「はい。」

 私は課長の案にしっかりと受け答えをし、話を聞く。



 話を聞くこと約三十分。

 私は話を聞きながら、今まで課長が話していたことを手帳にまとめる。

 簡単にまとめると、以下の通りだ。


・修学旅行中、このUSBメモリーを、京都にあるアルド商事本社に届けること

・届けた後、アルド商事を案内してから、そこで数日社員(仮)として働くこと

・社員(仮)として働く期間の生活費用はアルド商事が責任をもって保障し、経費としておとおすこと(ただし、お土産は自腹とする)

・社員(仮)として働く期間、優の身の安全は保障するとのこと


 他にも色々話した気がするけど、大体こんな感じだ。

 私は課長の話を聞きながらメモしていた。


「それでなんだけどね。大変、我が儘な頼みだと分かっているのだけど、それでね…。」

「もちろん、私は大丈夫ですよ?」

 私は課長がモニョモニョしていたところを遮り、返事を返す。

「…いいのかい?なんか、早乙女君の一生に一度しかない修学旅行を不意にしてしまう気がして申し訳ないけど、」

「何を言っているのですか?そんな思い出より、先輩達との頼みを優先するに決まっているじゃないですか!?」

 私が今もこうして働いていけるのもこの会社の方々のおかげだと、私は思っている。もちろんその中に課長も含まれている訳である。 むしろ、こういう機会でないと恩を返せない気がする。もちろん、仕事内容にもよるけど。

「それで、私がここにいる間、何をすればいいのですか?」

 京都に一週間近くいるとなると、やはり衣食住の住を何とかする必要がある。

 アルド商事の近くにいいホテルがあるといいな。

「いや。早乙女君は体一つで十分だそうだ。必要なものは会社が必要経費としておとしてくれるらしい。」

「…分かりました。」

 それだとアルド商事の方々に迷惑をかけるかもしれないから、後で何を持っていくかリストにまとめておこう。

「それで改めてお願いするが、アルド商事の件をお願いしたいのだが、頼めるか?」

「はい!」

 私ははっきりと自分の意志を課長に伝える。

「それじゃ、先方の方に返事しておくから、君はそのままデスクに戻ってくれ。後日、詳細なことが決まったら、逐一君に伝えるよ。」

「分かりました。それではよろしくお願いいたします。」

 私は課長に頭を下げ、会議室を後にした。

 

「…やっぱり、優君はその話、受けたのね。」

「…菊池君?君は一体どこから出てきたのかね?」

「今はそんなことよりこのことよ!やっぱり…。」

「推測でものを言うのもどうかと思うが、やはり、そうだろうな…。」

 課長と菊池は話し合う。

 実は、この件を受けるということは、修学旅行に参加出来ない、ということになってしまうのだ。もちろん、京都に一緒に行くことは可能だが、その後の班での行動は出来ないだろう。他の班が金閣寺、銀閣寺に向かうのに、自分の班だけアルド商事、会社を見学するというのは不自然だろう。なので、とれる選択肢は二つ。

 一つは、優が所属する班の人達だけアルド商事を見学すること。

 もう一つは、優が修学旅行を辞退すること。

 この二つしかない。他人想いで心優しい優ならば、自分の勝手な都合で他の人達を振り回したり迷惑をかけたりしないだろう。

 このことから、優は修学旅行に参加しない、という推測がなされたのだ。

 最も、優は他の理由で参加しないことに決めたのだが。


「…まったく。課長さんも余計な話を持ってきてくれたものね。」

「このことに関しては申し訳ない。」

「ま、優君本人が決めちゃったわけだから、今更私が口を挟んでも意味無いけど。」

「うむ。そうだな。」

「元はと言えば、あなたが酒の席で優君の事をアルド商事の社員の前でいやというほど褒めていたのが原因よね?」

「!!???ど、どうしてそれを!??」

 課長は驚いていた。

 課長は先月、出張で東京に行き、アルド商事東京支社に赴いていたのだ。

 その日の夜、接待という名の飲み会でアルド商事の社員と一緒に酒瓶を交わしていたが、その後の記憶が無かったのだ。

 理由は簡単。飲み過ぎによる二日酔いである。なので、課長はその席で何を言っていたのか、何を話していたのかを一切覚えていないのだ。

「課長さんにしては珍しく、人をべた褒めしていたわよ?もうこれでもかってくらい。」

「…ちなみにどれくらいだ?」

「そうね。朝まで褒め続けていたわよ。私もずっと聞き入っていたわ。」

「…そうか。それでアルド商事の上層部が…。」

「ちなみに後日、優君のことで噂がもちきりだったわよ?」

「噂、だと?」

 課長は生唾を飲む。

「あんな頑固者が人を褒めちぎるなんて、とか。あの人、ああ見えて実は話したがりなのね~とか。あの人をそこまで言わせるなんて、優という人は一体何者なんだ!?って感じで。」

「…それで、その噂が地方を超えて、京都の本社にまで広まったと。」

 課長はつい頭を押さえてしまう。

「そういうことよ。それも、課長さんが前回、ビックプロジェクトを当てたからこそ、ここまでアルド商事が本腰を入れて、優君の実力を見極めようとしているのよ。」

「…まったく。俺も結構上に見られたものだな。」

「とにかく、今回は見逃すけど、次からは下手に優君のことを広めないでね?何かあった後じゃ遅いんですから。」

 菊池は子供にいい聞かせるように警告する。

「分かっている。今回は完全に私が調子に乗ったせいだ。」

「今度、こういうことがあったらあなたのあの写真、ネットにアップさせてもらうわ。」

「ちょっと待て。あの写真ってなんだ?」

「具体的に言ってほしいのかしら?そうねぇ…、中学の修学旅行の二日目の朝の…。」

「!??わ、分かった!分かったから!それ以上は…!!」

「そう?それじゃあ、今後も優君をよろしくお願いしますね。」

 菊池は課長を会議室に残したまま退出する。

「…そういえば、俺は優の事をなんて褒めていたのだろうか?」

 課長も、頬をポリポリかきながら会議室を退出した。

 立場上、菊池より課長の方が上なわけだが、終始菊池のペースののせられた課長であった。



 五月晴れで清々しく過ごせていた5月。

 やがて少しずつ、少しずつ雲が立ち込める。

 それは、梅雨の6月が始まる合図でもあった。

次回予告

『会社員達の何気ない梅雨時会話生活』

 雨がシトシト降るなか、優達は社内で弁当を食べることにした。優と桐谷の二人で五人分のお茶を用意している中、優は桐谷の勘違いに気付き、落胆することとなる。その原因の一端は、優の服装にあった。

 そんな話を給湯室でした後、みんなの血液型の話となり、みんなの血液型を当てる大会が突如始まった。


こんな次回予告となりましたが、どうでしょうか?

感想、ブックマーク、評価等、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ