小さな会社員から女子小学生達への菓子贈呈生活
優達が午前中会議室で会議している一方、ある小学校では卒業式が行われている。その卒業式には卒業生はもちろんのこと、仕事を休んだと思われる大人達も参加し、卒業式が行われている。その卒業生の中には今年度卒業する予定の小学生、桜井綾、風間洋子、神田真紀、太田清志がいる。以前からずっと卒業式の練習をしていたおかげか、卒業式は順調に進んでいる。そして、午前中に卒業式が終わった。
「それじゃあみんな、またね。」
そんなことを先生から言われた後、卒業生は今日、卒業した。
最後のホームルームが終わり、みんな帰宅・・・しなかった。積もりに積もっている話をしていた。そろそろお昼時だというのに、みんななかなか帰らなかった。同じ中学に通う者もいるが、中には中学から離れてしまう者達もいた。なのでみんな、別れを惜しんでいた。
そして別れを惜しみつつ、それぞれが帰路につきはじめる。その帰路には、最後の通学路を通ることを惜しむかのように、桜井綾と風間洋子はゆっくり歩き始める。
「それにしても早乙女君、卒業式に来られなかったのね。」
「うん。最後に一枚、写真でも撮りたかったな。」
「その中学生の制服姿も見せたかったんじゃないの?」
「!?もう!洋子ったら!」
今日行われた卒業式。卒業生の装いは中学に通う制服で行った。なので今、風間洋子と桜井綾の服装は中学校に着ていく制服を着用しているのである。
「それにしても綾。今月の14日がホワイトデーだけどその日、早乙女君と会う約束でもしているの?」
「え?・・・あ!?」
「え?それじゃあ綾、どうやって3月中に早乙女君に会うつもりなの?」
「それは・・・卒業式に、ね?」
「そうよね。でも早乙女君、卒業式にいなかったよね?」
「うん。ホワイデーのお返し、どうしよう。」
「おや?綾はもらう気満々ね♪」
「べ、別にいいじゃん。早乙女君のお返し、楽しみなんだもん。」
そう言いながら、綾は頬を膨らませる。
「早乙女君、どっかから現れてこないかしら?」
「もう洋子ったら、何を言っているの?そんなのあるわけ・・・、」
「見つけました。」
「「!!??」」
いきなり第三者の声が聞こえたので、声が聞こえた方角を見てみると、そこにいたのは、先ほどまで話題にあがっていた人物、
「「さ、早乙女君!!??」」
早乙女優であった。
時と場所は変わり、ある会社。その会社では今日、覆面パトカーが会社に停車し、会社員に扮したスーツ姿の警察官が横領の容疑で石井亮太を警察署に連行した直後。菊池美奈と早乙女優が話を始める。
「それにしても優君、今日は本当にこの後、ずっと会社で過ごすの?」
「え?当然ですけど?」
今日の今後の予定としては、ずっと会社に勤め、仕事をしていく予定なのですが、この予定のどこに心配する要素なのでしょうか。
「今日って確か、小学校の卒業式よね?本当に行かなくて大丈夫だったの?」
「?大丈夫ですが何か?」
あの学校に特別な思いなんてものは抱いていませんし、卒業式に出なくてもまったく後悔なんてありません。
「あ。」
そういえば・・・。
「ん?どうかしたの、優君?」
「いえ、ちょっと思い出したのですが、3月中はもう、学校ないんですよね?」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「いえ。」
そうなると、桜井さんに会う機会は3月中にはないということになります。つまり、ホワイデーのお返しが3月中に出来なくなります。となると、渡せるチャンスは今日。それも、卒業式が終わる前に学校に行かなくてはなりません。うっかり忘れていました。
「もしかして、用事があるの?」
「出来れば今日中に済ませたい、という願望はあります。ですが、先輩方に迷惑をかけるのであればどうでもいいです。」
まぁ後でホワイデーのお返しを郵送で送ればいいことですし、問題ないでしょう。気持ち的に手渡し出来ればと考えていたのですが、仕方がありません。
「なら優君、今から学校に行っちゃえばいいんじゃない?」
「ですが、勤務時間中に会社を抜け出すなんて出来ません。」
今の私は見た目年齢共に子供ですが、社会人としての誇りを自分なりに持っているつもりです。なので、仕事を放棄してまで私用を優先させたいとは思いません。
「なら、お昼休憩中に行っちゃえばいいんじゃないかしら?」
「お昼休憩中に、ですか。」
なるほど。お昼休憩中であれば抜け出しても問題なさそうです。お昼を買うために会社を出る人もいますからね。
「分かりました。お昼休憩は抜けさせていただきます。」
「お昼休憩中であれば誰の断りもなくいいんだから♪そしてそのまま愛の逃避行でもしない?」
「それは丁寧にお断りさせていただきます。」
「そ、そんな!?」
ですが、菊地先輩の意見は参考にさせていただきましょう。
お昼直前、私は先輩方に一言いれ、ジャージに着替え、ホワイトデーのお返しを多めに持っていき、学校に向かう。さて、桜井さんがいればいいのですが。
学校に着きました。着いたのですが、何故か他の方々は制服を着ています。もしかして卒業式は要制服着用だったのでしょうか。まぁ私は卒業式に出る気はないのでどうでもいいのですが。雰囲気からして、既に終わってしまっているのかもしれません。桜井さん、まだ学校にいてくれればいいのですが、いるのでしょうか。まずは保健室に行って様子を伺うとしましょう。
「失礼します。」
私は保健室の扉を数回叩き、保健室の扉を開く。
「な~に?こんな日に怪我をする不幸な人がいるの?まった、く?」
「こんにちは。」
私は保健室の先生に挨拶する。先生は驚いているのか、目を見開いているみたいです。
「もう学校に来られないのかと思っていたのだけど?」
「ええ。本当は私も来るつもりがなかったのですが、用がある人がこの学校にいますので、この学校に来ました。」
「だったら事前に連絡くらいよこしなさいよね。」
「も、申し訳ありません。」
確かに、事前に連絡くらい入れるべきでしたね。
「いや、別に謝らなくていいわよ。それで、用がある人って誰なの?」
「桜井さんなのですが、まだこの学校にいらっしゃいますか?」
私は用がある人物、桜井さんがまだこの学校にいるのか質問する。
「う~ん・・・。いるのかなぁ?」
保健室の先生は難しい顔をされました。となると、この学校にいると考えない方がよさそうです。
「そうですか。ありがとうございます。」
私は席を立ち、保健室を後にしようとする。
「ちょ、ちょっと待って!」
「?なんですか?」
私としてはもう用件が済んだので、この学校を去りたいと思っているのですが。
「話、していかないの?」
「話、ですか。」
そういえば、この保健室の先生に大変お世話になりましたね。
「少しでよろしければ。」
私がそう言うと、
「それじゃあそこに座り直して、ね♪」
私は保健室の先生の指示に従い、座り直して、少し話をした。
と言っても、私の方はこれまでの感謝の言葉を述べ、多めに持ってきていたホワイトデーのお返しを渡しました。渡した時、
「あなたのお弁当、とても美味しかったからとても楽しみだわ♪」
なんて言っていたのですが、そこまで期待されるのは嬉しいのですが、後でがっかりしても責任なんてとれないですからね。そこのところ、大丈夫でしょうか。
「それでは名残惜しいですが、これで失礼します。」
「ええ。中学でも頑張って。」
「はい。」
私は保健室を後にし、桜井さんを追うため、学校から出る事にした。
「・・・あ。」
早乙女優が保健室から出た後、保健室の先生は小さく母音を発する。
「そういえばあのこと言うの忘れた。」
先生は自身の鞄を漁り、とある書類に目を通す。
「確かあの子が通う中学校には・・・まぁいっか。」
確認事項を終えた後、書類を机に置く。
「さて、ここなら誰も来ないし、ここでいただいちゃいますか。」
先生は優からもらった袋を開け、頂き物を食し始める。
「ん~♪相変わらず美味しい♪あの子、将来店を経営すればいいのに。そうしたら毎日通っちゃうかも。」
そんな空想を口にし、来年入学予定の生徒達がどんな子達なのか待ち始める。
いつか早乙女優みたいな、刺激を多くもらえる人物に会えるよう願って。
それにしても、やはり保健室にはいませんでしたか。もしかしたら、なんて可能性を考えていたのですが、無駄だったようです。無駄足になる可能性を考えていたのであれば、最初から桜井さんの家に向かっておけばよかったです。今更こんなことを考えても遅いのですが。
今私は学校に残っている先生や生徒を横目で一瞬だけ見て、そのまま学校を出てある家に向かっています。ある家とはもちろん、桜井さんのお家です。桜井さん、実はもう家にいない、なんてことはありませんよね?もう家に荷物を置いて出かけた、なんてことはないですよね?出来れば家にいる。もしくは帰宅途中であれば助かります。最悪、今週末に渡せばいいや。休日の夕方に向かえば家にいるでしょう、多分。
そんなことを考えつつ、桜井さんを探しながら歩いていると、ある二人が見え始めた。その二人は・・・どうやら後ろ姿から察するに、あの長髪はおそらく、女の子でしょう。まぁ、長髪の男の子という可能性も捨てきれないのですが。
(あ。ちょうど曲がるみたいですね。)
その時、二人の横顔が見えた。間違いない、桜井さんです。もう一人は確か、風間さんでしたね。そういえばあの二人、いつも一緒にいたような気がします。よほど仲良しなのでしょうか。まぁ、小学校卒業を機に仲違いする、なんて事態が起きなければいいですけどね。
(さて、)
渡すものは・・・ありますね。ここでなかったら今までの行動が全て無駄なのですが。
「あれ?」
少し渡すものを準備していただけなのに、いつの間にか視界からいなくなっています。これはもしかしなくとも、見失いましたね。寄り道をしていなければ、この道を左に曲がっているはず。
「見つけました。」
「「さ、早乙女君!!??」」
今回は声をかけたのに驚かれてしまいました。
「ど、どうしてここに!?」
「そうよ!?卒業式の時、いなかったじゃない!?」
「まぁ、いませんでしたね。」
色々と事情が込み入っていましたからね。主に桐谷先輩の件で、ですが。
「ちょっと渡したい物があるので、この機会に渡してしまおうと思いまして。」
「?渡したい物?」
私は二人の視線を気にすることなく、さきほど確認した渡したい物を二人に差し出す。
「これは・・・?」
「クッキーです。」
「「??」」
ま、クッキーです、だけなんて言っても意味なんて分かりませんよね。
「バレンタインデーのお返し、と言えば伝わるでしょうか?」
「「・・・あ。」」
やっと思い出したみたいです。
「い、いいの?」
「いいもなにもバレンタインデーのお返しなので、遠慮なくもらってください。」
私は小包みを桜井さんに渡す。
「あ、ありがとう。大切に食べるね。」
「そうですか。」
まぁ、もらったものはどうしようと構うつもりはありません。ただ、きちんと食べてくれれば。今回のクッキーは失敗していませんし、味見したところ、変な雑味は無かったはずなのできちんと食べられるはずです。
「ちなみにアレルギーはない、ですよね?」
私は念のため、体が受け付けない食べ物の有無を確認する。アレルギー持ちであれば、何かしら把握しているはず。
「アレルギー?そんなのは無かった・・・はず。だから大丈夫!」
「そう、ですか。」
大変心配になる返事だ。だがまぁ、本人が言っている事ですし、きっと大丈夫でしょう。
「ちょっと。私には何もないの?」
ここで私と桜井さんのやりとりを見ていた風間さんが口を挟みだす。
「私は桜井さんからバレンタインのチョコを受け取った記憶はあるのですが、風間さんかからもらった記憶はないのですが?」
「う。それはまぁ、そうだけど・・・。」
さて、意地悪なことはこれ以上言わないでおきますか。桜井さんと風間さんの二人がいる中、桜井さんにだけクッキーを渡す状況も想定済みです。
「では、風間さんにはこれを。」
私は用意していた別の小包みを風間さんに渡す。
「え?私の分もあるの?バレンタインのチョコ、渡していないのになんで?」
「なんでって、風間さんのクッキーはホワイデーのお返しではなく、試食をお願いするつもりで渡したので。」
「・・・え?し、試食?」
「ええ。その小包みの中には色々な味のクッキーが入っているので、どの味のクッキーが最も美味しかった後で教えてください。」
「後でっていつ?」
「いつでも構いません。」
「・・・そう。そういうことなら、気兼ねなくもらうわ。ありがとう。」
私が風間さんとやりとりをしていると、
「私も早乙女君のお願い、聞きたい!」
桜井さんが割り込んできた。
「お願いって、これ?」
風間さんは先ほど私が渡した小包みを桜井さんに近づける。
「そう!私も早乙女君の力になりたい!だからちょうだい!」
「綾、それはいくらなんでも欲張り過ぎなんじゃないの?」
「う。だ、だってぇ・・・。」
・・・まぁ、このことも想定していたんですけどね。ほんと、多めに作っておいてよかったです。
「では桜井さんにもお願いしますね。」
私は持ってきていた複数の小包みの内の一つを取り出し、桜井さんに手渡す。
「やった♪私、一生懸命食べて、早乙女君の力になるね!」
「え、えぇ。よろしくお願いします・・・。」
そこまで力んで食べなくてもいいのですが・・・。もっと気軽に食べても文句一ついう気ないのですが。
「それじゃあ早乙女君。バレンタインのお返し、ありがとうー!」
「お互い、次に会うのは中学生ね。もしかしたらもっと早くに再開するかも?それじゃあ。」
そう言い、二人と別れた。
これからは私も中学生、ですか。なんだか実感が湧きません。小学生として大した年月過ごしていないから、でしょうか?
「あ。」
それより、急いで会社に戻りましょう。ちんたら歩いていたら、お昼休憩が終わってしまいます。
無事お昼休憩時間内に戻ってこられた私は、お昼休憩が終わるまでの少しの間、私はあるものを食べていました。ちなみに服装は着替え済みです。
「優君おかえり~♪それで今、何を食べているの?」
「これですか?クッキーです。」
さきほど桜井さん達に渡したクッキーの余りを食べていた。
「よかったらみなさんもどうです?出来れば味の感想を言ってくれると嬉しいのですが。」
「いいの!?優君の手作り・・・じゅる。」
その涎は食欲からくるものですか?それとも別の何か、ではないですよね?
「いいのか?」
「はい。」
工藤先輩の確認に私は了承する。
「それじゃあもらい。」
「俺ももらっていいか?」
「ええ。」
「わ、私もその美味しそうなクッキー、もらってもいいですか?」
「もちろんです。」
橘先輩、桐谷先輩にも了承し、それぞれクッキーを味わってもらった。
「んー♪さすがは優君。クッキーにホワイトチョコなんて、活かしてるぅ♪」
「これは・・・コーヒーチョコか?この苦みがクッキーの甘さによく合うな。」
「この緑は・・・抹茶だ。この苦みと甘さの組み合わせもなかなか。」
「これは・・・キャラメル!?濃厚な甘さがいい~♪」
良かった。どれもこれも好評のようです。
「それで桐谷先輩、体調はどうですか?」
「・・・はい、もう大丈夫、だと思います。」
なんだか煮え切らない感じがします。もしかして、まだ実感が湧いていないのでしょうか?無理もないかも。何せ解決したのは今日の午前中。まだ半日も時間経過していないのですから、まだ心の整理がついていないのかもしれません。あくまで私の推測ですが。
「あ。」
「ん?どうかしましたか?」
「もしかしたらあの人、出所したら私のところに復讐しにくるんじゃ?となると、今住んでいるところはもう・・・!?」
確かに、あの人が桐谷先輩を逆恨みしない可能性はないです。そして再び桐谷先輩を襲う可能性も零ではない。でも、そんなことをするようものなら、今回以上の仕返しをするつもりでいます。それ以前に、今回のような被害を負わない努力をするつもりです。そのためには・・・あ。
「なら、この案はどうですか?」
私はさきほど思いついた案を提案しようとする。
「この案ってなんですか?」
「はい。それは…、」
言い始めようとしたところで、昼休み終了の合図が鳴り始めた。
「「・・・。」」
少し沈黙した後、
「し、仕事、しますか。」
「あ、はい。」
私と桐谷先輩は席に着く。他の方々は既に席に着いていて、仕事を再開している。私も仕事をしなければ!
「ところで優君、さっき言いかけた案ってなあに?」
「案、ですか?」
書類をパソコン上で作成している時、菊地先輩が話をふってきた。もちろん、菊地先輩は話をふった時もきちんと頭や手を動かし、仕事を進めている。
「そうだな。その案次第によっては、俺達の協力も必要になるかもしれないからな。」
「その時は俺も力になる。」
「頼りにしてます。それで案というのは・・・、」
こうして私達は、午後も仕事を進めていく。
のだが、そこまで仕事は進まなかった。
何故なら、午前の事態があまりにも深刻で、仕事どころではなかったから。後始末にかなりの時間を要し、仕事をする時間がほとんどとれなかったからである。後始末が終わったころには、もう終業時間目前。これでも早かったかもしれない。けれど社会人にそんな言い訳は通じない。例え事情聴取等に時間を割かれても、仕事は待ってくれないのである。早乙女優達は定時を超えても仕事を続け、きりがいいところまで仕事を終わらせてから、それぞれ帰宅していった。
そして、
「ふぅ~。ただいま。」
自宅に女性が一人、帰宅する。その女性はつい先日まである男性に脅迫まがいな行為を受けていたのだが、本日、その悩みが解消されたのである。
「やった。」
ようやく一月以上にも及ぶ嫌がらせが終わり、女性は安堵の声を漏らす。
「後でみなさんにお礼しなくちゃ。」
そう言い、その女性、桐谷杏奈は、今の先輩方に何が出来るか考え、実行に移そうと計画を練り始めていった。
次回予告
『小さな会社員と目つきが鋭すぎる会社員の外出生活』
石井亮太との一件が終わり、早乙女優は探偵の件でお礼を兼ねて橘寛人と外出をしていた。目的地であるプリン堂の前で開店を今か今かと待っていると、橘寛人にとって会いたくない人物と出逢う。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
 




