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小さな会社員と目つきが鋭すぎる会社員の外出生活

 石井亮太との対談を終え、数日が経過し、3月初めての週末。私はというと、

「それにしても、朝にも関わらずこんなに混んでいるのですね。」

 私はとある店に並んでいた。

「ああ。先頭で待っている人は夜中のうちに来て待ち続けているらしい。」

「へぇ。」

 橘先輩と一緒に。

 事のきっかけは、私が橘先輩に探偵の方を紹介してもらったことから始まります。

 橘先輩は探偵の知り合いがいるらしく、その人に石井亮太を調査するようお願いしてもらったのだ。今回、橘先輩が探偵の知り合いを教えてもらったおかげで、予想以上に早く調査を終える事が出来たのです。そのお礼に何かしたいと私が進んで橘先輩に行ってみたのですが、「べ、別にいいよ。そこまでのことをしてもらったわけじゃないし。なにより俺は自分のしたいことをしただけだ。」と、言い切った。それでも何か私にお礼をさせてほしいと頼んだところ、「…どうしてもというなら、一つだけ頼みたいことがあるんだが、いいか?」と言ってくれたので、私は喜んで了承した。…よく考えてみたら、私が橘先輩にお礼を返したいという一心で行動に移したのですが、その行為がかえって橘先輩の迷惑に繋がってしまったかもしれません。今度から気を付けるとしましょう。そして今回、橘先輩が私に頼みたいことというのは、とある店に一緒に並ぶこと、でした。その店とは、

「それにしても、この店ってここまで行列が出来るほど人気店なのですね。」

「ああ。一部のプリンマニアは毎週通っているらしい。」

「へぇ。そこまでにさせるほどこのプリン堂には美味しいプリンがあるのですね。」

 プリン堂という、とても美味しいプリンが売っているお店です。

 少し調べてみたのですが、通販でもプリンを販売しているみたいです。なら、通販で売られているプリンを買えばいいのでは?と思ったのですが、今月から販売されるプリンは、店頭でしか売っていないプリンみたいです。そのプリンは、桜をふんだんに使用したプリンで、桜の葉を使用しているみたいです。それだけなら通販でも販売できるのでは?と、自分なりに思考してみたのですが、さらに調べたところ、理由が分かりました。

 なんでも今日販売するプリンは限定品らしく、いつも以上に気合いをいれて作ったため、最高品質でお客様に直接届けたい。そのため、通販での販売を控えたとの事。

 最高品質で届けるということは、もしかしたら添加物や着色料を使わず、ただ味の身を追求した一品なのかもしれません。それに直接となると、通販は不適切となります。なにせ通販は、購入者の顔が見えないわけですからね。

「それにしても、俺もあの社員寮に入寮していいのか?」

「え?ええ。それはもちろん歓迎いたしますよ。菊池先輩も賛成でしたし。」

 話が突然変わった事に少し動揺してしまいましたが、私は出来るだけ平静に努めて話を続ける。

「あの社員寮に入れば、近くにバス停や駅はもちろん、大型商業施設に数多くの飲食店。それだけでなく、様々な系統の店が多く陳列しています。そしてなにより会社に近いですからね。」

 先日、私が桐谷先輩に提案したことは、私が今住んでいる社員寮に引っ越すことである。


 私が今住んでいる社員寮はとても、とても治安がよく、立地も素晴らしい。交通の便はかなり発達しているし、お店も充実しているため、ちょっとした食事や買い物も可能。そして、セキュリティ面でもとても優秀なのである。

 何故そんな好条件に社員寮があるかというと、元々この社員寮がある人物の持ち物で、その人物が会社に貸し出しているのである。だからこの建物は社員寮という扱いになっており、今も多くの社員が入寮している。社員寮という扱いのためか、会社から家賃補助を受けられるので、周辺の賃貸物件より安い価格で住めることもオススメだろう。

 そんな私の言葉に、桐谷先輩は、

「そんな好立地でセキュリティ万全の住宅、住まないわけにはいきません!…と言い切りたいところですが、家賃次第で決めさせていただきます。ちなみに家賃はいくらほどですか?」

 私は両手を出し、指を立て始めました。桐谷先輩にとって家賃が高いと判断したのか、やや落胆していたのですが、家賃補助がいくらか支給されるので、家賃補助に関する記載がある会社の書類を見せると、

「・・・これなら住める。これなら私、住めます!これから住居変更できますか!?」

 そんな感じで、意気揚々とし始めたのです。どうやら、今住んでいる地域に思い入れはないようです。確かに、今私達が住んでいる地域はとても発展していて便利ですからね。色々と融通が利きやすいので、この便利さが決め手となったのかもしれません。いえ、セキュリティが万全であることが決め手になったのかも?まぁいずれにしても、新たに社員寮の住人が増える事でしょう。一応菊池先輩に聞いてみたところ、

「え?もちろんいいわよ?これで不労所得が増えるわ。そのお金で優君により素敵な女装を・・・うふふ♪♪」

 何故私が菊池先輩に桐谷先輩の入寮の許可をとっているのかというと、社員寮として使われている建物は元々、菊地先輩が一括購入したものだからです。そして、今でも一部権利があります。どうしてそんなに菊池先輩にお金があるのでしょうか?常々思います。まぁ副業で稼いでいるのでしょう。私も人の事は言えないわけなので、口に出して言いませんが。

 そして、桐谷先輩が私と同じ社員寮に住むことが決定したのですが、

「あの、もしよければ橘先輩も一緒に住んでくれませんか?」

 桐谷先輩は橘先輩にこう提案したのだ。橘先輩は桐谷先輩の案の返答に困り、菊地先輩を見た。

「別にいいわよ?家賃収入が増えるし、知らない仲でもないし、悪いことはしなさそうだし。ただし二人とも、ちゃんと寮の規則は守ってね?」

 菊池先輩は二人の入寮を了承した。

 ・・・規則、ですか?私、この社員寮に入寮した際、そんな規則があるなんて聞いたことないような・・・?もちろん、人としてやってはいけないようなこと、周囲の方々に迷惑をかける行為はしていないのですが、まさかこのことでしょうか?

「それじゃあ俺も、よろしくお願いします。」

 こうして、私達が住んでいる社員寮に二人、入寮してくれることになりました。これはお祝いですね。

「さすがに今月は無理ですが、来月には引っ越しできるよう手配します。」

「俺も諸々の手配が必要だな。」

 どうやら橘先輩も今住んでいる家に特別な思い入れはないみたいです。

 こういう経緯があり、菊地先輩と橘先輩は入寮の準備を今もしているのです。


「そういえば、引っ越しの準備は進んでいるのですか?」

「う。それはまぁぼちぼち、だな。」

 …あまり捗っていなさそうです。引っ越しの手伝いも事前に宣言してから行いますか。もちろん、橘先輩の了承をとることが必要ですが。

「それであれば、プリン堂に来ていないで引っ越しの準備をするべきではないですか。」

 私は思ったことを橘先輩に言う。

「それはまぁそうなんだが・・・、」

「?」

 なんだか歯切れが悪いですね。もしかして、自分へのご褒美として今日、このプリン堂のプリンを買い、家で食べるつもりなのでしょうか?そう考えると納得できます。引っ越しの準備は色々と手間がかかりそうですからね。持っていく荷物、捨てていく荷物を選別していくだけでも大変そうです。その合間の休憩時にプリンを買い、食べているのでしょう。そうだとすれば、さきほどの発言は橘先輩に失礼でした。

「ホワイトデーのお返しにこれを送ろうかな、なんて。」

「・・・。」

 私の想像と異なっていました。

 それにしてもホワイトデー、ですか。桐谷先輩の件ですっかり忘れていたのですが、ホワイトデーがもうそろそろですね。私は既にホワイトデーの準備は済んでいるのですが、他の先輩方はどうなのでしょうか?きっと準備万端でしょうね。先輩方は素晴らしい社会人なのですから。

「な、なんだ?その目は!?」

「?別に何でもないですよ?」

 ただ、橘先輩が無事、ホワイトデーのお返しが出来ればいいなと思って橘先輩を見ていただけなのですが。

「ま、まぁとにかく!俺は今日、このプリン堂の限定プリンを、ホワイトデーのお返しにするつもりなんだ!」

 と、橘先輩はガッチリ拳を握る。随分今回のプリンに情熱を注いでいるみたいです。熱意がかなり伝わってきます。

「では私も、そのプリンがどういう味か試食し、出来るだけ再現できるように努めます。」

 橘先輩が好いているプリン堂のプリンを出来るだけ再現できるよう、しっかり味をみなくては!

「悪いが、いくら料理上手の優といえども、プリン堂のプリンを再現なんて出来ねぇぞ?」

「完全再現出来なくとも、先輩方が喜びそうなプリンが作れるよう、このプリン堂の技術を盗むつもりです。」

「…そうか。ところで・・・、」

 ここで橘先輩が話を変えようとした時、

「かぁー!どうしてこんな店にここまで人が集まっているのかね!ほんっとだるいわー。」

 急に周囲の空気が変わりました。原因は、今さっき来た男性のせいです。

「まったく。プリンごときでこんなに並ぶとか、ほんとにだるいわー。」

「「「!!!???」」」

 さきほどの男性の発言に、周囲の人間に一瞬だけ、怒気をかんじました。ということは、さきほどの男性の言葉に、橘先輩も怒ってるのでしょうか?橘先輩の様子は・・・え?

「まさか、あいつは・・・!?」

 何故か橘先輩は驚いていました。さきほどの男性の発言に驚いている、という風には見えません。どちらかというと、あの男性の姿そのものに驚いているような気がします。私の勘違いかもしれませんが。

「どうかしたのですか?」

「・・・いや、なんでもない。」

(嘘ですね。)

 おそらくですが、橘先輩はあの男性に心当たりがあるのかもしれません。ですが、何らかの理由で私に話そうとしない。そんなところでしょうか。橘先輩がなにかしら隠していることは態度を見れば分かります。数年同じ職場で働き、橘先輩を見て来てますからね。それくらいは分かります。確証はないですが。

「そうですか。」

 私はこれ以上尋ねることなく、さきほどの男性について片手で調べ始める。

「それでなんだが、来週プレゼントするホワイトデーのことについて・・・、」

「おやおや~?」

 私が橘先輩と話そうとしていたところ、ある声が割り込んできた。その声の主は、さきほどプリン好きの方々を敵に回すような発言をしていた男性でした。

「お前、どこかで見たことあるな~?」

 男性はそう言いながら、橘先輩の顔を覗く。

 そして、

「お前、もしかしてあの寛人か?」

「・・・。」

「黙るということは図星。つまり、正解という事だな!」

 と、男性は一人で納得した。橘先輩の名前を一回で当てるあたり、やはり橘先輩の知り合いなのでしょう。先ほどの橘先輩の態度を見る限り、橘先輩にとって会いたくない知り合い。となると、この人は要注意しておいた方がいいですね。

「・・・。」

 男性の声掛けに対し、橘先輩はただ黙っています。

「おいおい。何か言ってくれよ~。」

 男性はいよいよ橘先輩の体に触れ、体を揺さぶり始めている。なんか、かなり橘先輩に対し、馴れ馴れしいですね。

「おい、いい加減にしろ。」

 そんな男性を振り払い、橘先輩は男性と距離をとる。

「おいおい、なんでそんなマジになってんだ・・・よ?」

 ん?なんでしょうか?急にこちらを見てきますね。

「おやおや~?」

 そう言いながら、男性は私と橘先輩を交互に見ています。本当になんなのでしょうか?

「お前、まさか既に結婚していたのか?」

 ・・・あぁ~。そういうことですか。この方は私を、橘先輩の子供だと思っているのですか。まぁ違うんですけどね。

「いや、俺は結婚なんてしていないから。」

「やっと話してくれたと思ったらそれかよ。つまんねぇな~。」

「・・・」

 そして、男性はこの後、男性の行動に驚きを隠せませんでした。

「おら、よ!」

「!?」

 男性はどういう心境の変化なのか、橘先輩の背中を足で強く押したのです。そのせいで橘先輩は態勢を崩してしまいました。

「た、橘先輩!大丈夫ですか!?」

 私は急いで橘先輩の元へ急いで駆け寄り、橘先輩が大丈夫か確認します。

「ああ。大丈夫だ。」

(そんな訳、ないじゃないですか!?)

 私は自分の行為が無意味なのだとすぐに気づきました。背中を蹴られて大丈夫な人なんているわけないじゃないですか!?私は橘先輩の背中についてしまった靴の土汚れを払います。

「おい。お前がそんなことしなくても・・・、」

「橘先輩は動かさないでください。」

 この土汚れ、橘先輩じゃ届かないかもしれませんからね。私が代わりに落としませんと。ですが、完璧に落とすのは難しそうです。今すぐ洗濯出来ればいいのですが、無理ですね。

(それにしても、)

 何故このようなことを平然と出来るのでしょう?心底謎です。それとも、何か理由があってここまでしているのでしょうか。

「おいおい。子供に後始末させるとか、親として情けないな~。それとも、お前の昔話でも聞かせてやろうか?」

「!?やめろ!!」

 男性の言葉に、橘先輩は強い拒絶反応を示しました。この人が知っている橘先輩の昔話とは一体・・・?

「こいつは昔な、」

「やめろって言っているだろ!!??」

「ず~~~っと、独りぼっちの陰キャだったんだぜ。何故だと思うか?」

「・・・。」

 私はその男性の問いに何も答えませんでした。

「あまりにも目つきが悪すぎるからだよ!そしてなにより、お前とは違う陽キャである俺達が陰キャなお前をハブったからだよ!」

「・・・。」

 ・・・なんか、幼稚です。もちろん、体格や年齢のことを言うつもりはありません。ですが、この男性の行動、行動理由が幼稚に思えて仕方がありません。

 それに、目つきが悪い?もしかしなくとも、橘先輩の目つきの事を言っているのでしょう。私からすれば、橘先輩のことを悪く言っている男性の方が、よほど目つきが悪く見えます。まぁ、そのことを証拠として提出しろ、なんて言われたら出来ないのですが。

 それにしても橘先輩、昔同学年の方から仲間外れにされていたのですね。…いえ、この男性の方はもしかしたら同学年の方ではないのかもしれません。橘先輩より年下、もしかしたら年上かも?いずれにしても、いい年の男性がしていいことではないと思います。

「いいか!?これからお前みたいな陰キャは一生、俺達陽キャ達の言いなりになっていればいいんだ!分かったらさっさとどけよ!」

「!!??」

 男性はそう言った後、橘先輩を再び足で押し、橘先輩が並んでいた場所に陣取りました。

「橘先輩!」

 私はそんな男性の行動より、橘先輩の安否が気になり、橘先輩に駆け寄ります。

「大丈夫ですか!?」

「ああ。怪我の方はしていないみたいだから心配するな。」

「怪我は、ですか。」

 間違いなく、体ではない箇所に傷を負ったのでしょう。傷を負った箇所はきっと、心。

(橘先輩・・・。)

 陰キャや陽キャという言葉の詳細は分かっておりません。

だが、陽キャだからと言って、陰キャに何をしてもいいと思っているのか

 陰キャは常に、陽キャの命令に従わなければならないのか?

 まるで、上司と部下との位置関係のよう。そこに信頼関係は築いておらず、ただただ上司が部下から搾取するだけ。そんな関係が子供のころから出現していたとは。

(・・・。)

 橘先輩の目つきは他の人とは違う。ですが、それで陰キャだと決めつけ、侮辱されていいはずがない!他の人より話下手かもしれないですが、周囲の人のことを考え、言葉に出さずとも行動に移し、周囲の人達を陰から支える事が出来る人間なのです。そんな人間を理不尽に罵り、暴行を加えるなんて・・・!

 この気持ちが世間的に間違っていてもいい!間違っていても、許したくない!

 だって、

(大切な方を理不尽に傷つけられ、黙っていられるはずがない!)

 そう思った時、私の体は既に行動を始めていました。私は橘先輩の前に立ち、男性の前に立ちはだかる。

「あ?何だお前?」

 男性は、私が前に立ったことにより私に質問してくる。

「私ですか?私はこの方に恩を感じている者です。」

 私は多大なる恩を受けた方である橘先輩を見てから発言する。

「恩を感じているだぁ?こんな奴にか?」

「ええ。それはもう、一生をかけても返しきれないほどに、です。」

 主に仕事のヘルプですけど、時折私の身を案じてくれます。頼んでもいないのに、です。それほど私のことを心配してくれたり、私が仕事で少し困っていたら、「手伝うぞ。」と言って手伝ってくれたり、無言実行という四字熟語が当てはまる人物です。まぁ、たまに報連相し忘れるところがあるのですが。

「こんな奴を雇う会社なんて、その会社も無能な奴ばかりなんだな。」

「「!!??」」

 会社も無能なやつばかり、だと?

 つまりこいつは橘先輩だけでなく、桐谷先輩、工藤先輩、菊地先輩、川田先輩、そして森社長のことを無能だと、役に立たない人間だと言ったのか?

 駄目だ。こんな奴に手をあげたら。私にだけ迷惑がかかるのであればいい。だが、この場にいる橘先輩にも迷惑がかかってしまう。だから、手をあげるわけにはいかな。

「・・・最初で最後の通告です。これ以上、橘先輩の目の前に現れないでください。」

 私が男性の眼を見ながら言う。その直後、男性のある持ち物に目をつける。

(この鞄、もしかして・・・?)

 私はこれまで会ってきた人物の持ち物と脳内で照合していく。

「はぁ?まったく。ガキが大人に歯向かってんじゃねぇ、よ!」

「!?」

 私は男性に足で押されてしまう。

「!?優!!??」

 飛ばされた私を、橘先輩は支えてくれた。

「てめぇ!いくらなんでも子供に手をあげることはないだろうが!!」

「へっ!てめぇが生意気にも結婚し、子供を作っているからこんな目に遭うんだよ!陰キャなんかが幸せな人生を送っているんじゃねぇよ!」

 そう言い、男性は空なペットボトルを橘先輩に投げつけた。

「てめぇは一生ゴミ掃除でもしていやがれ!」

 そのペットボトルは橘先輩に直撃した。

「だ・・・、」

「俺は大丈夫だ。」

 私が心配するより先に、橘先輩は、自身は大丈夫だと言った。

 ・・・。

 あの方は、私が通告したにも関わらず、再び橘先輩を理不尽に罵った。

 なら、もう容赦はしない。

 いや、待てよ?もしかしたら、さきほどの一連は全て、通過儀礼みたいなもので、橘先輩達にとって冗談の類なのかもしれません。一応確認しておきましょう。

「橘先輩。」

「ん?なんだ?」

「あの方とは仲良しで大切な方なのですか?」

 私は橘先輩に確認する。

「・・・。」

「分かりました。」

 無言の返事と顔のうつむき具合で察することが出来ました。

 あの方は過去、橘先輩に対し、先ほどの様な侮蔑の発言を繰り返し、幾度も橘先輩を苦しめてきた人。その上、橘先輩を含む会社の先輩方への非難。やはり、そのままにしておくと後々、橘先輩がさらに苦しむだけ。

(であれば、もういいや。)

 私はこの方を追い詰めるため、ポケットをまさぐり、男性に話かける。

「先ほどの言葉は本当なのですか?」

 私は出来るだけ冷静に、感情を殺して話かける。

「あ?先ほどのってなんだよ?」

「橘先輩も、橘先輩を雇った会社も無能だと発言したことです。」

「…ああ。そういえばさっきそんなことを言ったな。」

 思い出したのか、男性は笑いながら返答する。

「ああそうだよ。その陰キャも、陰キャを雇っている会社も無能だとな♪」

「・・・そうですか、そうですか。」

 やはりあなたは知らないのですね。

 そのかばんを持っている意味を。

 私は男性の持っている鞄に目をかける。その鞄は、某企業のロゴが入っている鞄で、某会社の社員のほとんどが、そのロゴ入りの鞄を通勤用鞄として用いている。理由として、通勤鞄として購入した場合、代金が割引されて手ごろな値段となるから、だったはず。その上限定デザインで、通販でも売られていない品だから。そんな話をとある社員から聞いています。

 ですが、そんな特殊な鞄を持っているという事は、そのロゴの会社に勤めているという証拠。まぁ他の人の鞄を借りて使っている、なんて可能性もあるので、目の前の男性の現職業、勤務先等調べたんですけどね。やはり間違っていなかったみたいです。

「つまりあなたは、御社と当社間で行われている取引を中止したい、そういうことですか?」

「・・・は?お前は何を言っているんだ?」

「御社と、橘先輩が勤めている会社間で行われている取引があるのですが、その取引を中止したい、そういうことですか?」

 私は鞄に付けられているロゴを指しながら再度説明する。

「は?あ、ああ。いいぞ。何せこいつが勤めている会社との取引なんてたいしたことないだろうから♪」

 と、面倒くさそうな反応を見せた。

「それは本当ですか?」

「あ?本当だって言ってんだよ。」

「会社の名にかけて誓えますか?」

 私は確認のため、似たような質問を男性に問いかける。

「は?お前面倒くさいな。ああ誓うよ。なんなら神にでも誓ってやるぜ♪」

 と言いながら男性は空を指差す。

「ま、いるかどうか分からないけどな。」

「そう、ですか。」

 言質は確かにとりましたからね。それではさっそく・・・、

「その話、ちょっと待ってくれないか!?」

次回予告

『小さな会社員と目つきが鋭すぎる会社員の外出生活~続~』

 橘寛人がある成人男性に嫌味を言われ、菊池美奈や工藤直紀等会社のことも罵られ、早乙女優は静かに感情を昂らせる。そして、嫌味を言っている成人男性の持ち物を見て、早乙女優はあることに気付き、ある者に電話をかける。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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