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小さな会社員と目つきが鋭すぎる会社員の外出生活~続~

 突如、私と男性の話に別の男性が割り込んでくる。周囲の人々はつい今しがたまで私と男性の会話に耳と目に神経を集中させていたが、次は声を荒げた男性に集中する。

「あ?誰だおっさん。」

 どうやら私の前にいる男性に心当たりはないみたいです。私にとっては顔なじみなんですけどね。主に会社でよく会います。

「おはようございます、岡田さん。こんな休日の朝にも関わらず呼び出してしまい申し訳ありません。そしてわざわざ来て下さりありがとうございます。」

 私は謝罪をしてから感謝の言葉を取引先の方、岡田さんに頭を下げる。

「いやいや。早乙女君が私に頭を下げる必要なんてないさ。私もたまたま近所に住んでいたからすぐ来られただけさ。それで、今回は迷惑をかけてしまって本当に申し訳ない。そちらの方も私が代理で謝罪させてもらう。本当に申し訳ない。」

 岡田さんが私、そして橘先輩に頭を下げる。岡田さんが私達に頭を下げる必要なんてないですのに。

「頭をお上げください。」

「だが…。」

「橘先輩はどうしたいですか?」

「俺は、あなたから謝罪してほしいと思わない。だから、頭を上げて下さい。」

「…すまない。」

 岡田さんが再び謝罪の言葉を述べる。そして次に、今回のターゲットに視線を移す。

「それで、さきほどふざけた発言をしていたのは・・・、」

「ええ、彼です。」

 私は岡田さんの問いかけに肯定する。

「あ?なんだよおっさん。こっち向くんじゃねぇよ。」

「・・・なるほど。最近の若者は敬語もままならないと聞いていたが、これは思っていた以上にひどいな。」

「おそらくですが、あの方は岡田さんの社会的立場に気付いていないかと。」

「なるほど。それで私の事をおっさん、などと呼んでいるのか。」

 と、岡田さんはため息をついていた。ま、つきたくもなりますよね。その気持ち、全てを察することは出来ませんが、ある程度お察しします。

「は?お前らついに頭でもおかしくなったんか?いいか?俺はなぁ…、」

「この会社に勤めているんだろう?」

 そう言い、岡田さんは自身の持ち物の鞄を男性に見せる。

「え?」

 見せられた男性は思わず二度見・・・いえ。三度見していました。無理もありません。某会社に勤めている会社員しか入手できない鞄を持っていたのですから。

「てことは・・・え?」

「察しが悪いのか?私も君と同じ会社で働いているという事だよ。」

「お休みの日にわざわざ通勤用鞄をもってくるよう連絡しておいて正解でした。」

「何に使うのかと思っていたのだが、こういうことだったのか。」

 それにしても、事前に連絡を入れておいて良かったです。そうでなければ、この男性を自由に暴れさせていたことでしょう。

「じゃあおっさんは・・・?」

「・・・あ、今思い出した。お主、近頃主任に昇格予定の筒井修斗(つついしゅうと)君ではないかね?」

「え?どうして俺の名前を・・・?」

「…ふむ。最近の若者は敬語だけでなく察する力も悪くなっているようだな。」

「今調べましたが、その方は岡田さん直属ではないみたいです。」

「…確かにそうだが早乙女君、君は一体どうやって調べたのかね?」

「そんなことよりほら、彼が聞きたそうにしていますよ?」

「そうだったな。さて、と。」

「なんなんだよ。なんなんだよ、お前は!?」

 と、彼、筒井さんは岡田さんに向けて指を指し、誰なのかと聞いてきました。さきほどから私が岡田さんと言っているのですが、聞いていないのでしょうか?いえ、この場合、名字や名前ではなく、社会的地位について聞きたいのでしょう、多分。

「おっさんの次はお前、か。休日にこんなことを言うのもなんだが、少しは自分の立場、相手の立場を理解して発言してくれないかね?」

「は?」

「最も、相手の立場を知ったとたん、掌返しされても困るのだが。」

「だ~か~ら!お前は一体、誰なんだよ!!??」

 筒井さんはさらに声を荒げる。その声で周囲の視線を収集していることに気付いてイなのですかね。筒井さん、悪目立ちしていますよ。指摘するつもりないですけど。

「私はこの会社の部長だよ。」

「・・・は?」

「もっと言えば、直属ではないが筒井君、君の上司にあたる人間なんだよ。」

「・・・え?う、嘘だろう?は?」

「それともう一つ言っておくべきことがある。」

「・・・。」

 筒井さんは黙ったまま岡田さんの話を聞き続ける。

「さきほど君はこの者・・・橘君、だったか?その者を無能。そして、橘君を雇った会社も無能だとほざいていたな?」

 岡田さんの膨らむ怒気に、筒井さんは下がり始める。

「橘君が勤めている会社とうちの会社が取引しているのは本当だぞ?しかも、その取引を成立させたのは誰だと思っている?」

「誰って、それは・・・、」

 この方はきっと知らないでしょうね。しらなければさきほどの発言なんて出来ないわけですから。

「私だよ。」

「え?ええ!?」

「取引内容については詳細に話せないが、もし取引が成立していなければ、うちの会社がどうなっていたか分かるかね?」

「・・・。」

 筒井さんは岡田さんの問いに答えず、ただただ黙る。

「下手すれば我が社が倒産しかねる事態になる。」

「はぁ!!??そんな重要な取引をこいつが!?そんなわけ、」

「ないと、本気で、私の眼を見て言えるのか?」

 岡田さんは筒井さんの眼を見る。岡田さん、いつにもなく怒っています。

「嘘、だろ?」

「そんな重要な取引に関し、君はなんと言っていたかね?」

「いや、俺は別に何も・・・、」

 私はすかさず、さきほど発言していた筒井さんの言葉を流す。もちろん、さきほど言っていた筒井さんの言葉は全て電子データに変換済みです。

「!?」

「ほぉ~?我が社の名にかけて、取引を切る、と。」

 録音を聞いた岡田さんが一言。

「ふざけるなよ?」

「!?」

 どすを込めた岡田さんの発言に、筒井さんは腰を抜かす。

「貴様のこのふざけた突拍子もない言葉のせいで今、わが社が倒産に危機に陥るかもしれないのだぞ!?それを分かっていて言ったのか!?」

「ひぃ!?」

「もし本当に倒産したら、貴様は全責任を負うんだろうな?その覚悟あっての発言、ということだよな?」

「い、いや・・・、」

「それにお前、もう一つ馬鹿げたことをしたな?」

「ふぇ??」

「大事な取引先の社員にお前は一体何をした?」

「・・・。」

「無言を突き通すか。では私の口から言わせてもらおう。」

 岡田さんが一呼吸をおき、言葉を再度投げかける。

「お前は大事な取引先の社員に向け、暴力をふるった。これがどういう意味か分かるかね?」

「・・・。」

「これは暴行罪に該当する。つまり君は、犯罪を行ったという事だ。」

「!?」

「このことを彼が訴えれば、君は犯罪者になる。そう言っているのだよ。」

「そ、そんな!!!??だって、だって俺は・・・!」

「いつまでも学生気分が抜けない、か。確かに学生の時は言い訳も多少できたこともあっただろう。だが、そんな言い訳は社会人では通用しない。」

「・・・。」

「さて、こんな愚か者、訴えられても仕方のないことをしたのだが、橘君はどうしたかね?」

「…俺は、俺は・・・。」

 この件に関し、決定権があるのは橘先輩でしょう。私も橘先輩の決定に従うつもりです。出来る範囲であれば。もしかしたら納得できない時、ちょっと声を漏らしてしまうかもしれません。出来るだけ口をおさえておきますか。

「条件次第、だな。」

「条件、とは。」

「俺と優、二人の目の前に二度と姿を現さないことだ。それを確約するなら、」

「する!だから俺を許してくれぇ!」

 ようやく筒井さんも自身の置かれた立場を理解したのでしょう。橘先輩に泣いて縋ってきました。今更泣いても遅いというのに。

「じゃあこれでおわ、」

「いえ、まだ終わりではありませんよ?」

 私のこの言葉に、

「「「・・・は???」」」

 橘先輩、岡田さん、筒井さんは言葉を揃えた。


「は?ではありませんよ。」

 まったく。お三方は何を言っているのでしょうか。

「まだ謝罪を済ませていない方々がいること、お忘れではないですか?」

 そう言いながら、私は今もプリン堂に並んでいる方々に視線を移す。

「「「・・・。」」」

 その方々の視線は様々だったが、筒井さんに集中していた。その視線は怒り、憎しみ、侮蔑、様々であったが、いずれも悪い感情ばかりである。

「な、なんだよ。」

「なんだよって、あなたはつい今しがた発言した自身の言葉も憶えていないのですか?」

 私は再び音声データを流す。その音声データには、今もプリン堂に並んでいる方々を蔑み、高笑いする筒井さんの声が封入されている。

「この発言で、周囲の方々がどれほど不快になったか分かりませんか?」

「貴様!?大事な取引先の社員に暴行を加えるだけでなく、そんなことまで!」

「ち、違う!その声は俺じゃない!俺じゃない!!」

「否定するのは勝手ですが、嘘か本当かは、周囲の視線で一目瞭然かと思います。」

 私は再び、周囲の方々に視線を移すよう配慮する。うっすらとですが、筒井さんのことを少なからず憎い、という発言ばかり聞こえてきます。

「あなたは橘先輩だけでなく、ここにいる人々の気持ちを、好きという気持ちを侮辱した。」

 たった一言二言だけだったかもしれません。そんなことで、と思うかもしれません。ですが、この場できっちり締めないと、こういう人は今後も人を見下し続ける事でしょう。

「ですので、きちんと!謝罪をお願いします。」

 私の言葉と周囲の視線が筒井さんにのしかかる。

 まったく。あれほどふざけた発言をしておいて謝罪もせずに済まそうだなんて。

「・・・なよ。」

 ん?声が聞こえたようですが、よく聞き取れませんでした。

「ふざけんなよ!」

「「「!!!???」」」

 筒井さんの怒鳴り声に、私や橘先輩や岡田さんを含めた周囲の人々は驚きます。

「何が謝罪だ!何が部長だ!どいつもこいつもふざけたことばかり言いやがって!俺が、俺様が一番偉いに決まっているだろ!!??こんな陰キャが俺より上?ふざけんなよ。マジでふざけるな!!」

 ・・・。

 私は自然と、指を鳴らし始めていました。たまりにたまったうっぷんを晴らすかのように、ゆっくり一指ずつ、確実に。

「・・・。」

 口をすぼめ、長く長く息を吐く。その吐く力がだんだん強くなっていくことを実感し、少し弱めていく。だが、時間が経過すると弱めていたはずの力が強さを増そうと足掻いていく。

「・・・。」

 ゆっくり目を閉じ、誰とも視線を合わせぬよう心掛ける事数秒。心を確実に落ち着け、視線を岡田さんに向ける。

「・・・。」

 岡田さんは、私の視線の意図を理解してくれたらしく、頷いてくれた。

(ありがとう、ございます。)

 私は心の中で岡田さんに感謝の言葉を心の中で発する。

「・・・おい。」

「ああ!?」

「君の昇進の件だが、異動に変更してもらうようかけあうつもりだ。」

「・・・どういうことだ?」

「それを今からじっくりと話し合おうじゃないか。」

 そう言い、岡田さんは筒井さんの腕をつかみ、去って行った。

「どの発展途上国の工場勤務がいいか、話し合うためにな。」

 そう聞こえた気がしましたが、気のせいですよね。その後、筒井さんの顔が青くなったのも、きっと気のせいでしょう。

 それにしても岡田さん、私の意図を汲み取っていただきありがとうございます。私は岡田さんに一礼する。

「・・・。」

 岡田さんも私に一礼してくれた。今度、会社に来てくれたら、何か美味しいものを差し入れるとしましょう。今回の不始末で色々迷惑をかけてしまいましたし。

 さて、

「みなさん、今回は私のせいで大変不快にさせてしまい、申し訳ありませんでした。」

 私は今もプリン堂に並んでいる周囲の方々に聞こえるよう、はっきりとした声で謝罪をし、頭を下げる。

「す、すいませんでした。」

 私の後に続いて橘先輩も頭を下げていた。私はともかく、橘先輩まで頭を下げなくていいのに。

 私と橘先輩の謝罪に対し、

「いやいや!お前さんらは何も悪くないだろう!」

「そんなことより、よく手を出さなかった!偉い!」

「怪我してないかね?ミカンがあるからひとまず食べなさい。ほら。」

 周囲の方々は私達を貶すどころか褒めてくれました。

 何故?

 あんなに、周囲の方々を不快にさせてしまったのに?

 どうして・・・?

「優、さっきは悪かったな。何も言えなくて。」

「!?いえ、別に私はなんとも思っていませんので気にしないでください。」

 私の言葉の後、

「そうだそうだ!兄ちゃんからも何か言ってやればよかったのに!」

 そんな声を立場先輩に向けて発言される。

「ま、それはそうだよな。本当に悪い。」

「いえ!何度も言うようですが、橘先輩は何も気にしないでください。」

 私はただ、大切な方に傷ついてほしくない一心で行動したまでです。その行動が正しいとか悪いとかは関係ありません。大切な方が理不尽に傷ついているのであれば助けたい。その一心で動いたのですから。

「さ、プリン堂開店間もなくで~す!」

 ・・・そういえば、そろそろプリン堂が開店する時刻ですね。列の方は・・・並び直し、ですかね。

「列、いつの間にか抜けていましたね。」

「そう、だったな。」

「並び直し、ですよね?」

「だな。」

 せっかく並んでいたのに勿体ないです。ですが仕方がありません。一度抜けたのだから、並ぶには最後尾に、です。

 そして並ぼうとすると、

「「「・・・。」」」

 全員、私と橘先輩を避けていました。どうしたのでしょう?これでは列に並んでいることにならないのではないでしょうか?

「どうしたのですか?」

 私が気になっていることを橘先輩が聞いてくれました。

「お前さんらはさっきまで面倒な事に巻き込まれてさぞや疲れたことだろう?」

「それに、あの男が私達に言ったあの言葉、本当にムカついたのよね~。その言葉に君達は私達と同じように怒ってくれた。」

「その上、手は決して出さない誠実さ。」

「そう言う人がこのプリン堂のプリンのファンだと知れて僕は嬉しい!」

「「「だから、どうぞ。」」」

 ・・・理由がめちゃくちゃな気がします。

 確かに面倒なことに巻き込まれた気はしますが、誠実?

 私はただ、大切な方に傷ついてほしくない一心で行動したまでです。手を出さなかったのも、手を出せば橘先輩に迷惑がかかると思い、出さなかっただけです。

 そんな我が儘を通しただけですのに、周囲の人々にここまで優しくされるなんて、おかしいです。おかしいと思うのに、その厚意を受け入れたいと思ってしまいました。

「ありがとう、ございます。」

 色々理由付けは出来ます。

 これ以上周囲の人々に気を遣わせたくないから。

 この厚意を拒むことで、橘先輩に迷惑をかけてしまうから。

 そんな理由をつけて、私は周囲の人々の厚意を受け取ります。本当は、こんな理由なんかつけなくてもいいくらい、自分の気持ちは分かっているはずなのに。

 その気持ちは、喜びと感謝。

 結果がどうあれ、私の行動に対し、評価してくれて嬉しかったこと。

 そして、その厚意をくれたみなさまに感謝していること。

 私はこの気持ちを何度も体感している。似たような経験を何度もしたし、似たような気持にも何度もなった。

 この気持ちを言葉で言い表すなら、恩。

 私は今、この周囲の方々の厚意に恩を感じている。そう考えただけで、胸がいっぱいで、気を緩めると涙腺が一部損傷してしまいそうです。

 私は再度頭を下げながら目を閉じ、感謝の意を忘れない。そして私は橘先輩とともにプリン堂の中へ入っていった。

次回予告

『小さな会社員と目つきが鋭すぎる会社員の外出生活~終~』

 橘寛人に嫌味を言ってきた成人男性、筒井修斗との一件を終え、早乙女優と橘寛人はプリン堂に入店し、お目当てのものを買っていく。店から出た後、橘寛人は早乙女優に話しかける。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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