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男性社員達の洋菓子製作生活

「ふぅ。」

 橘先輩とプリン堂に出かけた次の日。私は朝のデザートにプリン堂を試食しています。先日もプリン堂のプリンを3つほどいただいき、これで4つめとなるのですが、一向に飽きがきません。やはり、同じプリンとはいえ、4つ全て異なる味のプリンを食べているからでしょうか。それとも、このプリンに飽きさせない秘密が隠されているのでしょうか。このプリンには、現私には再現できない何かがあるみたいです。

「それにしても・・・。」

 先日は近くに住んでいたとはいえ休日、それもいきなり岡田さんを呼び出してしまいましたね。そのお詫びもかけて後日、何かお礼をしませんと。このプリン堂のプリンであればお礼に・・・なりませんね。賞味期限がもう近い、というか明日までですので、渡す頃にはもしかしたら腐り始めている可能性もありますからね。私が作ったプリン、ということにしておきましょう。プリン堂の味を出来るだけ再現すれば、岡田さんも気に入ってくれるかもしれません。

「あ。」

 岡田さんの謝礼に関してはこの方針で進めるとして、今日の内にホワイトデーのお返しを作ってしまいますか。確か今週でしたからね、ホワイトデー。作るものは既に決まっているので材料も昨日のうちに購入済みで、後は作るだけです。

「ちょっと借りようかな。」

 自室のキッチンで調理してもいいのですが共同の台所の方が、調理施設が整っているんですよね。だからあそこで調理したいのですけど、まぁいいですよね。いつも使わせてもらっているし、いいですよね。

 私は調理に必要な食材を手に、共同の台所へ向かって行った。


「ん?」

 共同の台所目前のところで、何やら騒がしいです。今の時刻は午前中。人によればまだ眠っていてもおかしくない時間帯ですのに。もしかして今日はみなさん起きているのでしょうか?

「あ、おはようございます。」

「おはよう、優ちゃん♪」

 共用の台所一歩手前で女性の方が立ち尽くしていました。それも複数人。

「ここで何をしているのですか?」

「これよ、これ!」

「ん?」

 女性が指差した先には、黄色いテープが共同の台所の出入り口を塞いでいました。その黄色いテープには、“KEEP OUT!”と書かれていました。

「何があったのですか?」

「何でも、朝早くに男達がテープで入り口を塞いで台所を占領しているみたいなのよ。」

「男達、ですか?台所に女性はいないのですか?」

 私の質問に女性の質問は首を縦に一度振ってくれました。なるほど、台所を占領しているのは男性だけのようです。

「ここ読んで、ここ。」

「ここ、ですか?」

 私は、女性が指を指した個所に目を通してみる。

(・・・なるほど。)

 そこには、“女は進入禁止!”や、“男、厨房に入るべし!”なんて書かれていました。この二つの言葉は書き足した感があります。きっとこの黄色いテープに手書きで付け足したのでしょう。

「だから多分、男達しかいない、と思うわよ?」

「そう、ですね。教えていただきありがとうございます。」

 私は女性の方にお礼を言う。

「別にいいわ。それよりまぁ、何をしているのかは大体想像つくんだけどね。」

「そうなのですか?」

 ここまで女性陣を台所に追い出し、男性陣だけですること・・・?な、なんでしょう?

「まぁ多分あれ、でしょうね。」

「あ、菊地先輩。おはようございます。」

「おはよう♪」

菊池先輩、いつの間に私の隣に・・・。

「それよりあれ、とはなんなのですか?」

「ホワイトデーよ。」

「ホワイトデー?あ。」

 なるほど、そういうことでしたか。

「ええ。優君が考えている通りよ。」

「つまり男性社員の先輩方は先月女性社員からもらったバレンタインチョコのお返しを作っていると?」

「おそらく、ね。まぁ私達は中に入れないから想像しか出来ないけど。」

「そうみたいですね。」

 それでここまで女性の入室を断っているのですか。

「ではなぜ、ここで待機しているのですか?」

 男性社員が台所でホワイトデーのお返しを作っていると推測したのであれば、ここに留まる理由なんてないはず。別の理由でもあるのでしょうか。

「それはね、ある子を待っていたからよ。」

 別の女性が答えてくれました。ある子、ですか?この方が言うある子とは一体・・・?

「ま、もう待つ必要が無くなったけどね。」

「「「ねー。」」」

 どうやら、女性の方が言うあの子とは、既に女性の方の近くにいるようです。あの子、と言うからには私みたいな子供がいると思うのですが、いないように見えるのは私の気のせいでしょうか?

「そうね。ねぇ、優君?」

「?はぁ。」

 女性方は一体誰のことを述べているのでしょう?まったく想像できません。

「それじゃあお願いね?」

「・・・何が、ですか?」

 私は菊池先輩のお願いの内容が分からず質問する。

「男性陣の監視。」

「・・・なるほど。そういうことですか。」

 ようやく理解出来ました。

 確かに、社員寮に住んでいる男性陣のほとんどが料理を苦手としている。その筆頭が工藤先輩なのである。何故苦手なのかは分かりませんが、普段から料理をしない為、料理に関する技術が向上しないのでしょう。

「でも、毎年毎年ホワイトデーのお返しに何かしら作っているわけですし、私の手助けはいらないのではないでしょうか?」

 去年、一昨年も男性陣だけでお返しを作っていた記憶があります。

「それは優君の協力あっての、でしょう?」

「…そういえばそうでした。」

 去年、一昨年も私は男性陣のお返しを作ることに協力していましたね。

「やっぱり、お返しをもらうからには、出来るだけ美味しいものが食べたいからねー。」

「「「ねー。」」」

 その女性陣の言葉に、

「だから、男の子である優君が今年もホワイトデーのお返しの制作に協力してあげてほしいの。」

「そう、ですね。分かりました。」

 女性陣も、もらえるだけで嬉しいかもしれませんが、もらったものが美味しければさらに嬉しいことでしょう。逆に不味ければ嬉しさ半減するどころか悲しさ増しましになる可能性がありますからね。ここは同じ男である私が、ということなのでしょう。

「なぁ?チョコってどうやって溶かすんだ?」

「なんだったか・・・ゆ、ゆ・・・、」

「湯葢!」

「「「それだ!」」」

「「「・・・。」」」

 男性陣のみなさまは一体、何の話をしているのでしょう?あと、チョコを溶かすのは湯葢ではなく湯せんだと思います。

「優君、ほんと頼むわよ。」

「私達、安全なホワイトデーのお返しを期待しているから。」

「せめて食べられるもの、出来れば美味しいものがいいわ!」

「善処します。」

 これ、毎年毎年やっているのに・・・。どうして先輩方は湯せんの方法を忘れてしまうのでしょう。頭が痛いです。

「それじゃあ優君、後はよろしくね~。」

「優ちゃん、頑張ってね~♪」

 そんな期待の声を女性の先輩方からいただきました。

「・・・ふぅ。」

 私は一呼吸置いてから、黄色いテープをくぐり、台所の厨房へ向かいます。

「チョコレートを溶かすには、フライパンでこんがり焼くんじゃなかったか?」

「「「それだ!!!」」」

「全く違いますよ。」

 私の指摘に驚いたのか、男性陣が私の方を向いています。

「な、なんだと!?」

「先ほど言っていた湯せんで・・・、」

 私はチョコを実際に溶かしてみせた。コンロ前に立つと、フライパンの上に・・・焦げた?チョコレートが乗っていた。もしかして、既にチョコをフライパンで焼いてしまったのでしょうか。それでチョコは溶けるなんてことはないのですが。携帯でチョコを溶かす方法でも調べればいいのに。

「こうすればチョコを溶かすことが出来ますよ。」

 私が実演を終了させた後、

「「「なるほど。そんな方法があったのか!!!???」」」

 ・・・確か去年、一昨年も実演した記憶があるような、なかったような?まぁ、成人男性がチョコを溶かす状況なんてほとんどないので仕方がないのかもしれません。そう思う事にしましょう。

「それではこれで美味しいホワイトデーのお返しが作れますね。」

 これで美味しいチョコレートを作ることが出来、女性陣へのお返しも作ることが出来る事でしょう。流石に味付けで失敗はしないでしょう。料理下手だからと言って味音痴ではないですしね。

「「「さ~おと~めく~ん???」」」

「・・・なんでしょう?」

 なんだかとても嫌な予感がします。

「「「ホワイトデーのお返し作り、手伝って???」」」

「・・・。」

 手伝いというのは、チョコを溶かす手伝いだけでいいのではないのでしょうか?味付けだけならなんとかなりそうな気が・・・ああ。

(なるほど。)

 ホワイトデーのお返しって、味だけが重要ではないですよね。相手にお礼の気持ちを込めて贈るのですから、見た目もそれなりに重要なはず。つまり、味付けだけでなくチョコの形成技術もある程度必要になってくるはず。料理が苦手な男性陣が、チョコを上手く形成出来る、なんて都合のよい考えは捨てるべきでしょう。

 もちろん、チョコの形や味がホワイトデーのお返しの全てではないと思います。気持ちが一番、という気持ちは理解できます。ですが、贈られる側のことを考えると、多少チョコの味や形を気にすることでしょう。少しでも女性陣が美味しいお返しチョコレートを食べられるようお手伝いしますか。

 どうでもいいですが、ホワイトデーのお返しにチョコを使う事は確定なんですね。別にチョコを使わない食べ物をお返しにするのもありだと思います。例えばマシュマロとかクッキーとか。まぁチョコをお返しにするのであればそれでいいんですけど。

「分かりました。一緒に美味しいチョコを作りましょう。」

 私のこの発言で、男性陣は喜んでくれました。

 さて、どんなチョコを作るつもりなのでしょうか。


 話を聞いてみたところ、

「とりあえず、ホワイトチョコを作ったお返しを作りたい。」

 ということでした。

 なるほど、何も決まっていないというわけですね。その割にはホワイトチョコレートが見当たらない気がします。その代わりにブラウンチョコレートと牛乳があるのですが、まさかこの2つを混ぜてホワイトチョコレートを自作するおつもりだったのでしょうか。そこは素直に市販のホワイトチョコレートを使った方が無難なのではないでしょうか。私がそう指摘すると、

「「「確かに。その考えはなかった。」」」

 ・・・。本当に普段、料理なんてしていないようです。それともしかして、普段からチョコを食べていないのでしょうか。それとも、単にぼけているだけ?

 そして、ホワイトチョコレートを追加で購入し、準備完了。

「「「で、どんなチョコを作るんだ???」」」

 どうやら完全に私任せのようです。要望であるホワイトチョコを使い、且つほとんど料理経験皆無のみなさんでも出来るような料理、ですか。だいぶ限られていますが、ないわけではないはずです。

 となると・・・。

(よし。)

 これなら出来るでしょう。出来ます、よね?大丈夫、ですよね?

「少々お待ちください。」

「お、おう。」

 私は追加の食材を買うため、少しの間、社員寮を出た。

「ただいま戻りました。」

「おかえり。それで、その袋の中身はなんだ?」

「これです。」

 私はテーブルの上にさきほど購入した食材を置く。

「これは、チョコレート?」

「はい。一つ十円くらいでお財布にも優しいです。それとこれです。」

 さきほど私が購入してきたのは一つ十円前後のチョコレートと、トッピング用の品を一通り購入してきました。

「さ、これからみなさん、頑張りましょうね?」

「「「お、おう・・・。」」」

 ?何故みなさん、ちょっと引いているのでしょうか?ただ私はホワイトデーのお返しを作ろうと提案しただけですのに。

 私は先輩方の様子に疑問を抱きつつも、今回作ってもらうお返しについて説明を始めた。


 今回作るお返しはとても簡単だ。

「…これで完成です。」

「「「・・・え???これだけ???」」」

 工藤先輩方がこう口にこぼしてしまうほど簡単なのですから。料理というカテゴリーに分類するのがおかしいくらいかもしれません。

 今回私が提案するお返しは、さきほど私が買ってきた十円チョコを主体に作っていく。といってもとても、本当に簡単。



 ・十円チョコの包みを外し、チョコを露出させる

 ・予め溶かしておいたホワイトチョコレートに十円チョコを浸す

 ・完成。お好みでデコレーションする



 以上。

 本当に簡単なのである。簡単というか、手抜き?そう言われてもおかしくないと思う。でも、

「であれば、そちらに何かいい案はありますか?」

 こう質問してみたところ、

「「「・・・。」」」

 黙秘が返ってきました。

「もちろん、これだけではお礼の気持ちが十分に伝わらないのかもしれません。」

 私の言うこれだけとは、十円チョコを溶かしたホワイトチョコレートに浸すことである。

「なので、華美になり過ぎない範囲でチョコレートにデコレーションをしたり、小綺麗な包みを使用したりすればいけるはずです。」

 もちろん多分、という言葉がつくのですが。料理に関する知識・技術の向上はまたの機会に、ということで。

「「「なるほど。」」」

 私の説明が終わり、先輩方は納得し、ホワイトデーのお返し作りが始まった。

 まず、ホワイトチョコレートを湯せんし、溶かすところから。

「ああ!チョコを直接焼くのではなく・・・!」

 私が一から湯せんの方法を教えていった。

「・・・へぇ~。こうやってチョコを溶かすんだな。優は博識だな。」

「・・・。」

 嫌味に聞こえるのは私の気のせいですか?気のせいという事にしておきましょう。

 デコレーションに関しては、少し教えただけでメキメキと上達していきました。先輩方のみなさん、手先が随分と器用ですね。その器用さを料理に回すことが出来たらいいのに。おっと。本音を言葉にしないよう気を付けませんと。

 時間は経過し、

「「「で、できた。出来たぞー!!!うおおおーーー!!!」」」

「静かにしてください。」

「「「あ、はい。」」」

 先輩方が興奮のあまり声のボリュームが大きかったので静かにするよう言うと、大人しくなりました。それにしても、見事なデコレーションです。とても料理が全くできない人が作ったものとは思えません。この短期間に急成長したのでしょうか。この包みも綺麗で見栄えも申し分ないことでしょう。さすがは大人です。

「きっとこれなら、女性の先輩方も喜んで受け取り、美味しく召し上がってくれるでしょう。」

 私は自分で作ったチョコ、十円チョコにホワイトチョコレートをかけたチョコを試食する。うん、美味しいです。下手に調味料を加えていない様子でしたし、味に関する問題もないでしょう。

「そういえば、そろそろお昼ですね。」

 時計を見ると時刻は昼前。空腹感を自覚してしまいました。

「それでは先輩方。この調子でお昼も作ってしまいますか。」

 せっかくの機会です。この機会に料理のサシスセソくらいレクチャーしますか。

「「「ええ。それはちょっと・・・。」」」

「・・・。」

 何故みなさん、そんなに昼食作りを嫌っているのでしょうか。まぁ、やりたくないのであれば私が作るまでです。結局、私が全員分の昼食を作り、今日はこれで解散となった。食後、食器の片づけは先輩方が食器洗いしてくれるという事なので、私はその厚意に甘え、一足先に退室した。

(ま、私も作ることが出来たのでよしとしますか。)

 ちなみに、私が台所に行った本来の目的は、私が先輩方に渡すホワイトデーのお返しを制作することです。その目的は、先輩方がチョコレートをデコレーションしている間に完遂しておきました。味見に関しては・・・自室に戻ってからにしますか。

 さ、ホワイトデーが楽しみです。先輩方が無事に渡すことが出来ればよいのですが、果たして上手くいくでしょうか。

次回予告

『ある姉から小さな会社員への進路報告生活』

 周囲はホワイトデー間近。中には、早めにホワイトデーを迎え、男性が女性にお返しし始めた頃、早乙女優達が勤めている男性社員達も女性社員にお返しをしていた。そんな時、ある女性が、早乙女優が住んでいる社員寮に現れる。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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