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小さな会社員と何でも出来るOLの休暇生活~2日目~

 休暇二日目。

 先に目を覚ましたのは、

「…ん?もう朝、ですか?」

 優だった。

 いつもならスッキリと目覚めることが出来るのだが、いつもより目覚めが悪そうである。

 理由は恐らく…。

 優は抱き着いている菊池から離れ、

「う~ん。よく寝た~。」

 背伸びをする。

 そして、

「さて、朝のお風呂にでも入ってこようかな?」

 朝風呂の用意を始めた。

 それにしても、昨日のアイス、美味しかったな。



「・・・。」

「…あの~?どうしてそこまで不機嫌なのですか?」

「だってぇ~。私は優君とお風呂に入りたかったのに、入れなかったんだもん!」

「はぁ~。」

 朝風呂を済ませた私達は朝食のバイキングを食べていたのだが、菊池先輩は不機嫌だった。理由はお風呂の件である。

 昨日もお風呂だったのだが、男女別々だった。

 私は、

(ま、当然だよね。)

 と思い、男風呂に入ったのだが、出てきた時、

「何で男女別々なのよ。これじゃあ、優君と混浴出来ないじゃない…。」

 と、ブツブツ言っていた。

 昨日は何とか治まったが、今朝の朝風呂でまた発症。

 風呂から出て、バイキングまでずっとブツブツ言っていた。

「そんなに私と入りたかったのですか?」

「当り前よ!優君と混浴!これぞ、旅行の醍醐味でしょ!」

「それは違います。」

 私は冷静に返す。

 それにしても、ホテルのバイキングって、色んな種類の料理があるんだな。

 どれも美味しそうで、ついつい食べ過ぎてしまいそう…。

「はぁ。どこかに優君と一緒に入浴出来る素晴らしい入浴スポットとかないかしら?」

「こんな場所に温泉があるとは思えないのですが?」

「そう、よねぇ…。」

 はぁ~、と菊池先輩は深いため息をつく。

(ま、近辺にいくつか、それらしい施設はあるっぽいけど、黙っておこう。)


 実は、菊池が来る前に、ホテルの人から近辺の地図をもらったのだが、その地図を見るに、一軒だけ、温泉施設を発見したのだ。

 優はそのことは口に出さずに、ただ黙っていた。


「はぁ~。どこか場所はないかしら?」

「無理ですよ。何か着ない限り。」

 この時、私は余計なことを言ってしまった。

「着る?着る…温泉…湯あみ?違うわ。」

「き、菊池先輩?」

 なんか、急に菊池先輩がブツブツ言い始める。

 嫌な予感が…。

「そうよ。何も温泉じゃなくてもいいわ。それに、水着を着れば何の問題もないじゃない!」

 と、目を光らせる菊池先輩。

 あ、コップの水がなくなっている。汲んでこよう。

「待ちなさい、優君。どこに行くの?」

 ビクゥ!!?

 私は思わず、

「や、やだな~菊池先輩。コップに水を汲んでくるだけですよ?」

「そう?なら、その両手に持っているお盆は何かしら?」

「あ。」

 もしかして、ばれた?

「それより優君!今日の目的地が決まったわ!」

「それはどこですか?」

「プールよ!」

「え?」

 そして、優の嫌な予感は的中する。



 ここは『TOKYOサマンド』。

 有名なレジャー施設で、休日はかなり混んでいるらしい。

 らしい、というのはタブレットで口コミを見たとき、そう呟いている人が多いからである。

 さらに言えば、今日は平日。

 休日の様子なんて分かるわけがないよね。

「さ、早く水着に着替えて遊びましょう!」

 菊池先輩は元気に店内に入っていく。

「あ、待ってください!」

 私は菊池先輩の後を追い、店内に入っていった。


「やっぱりここに来たら、きちんとした水着を選ばないとね!」

 今、水着のレンタル店に足を運んでいる。

 やはり、というか当然というか、今の私達は水着を持っていないので、水着をレンタルすることにした。

 したのはいいのだが、

「あの、ここって女性ものの水着、ですよね?ここに私がいる必要ってないですよね?」

「あるわ!!」

「…何故でしょう?」

「それは、ここで優君の水着を買うからよ!!」

 と、菊池先輩は親指を立てて宣言する。

「・・・はぁ。」

 私は頭を抑えていた。

 ちなみに、今私達がいる水着レンタル店には男ものの水着はない。

 男ものの水着は隣の店にしかない。

 なので、

「そんな馬鹿なこと言っていないで、さっさと隣の店に行きますよ。」

 と、私は菊池先輩に軽蔑の眼差しをおくりながら言う。

 ほんとにこの人は…。

「さ、早く自分の水着を買ってください。私も自分の水着を買いたいので。」

 と、言いながら気づく。

 このまま菊池先輩に何も言わずに買えばいいのでは?と。

 だが、それでは菊池先輩に心配をかけてしまうだろう。

 だから私は、菊池先輩の水着選びが終わるまで待つことにした。


 数十分後。

(遅いな…。)

 女性の人は服を選ぶのに時間をかけるというが、水着でもここまで時間がかかるとは…。

 でもおかしいな?

 前は数分でパッパと選んでいたと思うけど…?

「お待たせ、優君!待たせたわね!!」

 と、手にはレンタルしたであろう水着が握られていた。

 握られていたのだが、

「…先輩?どうして水着を二着持っているのですか?」

 何故か二着持っていた。

 一瞬、私にとって最悪の事を想像してしまった。

 だが、気のせいだろう。

 私はその二着の水着を見てみる。

 一つはパレオのついた水色のビキニである。

 菊池先輩なら似合うこと間違いなしだろう。

 そしてもう一つは水色のワンピース型の水着だ。

 最初、二つの水着を重ね着するのかと思ったが、違うな。

 ワンピースの水着の方が、明らかにサイズが小さいのだ。

 まるで、誰かに着せたいがために、わざわざレンタルしてきたような…。

 って、いやいやいや!

 それは考え過ぎだろう。

 まったく。私も疑り深くなったものだ。

 とはいえ、そのワンピースタイプの水着は一体誰が着るのだろうか。

「こっちの水着は私が着て、こっちの水着は優君が着るのよ!」

 と、菊池先輩はワンピースタイプの水着を私に渡そうとする。

 私は思わず、

「え?私はそれ着ませんよ?」

 と、伝える。

「え?え??ええ!!??」

「いや、そんなに驚くことではないですよ?」

 むしろ、当たり前のことだと思う。

 男子が女子の恰好をするなんておかしいと思う。

 ましてや今回は水着。

 公共の場で、水着を着る女装趣味は、私にはない。

 ま、かといって公共の場でなければ女装する、というわけではないが。

「そ、そんな。せっかく何十分も悩みに悩んで選んだというのに…。」

 ああ。私に着せる水着を選んでいたから遅くなっていたのか。

 納得。

「とにかく。私は着ませんから、隣の店に行きますよ?」

「…ほんとに着てくれないの?」

「当たり前です!」

 まったく!

 そんなに私を女装する変態にさせたいのか!?

 私は心の中で憤慨しながら、隣の店で男ものの水着をレンタルした。

 ま、終始、

「優君?この水着にしない?」

「大丈夫!ちゃんとばれないように隠蔽工作するから!」

「それとも、優君は着こなす自信がないの?優君なら絶対に似合うから大丈夫!勇気をもって!」

 横でゴチャゴチャ言ってきたのだが、私はそれらを全部無視した。

 

「はぁー。ここが有名なレジャー施設、『TOKYOサマンド』、ですか。とても広いですね。」

「…そうね。休日は混むだろうけど、平日は…うう。」

「…はぁ。」

 あれから、私達は貴重品を預けてから、男女別の更衣室に向かったのだが、

「優君。一人で大丈夫?なんなら、こっち(女子更衣室)で一緒に着替える?そうなれば、その水着じゃなくてこっちの水着に…。」

「あ、大丈夫です。」

「・・・。」

 重くなった空気のまま、私達はそれぞれの更衣室で着替え、着替え終わった後に再開すると、

「あ…。うん、やっぱりそうよね、うん…。」

 と、明らかに落ち込む菊池先輩。

 それはそうですよ。

 男が男の水着を着ているだけなのに、何故菊池先輩ががっかりしているのですか。

 はぁ…。

 と、いうことがあり、今現在、菊池先輩は大層うなだれていて、私もその様子を見てあきれているというおかしな空気となっているのだ。

「…とりあえず、こんなところに居続けるのもなんですから、遊びましょうか?」

「…そう、ね…。」

 と、菊池先輩は重たそうにゆっくりと腰を上げる。

 そうして、人が少ない中、私達はプールへと向かう。


 巨大プール。

「先輩。ここのプール、とても大きいですね。社員全員入ること出来ますかね?」

「…うん、そうね…。」

「…。次、行きましょうか?」


 ウォータースライド。

「おお!?このアトラクション、爽快感があって気持ちいです。また上りましょう?」

「そ、そうね…。」

 ウォータースライド、二回目。

「ふぅ~♪やっぱり気持ちいです。」

「・・・はぁ。」

「…次、行きましょうか?」

「え?え、ええ…。」


 地下プール

「…ん~♪なんか、温泉みたいで気持ちいですね、菊池先輩?」

「え、ええ。そうね、気持ちいい、気持ちいわね。」

「…。」

「…。」

「「はぁ。」」

「…次、行きましょうか?」

「そ、そうね…。」


 軟水ジャグジー。

「菊池先輩!ここは保湿、保温効果が期待されているらしいですよ!ここは是非とも押さえなくては!」

「…。」

「…あの、何か反応してくださいよ、先輩…。」

「え?え、ええ。ここ、なかなかスリリングね。」

「…どこと勘違いしているのですか?ここはそんなスリリングなアトラクションじゃありませんよ?」

「え?あ、ああ!ごめんね、優君!」

「・・・。」

 ぐぐぅ~。

 そんな時、誰かのお腹が鳴る。

 ま、私ではないとすると、

「あ、そろそろ昼食の時間ね?ご飯、食べに行こ?」

「は、はい…。」


 昼食。

 今日は近くでやっていた屋台で焼きそばを食べることにした。

 特に理由はない。

 さて、今日も楽しいお昼を…。

「「・・・。」」

 堪能、出来なかった。

 菊池先輩の負のオーラがすごい。

 そして、気まずい…。

 このままだと、せっかくの休暇が楽しめないし。

 さて、どうしよう?

 ・・・。

 一つ、案が思いついてしまった。

 だけど、これは正直やりたくない。

 やりたくない!けど、この方法以外で、菊池先輩が喜ぶのかな?

 …喜ばないだろうなー。

 ・・・。

 いや?

 これってもしかして、菊池先輩に直接聞けばいいのでは?

 でも、どんな風に聞けばよいのだろうか。

“ねぇ先輩?どうしたら元気になります?”

 と、聞いた方がいいのかな?

 それとも、

“先輩?そろそろ元気出しましょうよ~?ほら、せっかくの休暇で・す・し♪”

 と、明るく言った方がいいのかな?

 う~ん…。よし!

「先輩!どうしたら元気になってくれますか!?」

 ここは前者にしておこう。

「どうしたらって、そんなの…。」

 と、菊池先輩は視線を別方向に向ける。

 その視線の先には、

「はい。あ~ん♪」

「あ~ん♪…ん~!美味しいー!」

 家族、それも母親が娘に焼きそばを食べさせている風景だった。

 私は軽く深呼吸して、

「は、はい、先輩!あ、あ~ん。」

 私は菊池先輩にあ~んをした。

 だが、菊池先輩はキョトン、としていた。

 あれ?

 これがしてもらいたかったのではないのか?

 まさか…!?

「もしかして、違うのですか?」

「え?てっきり優君がこれを着てくれるのかと…。」

 と、菊池先輩は例のワンピースタイプの水着を見せる。

 というか、どこから取り出しんだ?

「え?え?」

「…駄目、かしら?…いえ、駄目よね。ごめんなさい。」

 と、その水着をしまおうとする。

 その表情はとても見ていて辛いものがある。

 せっかくの休日。

 それを楽しめないのはやっぱり辛い。

 でも…。

 ああ、もう!!

「わ、分かりました!それを着ます!着ますから!!」

「え?」

 菊池先輩の動きが止まる。

 だって、

「私がそれを着ていないから、さっきまで楽しめていなかったわけですよね?」

「…やっぱり分かっちゃう?」

「分かりますよ、そりゃあ。」

 あんなに分かりやすく落ち込まれてはね。気付かないふりはしていたが。

「ですからその、今日だけ、ですよ?」

「…ほんと?」

 ほんとは私もこんな場で女装なんてしたくない。

 けど、この休暇は私と菊池先輩の二人で楽しまなくちゃ。

 だから、

「い、いい、です。」

 瞬間、

「そ、それじゃあ、どこで着替える!やっぱりここで…!」

「ちょ!?ちょっと落ち着いてください!ここで着替え始めたら、色々とまずいですよ!」

「…そ、そうね。そうだったわね。それで、どこで着替える?」

「…誰もいない場所で、こっそりと。」

 これは絶対に譲れないところだ。

 これでもし、他の誰かに見つかるものなら、私は一生、恥を背負って生きていかなくてはならなくなるだろう。

 この年で、そんな恥を背負いたくはない。

 ま、罪悪感はあるけど。

「分かったわ。それじゃあひとまず、この場を離脱しましょう。」

「はい。」

 そう言って、私と菊池先輩は昼食を食べ終えると、この場から消えた。



 そして数十分後、

「…あの、やっぱり帰っていいですか?」

「駄目よ!せっかく着替えたのにすぐに帰るなんて、勿体ないわ!」

「うう…。やっぱり提案しなければよかったかも…。」

 私はワンピースタイプの水着を着て、また施設内に入った。

 もちろん、ロングヘアーのウィッグも装着済みなので、ばれる要素はない、と思う。

 ああ、なんで私がこんな目に…。

「とっても!とっても似合っているわ、優君!!!」

「え、ええ。あ、ありがとう、ございます…。」

 まったく嬉しくない賞賛を受け、私は落ち込む。

 まさかここにきても女装する羽目になるなんて。

 ゴールデンウィークの旅館や、昨日のモデルは仕事のために仕方なく女装したのだが、今回は完全に目的が違う。

 今回は菊池先輩を楽しませるため、要は私用だ。

 なんか、自分の感覚がおかしくなってきている気がする。

 もしかしたらみんなも休日は女装するのかも?

 …そんなわけないか。

「さぁ優君!午前中、楽しめなかった分、堪能するわよ!」

「あわわ…。ちょ、ちょっと手を引っ張らないでください!一人で行けますから!」

 でも、

(菊池先輩の笑顔が見られなら、多少の我慢はしておこうかな。)

 そんなことを考えながら、私は菊池先輩に連れられ、様々なアトラクションを楽しむ。

「キャー!ほら、ほら優君?楽しい?」

「はい!」

 やっぱり、笑顔が一番だ!



 遊ぶのに夢中になっていたおかげで、一つ大事なことを思い出す。

 それはほとんどの人が常に気にし、全人類がそれに縛られ、行動している、と言っても過言ではない。

 それは、

「…あれ?いつの間にか外、暗くなっていません?」

 時間である。

 あれから私と菊池先輩は楽しく遊んだ。

 それはもう無邪気な子供のような、童心に返るような、そんな心地よい時間だった。

 ま、私は今も子供ですが。

 見た目だけで言えば、幼児に捉えられることもありますが!

「…あら?いつの間に。気が付かなかったわ。」

「どうします、帰り?」

 時刻はもう夕方。

 今から帰ることも可能だけど、着く頃には真っ暗だろう。

 だからと言って、一日中ここにいるのもなんだかな~、という感じでどっちもどっちな自分がいる。

 ここはどうすべきか、大人の菊池先輩に任せようかな。

 こういう時だけ大人に任せるってずるい、のかな?

 今度からは自分で決められるようになろう。

「う~ん…。そうだわ!悩むくらいなら、ここに泊まっていけばいいのよ!」

「え?」

 私は時が止まったかのように、動きを止めた。

「え?ここって、宿泊施設、なのですか?レジャー施設だと聞いていましたが?」

「そ。ここはレジャー施設もあり、宿泊施設もあるのよ!パンフレットにも、サイトにもきちんと記載されているわよ?」

「…ほんとだ。確かに宿泊施設もあるみたいですね。」

「でしょ!?だから、今すぐ慌てて帰るより、ここで一泊して、明日帰ればいいのよ!」

 と、菊池先輩は私に向けてビシッ!と指差す。

「そうですね。ここは一泊して、明日帰りましょう、菊池先輩?」

「うん!」

 私と菊池先輩は宿泊施設に向けて歩き出した。

 その後、私と菊池先輩は同じ部屋に泊まり、一緒に寝た。

 その時、

「もう!最高の休暇じゃない!!ありがとう、優君!」

 こう言ってもらえただけでもうれしいものだ。

 そうなると、言い方は悪いが、ミスをしてくれたあの方々には感謝しないと、かな。

次回予告

『小さな会社員と何でも出来るOLの休暇生活~3日目~』

 レジャー施設、『TOKYOサマンド』で遊んだ優と菊池は、その施設を後にし、いよいよマンションに帰ろうとする。その道中、東京駅に寄り道しつつ、無言の意志疎通をする。

 携帯が震えていることに気付かずに。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

 感想、ブックマーク、評価等、よろしくお願いいたします。

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