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国民達の大型連休生活~酒好き会社員のかつて~

 工藤直紀という人物の人生を一言で言うなら、平凡そのものである。

 普通に生まれ、普通に保育園に入園し、卒園。

 自宅近辺にある小学校に普通に入学し、卒業。

 自宅近辺にある中学校に普通に入学し、卒業。

 自宅近辺にある高校に普通に入学し、卒業。

 自宅近辺にある大学に普通に入学し、卒業。

 そして、会社に普通に入社し、会社勤めをしている。

 人並に幸運や不幸が工藤直紀の元に舞い込んだのだが、乗り越えてきた。

 小学校、中学校、高校、大学それぞれで友人を作り、勉学で苦しむときもあったが、楽しい学生時代をおくった。両親もご健在で、離婚騒動も起きておらず、決して不仲ではない。

 平凡な人生をおくっているように思えるが、工藤直紀の人生に非凡の色が見え始めたのは高校の時である。


 工藤直紀は高校時代、平凡に暮らしていた。学業の成績は平凡。運動の成績は平凡。所属していた部は帰宅部。特にこれといった夢はなく、高校生生活を平凡に過ごしていた。

 平凡に生きていた工藤直紀に転機が訪れた出来事は、ある活動である。

「なぁなぁ?」

「なんだよ?」

「知っているか?」

「何をだよ?」

「今献血すると、ここでしかもらえない限定のポテッチがもらえるんだってよ。」

「へぇ~。それでも俺は献血する気ねぇけど。お前はするの?」

「俺か?俺、ポテッチ好きじゃない。手、汚れるし。」

 その活動とは、献血活動のことである。

 献血とは、病気の治療や手術等で輸血を必要している患者を救うために、無償で自身の血液を提供することである。

 工藤直紀は、献血に関するチラシを見る。

(ここでしか食べられない限定の味、か。)

 工藤直紀の視線の先には献血の素晴らしさ・・・は映っておらず、献血することでもらえる菓子、ポテッチが映っていた。

「工藤、お前はどうするんだ?」

「俺か?」

 工藤直紀は友人に声をかけられ、献血するかしないかについて問われる。

「ああ。」

「う~ん・・考えとく。」

「お前、献血に目覚めたのか!?」

「いやいや、このポテッチ目当てだろ?」

「確かに。」

 工藤直紀の友人達は納得する。

「それじゃ。この献血、出来るだけ早く決めた方がいいと思うぞ?このポテッチ、在庫に限りがあるらしいからな。」

 そう言うと、工藤直紀の友人達は、工藤の前からいなくなった。

(どうすっかな?)

 工藤直紀は献血するかどうか悩みながら、学校を過ごしていく。

 学校が終わり、工藤直紀は自宅に戻る。帰宅後、工藤直紀は自身の両親に、献血に関する話をする。そして、献血を受けてもいいかと聞く。その返答は、

「別にいいと思うぞ?お前の好きにしたらいい。」

「直紀がしたいのなら、好きにすればいいんじゃないかしら。止めはしないわ。」

 工藤直紀の意見を尊重したものであった。工藤直紀は親の意見を心身に受け、献血を受ける事にした。

 その後、工藤直紀は献血を行った。献血する前に行う検査を突破し、献血を終えた。献血を終えたことにより、期間限定の味のポテッチを受け取る。その後、友人達に献血したことを報告し、帰路についた。

(そういえば、俺って大丈夫なんだよな?)

 工藤直紀は自分の腕を見ながら自身の体について考える。献血をする時、自分の血液を調べられた。結果、献血することに問題はなかった。だが工藤直紀は検査されていく様子をみて、一度だけでいいから本格的に検査したくなってみた。理由らしい理由はない。ただ、ふと気になっただけである。工藤直紀は、詳細に検査してみたいきっかけ、理由を両親に話し、詳細な検査をしてみたいと言った。結果、

「まぁ、調べてみたらいいんじゃないか?」

「そうね。いっそ思いっきり調べておいた方が、後々メンタル的に楽かもしれないし。」

 父親、母親とも肯定的な意見だった。だが、献血より少し戸惑いを見せた。もしかしたら、自分達が息子、直紀を健康に生まれさせることが出来なかったのか。そんなことを考えたためである。だが、工藤直紀の理由を聞き、少し肩の荷が下りた。深刻な理由ではなく、好奇心に似た感情で検査を行うと言ってきたためである。その後、工藤直紀は両親と共に綿密な検査を受ける事になった。初めて綿密な検査を受ける事になり、色々と手続きを踏んでいき、数多くの検査項目を全て把握し、こなしていった。

 検査を終え、数日を経て、検査結果が届いた。検査結果を全員で見るため、家族全員リビングに集まり、封を開ける。3人は検査結果を一つずつ見ていく。

「なんだ。やっぱり健康じゃないか。」

「もしかしたら、精密検査することが無駄だったかもしれないわね。」

「やっぱ俺って健康体なんだな。」

 工藤直紀の父親、母親、工藤直紀本人は検査結果を見て、どこか安堵していた。なんなら、精密検査にかかった費用がもったいないと愚痴をこぼすほどだった。3人は順調に検査結果を見ていく。その度に、問題がないことを理解し、安心していく。

「ん?これはなんだ?」

「「え??」」

 順調に問題なしだと判明していく中、工藤直紀はあることに気付く。それは一個所だけ、無問題ではないと思われる記載だった。

「これって・・・。」

 工藤直紀はその記載を凝視する。父親と母親は一目見て、記載の意味を理解した。工藤直紀は記載している内容を理解し、言葉に変換する。

「無精子症、なのか?」

 その記載は、子供が作れないことを意味していた。

「大丈夫だ。例え子供が作れなくても、お前はお前だ。」

「ごめんね。直紀を健康な体で産めなくてごめんね・・・。」

 工藤直紀の産みの親である父親、母親は工藤直紀に抱きつき、励ましと謝罪の言葉を与えた。その行動に対し、

「別にいいよ。子供に興味ないし。」

 工藤直紀は声の抑揚なく発言した。

「え?」

「許して、くれるの?」

 父親と母親は工藤直紀の発言に驚く。

「今、子供が作れないところでどうでもいいし、今子供を作る気がないからな。」

 工藤直紀は本心を両親の前で言う。

 工藤直紀はこの時高校生である。なので、自身がまだ大人になりきれないと自覚しているし、子供をもつとお金がかかる、ということは理解している。だからこそ、大人でなく、子供を育てる十分なお金を稼ぐことが出来ない自分に子供を育てる事が出来ないと考えている。

「でもまぁ、子供を作る行為には興味あるがな。」

 工藤直紀はジョーク交じりにカミングアウトする。

「「・・・。」」

「おい!?何か言ってくれよ!!??恥ずかしいじゃん!」

 工藤直紀は自身のカミングアウトに羞恥し、逃げようとする。だが、逃げようとする工藤直紀を、母親は後ろから抱きしめる。

「ありがとう、ありがとう。」

 母親は自身の息子に感謝の言葉を贈る。自身のせいで不健康な状態に産んでしまった。それなのに、不健康な本人は気にもしていなかった。それどころか両親を和ませるような、気を紛らわす様な言葉をくれた。その言葉の内容はあまり褒められたものではなかったかもしれないが、今の母親父親2人にはありがたかった。

「こんな不出来な父親の元に産まれて来てくれて、ありがとうな。」

 父親は工藤直紀の頭に手を置き、優しく撫でた後、照れ隠しするかのように、頭を激しく振る。

「もう!頭撫でんなって!後離れろ!」

 工藤直紀も照れ隠しするため、両親二人から離れる。

 家族3人はこうして絆を深めた。この後、工藤直紀は学校でさらっと話をした。話を聞いた工藤直紀の友人達はどこ吹く風で聞いていたが、なかには成人後も工藤直紀が話していた内容を覚えている者もいた。

(工藤君、子供作れないんだ。)

 その者とは、毛利蓮華である。毛利蓮華も工藤直紀の話を点と捉え、ほとんど思い出すことはなかったし、話に出すこともなかった。

そしてそのまま高校を卒業し、高校の時に出来た友人とも一時的に別れ、大学に行った。大学に行った時、不妊症に関する話はしなかった。不妊症という病気が他の人達と異なる点だと自覚したからである。幸い、高校でも数度しか話していなかったうえ、話を聞いていた人達も既に忘れているだろう。そう工藤直紀は考え、不妊症に関する話は私生活においてしないと決めた。そう決めて大学生活を過ごしていく。

 大学生活を無事に終え、工藤直紀はいよいよ社会人となる。このころから、ちらほらと子供の影が見え始める。中には、妊娠しながら大学の卒業式に出ている女性もいた。そんな大人を見て、

(やっぱ、子供が出来ると生活が変わるのかね。)

 長年蓋をしていた子供に関する想いが開き始める。

 子供に対する想いは、社会人になってから肥大化していく。理由は、学生時代に比べ、もらえる給金が上がったことだろう。金銭的余裕を持つことが出来ることで、他の事に視点を置くことが出来るようになったのである。工藤直紀の場合、他の視点というのは子供の事である。工藤直紀の視界に映る多くの家族。その家族の姿と、まだ見ぬ自身の妻。そして子供を重ねてみてしまい、子供を欲してしまう。その欲は最初、気のせいかと勘違いし、気にしなかった。だが、いつまでも気にしないわけにはいかなかった。手に入らないものほど欲しくなってしまい、その度に自身の体質を悔やみ始める。

(くそったれが!)

 時折、自身の体質を恨み、酒に逃げたこともあった。酒に逃げた回数が、年を重ねるごとに増えていく。仕事には支障をきたしていないのだが、私生活が徐々に荒れ始めていった。

 だが、そんな生活はある時をもって一変する。

 それは、ある小さな子供が会社に来訪である。小さな子供を連れてきたのは、工藤直紀を雇った会社の社長である。その社長が、とある小さな子供の面倒を見て欲しい、と頼んできたのである。社長の頼みなので公言しないが、社会人全員こう言うことだろう。

 ここは保育所じゃねぇぞ、と。

 そして工藤直紀の後輩である女性社員、菊池美奈が小さな子供の世話役となった。工藤直紀は菊池美奈の先輩なので、菊池美奈だけでなく小さな子供も見守る必要が出てきたのである。

(はぁ。)

 工藤直紀は社内で公にはしないものの、心の中で大きい大きいため息をつく。子供の世話なんてしたことがない工藤直紀はこれから四苦八苦することになる未来をみた。

 だが、工藤直紀の未来予知は大きく外れる事になる。

 大人な会社員達に紛れ、小さな子供は会社員となって、仕事を覚え、こなしていった。何故か、小学生にも満たなそうな見た目なのに、一通りの勉強が出来た。本人の強い希望により、菊池美奈を中心として、小さな子供に仕事を教える事になった。教える内容は、新入社員と同じ内容である。小さな子供は、教えられたことを確実に吸収していき、いつの間にか会社にはいなくてはならない存在となっていた。

 さらに月日が経過し、会社近くのマンションをある者が買収し、社員寮にした。そのことにより、多くの社員がその社員寮に住むことになった。その社員寮に小さな子供が住むことになった。そして、小さな子供を気にしている菊池美奈と工藤直紀も社員寮に住み始める。その後、工藤直紀は生活面でも小さな子供を気にするようになった。だが、仕事で見せた子供とは思えない能力が発揮される。小さな子供が作る料理は、近辺の小料理屋に劣らない美味しさだったのだ。社員寮に住み始めた大人達は、小さな子供の才能に驚く。そして、そんな小さな子供を影から見守っていく。

 さらに月日は経過し、いつの間にか小さな子供は、工藤直紀の体を気にするようになった。それはまるで、父親の過剰な飲酒を辞めさせようとする子供である。その小言を聞くたび、工藤直紀は考える。

(俺に子供が出来たら、こんな風になるのかね。)

 そしていつの間にか、小さな子供と過ごす日々が癒しになり、自身の病気の事を忘れていた。

 だが突如、自身の病気を思い出す出来事が起きてしまう。

 それは、工藤直紀の同級生が主催となった同窓会である。その同窓会には、工藤直紀のかつての同級生達が出席していた。同級生達はみな大人になっており、子供がいた。子供の話になり、工藤直紀も子供の話をしようとした時、思い出してしまった。

(あ。俺、子供作れないんだった。)

 それは、自分が子供を作ることが出来ない不妊症であることだ。不妊症という病気を思い出したことで、自分が子供をもつことが出来ない人間であることを自覚してしまう。そして、子供をもっている同級生達が羨ましくなった。その羨ましさと同時に、憎らしさも湧いて出てくる。そんな感情を同級生にぶつけてしまいそうになり、工藤直紀は逃げるように同窓会を出ていった。

(なんで・・・なんで!?)

 誰にもぶつける事が出来ず、行き場を無くした黒い感情を緩和させるため、工藤直紀は酒に逃げる事にした。逃げて、なにもかも忘れて、現実から目を背ける事にした。工藤直紀自身、子供が本心で育てたいわけではない。子供を設ける事が出来ないなら死んだ方がまし、というほど、子作りに真剣なわけでもない。だが、出来る事としない事とでは言葉の意味が違うだろう。工藤直紀は子供を育てるために設けたくても設けることが出来ないのだ。そう思い、現実逃避のために酒を浴びるように飲み尽くす。工藤直紀の記憶の陰には、ある小さな子供が見え隠れしていたが、工藤直紀は気にせず酒を胃に注いでいった。

次回予告

『国民達の大型連休生活~暖かい家庭~』

 自身を馬鹿な男と自称し、自身の過去を早乙女優に話す工藤直紀。その後、来訪した菊池美奈に自身が欲しいものを話す。その欲しいものに対し、ある光景を見せる。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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