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新入女性社員の今後対策会議生活

 何気ない朝食の時間が終わり、

「お願いします。」

「はいよ。」

「お願いします。」

「ほい。」

「お願いします。」

「へい。」

 工藤先輩と橘先輩の二人は食器洗いを行っている。どうやら、朝食の準備を菊池先輩と桐谷先輩、食器の後片付けを工藤先輩と橘先輩とでそれぞれ分けているらしい。4人が事前に役割でも決めたのでしょう。

「ふ~♪」

「は~♪それにしても、久々に満足いく朝食を食べた気がします。これも菊池先輩のご教授の賜物です。ありがとうございます。」

「別にいいのよ。調理しながらだし。」

 そんな世間話を二人はしていた。

(先日の話題には一切触れていませんね。)

 この二人、わざと触れずに話しているのでしょうか。それとも、単なる偶然?これだけでは判断できませんね。もう少し様子をうかがってみましょう。

「それに、多少でも料理を教えていた方が、調理時間の短縮に繋がるしね。」

「なるほどです。」

「それに後々、あなたが誰かさんと結婚するときに役立つわよ?」

「けっ・・・!?」

「もちろん、あなたの想い人と、ね?」

「・・・。」

 一体、二人が誰についての話をしているのか分かりかねますが、誰かの恋路についての話をしているだけは分かります。文脈からして桐谷先輩だと思うのですが、桐谷先輩に好きな人っていたのですね。私、全然気づきませんでした。いえ、成人しているとなれば、好きな人がいてもおかしくないのでしょう。私はきっと、まだ子供なので恋というものが何なのか分からないだけです。・・・ちなみに、私が子供と判断したのはあくまで年齢の話であって、肉体的、身長で判断したわけではありません。て、私は誰に弁明しているのでしょうか。

(それにしても、)

 菊池先輩が“あなたの想い人と、ね?”と言った瞬間、桐谷先輩が顔を赤くしたのは気のせいですかね。

「・・・。」

 その後、台所の方を見ていましたが、台所に何かあるのでしょうか?食器とかジャグジ等を見ていたのでしょうか。もしかして、工藤先輩達がきちんと食器を洗えているのか心配、とか?ありそうです。

 そんなことを考える事数分。

「ふ~。終わった、終わった。」

「・・・。」

 食器を洗い終えたのか、工藤先輩と橘先輩は戻り、席に着く。コップに淹れてある何かを飲みながら。きっとコーヒーでも注いだのでしょう。そして一口飲んでから、工藤先輩がコップを無音で置いた後、

「それじゃあ、今後の話し合いでも始めるか。」

 工藤先輩が話を切り出す。今後の話し合い。言われるまでもなく桐谷先輩の事でしょう。

「「「「はい。」」」」

 私は声を揃えるつもりはありませんが、同じタイミングで返事をしたみたいです。

「それでだが、今後はどう動くつもりだ?」

 と、工藤先輩が私と菊池先輩に視線を移す。なので、私が話を切り開くとしましょう。

「もちろん、策は練ってあります。」

 私は以前から練っていた考えを、社長を失墜させる案を簡易的に話す。その後、私はすでに作成済みの資料を見せながら説明し、具体的な説明を補足する。

「・・・以上の順序、方法を用いれば、きっとあの社長を社会的に潰せると思います。」

 これで話し終えたかと思います。そういえば先ほどから一人でしゃべり続けていましたね。他の方が話をいつでも切りだせるよう出来るだけ配慮していたのですが、最後まで私の話を聞いてくれていましたね。自分の話はこれで終わったので、質問が無いか聞きますか。

「それで、何か聞きたいことはありますか?」

「「「「・・・。」」」」

 どうやら質問はないみたいです。

「ではこれで・・・、」

 私が話を次に行かせようとすると、

「ちょ、ちょっと待った!」

 工藤先輩が話を中断させる。

「?何かありましたか?」

 話の途中、不明な点がないか何度も聞いていたので、質問する箇所は無いと思っていたのですが、あったのですね。であれば、さきほど念のために聞いていたところで質問すればよかったのに。

「優一人でここまで考えていたのか?」

「?ええ。それが何か?」

 工藤先輩の質問の目的は分かりませんが、工藤先輩の質問に答える。ここまでの具体的な線引きは分かりませんが、桐谷先輩が今後、あの社長に臆することなく生活できるくらいには考えています。

「・・・小学生ってここまで出来るっけ?」

「?はぁ。出来ると思いますよ。」

 私も一応小学生の分類に当てはまるので小学生なのですが。そういえば、他の小学生がどのような生活、知識を身につけているのか把握していませんでしたね。ま、そんなことは今の私にとって不要だと感じているのでどうでもいいのですが、ここまで出来る人もいるでしょう。

「普通の小学生は出来ないと思います。」

「ただでさえ、大人である私も出来ないのに。優さん凄いです。」

「うふふ♪さすがは私の優君。小学生でここまで考えられるなんて♪」

「?」

 何故か橘先輩、桐谷先輩、菊池先輩から賞賛を受けてしまいました。これくらい、大切な人のためならば当然の事なのかと思いますが、変なのでしょうか?ま、今は気にしないでおきましょう。

「さて、それでは話を続けますね。」

 私は言葉を並べ、空気を変える。

「まず近日中に弁護士に相談、探偵事務所や興信所等に相手の身辺調査を依頼していきます。」

 といっても、探偵事務所と興信所に違いはほとんどないんですけどね。出来れば探偵業の届け出を出しているところが望ましいです。

「後、今後の桐谷先輩なのですが、」

 私は桐谷先輩を見る。

「え?わ、私、ですか?」

「はい。桐谷先輩には桐谷先輩を守ってくれるボディーガードを雇いたいと思っているのですが・・・。」

 あいにく、私にはボディーガードの伝手を所有していません。もっと仕事の幅を持たせていれば活用出来ていたかもしれませんのに!思わず悔やんでしまいます。

「今の私にはボディーガードに関する伝手が無いので、どうすればいいかなと。」

 私はここで先輩方に意見を求める。

「う~ん・・・。そもそも桐谷にボディーガードをつける必要なんてあるのか?別に要らないと思うんだが?」

 まぁ、要らないと言われれば要らないでしょう。ですが、あくまで保険です。万が一、あの社長が桐谷先輩に急接近し、何かしたら・・・。その可能性を踏まえてのボディーガードだったのですが、工藤先輩の言う通り、要らないのかもしれません。私の心配のし過ぎですかね。

「馬鹿ね。優君はあの屑がこの子に接近した際の事を考慮して言っているのよ。」

 流石は菊池先輩。私の考えていることはお見通しのようです。

「なるほど。そうなのか?」

「はい。」

 菊池先輩の言う通りなので、私は肯定する。

「だったらそこらのボディーガードより橘の方がいいんじゃないか?」

「え?俺?」

「そう。」

「それはどういう意味ですか?」

 私は工藤先輩の考えが分からないので質問する。

「な~に。橘のあの顔なら、よほどの馬鹿でない限り近づきもしないだろうし。手を出す輩はもっといないだろうし。ま、橘と桐谷が良ければ、の話なのだが。」

 工藤先輩はそう言い、橘先輩と桐谷先輩を交互に見る。橘先輩の顔って、人を寄せ付けないのですか?工藤先輩の話を聞いているとそう解釈できるのですが。

「それで、どうだ?」

「えっと・・・桐谷が良ければ俺は、いい、ぞ?」

「それじゃあ、よろしくお願い、します。」

「そういえば、俺はどのくらい桐谷の近くにいればいいんだ?」

 と、橘先輩が聞いてきます。そうですね・・・。

「平日は出来る限りお願いしたいところです。通勤や社から出る場合は必要だと思います。ま、桐谷先輩も、出来るだけ平日は一人にならないよう注意していただければと思います。」

 ああいう類の人はいつ何をしてくるか分かりませんからね。権力やお金を持っている人は、そういうものを遠慮なく使ってきますからね。善行であればよいのですが、このような脅しをする人はきっと、悪行にもお金や権力にものを言わせて行動を起こすと思います。なので常に警戒をするべきでしょう。平日はもちろんのこと、休日もです。

「あの、それじゃあ休みの日はずっと家にいるべきですか?」

 そんな事を桐谷先輩から質問された。そうですね。安全第一に考えるのであればずっと家にい続けるべきなのでしょう。ですが、それを実行出来るかどうかは難しいところでしょう。休日に出かけたいところもあるでしょうし、買い物だってあるでしょう。なので、妥協点としては、あれを持つ、くらいでしょう。

「それが一番ですが、実際にするのは難しいと思います。」

「た、確かに。」

 そう桐谷先輩は納得する。

「なので、もしもの時のために隠しカメラを設置し、ボイスレコーダーを携帯し、いつでも音声を録音出来るようにしておいてください。」

 これで万が一、あの社長が桐谷先輩に近づき、暴言を吐いたなら、その様子も、その声もしっかり証拠として残すことが出来るでしょう。

「でも私、そういう類の機械はもっていなくて、すみません。」

「?何故謝るのかは分かりませんが、心配しないでください。私が持っている物をお貸ししますよ?」

 本当、何故桐谷先輩はこのタイミングで謝ってきたのでしょう?無意味に謝るとは思えません。きっと、桐谷先輩にとって申し訳ないと感じたから、私に謝罪をしてきたのでしょう。さきほどの会話で私に申し訳なく感じる要素があったと私は思いませんが。

「え?優さん、持っているのですか!?」

「ええ。」

 あの美和さんの一件以来、常に複数のボイスレコーダー、隠しカメラを購入し、使えるようにメンテナンスしています。ま、菊地先輩の持っている機械よりスペックは低いですけどね。

「ですから、私が所有しているものをお使いください。使い方は今度渡すとき、説明書と共に説明します。」

「あ、はい。」

「後は探偵事務所の件ですが・・・、」

 困りましたね。

「?どうしたんだ?」

「私、弁護士は知っているのですが、身近に探偵の人を知らないんですよ。」

 こういう時、知っている人であれば信頼関係も構築しやすいし、話しやすいのですが。ないものをねだっていても仕方がありませんよね。

「誰か、知り合いに探偵の方はいませんかね?」

 出来れば警察の方とも相談したいところなのですが、警察の知り合いもいません。さて、どうしたものやら。

「「「・・・。」」」

 ま、そう簡単にいるわけないですよね。こうなったら、事前に調べておいた探偵事務所に足を向けるとしますか。初対面なのでちょっと心配なのですが、仕方がありません。菊池先輩が前に使っていた探偵事務所、最近廃業してしまいましたし。何故いきなり廃業してしまったのでしょうね。今私が考えていてもどうしようもないですが。

「・・・俺、知っている。」

「「「「え????」」」」

 全員いないと思っていたのですが、まさかの橘先輩から思わぬ言葉を聞きました。

「悪友だけど、探偵事務所に所属している探偵がいる。そこに頼むのはどうだ?」

「それはぜひお願いしたいところですが、お願い出来ますか?」

「ああ。任せておけ。」

 まさか橘先輩に探偵の知り合いがいるとは思いませんでした。どういう生活をすれば探偵の知り合いを持つことが出来るのでしょうか。これも橘先輩の人生の賜物なのでしょう。

「次は警察に相談したいと思っています。」

「「「「・・・は????」」」」

 4人の先輩方は驚いているようですが、私はその理由を簡潔に話す。

「・・・以上が理由となります。もちろん、証拠もないですし、あくまでその社長の会社でひそかに昇っている噂未満の類なのですが。」

「まじ?」

「本当かどうかは分かりません。なのでそこも調べていただこうと思っているのですが、追加でお願い出来ますか?」

 一応、こちらでも調べるつもりですが、限度があります。あらゆる可能性を踏まえると、別の探偵にもお願いした方がいいかもしれませんね。その方面で検討も試みましょう。

「分かった。にしても、」

「?」

 何でしょう?

「優さん、そんな噂、どうやって知ったのですか?」

「どうやっても何も、ただ調べただけですよ?」

 ただあの社長の事を調べ上げ、あの社長が所属している会社も徹底的に洗い直した。その結果として、さきほど述べた情報を得た。それだけです。別に特別な事はしていません。した覚えなんてありません。

「なんというか、優。」

「はい。」

「こういうことって、全部そこの隣にいるやつに教わったのか?」

「ええ。」

 工藤先輩の言う隣にいるやつとは、菊地先輩の事を指し示している事でしょう。であれば肯定です。

「「・・・。」」

「?何?」

「「!?い、いえ!!」」

「ふ~ん。ま、いいけど。」

「?」

 突然、橘先輩と桐谷先輩が菊池先輩を見ていましたが、どうかしたのでしょうか?このタイミングで菊池先輩を見るという事は、菊地先輩が何かした、ということなのでしょうか?

「菊池先輩。今、何かしましたか?」

「いえ?何もしていないわよ。」

「そうですか。」

 では二人はどうして菊池先輩を見ていたのでしょう?

「多分、優君が思っている事とは違う理由なんじゃないかしら?」

「そ、そうですか。」

 きっと、今の私では考え付かない理由でお二人は菊池先輩を見ていたのでしょうね。


 ちなみに、何故橘寛人と桐谷杏奈が菊池美奈を見たのかというと、

((ここまでの小学生らしからぬ行動はやはり、菊地先輩が教えていたからだったんだ。))

 小学生らしからぬ発言、行動、態度、全てが菊池美奈発祥なのだと分かり、見ていたのだ。そこに早乙女優本人の強い意志が含まれ、成果として今、出力されている。


「それでですね。その後の事なんですけど、先輩方には先に話しておきますね。」

 私は考えていることを話す。

 あの社長がもし、私達の言葉を聞き、反省をしなければ実行する第二の計画を。今はまだ練っている段階ですし、詳細は未定ですが、それでも自分の言葉で決めているところまで話す。

「・・・以上が、もしあの社長が改心しなかった場合の計画となります。もちろん、まだこの案は誰にも話していないので行動に起こしていませんが。」

 私が一通り言い終えると、

「「「「・・・。」」」」

 4人とも黙ったままとなりました。いきなりこんなことを聞かされても困るでしょうね。ですので、きちんと回答可能な状態になるまで待ちますか。

(あ。)

 みなさんの飲み物が切れていますね。淹れ直してきますか。

「はい、どうぞ。」

「「「「あ、ありがと。」」」」

 先輩方は一斉に飲み物を体内に取り入れる。どうやら、よほどのどが渇き、水分を欲していたのでしょう。

「取り敢えず優君、その二つ目の事は後日、会社で話そうね、優君?」

「・・・そうですね。先ほど話したことは森社長、人事部の方達とも相談する必要がありますしね。」

 そう私が言いきると、

「「「「・・・。」」」」

 何故か私以外の人達が私を私でない何かを見ているような視線で見つめています。別におかしなことは言っていないと思うのですがね。

「えと・・・それで、話すことは終わりか、優?」

「そうですね。これで終わりだと思います。」

 まだ言っていないことがあるとすれば、二つ目に話し始めたことです。それは会社で社長、人事部の方達と要相談から慎重に行動するとしましょう。

「じゃあこれで今日は解散するか。」

 この工藤先輩の話に、それぞれが立ち上がる。

「あ。桐谷先輩はちょっと待ってください。」

「え?」

「ちょっと渡したいものがありますので、少し待ってください。」

 私は急いで自室に戻り、予め購入していたボイスレコーダーと小型カメラを複数持ってくる。

「こちらがボイスレコーダーで、こちらが小型カメラとなります。電気屋で買ってもいいですし、こちらを使っても構いません。」

「あ、はい。あ、ありがとうございます。」

「使い方は分かりますか?説明書は同封していますが、聞きますか?」

「えっと・・・使ったことないのでお願いします。」

「はい。」

 私は使い方を説明し、簡単に実演しながら理解を促す。

「なるほど。分かりました、ありがとうございます。」

「いえ。でしたら今日からお願いしますね。」

「は、はい!」

「それと橘先輩。」

「なんだ?」

「橘先輩には負担がかかるかもしれませんが、桐谷先輩のこと、よろしくお願いします。」

 私はきちんと頭を下げ、親しき人にも礼儀を示す。

「あ、頭を下げるな!俺は俺がやりたいからやるんだから!」

 そう言われたので、もう少し下げる予定だった頭をすぐに上げる。

「分かりました。」

「ああ。それじゃあ俺達はこれで失礼するよ。桐谷、行こうか?」

「あ、はい!」

 橘先輩と桐谷先輩が外出する準備を始める。

「それでは、昨日今日、失礼しました。」

「ほ、本当にありがとうございます!優さんや先輩達のおかげで私は・・・!」

「まだです。」

 桐谷先輩の言葉を抑え、私は先に言葉を発する。

「その言葉は、この一件が片付いた時に聞かせてください。それまでは私、精いっぱい尽力いたしますので。」

「俺達、な?」

「そうね。今回ばかりは工藤の言い分が正しいわね。」

 工藤先輩だけでなく菊池先輩まで・・・。そう、ですね。今回はお二人の言い分が正しいみたいです。

「さきほどの発言を訂正します。私達が尽力いたしますので、この一件が終わったら、さきほどの言葉を聞かせて下さい。」

「はい。それでは失礼します。」

 桐谷先輩は軽くお辞儀をした後、社員寮を後にした。

(頑張って下さい。)

 桐谷先輩にはまだまだ苦労を強いられることですが、今を乗り越えるため、頑張ってください。どうしても一人で乗り越えることが不可能であると言うなら、私も、先輩方も精いっぱい尽力させていただきますよ。

「・・・。」

 桐谷先輩が社員寮を出た後、それに続いて橘先輩も社員寮を後にする。社員寮を出る直前、私達に頭を下げてきたので、

(橘先輩、後をお願いします。)

 そんな思いを込めてお辞儀をする。

 さて、桐谷先輩の身辺警護は橘先輩に任せるとして、私はあの社長の身辺調査をするとしますか。早期解決を目指すため、入念な証拠集め、過去の行動履歴を調べ上げるとしますか。


 それから優達は、桐谷杏奈という会社員を救うため、それぞれ動き出す。会社に勤める会社員のため、平日は会社に勤めて働き、社会に貢献する。その水面下で、お昼休みの間に行動を起こす。橘寛人は、自身の悪友が所属している探偵事務所に予め電話を入れ、その後に探偵事務所に赴き、契約内容について話し、金銭の交渉を行い、仕事内容を確認し、仕事を外部委託する。早乙女優と菊池美奈も同様に、橘寛人が頼んだ探偵事務所とは異なる事務所に足を運び、契約を結ぶ。契約内容はもちろんあの社長、石井亮太の身辺調査である。工藤直紀は桐谷杏奈を引き連れ、事前に申請していた社長との対談を行う。会話の内容、これからやる予定の物事を話し始めると、社長と社長の秘書は驚愕する。それもそうだろう。まだ入社したばかりの社員が、社を守るために政略結婚しようとし、それを止めようと今、他の社員達が奮闘しているのだ。驚かない方が無理だろう。工藤直紀はいくつか話していくうちに、社長はある箇所に電話をかける。数分後、とある社員が来る。それは人事部に所属している会社員、川田朱夏である。社長は工藤直紀の案に乗り、もし何かあればこの人事部の社員に指示をしてくれ、という許可を出す。その言葉に工藤直紀は、「ありがとうございます!」全身全霊のお辞儀を持って、感謝の意を示す。「あ、ありがとうございます。」桐谷杏奈は工藤直紀に続き、同様に感謝の意を示す。社長もどうやら同じ社長として、同じ男として許せないものがあり、工藤直紀達の行動を許可する。だが、その許可にはある条件が追加される。

「おそらくこの件は、来月の始めに行われる社長同士の会議で決着がつくだろう。私もその内容の詳細を把握するため、数日後、遅くとも来週の初めまでに君達がどのようにまとめたのか聞かせてほしい。その際、私はもちろんのこと、幹部も出席させるが構わないか?」

 という内容であった。工藤直紀はもちろん、桐谷杏奈は内心ビビる。なにせ、社長に会うだけでも緊張するというのに、まだ会って数回、下手したら顔も名前も覚えていない方達の前でプレゼンするのだ。しかも、失敗は許されない。失敗すれば、桐谷杏奈の未来が確実に暗くなってしまうから。だから工藤直紀は、「了解しました。」と、声を発した。自分の後輩を守るため、自身のやりたいことを全うするため。工藤直紀は人事部の社員、川田朱夏にも事情を話し、やってほしいことを話す。話してみたところ、

「なるほど。確かに手間がかかるし、無駄になるかもしれないけど、やっておいて損はないかも。それじゃあ私も動くから、数日中に資料をまとめるから。」川田朱夏は了承し、その場を去ろうとした。だが、去る直前、川田は桐谷の近くに寄り、「大丈夫よ。私達は、あなた達社員を、桐谷杏奈という社員を見捨てることは絶対にないから任せて。」という声をかけて、社長室を礼儀欠くことなく後にする。その後、工藤直紀と桐谷杏奈も社長室を後にし、仕事を再開する。

 そして、勤務時間中に通常業務はもちろんのこと、桐谷杏奈を不幸にさせないための策を練り続ける。その策をいかようにするか、何度も何度も話し続ける。それはもう、航空機の部品を設計するかのように入念に、ミスの無いように、である。

 桐谷杏奈を石井亮太の脅威から護るための作戦は、会社から退社しても練り続ける。

「・・・見つけました。あの人、この名前で日々投稿しているのですね。であれば、これを遡れば何か分かるかもしれません。後、この方の小、中、高、大の時の周囲も調べておきましょう。」

 早乙女優は、石井亮太のネットストーカーと化していた。少しでもこちらが有利になるよう、何か手掛かりがつかめるよう、石井亮太の周辺を調べに調べまくっている。

「優君!これ、使えるんじゃないかしら?」

「どれですか?」

「これよ。この投稿に記されている・・・。」

「なるほど。ですが、これの裏をとらない限りはなんとも言えません。」

「それじゃあ裏は専門業者に頼むとして、今は噂の類でもいいから、出来るだけ使えそうな情報を探すわよ。」

「はい。」

 菊池も石井亮太のネットストーカーと化していた。二人は協力し、社長である石井亮太を追い詰めようと、必死になってパソコンとにらめっこをし続ける。その作業は毎日日をまたぎ、寝る時間なんて極僅かで、寝たかどうかも本人達は分からない。それくらい、二人は集中してパソコンを見続けたのだ。

(何か、何か桐谷先輩を救う手立てはないでしょうか?)

(優君の努力を無駄にさせないため。優君の幸せを守るため。そして、優君に素敵なものをもっともっと見せるため、苦しい今を乗り越えなくちゃ!)

 それぞれの想いを胸に秘め、二人はネットでの捜索を続ける。


 とある5人の会社員がある社長の脅威と戦うため、必死に準備を行っている頃、世間はバレンタインデー目前にし、多くの人が浮かれていた。

チョコを誰に渡そうか悩み、どう渡そうか考えている者。

チョコをいくつもらえるか楽しみにしている者。

 渡す側も渡される側も心浮き踊る日が近づいている。それを様々な企業、人が後押しし、様々な広告が飛び交い、世間では時事ニュースとしてよく取り上げられた。そんな世間のためか、よりバレンタインが盛り上がっている。盛り上がっている人々の中には様々な人がいる。その人々は、バレンタインデー間近にして、それぞれの心境を胸に秘め、その日を心待ちにしていた。

次回予告

『女子小学生達の洋菓子贈呈準備生活』

 早乙女優達が桐谷杏奈の件で動いている頃、世間はバレンタイン一色になっている。そのバレンタインに向けて、ある女子小学生達は特定の者にチョコを渡そうと動き始める。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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