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目つきが鋭すぎる会社員の依頼内容静聴生活

 2月第3週。2月中旬にさしかかり、バレンタインデーを過ぎ、次は1月後のホワイトデーに向け、スーパー等の店舗は商品を並べ直している。バレンタイン向けの商品は値下げ等をし、商品の整理を行い始めていた。世間も、バレンタインの後味が効いている中、ホワイトデーに対する商品の広告が世間に一般公開されていく。バレンタインを終えた翌週。様々な人がバレンタインの結果を話したり聞いたりしている。

 一方社会人は相変わらず仕事をし続けている。バレンタインデーは祝日ではないからである。そんな社会人の一員である橘寛人は仕事後、ある場所に出かけていた。

「ふぅ。」

 橘寛人はある建物の前まで来ていた。その建物内には複数の事務所が入っており、階層毎に異なっている。そんな建物のある階に、橘寛人は用事があるのである。

「行くか。」

 橘寛人は建物前で少し立ち止まっていたが、すぐに歩き始め、建物に入っていった。少し歩き、橘寛人は扉の前まで来ると、

「入るぞ。」

 そう言い、扉を開けた。扉は事前に誰かが来ることを予知していたのか、カギはかかっていなかった。もし普段からこの状態であれば、泥棒に入られ放題であろう。

「おっと。これはよくぞ来てくれました。俺はこの服を着ました。」

 ・・・この一言で、これから橘寛人と話す人物が癖の強い人物であることが分かるだろう。少なくとも、普通の人はこのような言い回しをしない。

「久しぶりだな、渋沢。」

「おっひさ~、ヒ~ロ。俺は心がひ~ろい。」

 渋沢と呼ばれた男性、渋沢徹は軽く雰囲気のまま橘寛人に話かける。

「それで、この前頼んだ件だが、出来ているか?」

 そう橘が聞くと、渋沢もさきほどのおチャラけた顔とはうって変わり、真剣な顔つきになる。

「頼んだ件ってあれのことか?」

「ああ。」

 渋沢の言うあれに、橘はすぐ頷く。

「分かった。それじゃあちょっと待っていてくれ。資料を探してくる。」

 そう言い、渋沢は起立し、この場を離れる。

「俺は、サーカス!」

「・・・。」

 余分な一言を残して。

 数分後。

「ほいよ。これだ、これ。」

 渋沢は大きなファイルを持って戻ってきた。

「よいしょ。」

 渋沢はお爺さんみたいな声を出しながら座る。その後、渋沢はそのファイルを開き、中身を取り出す。

「結論から聞きたい?それとも、順序だてて聞きたい?」

 渋沢が橘に問う。

「・・・結論から頼む。」

 橘は悩んだ末、結論から聞くことにした。

「了解。俺を利用かい?」

「・・・。」

「わ、悪かったって。ちゃんと話す。だから放してくれ、なんて。」

「いいから進めてくれ。」

「はいよ。」

 ところどころ余分な語句が多い渋沢だが、結論を橘に話し始める。

「結論から言うと、寛人から依頼された人物、石井亮太は黒だ。」

「!?」

 橘は渋沢の言葉に目を見開かせる。

「それで証拠の方だが・・・ま、自分の部屋で見た方がいいかもな。」

 渋沢は大きなファイルから紙の資料を取り出す。

「これは、あの社長の噂に関する資料と、その噂を裏付ける証拠。と、そのことが記載されていたサイト、と。」

 渋沢は淡々と資料に関する説明を行う。

「こっちのUSBメモリーには、複数の女性と大人なホテルに行った時の写真データが入っているから、後で見てくれ。」

「お、おう。」

 思っていた以上の証拠の数々に、橘は少し驚く。

(こいつ、性格や話し方はふざけているのに、こんなに出来る奴だったんだな。)

 そんな事を口に出さず、心の中に留めておく。

「それで、資料は持ち帰りか?一応、こっちでも原本を保管しておくつもりだが、どうする?」

 その渋沢の問いに、

「無論、持ち帰る。」

 そう橘は答えた。もちろん、今後使うからである。

「そうか。」

 その短い返事をした後、渋沢は資料をまとめ、封筒に入れ始める。その間、口が寂しくなったのか、

「ところで、依頼された人に関して調べていたわけだが、何故寛人、お前がこの依頼を頼んだんだ?」

 渋沢は思っていたことを質問する。

「どうせお前みたいな探偵の事だ。調べ済み、なんだろう?」

 橘はさきほどとほとんど表情を変えぬまま、渋沢からの問いに答える。

「・・・お前と同じ会社で働いている女性社員のため、でいいのか?」

 渋沢は固有名称を出来るだけ使わずに、だが特定しやすいように言葉を選ぶ。

「・・・。」

 橘は何も言わなかった。何も言わなかったが、その姿勢だけで、渋沢は意図を読むことが出来た。

「そうか。」

 その短い返事だけを済ませ、

「ほい、これで終了っと。」

 資料をまとめ終えた渋沢は、

「これでも俺が一生懸命集めた汗と涙の感動ストーリーが詰まっているからな。変なところで使ったり、捨てたり無くしたりするんじゃねぇぞ?」

 そんな事を言いながら、橘にまとめた封筒を渡す。

「ああ。」

 橘は渋沢から資料を受け取る。

 その後、金銭のやり取りも済ませ、

「さて、これで俺の仕事も終わった、という事か。」

「ああ、お疲れ様。」

 渋沢の言葉に橘が労いの言葉をかけると、

「ああ俺、疲れたぜ~。俺、霊に憑かれた?」

 渋沢が返事を返す。余計な言葉を付け足して。

「・・・。」

 渋沢の返事に、橘はまたも怪訝な顔になる。

「前から気になっていたんだが、その話し方、なんとかならないのか?」

 橘は、ずっと気になっていたことを質問する。今回の質問は完全に仕事とは異なる私情しかない質問である。

「ならないね。千葉には奈良ないね。」

「・・・。」

 どうやら、この渋沢の話し方は直らないらしい。一種の癖、なのかもしれない。

「俺からも一ついいか?」

「…なんだ?」

(どんな質問されるんだ?)

 橘は内心、自分にどんな質問をされるのかと胸の高鳴りを覚える。

「この前はありがとう、ありありの有松!」

「・・・。」

 橘にとって、まったく感謝を感じられない感謝の言葉であった。

「ふざけているのか?」

 少し唖然とした後、橘の口から出てきた言葉は、冗談で言ったかどうかの確認であった。それも、呆れと僅かな怒気を込めて。

「ふ、ふざけてなんかねぇよ!俺はいたって真面目だ。」

「じゃあいつの話をしているんだ?」

「1月前、俺のためにお守り買ってくれただろう?」

「…そうだったな。」

 橘は1月前の記憶の引き出しを引っ張り出し、渋沢の言っている事と自身の記憶を照らし合わせ、合っているかどうか確認した結果、一致していた。

「そのお礼だよ。俺は感謝を忘れない男だ。そして俺はおのこだ。」

「・・・。」

 前者は真面目な言葉を言っているのだと思った橘であったが、後者で全て台無しにしているのでは?と、そう思ってしまう橘であった。

「じゃあこれで用件は済んだことだし、これで俺は帰るわ。」

 橘は、先ほどもらった封筒の所在を確認し、自身のバックの中に入っていることを確認する。そして立ち上がり、扉へと近づいていく。

「待った。俺の知り合いの苗字は松田。」

「・・・何?」

 橘はもう聞き慣れ始めた渋沢の口調に呆れつつ、渋沢に質問する。

「今度、一緒に飲みに行こうぜ。ノミは駆除するぜ。」

「行かん。」

「まさかの即答!?こりゃあ卒倒するわ!」

 渋沢の誘いに対し、橘は即答する。

「どうせ大学の同窓会に誘っているのだろうが、俺には大学時代の知り合いなんていないから行かん。」

 橘は大学の同窓会の誘いだろうと推測し、渋沢からの誘いを断る。橘は大学時代、友達と呼べる人物に心当たりがない。何故なら、自身の目つきが険し過ぎるせいで、多くの人から煙たがられていたのだ。そんなことが長年続くと、橘自身も人の事を避けるようになっていったのだ。そんな学生時代を過ごしていたので、そんな同窓会によばれたところで、食事するしかやることがないのだ。食事するだけなら自宅で十分だと判断した橘は渋沢の申し出を断る。

「は?俺がいつ同窓会に行こう、なんて言いだしたんだよ。味噌汁を作るのに必須なのはいい出汁。」

「は?違うのか?」

「俺とサシで飲もうって言っているんだ。」

 渋沢はそう言い、右手でお猪口を形作り、飲むふりをする。

「サシで、か・・・。」

 橘は考えながら帰宅準備をする。

「・・・少なくとも、この一件が片付くまで行く気はない。」

 目を閉じながら、独り言を呟くように言った。

「・・・おう。連絡、待っているからな。」

 橘はそう言い、渋沢が所属している探偵事務所を出て、自宅に向かう。

 自宅に着き、橘はさきほどもらった証拠を見てみると、

(!!??あのやろう!!)

 橘はまだ見ぬ社長に怒りを覚える事になる。

次回予告

『新人女性社員の幼馴染遭遇生活』

 数少ない知り合いの探偵から報告を受けた橘寛人は、桐谷杏奈を自宅まで送っていた。そんな時、橘寛人がトイレに行ったことで、桐谷杏奈が一人になる。その瞬間を見計らったかのように、ある人物が声をかける。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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