国民達の大型連休生活~酒好き会社員の同窓会~
5月初め。世間では大型連休中の天気が放送され、施設の混雑具合が表示されている。テレビやニュースを見た人々は、その情報を見てどのように過ごすか決めている。どこか泊まりで出かけようとする人がいれば、家でずっと過ごそうとする人もいる。
ある酒好きな会社員、工藤直紀の休日は大抵家で過ごしている。何故なら、家で思う存分家でお酒を堪能するためである。休日のほとんどを過ごしている工藤直紀だが、今回の大型連休はそうはいかない。滅多に行われない行事がこの大型連休に行われるからである。
「ま、久々の同窓会だし、行かない理由がないから行くか。」
滅多に行われない行事、同窓会があるからである。工藤直紀は今、同窓会に行くため、身だしなみを整えていた。スーツの着こなし方に問題ないか確認し、必要なものを所持しているか確認してから、
「行くか。」
工藤直紀は同窓会に出席するため、社員寮を後にした。
工藤直紀が車で向かったのはあるホテルで、今回行われる同窓会会場となっている。
「ここか。」
ホテルには車が多数見える。
(この車ももしかしたら、)
今回同窓会で来た同級生達の車かもしれない。そんなことを考えながら、工藤直紀はホテルに向かって歩いていく。
ホテルに入り、工藤直紀は今回行われる同窓会会場に入った。中には同年代の人と思われる成人達がいる。
(誰が誰なんだ?)
工藤には誰が誰なんだか分からない。それもそのはず。会っている人は卒業後も会っているのだが、会っていない人は卒業から今まで会っていないのである。そして、卒業から15年以上会っていないのだ。顔を忘れるのも無理はないかもしれない。
「久しぶり、工藤君。」
だが、ある女性は迷いなく工藤直紀に声をかける。工藤直紀はその女性の声を聞き、顔を見て安堵する。その後、工藤直紀は失礼の無いように声をかける。
「そうだな、毛利。」
返し方は、成人なため失礼の無いように。かつ、級友のフランクさを損なわない無難な挨拶をした。
「1年・・・じゃないわね。約半年ぶりかしら?」
「だな。あの時以来だな。」
工藤直紀と声をかけた女性、毛利蓮華は同じ出来事を思い出す。
その出来事とは、去年の11月の時に行われたコンクールのことである。毛利蓮華はピアニストで、コンクールに出るつもりだったのだが、腕を怪我したために出場出来なくなったのである。怪我した毛利蓮華の代わりにピアニストとして出たのが、工藤直紀が大切にしている小さな会社員、早乙女優である。そんな繋がりがあったため、毛利蓮華の方から工藤直紀に声をかけたのであった。工藤直紀は毛利蓮華の意図に気付き、納得する。
「あの時は本当にありがとう。そして、不快にさせてごめんなさい。」
「・・・あいつもそこまで気にしていなかったから大丈夫だ。」
工藤直紀は、早乙女優なら気にしていないと断言した。だが、毛利蓮華は早乙女優のことだけを気にしていたわけではなかった。
「あの子のことはもちろんだけど、あなたにも、菊地さんにも言ったつもりよ?」
「そうだったか。それなら気にしていないから大丈夫だ。あんあ出来事は二度と起きて欲しくないがな。」
毛利蓮華は、早乙女優だけでなく菊池美奈、そして目の前にいる工藤直紀にも言っていた。工藤直紀はそのことに気付き、納得する。
「私としても、あんな出来事は二度と起きて欲しくないし、起こさせないわ。」
工藤直紀、毛利蓮華2人が言うあんな出来事とは、演奏後に起きた音痴な成人男性との口論だ。ちょっとした口喧嘩程度なら厭味ったらしく言うつもりはなかった。だが、音痴な成人男性は口喧嘩では済まされないことを発した。それは、早乙女優がレイプされればよかった、という発言である。その発言を聞いた工藤直紀、毛利蓮華は怒っていたが、菊池美奈はそれ以上に怒っていた。そして、菊池美奈は社会的に音痴な成人男性を殺した。物理的に殺せば殺人罪に問われたかもしれないが、罪にと割れない方法で徹底的に潰した。それほどまでに、菊池美奈は早乙女優を大切にし、怒りを原動力にして行動したのである。
「そう、ね。」
工藤直紀と毛利蓮華の間に気まずい雰囲気が漂う。
「やっほー。」
「もしかしなくとも蓮華よね?」
「結構活躍しているって話じゃな~い?その話、聞かせてくれない?」
気まずい雰囲気を壊したのは、毛利蓮華の友人である同級生達のようだ。
「え、ええ。もちろんいいわよ。」
毛利蓮華は工藤直紀に、
(それじゃあ。)
軽い挨拶をする。
(おう。)
工藤直紀は毛利蓮華の視線に、視線で挨拶を返した。
「ようようよう!」
「相変わらず仲がいいよな、お前らは!」
「わ!?」
そして、工藤直紀にも同級生が声をかけた。
「久しぶり、だな。」
「ああ。」
「名探偵と空手家の絡み、もっと見たかったわ~。」
同窓会が始まる前に、工藤直紀はかつての友を見つけ、話が乗っていく。
同窓会は間もなく始まる。
同窓会が始まり、当時の学級委員長が挨拶を始める。学生時代の昔話を織り交ぜながら、現状を簡単に説明し、これからも生きていこうと宣言してから、手に持っていたグラスを高く上げる。それをきっかけに、同級生同士の会話はさらに加速していく。
やれ、学生時代は楽しかった。
やれ、今の景気は悪い。
やれ、結婚しているのかそうでないのか。
そんな話がパーティー会場中に広がっていく。特に話題に出ていたのは、結婚に関する話だった。今結婚しているのかしていないのかを最初に聞き、それを元に話を展開していく。
結婚しているのであれば、どんな人と結婚したのかを詳細に聞き、結婚生活について事細かに聞く。
結婚していないのであれば、どんな仕事をしているのか、どんな生活をしているのかを事細かに聞く。
そして、結婚したい人がいれば、その人に近づき、自身をアピールしていく。
ある程度時間が経過し、工藤直紀はトイレで用を足していた。尿意を催したからである。手を洗いながら、工藤直紀はあることについて考える。
(やっぱみんな、子供、いるんだな。)
それは、子供の事である。
子供だった中学生の時と、大人である今で違う事は数多くあるが、工藤直紀は家庭、特に子供のことについて考えていた。
大人になると結婚することが出来、子供をもうけることも出来る。子供を育てる事は一筋縄ではいかないだろうが、周囲の人々は口をそろえてこう言う。
子供を授かって良かった。
と。中には浮気や不倫をされたり、性格が一致しなかったり等の理由で離婚した者もいた。だが、それでも子供を育てる事が出来て幸せだと言い切っていた。
(そんなに家庭を持つことが、子供を持つことが幸せなのか?)
工藤直紀は子供を持つどころか独身。子供を持つにはまず結婚相手を探さなくてはならない立ち位置である。その上、工藤直紀は結婚することに興味がない。なので、工藤直紀が子供をもうけることは今すぐには不可能なのである。
「いや~。子供が可愛くて可愛くて~♪」
「子供の成長って早いもんでな~。」
「分かる分かる。うちの子供なんて~。」
「そっちはまだいいよ。うちなんてワンパク過ぎて大変なんだよ。」
自身の子供を自慢するかのように語り合っていた。子供を育てるにあたって苦労することも話していたのだが、その話も嬉々として話していた。
(子供。子供、か。)
工藤直紀は、周囲の話を地獄耳で聞きながら、酒を飲まず、お茶を喉に通す。飲酒運転をしないため、酒を我慢してお茶を飲んでいるのである。
(・・・帰るか。)
工藤直紀は、これ以上ここにいても居心地が悪くなると判断し、帰ることに決めた。まだ同窓会は終わっていないのだが、これ以上ここに居たくないと思ったからである。
(急な仕事、とでも言っておくか。)
退席する理由を思いついた工藤は、幹事に帰ることを伝え、同窓会会場から去ろうとした。
「工藤君!」
そんな工藤にある女性が声をかける。
「・・・毛利か。」
その女性は毛利蓮華である。
「そういえば、毛利はもうお付き合いしている人がいるんだっけか?」
「え、ええ。」
「お付き合いおめでとう。そのまま結婚までいくといいな。」
「う、うん。」
「それじゃあ。」
工藤直紀は流すように世間話をし、会場を後にしようと車へ歩みを進める。
(工藤君?)
毛利蓮華は工藤直紀の異変に気付いていた。
「あれ?工藤の奴、もう帰ったのか?」
「ああ。なんでも、急な仕事が入ったんだってさ。」
「へぇ。連休時でも呼び出されるなんて難儀だな。」
周囲の成人達は、工藤の言い訳を素直に飲み込み、少し話題に出した。だが、それだけで工藤に関する話題が終わり、互いの近況を再び話し出す。
(そういえば工藤君って昔・・・。)
毛利蓮華は、工藤直紀が昔、同じクラスで聞いていたことを思い出す。その事は、今の工藤直紀の機嫌に関わるかもしれないことかもしれない。そう考え、ある人物に電話を始める。
(あの人なら・・・繋がって!)
そして、目的の人物に繋がる。
「あ、もしもし?こちら、毛利蓮華と申します。そちらは・・・、」
電話で必要最低限の挨拶を済ませ、
「それでね、話があるの。」
毛利蓮華は話を始める。いち同級生である工藤直紀を心配して。
次回予告
『国民達の大型連休生活~酒好き会社員の同窓会後~』
同窓会を終えた工藤直紀は大型連休中なこともあってか、いつも以上にだらけた生活を送っていた。
工藤直紀は早乙女優の来訪に、いつも以上にだらけきった態度で出迎える。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
 




