女子小学生モデル達の仕事生活
金曜日という平日にして、十分すぎる休養をとった。そのおかげで、爽やかな気持ちで目覚めることが出来ました。それに心なしか、体が昨日より軽くなっている気がします。これも先日、十分な休養を摂取したおかげなのでしょう。この体調を維持したまま、桐谷先輩の件を解決したいものです。ですが、その前に潮田さんとの件を片付けるとしましょう。
今いる場所は電車の中。何故今その場にいるのかというと、現目的地であるテレビ局に向かっているからです。今日はこれから、潮田さんとの写真撮影を行う予定のため、その場所へと向かっているのです。
「ふんふ~ん♪」
そして、当然であるかのように、菊地先輩も付いてきています。私が今朝一人で出かけようと玄関を出たタイミングで、「おはよう、優君♪それじゃあ行こうか、一緒に♪」と、笑顔で対面してしまったのです。今日の事、菊地先輩に言っていなかったのですが、菊地先輩はどうして今日の事を知っているのでしょうか。どういう情報網を常に利用しているのでしょう。毎回思うのでその都度聞いているのですが、毎回はぐらかされているのですよね。本当に謎です。
「いや~。平日の午後からずっと家で寝て、休日にでかける。こういう過ごし方も悪くないな。これで酒があればもっといいけどな!」
それに付け加え、何故か工藤先輩もついてきました。工藤先輩に関しては完全に偶然だと思います。
だって今朝、出かけようと菊池先輩と二人で社員寮を出た時、「お?こんな時間からどこでかけるんだ?」と、エコバック片手に出くわしてしまいました。どうやら工藤先輩はこんな朝っぱらからどこかに出かけていたみたいです。エコバックから見える何本もの酒缶とお弁当。どうやら今からご飯を食べながら飲酒するつもりのようです。そんなことを考えていたら、菊地先輩が「今日は優君の晴れ姿を見に行ってくるの♪あんたは独り寂しく壁と対話しつつ、酒に逃げているといいわ♪」と、工藤先輩に笑顔を向けながら毒を吐きました。その後、「…晴れ姿って何だ?」と、私に聞いてきたので、今日の用を話したら、「なら、俺もついていくか。二人だと何かと心配だし。」と言い、工藤先輩はすぐに出かける用意を済ませ、私達についてきたのです。以外にもその時菊池先輩は工藤先輩の行動に何も言いませんでした。工藤先輩の同行がどうでもよかったのか。それとも、菊地先輩の機嫌がよほど良かったのか。ま、どちらでも構いません。
そんな経緯があり、私達は三人でテレビ局に向かっているのです。テレビ局まで時間があるので、少し眠っているとしましょう。いつでもベストなコンディションにするためです。少しでも休養を取っておきませんとね。さもなければ、先日のように、先輩方を無駄に心配させてしまうかもしれませんから。では目的地までの間、お休みなさい。
「・・・ねぇ。優君の膝枕、代わりなさいよ。」
「ダメだ。ただでさえ今もかなり変態チックな顔を公共の場に晒そうとしているんだ。これ以上は公序良俗に反するんじゃないか?」
「顔ぐらいで反するなんてないわよ、多分。はぁ、はぁ、はぁ・・・。やっぱり優君の寝顔は最高♪♪♪」
「はぁ。」
何か聞こえているような気もしますが、気のせいでしょう。今は休養をとることに集中です。
「・・・ん?」
なんだか足が無意識に震えています。これは一体・・・?あ。そういえば私、時間が来ると振動するアラームをかけていたんでした。となると、この振動は…やはり。この振動の正体は携帯端末から、でしたか。アラームを切って、と。
「優君、おはよう♪いい夢見られた?」
「…菊池先輩、おはようございます。夢関連の話は置いておくとして、この状況は何ですか?」
明らかに私の視線がおかしいです。どうして私の顔の上に菊池先輩の顔が位置しているのでしょう?ま、少し考えれば分かります。きっと菊池先輩が私を膝枕しているのでしょう。であれば、このような顔の位置はあり得ません。どうりで少し、ポケットに手を入れ辛いと感じていたわけです。
「それでおそらくそろそろ着く頃だと思いますが、まだ遠いですか?」
一応、私が起きてから五分から十分以内に到着することを見通してアラームの時刻を設定したのですが。
「後数分で着くわ♪」
と、菊地先輩は私の頬に自身の頬をこすりつけながら返事をしてくれました。報告だけでいいのに、どうしてこう余計な動作を挟んでくるのでしょう。
「ありがとうございます。それじゃあ私、降りる準備をしますね。」
と、私は菊池先輩の顔に当たらないよう慎重に体を起こし、荷物をまとめ始める。といっても、電車内で荷物をほとんど拡げていないので、まとめる時間はそうかかりませんが。
「ああ!!??優君が私から離れちゃった~。」
私が荷物をまとめるくらいでそんな悲しげな顔をしないでほしいものです。なんだか罪悪感がものすごいです。
「・・・はぁ~♪今日のつまみも最高だぜ、優。」
「…あんた、一体何しに来たのよ、はぁ。」
どうやら工藤先輩も私と同じく寝ていたようです。夢の中でもお酒を飲んでいるなんて、工藤先輩は本当にお酒が好きなんですね。その好きをこじらせなければいいですけど、大丈夫ですかね。中毒になって禁断症状とか出始めたら・・・私が矯正しましょう。帰ったら矯正の方法、ネットで調べてみようかな。
さらに数分経過し、目的地付近の駅へ到着した。もちろん、その時には工藤先輩はバッチリ目を覚まし、目的地を目指し、歩き始めた。そして歩き始め、幾分か経過し、私達は無事、テレビ局に着くことが出来た。何度も来ているので、そう迷わないのですけど。何度も来て迷うなんて、よほどのことが無い限りあり得ません。よほど何か考えているか、よほど方向音痴か。この時私は深い思考をしていませんし、方向音痴ではないと自身を理解しています。なので迷う事はありません。テレビ局前に着き、中に入ると、ロビーで見慣れた二人が椅子に座り、何か話している様子でした。
「女怪盗。」
そう菊池先輩がつぶやいた瞬間、
「!?な、なんかあの人、急にこっち向かなかったか?え?なんで急にこっちに向かって来ているんだ?」
工藤先輩が驚くほどの速さである女性がこちらを向き、菊地先輩を睨むように見ながらこちらに向かってきた。おそらく、さきほど菊池先輩が発した、“女怪盗。”という言葉を聞いたのでしょう。かなり距離があったと思うのですが、どうやって聞いたのでしょうね。
「ねぇ!?いい加減そう言うのは辞めてくれない!?それで私を呼んだつもりなの!?」
「別に?ただここに来るとふと言いたくなったから言っただけよ。深い意味はないわ。」
「すました顔でよくもまぁ嘘を並べられる。絶対後悔させてやるんだから!」
「あら?そう言って後悔していたのはあなたじゃなかったかしら?」
もうこの二人は・・・。何故会うたびに喧嘩するかのように言い合っているのでしょうか。犬猿の仲、なのでしょうか?
「なぁ優?」
「はい、何でしょう?」
「菊地って、社外でも大体あんな憎まれ口たたいたりたたかれたりしているのか?」
「ええ。工藤先輩も何度かその現場に遭遇していたかと。」
「…そういえばそうだな。」
菊池先輩ってかなりの人と口論になりますよね。昔からこのような性格なのでしょうか。後で菊池先輩の昔話を聞いてみたいです。
「はぁ。それで、あなたの隣にいる方は?」
と、ここで先ほどの女性、峰田さんが工藤先輩を見ながら菊池先輩に聞く。そういえば、工藤先輩と峰田さんは初対面でしたっけ。
「あぁ。こいつは・・・何?」
「おい!ちゃんと説明してくれよ!」
「だって、どういう風に説明すればいいのか分からないんだもの。仕方がないじゃない。」
「どういう風にって、普通に紹介すればいいだろう?」
「例えば?」
「同僚とか、優の保護者とか、そんなところだ。」
「同僚?優君の保護者?あなたが?」
「あのさ。このタイミングでボケをかますのは辞めてくれないか?せめて初対面の人の紹介くらいはきちんとしてくれ。」
「はいはい、分かったわよ。」
その後、菊地先輩に峰田さんに工藤先輩の事を紹介した。人を紹介するのに、工藤先輩が既に疲労しています。あの様子ですと、電車での移動の疲労とは別種類の疲れが見えます。工藤先輩、お疲れ様です。
「それじゃあ、人も揃ったことだし、スタジオに向かうわよ。」
そう峰田さんが話を切り開き、先陣を進んでいく。私達3人と潮田さん含めた4人は、峰田さんの後を付いていった。
後を付いていき、私達は無事、スタジオに到着した。やはりというかさすがというか、峰田さんと潮田さんは慣れた足つきでした。私と菊池先輩もそれなりに入っているので、それほど驚くことはありません。
「お~。これがテレビ局の中か。映像でしか見たことなかったが、中はこんな風になっているのか。」
と、ちょくちょく周囲を見渡していました。どうやら工藤先輩は初めてテレビ局の中に入ったらしく、興奮しているらしい。そんなに楽しいのであれば来た甲斐がありましたね。
「あれ?あそこ、やけに騒がしいな。」
確かにそうですね。
「ああ。あそこで今回撮影するの。すでにほとんどの人が集合しているのよ。」
「へぇ。」
峰田さんの説明を聞き、菊地先輩が返事をする。
「なんだ。私達が抜けてから結構来たのね。」
私達がスタジオに入ると、何人かの視線がこちらに向いた。誰かが入ってきたので、どんな人が入って来たのか気になり、こちらに視線を向けてきたのでしょうね。急に視線を向けられるとちょっとびっくりしてしまいます。
「それじゃあ私、準備してくるわ。」
「あ、私も付いていくわ。」
そう言い、潮田さんと峰田さんはこの場を後にしようとする。
「後で話があるから。」
「?」
私と潮田さんがすれ違った際、このような言葉を言われました。気のせい、でしょうか?さきほどの言葉、もしかして潮田さんが言ったのでしょうか?後で話があるって、一体何の話をするのでしょうか?ま、後で考えるとしましょう。
「あ、そういえば早乙女君…優ちゃんにも着替えてもらうからね?」
と、峰田さんは当然のように言いました。やはりというかなんという・・・決定事項なのですね。
「…分かりました。私はどこで着替えたらいいでしょう?」
「そうね・・・とりあえず、私達の隣の部屋が空いていたと思うから、その部屋で着替えてくれない?」
「分かりました。」
「あ、衣装は後で持っていくわ。」
「お願いします。」
また、女装しなくてはならないのですね。いえ、この場に来た時点で察してはいたのですが、改めて言われるとこの状況に罪悪感を覚えてしまいます。そして私達が空き部屋に移動し、着替えを始めた。移動する前、「?どうして私と一緒に着替えないの?一生に着替えた方が良くない?」と、潮田さんから思わぬ指摘を受けたのですが、「ゆ、優ちゃんはああ見えて恥ずかしがり屋さんなの!特に、人様に着替えるシーンを見られたくないのよ!」と、峰田さんがフォローしてくれた。いつの間にか私は、人前で着替えることに羞恥の感情を覚える女子小学生、という扱いになっていた。確かに人前で着替えるのは恥ずかしいと思いますが、状況によると思います。私の事を思ってフォローしてくれたので、口を挟む行為は無粋でしょう。私と菊池先輩、工藤先輩はそのまま部屋に残り、着替えを手伝ってくれました。
「ところであんたは何故まだここにいるの?」
「は?」
「ここは今から優君と私の聖域になるのよ!あんたみたいな無粋な男が踏み込んでいい場所じゃないのよ!出ていきなさい!」
「はぁ!?何でだよ!?」
「あなたに優君の着替えシーンを見せるわけにいかないのよ!」
「なんでだよ?」
「優君の着替えを見たあんたが優君に欲情するからよ。」
「するか!!!」
こんなやりとりがあったものの、無事に私の着替えは済んだ。
「さ、今日の予定を簡単に話すわよ~。」
全員着替えを終えたらしく、今回撮影に参加すると思われる子供達が勢ぞろいし、ある成人の前にいる。その成人はカメラを持っているのでカメラマンだと思うのですが、性別は・・・分かりません。女性みたいな口調なのに、男性が着る服を着ているのです。目を閉じれば女性、目を開ければ男性、ですか。声はかなり低いみたいですので、男性だと思いたいのですが、声変わりで声が低くなる女性もいますし、判別しにくいです。そんなカメラマンが言うには、最初は単独で写真を撮り、次に何組かに分けて写真を撮り、最後に全員で写真を撮る、とのことだった。
(なるほど。)
ポーズは特に指定がなく、被写体になる私達が各々自由にしてほしい、とのことでした。私、モデルのポーズのとり方なんて知らないのですが?
(どうしますか。)
さらにカメラマンさんの話を聞いていると、どうやら撮影する順番は決まっていないみたいなので、最後の方にお願いするとして、それまでは他のモデルのポーズを参考にさせていただきましょう。
「それじゃあ、これかたガンガン激しく撮っちゃうわよ~♪」
「「「はい。」」」
私には疑念しか湧かないカメラマンさんの掛け声に、他のモデルの人達は迷いなく返事をした。どうやら、他のモデルの人達はあのカメラマンさんの異質さに慣れているようです。それとも、こういった業界では、性別不明のカメラマンさんは普通なのでしょうか。
(とにかく、まずは他のモデルさんのポーズを見ましょう。)
私はすぐに撮影現場を少し離れ、徹底的にポーズを見ることにした。
「いいわよー。もっとピョンって感じをだしてみようか?そう!さっすがー♪」
(ふむ。)
カメラマンさんが何を伝えたいのかがまったく分かりません。そのカメラマンさんのアドバイス?に、モデルさんはポーズを変えていった。もしかして、先ほどの言葉で意図が伝わったのでしょうか?伝わっているとすれば、あのモデルさんはものすごい理解力を持っていることになります。モデルの方にはきっと、国語力が必須なのでしょう。
それと、どうでもいいですが、どのモデルさんも、私より背が大きいです。女性のモデルさんより小さい男の私って・・・。
おっと。こんなところで落ち込んでいる場合ではありません。早くポーズの研究をしなくては。
「うんうん♪みんな、個性を惜しみなく出せていていいわよぉ~♪」
カメラマンさんは体を繰り返しひねりながら言う。個性を出す、ですか。
「うんうん♪詩織ちゃんは流石よね。風格すら感じさせるわ♪」
私としてはただ斜めに立っているようにしか見えないのですが、カメラマンさんには異なる景色がカメラのレンズに広がっている事でしょう。それにしてもさすがは潮田さんです。他のモデルさんも、潮田さんの撮影場面を凝視しています。それほど潮田さんの撮影シーンに価値がある、ということでしょう。
(個性に風格・・・。)
どちらも私に不足しているものだと思います。
私は生涯、モデルとして生きていくつもりはありませんし、男の私がモデルを務まるとは思えません。ですから、私にモデルとしての個性、風格は他のモデルさんと比べて圧倒的に希薄しています。特に、潮田さんとは差が開いている事でしょう。ですが、それでも今はやらなくてはなりません。例え、この場にいるべきでないとしても、出来ること、なすべきことをしていきましょう。
(であれば。)
猿真似なうえ、気休め程度にしかなりませんが、他のモデルさんのポーズの真似をするとしましょう。その上で微妙に立ち位置、角度を変えれば大丈夫でしょう。
(では、思い出し、脳内に反復するとしますか。)
私は、さきほどまで見ていたモデルさん達のポーズを脳内で思い出し、自分の体形に再構築していく。どのように立てばいいか。どのように手を構えるべきか。
(猿真似でも、出来る限り高クオリティーで、確実に。)
「さーて。後撮影していないプリティーな子は誰かしら?」
「あ、私です。」
どうやら私の出番なようです。今の私に出来る範囲で頑張りましょう。
「♪♪♪」
「・・・。」
何を言っているか分からない、二人の大事な先輩のために、無様な姿を見せるわけにはいきません。
(では、やりましょう!)
私は、これまで見てきたモデルさん達のポーズを参考にポージングしていった。
「まだよ、優ちゃん!いつもの綺麗な立ち振る舞いはどうしたの!?」
「そうよ!でもまだ足りないわ。もっと、もっとよ!」
「そう!それでこそ愛しの優ちゃんよ!でも、こうしたらもっといかも♪例えばこう!出来る?そう!その調子よ!」
カメラマンさんの要望を出来るだけ聞き、細かくポーズを変えていったら、最初はきつめの言葉を言われていたが、徐々に私を称賛していった。
最終的に、私のポーズは潮田さんと対極にあるようなポーズであった。潮田さんが右を向いてポーズしている場面を見て、私は左を向いてポーズをとる。幸か不幸か、潮田さんの後に撮影したおかげで、「将来、詩織ちゃんといいパートナーになりそうね♪」的なことを言われていた。潮田さんがよく言われたのであれば、私も頑張った甲斐があった、というものです。先輩達は・・・良かった。楽しんでもらえたみたいです。何を言っているのかは分かりませんが、嬉しそうな顔を見るあたり、少なくとも私を貶してがっかりしている、なんてことはないでしょう。この調子で頑張りましょう。
「さぁ、次は何人かに分けて写真を撮っていくわよぉ~♪」
どうやら次は、他の人達と共に写真を撮っていくようです。カメラマンさんの口ぶりからして、まだ全員で写真を撮ることはしないみたいです。私としては独りで写真を撮ってもらいたいです。何せ私、他のモデルさんと話したこと、ほとんど無いですからね。潮田さんとはスタジオ以外の場所でも複数回話したことはあるのですが、それでもなんとなく壁を感じてしまいます。ここが仕事場で、今は仕事している時間、だからでしょうか。勤務時間で考えると、私が一番後輩、下っ端ですからね。
(さて、私は誰と写真を撮影するのでしょうか?)
出来れば親しくしている・・・誰とも親しくしていませんでしたね。出来れば私だけ余って一人で撮影、なんて事態になってくれれば嬉しいです。
「それじゃあまず・・・、」
こうして、カメラマンさんは、続々とペアが決まっていきます。二人組だけでなく、三人組や四人組、五人組で撮影するらしい。さて、私は独りで撮影するのでしょうか?そうでないとしたら、一体誰と撮影するのでしょうか?
「さて、最後は詩織ちゃんと優ちゃんの二人にとりを飾ってもらいましょうね♪」
と、カメラマンさんはウィンクを決めながら言ってきました。他の子達はというと、
「ま、当然よね。」
「まさかこんなにも早く二人のペアが見られるなんて。」
「いったいどんな写真が出来上がるのかしら♪」
何故か、潮田さんだけでなく、私にも期待しているような口ぶりでした。
(こんな時、先輩ならどうするのでしょうか?)
少し憂鬱ですので、すっぽかしてよろしいでしょうか。いえ、よろしくないですね。ここは大人しく、カメラマンさんが決めたペアで撮影するとしましょう。期待を持たれると、普段以上に緊張してしまいますね。さて、今回はどのように撮られればよろしいのでしょうね。
今回の複数人での撮影も、各々自由なポーズで撮影してほしい、とのことであった。指定のポーズも何か言われていたと思いますが、そのポーズを何回か撮れば、後は畏友にしてくれ、とのこと。これはそうですね・・・どうしましょう?
(やはりここは、私みたいな新参者の意見より、長年やっている方の意見を参考にしましょう。)
少なくとも潮田さんは私より長い期間モデルを行ってきたはず。なら、潮田さんは私以上にモデルの立ち振る舞いについてご存知のはず。その潮田さんからアドバイスをもらい、そのとおりに行動すれば問題ないでしょう。
「潮田さんは今回、どのようなポーズをするおつもりなのですか?」
出来れば素直に話していただき、参考にしたいところです。
「そうね・・・。」
潮田さんは考え込み、
「私は優に合わせるつもりだけど。あなたこそ今回、どんなポーズをとるつもりなの?」
「え?」
それは困りました。私、潮田さんのポーズを参考にしようと思っていましたのに。
「いえ、私は今回、潮田さんのポーズを参考に決めようかと考えていましたので、考えていません。」
「ふーん。」
そう言うなり、潮田さんは私から視線を外しました。私が何も考えていないと思っているのでしょうか。ま、無理もありません。自分でも他力本願だと分かってしまいますからね。
「それじゃあ、私は左を向いてポーズするから、あなたは右を向いて、私と・・・左右、対称?だっけ?ポーズをとりなさい。これならいけるんじゃないかしら?」
「なるほど。」
自分でも何がなるほどなのか分かりませんが、とりあえず潮田さんの言葉に従う事にしましょう。そんな相談をしているうちに、即席で組まれた他のグループの人達は撮影を続けていく。
「いいわね、いいわね♪やっぱり可愛い子が何人も並んでいると絵になるわぁ~♪」
カメラマンさんが興奮していることが見受けられます。それにしても、あのカメラマンさんが興奮している様子、どことなく菊池先輩と似ている気がします。もちろん、似ているといっても菊池先輩が興奮した時、だけですけど。菊地先輩だって常時、あのように興奮しているわけではないでしょう。菊池先輩にだって落ち込むときや悲しい時があるでしょうし。…あるとは思うんですけど、具体的には何を指し示すのかは想像できません。菊池先輩、大抵の事をそつなくこなしますから。
「さ、そろそろ準備して。出番よ。」
「は、はい。」
もう出番ですか。複数人をまとめて撮っていますからね。さきほどより短時間で撮影出来ているのですね。潮田さんが声をかけてくれなければ、そのことが抜け落ちたままになっていました。
「ふぅー♪今年もなかなか豊作だわぁ~♪仕事で無ければ、個人的にアルバムを作りたいところね♪さて、次は…あなた達ね。」
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
私は潮田さんの後に続いて言葉を述べる。
「うふ♪期待しているわぁ♪♪」
…やはり、どことなく菊池先輩に似ている気がします。特に、あの惚けた顔が菊池先輩のあの惚けた顔を彷彿とします。まさか同類?いえ、気のせいですね。ああいう類の方がそう何人もいてしまっては、今後の日本が心配になってしまいます。きっと私の勘違いなのでしょう。
「さ、やるわよ。」
「はい。」
さて、仕事をするとしましょう。
仕事をしている最中、私は潮田さんの動き、立ち振る舞いを自分なりに理解し、さきほど言われた左右対称という言葉をヒントに、潮田さんのアドバイス通りにポーズをとってみました。これが最善案なのか最悪案なのかは不明ですが、何の案も持っていなかった時の私よりはいいはずです。これで少しは喜んでもらえたら嬉しいのですが、これで成功しているのでしょうか。私としては、潮田さんの提案通りに出来ていたと思うのですが、「うん、うん♪」としか言ってこないので、不安になってしまいます。この仕事、会社員の仕事以上に難しい気がします。頭だけでなく全身を駆使し、要望にこたえなくてはなりませんからね。会社員の仕事の種類は無数にあるので一概には言えない気がしますが、そんな細かい事は言いっこなしとしてください。
(他の人達はどう思っているのでしょう?)
私と潮田さんのこの仕事風景を見て、他の人達はどのような感情に変化しているのでしょう?やはり、私みたいな新参者が潮田さんみたいな立派なモデルと並んで仕事をすることに嫌悪し、反対しているのでしょうか。
「ねぇ、なんか、やばくない?」
「うん、やばい。」
「いつまでも見ていられるって言うかなんていうか・・・。」
仕事の合間になんとか他の方々の顔を見てはいるのですが、声までは聴くことが出来ませんでした。顔を見ている限りですと、そこまで嫌悪しているわけではないようです。声を実際に聞いたわけではないので何とも言えないのですが。それにしても、やはりこの撮影の仕事はとても集中力が必要になってきますね。随時、カメラマンさんの指示を把握する必要がありますし、その指示を具現化するために、ある程度体を柔らかくする必要があります。何度もやってきますが、やはり体型の維持は必須項目ですね。人に見られることを意識し、人の視線に晒されても恥ずかしくない振る舞いが必要、ということとなります。
「・・・ふぅ。いい仕事したわ。お疲れ様♪」
どうやらカメラマンさんによると、私と潮田さんはいい仕事をこなしたみたいです。いえ、もしかしたら自分に対して放った言葉なのかもしれません。そうなると、私と潮田さんを褒めた言葉ではないということになるのですが、どうなのでしょう?私からすれば潮田さんはとても集中しているように見えていたので、褒められてもおかしくないと思うのですが・・・。
「十年に一度の仕事ね。これいじょうに満足感たっぷりな仕事、そうはないわ♪」
そんなことをカメラマンさんから聞こえてきました。ということは、さきほどの私と潮田さんの仕事はそれほどのクオリティー、ということなのでしょうか。それとも、潮田さんの仕事だけ、ということなのでしょうか。その可能性は十分にあり得そうです。私もまだまだです。
「お疲れ。」
潮田さんから一言。そう言われた後、潮田さんはすぐに撮影現場から離れていきました。私も先ほどいた場所に戻るとしますか。
「は~い!次は全員で撮っちゃうわよ~♪ドッキドキだわ~♪」
そういい、さきほどより自身の体を高速で振動させていました。きっと今回も各自でポーズを決めていくシステムなのでしょう。そんなことを考えながらふと、先輩方を見てみると、
“優君、最高だったわよ♪”
“優、ひとまずお疲れ様。”
そんなことを目で訴えられたような気がしました。相変わらず、私は先輩方の唇の動きが分かります。もちろん私の間違いの可能性もありますが、他の人達の唇は読めず、かなり親しい人達だけ分かる気がします。私の気のせいかもしれませんし、私が考えるかなり親しい人とそうでない人との線引きも不明ですが。
そして私を含めたモデル達は一箇所に集まり、集合で撮る写真撮影のポーズについて話し合いが行われた。
「私はやっぱりこういうのがいいと思うんだけど…。」
「いやいや、それじゃあ体に負担がかかっちゃうから、こっちの方がいいんじゃない?」
「でもそれじゃあ動きの幅が小さくない?もっと動きを大きくして…。」
そんな感じで、なかなか妥協点が見つからない状況が続きました。やはり、さきほどより話し合う人数が多くなり、船頭が多くなったことで、船山に上ってしまう回数も多くなっている事でしょう。これでは話し合いが進まなくなっているご様子。話をただ聞いているだけの人もいますが、かなりの人数が自身の要望を述べているみたいです。その後、他の方によって案を否定され、否定した人が自身の案をだし、また別の人が案を否定し・・・。なんか、ループ状態となっていますね。このままでは何も決めることが出来ません。誰かこの場をまとめてくれる人がいてくれたらよろしいのですが。
ちなみに私は何も言わず、ひたすら黙っている状態です。自身の意見よりこの場の調和です。
「もう!これじゃあいつになっても決まらないじゃない!」
「だったら、誰かに決めてもらうっていうのはどう?」
「誰かって誰?」
「それは・・・、」
ここである一人が潮田さんを見る。その一つの視線が増え、全員の視線を釘付けにしていく。他のモデルさんからも一目置かれているのはさすがですね。
「それじゃあ・・・、」
どうやら潮田さんは前々から考えていたらしく、モデルのみなさんに、自身のアイデアを話していく。みなさん、潮田さんのアイデアを集中して聴いています。
そして終盤。
「・・・こんなところかしら。」
ひとしきり説明し終えたのでしょう。このタイミングで一呼吸入れる。
「それで、この案だと、さきほど組んだグループでまとまってもらうわ。」
「それってつまり・・・、」
ここで全員の視線が潮田さんから私へと移動した。
(?)
何故このタイミングでこちらを見てきたのでしょうか?謎です。
「だから今回は、私と優のツートップでいくつもりだけど、いいかしら?」
そう潮田さんは、他のモデルさん達に同意を求める。
「「「・・・。」」」
しばし、波が収まった。
(な、何故みなさんこちらを見ているのでしょう?)
その波は音を立てずに、早乙女優という人物を狙っていた。
(この場合、何か意見を述べた方がよろしいのでしょうか?)
無言の圧はまるで、上司の前でプレゼンする新人社員が感じる圧のようである。
「私は潮田さんの案に賛成です。みなさんの個性も活かせています。アイデアも多少妥協されてはいるものの、みなさんのアイデアを織り込んでいて、私達に最適なプランだと思います。」
私は取り敢えず、賛成だという自分の意志と、何故賛成したのかという理由を追加で述べる。私自身、反対する理由もなかったので賛成したのですが、間違いだったでしょうか。それなりの理由を付与したつもりでしたが、即席で付けたものだとばれてしまったのでしょうか?
「ま、トップの二人が良いって言っているんだからいいか。」
その誰かの一言で、
「そうよね。」
「実を言うと、私も結構いいと思っていたの。」
「私も♪」
そんな言葉が連鎖的に発言されていく。良かった。どうやら潮田さんの案で写真撮影していくみたいですね。
「さぁ~て♪そろそろ撮影していくわよ~ん♪」
男性なのか女性なのか判別しづらい声をカメラマンさんは発した。おそらく、私達の
会話を聞いていたのでしょう。でなければ、こんなにタイミングよく話に割り込むことは出来ないはずです。
(さ、いよいよ最後の撮影ですね。)
きっとこれが最後の撮影となるでしょう。改めて気合いを入れ直し、新鮮な気持ちで臨むとしましょう。そう意気込み、視線を撮影現場へ向ける最中、菊地先輩と工藤先輩の全身が視界に映った。
(あれ?何か言っている、気がします。)
一瞬しか見ることが出来なかったので、何を言っていたのかは詳細に把握できませんでした。ですが、あの菊池先輩の口の動き。あの工藤先輩の口の動き。おそらく、
“頑張って!”
と言ってくれたのだと思います。というか、思いたいです。どんな言葉なのかは分かりませんが、私を激励してくれる言葉を述べていたのだと思います。単なる私の妄想、と言われてしまえばそれまでなのですが、そう考えただけでいつも以上にやる気が出てきます。
本当は今でも女装なんて辞めたいのですが、あの二人の先輩の応援です。やる気が出ないわけがありません。今だけ、今だけは女装している自分を誇りに思い、活動するとしましょう。
「さぁ~。それじゃあ撮影するわよ~♪」
そして私達は本日最後だと推測している写真撮影を始めていく。
「それじゃあみなさん、お疲れ様でしたー。」
「「「お疲れ様でした。」」」
時間はわずか十数分、もしかしたら数分だけだったかもしれませんが、さきほどまでの写真撮影以上に気を張り続けました。何せ、私の後ろに多くのモデルさんがいるんですもの。下手に力を抜く、なんてことが出来ませんからね。結局、私は潮田さんの隣に並び、先頭に陣とった。つまり、潮田さんとツートップ、その後ろに多くのモデルさん達が並ぶような配列になった。ただ、その後ろの配列は工夫がされており、先ほど撮ったグループごとにまとまり、グループごとにポーズを変える、という案を使用していた。他の方々も先頭に立ち、自身の存在をアピールした時もあったが、私と潮田さんが主に先頭に立ち、写真を撮られていた。このような案、行動が成功か失敗かは分かりませんが、私個人としては成功であってほしいものです。
「それじゃあ今日はこれでおしまいよ~♪」
こうして、私達の撮影は終了した。
(お疲れ様でした。)
私はカメラマンさんに再び思いながら、撮影現場を後にし、先輩方の元へ向かう。
「おかえり、優ちゃん♪」
「ご苦労様、優。」
その先輩方は、女装している私を罵ることなく苦労を労ってくれました。本当、ありがとうございます。
「いえ。それでは着替えていきましょうか?」
「え?」
「え?」
私の発言に、誰かが声を発した・・・ような気がします。聞き覚えのある声だと思い、周囲を見渡したのですが、誰が発言したのかは突き止めることが出来ませんでした。
(もしかして?)
さきほどの発言は別にそういう意味、今日は帰宅する、という意味で言ったつもりはなかったのですが、そう捉えてしまった人もいるのでしょう。今日帰ってしまうと困ってしまう人が発言したのかもしれません。これから、私に用があるから。
(忘れていたことはなかったのですけどね。)
別に、今日はもう十分仕事をしたので、後は家に帰ってのんびり休みたい、というわけではありません。もちろん、まったくないのかと聞かれれば嘘になりますけど。だからと言って、人との約束を覚えておきながら破っていい理由にはなりません。私は忘れぬうちにその人、潮田さんと峰田さんに近づき、
「帰る準備ができ次第、私達の控室に来て下さい。」
そうさりげなく伝えてから、先輩方の元へ再び戻る。
「優君?一体何を話してきたの?私と優君の交際宣言?」
「そんなわけありませんよ。ちょっと…、」
私は先輩方にお願いしたいことを伝える。
「なんだ~。私と優君が好き合っていることを公表したいわけじゃないのね。」
「どこをどう解釈したらそんな訳がでてくるんだよ…。」
まったく、工藤先輩のおっしゃる通りです。
「というわけなので、もしかしたらお二人に少しの間、お部屋から出てもらうことになるかもしれませんが、よろしくお願いします。」
「まぁ、優君からのお願いだもの。喜んで周囲の人間に、私と優君は愛人関係にあると言いふらしてくるわ♪」
「…俺は、この頭のネジを壊したこいつが暴走しないよう、しっかり監視しておくわ。」
「よ、よろしくお願いします。」
「はーい♪」
…さきほどのよろしくお願いしますは、菊地先輩に向けてはなった言葉ではないのですが・・・。ま、そんな細かい言葉は言わないようにしておきますか。
「?はい、どうぞ。」
そんな会話をしていたら、扉の方から扉を叩く音が聞こえた、その音に反応すると、その扉はある人間、潮田詩織さんの全身をあらわにさせた。
「来て、あげたわ。」
「ようこそ。」
私は潮田さんの言葉に返事をする。
「・・・。」
後ろで峰田さんは無言の圧をかけてきている。対象者はというと、
(この視線は私・・・ではないようですね。)
峰田さんの視線の方向が私に向いていません。となると、この場にいる他の人、菊地先輩と工藤先輩に向けているのでしょう。
「・・・それじゃあ優ちゃん、私達はちょっと飲み物を買ってくるわ。」
「俺も飲み物を買ってくるか。カレー缶あるかな?カレーは飲み物ってな♪」
そう言いながら、菊地先輩と工藤先輩は部屋を出ていった。工藤先輩、今は言うべきでないことは承知の上で言わせていただきます。
カレーは飲み物ではないと思いますよ?きっと、工藤先輩は空気を和ませようと変な冗談を交えてくれたのでしょう。でなければ、こんなおかしなことを言うはずがありません。
「「「・・・。」」」
三人は部屋を出る直前、私の方を向いてきたのですが、どういう意図があって私を見たのでしょう?
(もしかして?)
話が終わりそうになったら連絡を寄越せ、という意図でしょうか?であれば、話が終わった直後にお知らせできるよう端末を設定しておくとしますか。
「ねぇ。」
「ん?何ですか?」
そういえば、何か話があると言っていましたね。何の話でしょう?
「ちょっと、いいかしら?」
「えぇ。」
?何でしょう?潮田さんが心なしか、心ここにあらず、みたいに見えます。急に浮足立っているような、いつもの潮田さんとは異なる雰囲気です。
「同性にチョコをあげる友チョコってどう思う?」
次回予告
『女子小学生モデルから小さな会社員へのの洋菓子贈呈生活』
早乙女優とモデルの仕事をした潮田詩織は仕事の後、2人っきりになった後、あることを自白し、ある食べ物を早乙女優に贈呈する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




