小さな会社員と何でも出来るOLの生誕祝賀会生活
2月末。本来、2月は28日までなのだが、例外はある。それは、4年に1度来るうるう年である。うるう年の2月は28日ではなく、29日まである。そしてその2月29日が誕生日である人間が今、会社で働いている。
「うふふ~♪」
「…優さん、ちょっといいですか?」
「なんですか、桐谷先輩?」
「うふふふふ~~♪♪」
「なんだか最近、いつもにも増して菊池先輩が笑顔なんですけど、何かあったか知っていますか?」
「おそらく、そろそろだからだと思います。」
「そろそろ?一体何がですか?」
「そろそろ、菊地先輩のお誕生日なんです。」
そう。2月29日は菊池先輩のお誕生日。なので私は菊池先輩のために美味しい料理をプレゼントとして渡すとしましょう。菊池先輩は一体、どんな料理が好きなのでしょうね。菊池先輩、私が作った料理ならどの料理も美味しく召し上がってくれますので、詳細な好みが不明なんですよね。普段のお食事なら栄養面を考えてメニューの攻勢を考えるのですが、せっかくのお誕生日にそこまで考えたくありません。その日だけは栄養のことより菊池先輩の笑顔が見たいですからね。
(しかし、今年はどうしましょうか。)
ですが、今は桐谷先輩の件でちょっとナイーブな雰囲気が流れています。そんな雰囲気の中、菊地先輩のお誕生日を祝うなんて桐谷先輩に失礼な気がします。
(やはり、今年はやめますか。)
少なくとも、菊地先輩のお誕生日会は桐谷先輩の件が片付くまでお預け、ですかね。桐谷先輩の心境を察すれば、このぐらいするべきでしょう。
(それでは、みなさんに提案してみますか。)
「普段、菊地先輩には色々お世話になっているので、何かプレゼントしたいのですが、優さんはいつも何をプレゼントしているのですか?」
「私はいつも、美味しい料理をたらふく作っていて、それを菊地先輩へのお誕生日プレゼントしていますよ。」
「なるほど。料理、ですか。」
桐谷先輩はきっと、菊地先輩のことを思い、誕生日プレゼントを考えているのでしょう。もしかしたら、菊地先輩のお誕生日会、なくなるかもしれないのに。なんだか申し訳ないです。
(ですが。)
これは桐谷先輩の心境を考えれば仕方のないことなのです。きっと桐谷先輩は今も私の考えが及ばないほど苦しんでいる事でしょう。その上で菊池先輩の事を考えてくれているのです。なんて心が強く、優しい先輩なのでしょう。自分が苦しんでいるのに、他人の喜びのためにあそこまで悩み、考えられる人なんてそうはいません。
(菊池先輩・・・には言えないので、工藤先輩に相談してみますか。)
私が今考えていることについて、工藤先輩にお伝えした。
「・・・。」
工藤先輩は何も言わなかった。というより、何かに驚き、何も言えない?みたいな気がします。
「もしかして、今の話が聞こえませんでしたか?でしたらもう一度言いますね。私は・・・、」
「いや、聞こえていなかったわけじゃない。というかお前、もしかしなくとも忘れていないか?」
「え?何がですか?」
私が一体何を忘れていたと言うのでしょうか?菊池先輩の誕生日の事、でしょうか。ですが、今そのことについて相談しているので、それではないはず。では工藤先輩は一体何を忘れていると言っているのでしょうか。
「…分かった。後は俺に任せてくれ。」
「?分かりました。」
工藤先輩は、歯切れの悪い返事をし、デスクに戻っていった。
(ふむ・・・。)
工藤先輩が今、何を考えているのかは不明ですが、工藤先輩には工藤先輩の考えがあるのでしょう。私の意見を聞いたうえで判断したのであれば、私からは何も言いません。
(ですが、料理だけは作っておくとしましょう。)
菊池先輩が一人で部屋にいる時、私一人でお誕生日プレゼントの予定にする料理を届けるとしましょう。そうすればきっと菊池先輩も喜んでくれるはずです。
(さて、)
菊池先輩が喜ぶ顔を想像して、近日中に料理を作り始めるとしましょう。
私は作る料理を考えながら、工藤先輩の後を追うように、デスクに戻っていく。
その一方、
(優のやつ、まさか覚えていないのか?)
工藤はあることを疑問として残していた。
2月29日の朝。
「よし。」
私は用意した料理を全て重箱に詰め込む。これで菊地先輩へのお誕生日プレゼントの用意が完了しました。見栄えも悪くないですし、どれもこれも美味しい料理ばかりです。味見をしたので、味の方は問題ないはずです。問題ない、ですよね?なんだか自分の舌が心配になってきました。
(いえ、これでいきましょう。)
どちらにしろ、一から作り直す時間なんてありませんし、このまま渡すとしましょう。綺麗に入れたのに、全て出して一から詰め直す、なんてことは出来ればしたくありませんしね。
私は隣の菊池先輩の自室に向かい、玄関のチャイムを鳴らす。
「・・・あれ?」
菊池先輩がいない?もしかして菊池先輩、この日に出かけているのでしょうか。どこに出かけているのか知らないんですけど。いえ、菊地先輩に出かける用事があったとして、いちいち私に報告しなければならない、なんてことはないはずです。
(となると、)
菊池先輩が戻ってくるまで待つとしますか。
(一応、今すぐ知ることが出来るには出来るけど・・・、)
いえ!この方法は決して褒められたことではありません!この方法はあくまで緊急。そう、緊急の時にだけ使うとしましょう。普段からこんな方法を用いてしまうと、最悪犯罪者として捕まってしまうかもしれませんからね。まぁ、日頃から非合法なことをしている私が言えたことではないのですが。
(その非合法に近い方法で、美和さんや桐谷先輩の事も色々しているわけですしね。)
さて、菊地先輩が自室に戻るまで、私は勉強でもしていますか。英単語の復習の他に、文法の確認も追加で行うとしますか。
お昼少し前。そろそろお昼を食べる時間のはずですが、
(どうやら菊池先輩はまだ戻っていないみたいですね。)
菊池先輩が戻ったような音は聞こえませんでしたね。となると、今日は菊池先輩、お昼は外で食べてくるのかもしれません。となると、この料理はどうしますかね。幸い、今日は寒いので、暑さによって食べ物が腐る、なんてことはそうそう起きないはず。それを抜きにしても、多少は日持ちする料理を先に作っておいて正解でした。本当は昼食に食べてもらいたかったのですが、菊地先輩がいないのであれば仕方がありません。
(・・・。)
このまま重箱を見つめていても仕方がないので、気分転換に共同リビングのところへ向かいますか。誰か話し相手になってくれるかもしれません。こういうことになるのであれば、事前に約束しておくべきでした。はぁ。
少し歩き、共同リビングに前に到着し、中に入ると、
「・・・え?」
部屋を間違えたのかと錯覚してしまうくらい、装飾が施されていた。この装飾は一体・・・?
「・・・お♪今日の主役が来たみたいだな。」
装飾を施していた工藤先輩が私に話しかけ、近づいてきてくれた。この装飾は一体何のためにしているのでしょうか?それに主役?一体工藤先輩は何の事を言っているのでしょう?
「あら~♪優君、もう来ちゃったの?あともう少しで完成するから、その後に呼ぼうと思ったのに。」
台所で作業していたのか、エプロン姿の菊池先輩が台所から出てきました。それだけではありません。この共同リビングに装飾を施している人がこんなに・・・。一体みなさんは何を、何をしているのでしょう?
「いったいこれは何の騒ぎですか?」
私がそう聞くとみんな、顔を見合わせてから一斉に言った。
「「「優(君)の誕生日!!!」」」
「え?」
私の誕生日、ですか?何を言っているのです?今日は菊池先輩の誕生日で・・・誕生日、で・・・。
「…もしかしなくとも優、覚えていないのか?」
「・・・あ。」
そんな工藤先輩の言葉に、私は思い出しました。私、つい最近まで覚えていたのに、どうして忘れていたのでしょう?すると、工藤先輩は呆れた顔になる。
「お前なぁ。いくら4年に1度しか来ないからって自分の誕生日を忘れるなんてことするなよな。」
その工藤先輩の声を起点とし、
「でも優ちゃんらしいね。」
「優ならやりかねんな。」
という言葉が続々と出てきます。もしかして、本当に今日は私の誕生日なのでしょうか?
「もう!優君ったら自分の誕生日を本気で忘れていたなんて!せっかく私との最高な共通点なのに!私、悲しさのあまり泣けてきちゃうわ。」
と、菊地先輩は本当に泣いていた。うぅ。私、無意識とはいえ、菊地先輩を傷つけていたのですか。まったく気づきませんでした。
「すみません、菊地先輩。私がもっとしっかりしていれば、菊地先輩を傷つける事はなかったのに。」
私は謝罪の意味を込め、菊地先輩に対して頭を下げる。
「おい。自身の誕生日を忘れただけでそこまですることはないんじゃないか?」
「いいえ!私は深く傷ついたわ!」
「おい!何でお前が傷つくんだよ!」
「うっさい!優君は私を傷つけた罰として、」
菊池先輩が私に対して何かされると思い、思いっきり目を閉じ、覚悟を決める。
すると、私の体が重力から解放されたかのような解放感を覚えた後、お尻に何かが接触した。この感触は一体・・・?
「今日はずっと、私の膝の上に座ってもらうんだから♪」
私が目を開けると、視線が不自然なくらいに高かった。この視線の高さと菊池先輩の声が後ろから聞こえたことから、先ほどの菊池先輩の発言が本当なのだと理解出来た。
「お前、それがしたくてわざと怒ったふりなんてしていたのかよ。悪趣味な奴だな。」
「別にいいじゃない?なんたって私、誕生日だから♪」
「それを言うなら優も誕生日だけどな。」
確かに今日は菊池先輩の誕生日ですが、こんな豪勢にして、桐谷先輩に申し訳ないです。もしこの場に桐谷先輩がいたら、申し訳ない気持ちでいっぱいになりそうです。
「優さん!お誕生日、おめでとうございます。」
「ありがとうございます・・・て、え?」
先ほど聞こえた声がとても聴き慣れたものだったので、声が聞こえた方向を見てみると、
「き、桐谷先輩!?それに、」
「よ。お誕生日おめでとう、優。」
「た、橘先輩まで!?」
何故社員寮に住んでいない人までここに!?
「私達も、優さん、菊地先輩のお誕生日をお祝いするために来たんですよ。」
「俺も桐谷と同じだ。」
「ですが、」
あの件で桐谷先輩はかなり神経質でナーバスになっているはず。そんな状態でこのような催し物を開くなんて迷惑ではないでしょうか。そんなことを考えていると、桐谷先輩が私の近くに寄ってきて、耳打ちを始めてきました。
「工藤先輩から聞きました。私のために遠慮しようとしていたこともある程度察しました。」
「なら・・・。」
「私は数多くの事を菊池先輩に助けられてきました。そして、優さんにも助けられてきました。そんな先輩ごとのお祝い事を祝いたいと思う後輩の気持ちはおかしいですか?」
「・・・。」
桐谷先輩の心境、私にも分かります。
私も、普段お世話になっている工藤先輩、菊地先輩、課長、社長の誕生日をお祝いしたいと思いますから。その気持ちと何も変わらないのでしょう。
「そして今も助けられている。だから限られているけど、今の私に出来る事を精いっぱいやって、少しでも優さんに恩返ししたいなって。迷惑、でしたか?」
「恩返し、ですか。」
私も、多くの方に恩をいただきました。その恩を返すために、今もこうして会社で働かせていただいているわけですしね。恩返しのためと言われてしまえば、何も言い返すことが出来ないじゃないですか。
「迷惑だなんてとんでもございません。とても、とても嬉しいです。」
まったく。どうして私の周りにはこんな素敵な大人の方々が集まってしまうのでしょう。これでは、私の子供らしさが浮き彫りになってしまうじゃないですか。
そんなことを考えながらも、
「それじゃあ、菊池美奈、早乙女優双方の誕生日を祝って、」
「「「かんぱーい!!!」」」
みなさんがお誕生日会を開いてくれました。既にテーブルの上には多くの料理がてんこ盛りとなっておりました。私も菊池先輩のために作っておいた料理をまずもっていきました。その後、下ごしらえを済ませていた料理を完成させ、持っていきました。
「・・・なぁ?この鳥、でかくね?」
「確か、ターキー、もしくは七面鳥という鳥の丸焼きです。中に野菜が詰まっているので、その野菜と一緒に召し上がってください。」
「…どうしよう。優の料理技術が年々上がってやばいんだけど。」
「「「うんうん。」」」
「???」
料理技術が上がるとやばいってどういう意味でしょう?
ちなみに、菊地先輩へ贈られた誕生日プレゼントはフォトケース、写真入れや写真を入れる額縁が多かった。
「これで優ちゃんの写真を、ね?」
「この額縁なら、優の写真もより綺麗に映えるだろう?」
そんな言葉がちょくちょく聞こえた気がしましたが、気のせいでしょう。
そして、私への誕生日プレゼントはというと、
「お前ら、そろいもそろって被らせるとか、狙っていたのか?」
「「「それはあなた(お前)でしょう???」」」
ほとんどが高級アイスでした。これほどのアイスを数多くもらえるなんて・・・。後で大事にいただくとしましょう。今からとても、とても楽しみです♪
優が食後のアイスを堪能し、ついに2月が幕を閉じる。
来月は3月となる。
次回予告
『社員達の会議準備生活』
早乙女優達社員は、社長が集まる会議場作成のため、準備を始める。その準備は、単に会議の準備をするわけではなく、この場を借りてある者と決着をつけるための準備も兼ねていた。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
 




