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小さな会社員の生誕祝賀会非出席生活

「あ、優君だ。優く~ん♪」

 あ。どうやら菊池先輩と工藤先輩が来たみたいです。私は会釈し、

「菊地先輩に工藤先輩、準備の件、お疲れ様です。」

「おう。別にそれほど苦労しなかったぞ?」

「ええ。優君の事を思えば、例え火の中水の中、舌を抜かれ、股を裂かれ、腕を引き千切られようとも大丈夫よ!」

「それ、絶対大丈夫じゃないだろ!?」

 まったく、工藤先輩の言う通りです。

「それにしても、本当に良かったのか?」

「?何がですか?」

「だって優、せっかくのお誕生日会だぜ?出ないなんて相当仲が悪いか、今後の付き合いにヒビが入りそうだぞ?」

「その程度で仲違いするなら、その程度だったんじゃない?なにより優君は、気分一つで重要な会議をすっぽかすような気分屋じゃないってこと、あなたもよく分かっている事でしょう?」

「それもそうだな。それで優、なんで今回、潮田詩織のお誕生日会に出席しなかったんだ?」

「そうですね・・・。」

 なんと説明すればいいのでしょうか。私が思った事、考えたことを先輩方に伝えるべきでしょう。

「私は、」

 瞬間、空腹を伝える振動が発生する。発信源は・・・。

「あ、わりぃ。誕生日会の準備で間に飲み物はとっていたんだがな、如何せん腹が空いて空いて。」

「そ、そうなんですか。」

 きっと、工藤先輩を空腹にさせてしまうほど派手な、派手でなくとも手の込んだものを作ったのでしょう。それでお腹が空いたのですね。

「では、テレビ局が既に出てしまったので、どこか別の場所で昼食をとりましょうか?」

「そうね。優君があ~んしてくれるなら、例え石でも美味しくいただけるわぁ♪」

「菊池先輩、日頃からまともな食事を心がけるようにしてくださいね?」

 たとえ冗談でも、周辺に転がっている石を食べようとするなんて。そんなの、歯が欠けるどこか、すべてなくなってしまうかもしれません。菊池先輩が今後、石を食べないよう、食事の内容を再確認する必要があるかも。

「ほらー、優が本気で色々考えているじゃないか。」

「ふふ♪私のために色々考えてくれている優君、素敵♪」

「それじゃあ工藤先輩、この近辺でどこか食べたいお店はありますか?」

「酒!」

「出来ればそれ以外でお願いします。」

 まだ帰りの移動が残っていますので、ここでアルコールを摂取してしまうと、後々の移動に支障をきたす恐れがあります。お酒を飲み慣れている工藤先輩ならお酒におぼれることはないかもですが、万が一のためです。

「うぅ。それじゃあなんでもいいや。優のおまかせで。」

「では菊池先輩、何かご要望はありますか?」

「優君!」

「せめて食べられるものにしてください・・・。」

 菊池先輩に至っては、まさか食物でもないとは・・・。

「うぅ。それじゃあ優君のお任せで。私は優君と同じものが食べたいわぁ♪」

「分かりました。」

 私は周辺の店を調べ始める。

(何かいい店はないかな、と。)

 二人の先輩に聞いてみたところ、特に食べたい物の指定は無さそうでしたので、ネットの口コミ情報を参考に、よさそうな店をチョイスさせてもらうとしますか。

 ・・・。

 ここがよさそうですね。ファストフード店ですが、野菜をふんだんに使ったメニューが数多く存在しているため、ヘルシーで女性の方も食べたくなると書かれていますね。この店にしますか。この店の位置は…意外に近いですね。歩いて数分じゃないですか。

「この店なら近い上、普段不足しがちな野菜を多く摂取できそうなのですが、どうでしょう?あ、もちろん、味は美味しいようです。」

 味も口コミでは美味しいと数多く記載されているようですが、これだけではこの店のメニューが美味しいと断定できません。デマの情報の可能性も考えないといけませんからね。そのことも先輩方も言っておいたので大丈夫でしょう。最悪、味が悪ければ二度と来なければいいだけのことです。

「どの店だ?・・・この店か。なかなか美味そうだな。」

「さっすがは優君ね!」

「では、この店に行きましょう。道案内はお任せください。」

「おう。頼むぞ、優。」

「優君のこんな頼もしい姿が見られるなんて、もう私、いつでもお嫁に行けるわね♪」

「「・・・。」」

 ま、菊地先輩に関してはもう諦めますか。それでは、お昼を食べに行きますか。


 私達が入った店には、多くのお客さんが入店していた。中でも、男女の比率が・・・約7対3、でしょうか?比較的女性が多いようです。そして、女性のみなさんはみなさん、ハンバーガーを持って食べています。どうやら、この店はハンバーガーが人気みたいですね。参考にさせていただきます。

 そして、私達が注文したメニューというのは、

「へへ。俺の昼食は白パンより噛み応えのある黒パンでサンドされた白身魚のハンバーガーだぜ。」

「私は優君と同じ、野菜たっぷりバーガーよ♪優君、食べさせあいっこしましょうね♪」

「同じものを食べさせ合う行為は無駄ではないでしょうか?」

 食べさせあいっこの詳細な定義は不明ですが、あの行為は、互いに異なる味を楽しむための行動ではないでしょうか。私の直感、語感等に基づき、私がそう思っただけなので、特に明確な根拠はないのですが。

「そ、そんな!!??私、優君と食べさせあいっこが出来ないの!?」

「いちいちオーバーに驚かなくてもいいからさっさと食べろよ。冷めちまうぞ?」

 私はこの野菜たっぷりバーガーをほおばり始める。

 何でも、私が注文したこの野菜たっぷりバーガーにはたっぷり野菜が使われている。このメニュー表によると、このハンバーガーを完食するだけで、一日に必要な野菜の2分の1を摂取出来る、と記載されています。本当なのか嘘なのか不明ですが、こんなことを堂々とメニュー表に書くくらいです。きちんと根拠をもって載せているのでしょう。それにしても、このハンバーガーのどこに、それほどの大量の野菜が使われているのでしょうか。きっと企業秘密としている技術で作っているのでしょうね。

 そして食事を始め、半分近く食べ終えたころ、

「それで、優は何であの子のお誕生日会に出席しなかったんだ?」

 工藤先輩が話を振ってきました。潮田さんのお誕生日会に出席しなかった理由、ですか。

「理由は複数個ありますが、全部聞きますか?」

 私は断った理由を全て話してもよいか質問する。

「お、おう。いいぞ。」

 工藤先輩が許可してくれたので、私は口に入っていたハンバーガーを食道、胃へと通してから話し始める。

「まず、私は別の機会で祝う予定ですので、あの場で祝う必要がないと考えました。」

「「・・・。」」

「次に、私より潮田さんを祝いたい人が数多くいると分かり、私よりその方達に祝ってもらった方が、潮田さんが喜ぶと考えたからです。」

「「・・・。」」

「最後に、私はあの場に相応しくないと確信しているからです。以上が理由となります。」

 これで全部になりますかね。さて、先輩方はきちんと話を聞いていてくれたのでしょうか。

「「・・・。」」

 二人とも、軽く飲み物を口に含んでいた。様子から予想するに、まったく私の話を聞いていなかった、なんてことはないと思います。

「まぁ、優が自分で考えて出したのであれば、俺がそこまで口を挟むことでもないだろうけどさ。」

 先に工藤先輩が話し始めました。

「一応聞く。最後の“相応しくない“は、何が相応しくないんだ?」

「それは、私の性別の件です。」

 これだけで伝わりますよね?私は二人に意味深な視線を送る。これだけで大体の事を察してくれると嬉しいですが、補足で付け足すことにしましょう。

「私は潮田さんに、多くの方々に嘘をついています。そんな私が、嘘をずっとつき続けている私があの場で潮田さんを祝う事は気が引けました。」

「だから相応しくない、と?」

「はい。」

 男の私が女子小学生モデルなんてやるべきではないことは分かっています。ですが、他の人達に頼まれて、多くの方々に性別を偽り、仕事をしています。あの場で性別を偽るのは良くない事だと分かっているから、あの場には出来るだけいたくないです。あの場にいればいるほど、自身の罪を感じそうで、ちょっと辛いです。仕事している時はその罪悪感を忘れ、仕事に没頭しているのですが、仕事が終わると、罪悪感が復活するのです。この罪悪感に慣れてしまいますと、男として大事な何かを無くしてしまいそうで恐れもあります。失わなければいいのですが、大丈夫でしょうか。

「優。」

 工藤先輩が話しかけてきました。

「何でしょう?」

「優が自分できちんと考えたことだから、優の決定に口を挟むつもりはないが、これだけは聞いておいてほしい。」

 そう言い終えた後、工藤先輩は軽く息を整える。

「人間誰しも秘密を抱えて生活しているんだ。かくいう俺もいくつか秘密を持っているし、菊池も、そして優も何かしら秘密を抱えている事だろう。その事に罪悪感を覚えることも、後ろめたいこともあるだろう。だけど、それで自身を押しつぶしちゃ駄目だ。なんとか自分で折り目をつけていけるように、な?」

「・・・。」

 折り目をつける、ですか。確かに、仕事前後にこの罪悪感を抱いていては何かしら悪影響が出てしまうかもしれませんね。

「ぷ。」

 そんな話を工藤先輩としていたら、菊地先輩が横で笑い出しました。

「…何がそんなにおかしいんだ?」

 工藤先輩は菊池先輩の様子に、誰が見ても分かるような怒気の雰囲気を醸し出していました。

「だって、あんたがそんな話をするとか。自分に言い聞かせているの?」

 その発言に、工藤先輩はさらに怒り出す。

「お、お前!」

「初めてお酒を飲んだのが中学3年の時。」

「!!??」

「え?」

 今、菊地先輩はなんとおっしゃったのでしょうか?それに、さきほどの菊池先輩の発言に、工藤先輩はものすごく動揺している様子です。まさか、まさか?

「そんな折り目つけまくりの子供時代を過ごしていたら、そりゃあ多少の罪悪感なんて慣れたり失せたりするわよね。」

「・・・工藤先輩?」

 まさか、本当に工藤先輩がそんなこと、しないですよね?

 中学生といえば、確か未成年のはずです。それも十代前半。そんな大事な時期に飲酒行為するなんて、嘘ですよね?

「・・・あれは違うんだ。あれはただ、変わった色のジュースだと思って飲んでみたら、苦かったけど美味しく感じてゴクゴク飲んだ後にお酒だと気づいたんだ。仕方がなかったんだ。何せ子供だぜ?子供が酒の味なんて知るわけないだろ?だから仕方がない。そう、あれは仕方のない出来事だったんだ・・・。」

「・・・。」

 く、工藤先輩・・・。何か別人が乗り移っているかのような、そんな雰囲気を醸し出しています。まぁ、工藤先輩も何かしら秘密を抱えて生きている、という事なのでしょうね。

(それにしても、どうして菊池先輩は工藤先輩の子供時代のエピソードをしっているのでしょうか?)

 昔、工藤先輩と菊池先輩は知り合っていた、ということなのでしょうか?それとも、菊地先輩がなにかしらの手段を用いて調べたのでしょうか。これ以上深く考えるのは控えるとしますか。

「私は、優君が幸せに、元気で、笑顔でいてくれればそれでいいわ♪私にとって、優君の笑顔は何ものにも代えられない、宝以上の宝なんだから♪」

 と、哀しみな表情を浮かべている工藤先輩と対照的に、菊地先輩は喜びの表情を浮かべています。

「とかなんとか言って、お前は優を着せ替え人形のように扱っているだけじゃないのか?」

 と、工藤先輩は飲み物を含む直前に口からこぼした。

「何ですって?」

 菊池先輩が工藤先輩の言葉に何かを感じたのでしょうか。工藤先輩を睨み続けていたのですが、肝心の工藤先輩は飲み物を飲んでいる体を貫き、我関せず、という雰囲気を醸し出していました。

(はぁ。)

 お二方はどうしてこう、いつも喧嘩をしてしまうのでしょうか。さきほどの言葉はきっと、私を思っての発言なのでしょうが、それでどうしてこの二人が口喧嘩をする結果に繋がってしまうのでしょうか。お二人の考え方の相違が原因なのかもしれませんが、それにしてもひどくありませんかね。お互い大人なのですから、もっと大人らしい対応をするべきなのでは?なんて考えてしまいます。もしかしたら、手や足を出さないあたり、まだいいのかもしれません。先輩方がもっと幼稚であれば、お互い手や足を出し合って殴り合いになり怪我する、なんて事態になっていたのかもしれません。そう考えると、先輩方も口論だけで済んで良かった、と納得しましょう。

「お二人ともありがとうございます。」

 私はさきほど頂いた言葉に対し、感謝の言葉を贈る。

「今はまだ、先輩方の言葉を実行できないのかもしれませんが、先輩方の言葉を胸に秘め、行動していきたいと思います。」

 今の私の気持ちを先輩方二人に伝える。

「優…。」

「優君…。」

「ですので、今後も引き続きよろしくお願いします。」

 私はこれまでお世話して下さった感謝と、これからもお世話してくださるので、その事に対する感謝の意志を態度で示す。

「もう!それじゃあ私がまず、優君のお誕生日を精いっぱいお祝いして、優君を幸せにしてあげなくちゃね♪」

「どうしてそうなるのですか?」

 まったく。菊池先輩の思考回路を完全に理解することは私でも不可能みたいです。

「いきなりお前は何を言っているんだ?頭いかれたのか?」

 どうやら工藤先輩も、菊地先輩の思考に理解が進んでいないようです。

「だって、あの子がお誕生日会って言っていたから、私達もやろうかなって。」

「私達のお誕生日会を、ということですか?」

「ええ♪なんていったって、優君のお誕生日は4年に1度だけなんだからね。これは盛大にお祝いしないと。」

「それを言うなら、偶然にも同じ誕生日の菊地先輩だってそうじゃないですか。私も菊池先輩のお誕生日、お祝いさせていただきますよ。」

 そういえば、菊地先輩のお誕生日が近づいてきていますね。お誕生日プレゼントとして、何を作ってみましょうか。

「まったく。お前ら二人の誕生日が一致しているだけでも驚きなのに、まさか2月29日なんてな。お前ら、前世で兄弟とか言うんじゃないだろうな?」

「そうよ!私と優君の絆は、現世程度で収まるわけないのよ!前世はもちろんのこと、未来永劫繋がっているのよ!」

 工藤先輩も何を言っているのか分からなかったのですが、菊地先輩はそれ以上に分かりません。

 前世?現世?一体誰に関する何の話をしているのでしょうか?確か誕生日の話をしていたはずなのに・・・。

「あ、優君。アイス、来たわよ。」

「あ。」

 さて、デザートにアイスでも頂くとしましょう。私は食後のアイスをいただきました。仕事後のアイスはとても美味しかったです。

「さ、帰りましょうか?」

「ええ。」

「だな。」

 こうして私達は昼食がてら寄り道をしたものの、この後はまっすぐ帰宅していった。

 さて、そろそろ桐谷先輩の件、片づけたいですね。桐谷先輩の今後の身の安全を保障するために、まずはあの社長をなんとかしなければ、ですね。

次回予告

『目つきが鋭すぎる会社員の依頼内容静聴生活』

 バレンタインの2月14日が過ぎ、会社員である橘寛人は仕事をする。そんな中、橘の数少ない知り合いの探偵に会いに行き、依頼していた内容に関する報告を聞きに行く。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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