会社員達の豪華朝食生活
一晩経過し、私は昨晩の事を思い出していました。
(今考えると、あの時の私は先輩方に偉そうな態度をとっていましたね。)
昨晩、私は先輩方を試すような発言をしていました。自分はまだ子供なのに、年上の方に取るべき態度、姿勢ではありませんでした。それくらい、昨晩の私の感情が高ぶっていたのかもしれません。桐谷先輩の事、言えませんね。
「さてと」
先日の話を何もしていなかったので、話をしようかと考えながら共同リビングに向かう。
(そういえば、朝食の準備がまだでしたね。)
朝起きた時、既に桐谷先輩はいませんでしたし。代わりに置き手紙が置いてあったのでよかったのですが。
“昨晩は本当にありがとうございました。桐谷杏奈。”
という、短いながらも桐谷先輩の気持ちが伝わってきました。こういう細かな配慮を忘れないのが、桐谷先輩の長所の一つでしょうね。だからこそ、菊池先輩、工藤先輩、橘先輩が助けたいと思えたのでしょう。桐谷先輩の真心が成せる業です。
「ん、ん!?」
共同リビングに着きそうだったので、伸びをしながら歩き、共同リビングを覘くと、
「・・・お?優も起きてきたか。おはようさん。」
「おはよう。」
工藤先輩、橘先輩が席に座っていた。
「お、おはようございます。は、早いですね。」
早朝、とは言えませんが、まだ朝です。平日ならまだしも休日にこんな朝早くから起きてくるなんて珍しい。それと、工藤先輩はともかく、橘先輩は昨晩、どのように過ごしたのでしょうか?服装が変わっているので、どこかで着替えたのでしょう。どこかは分かりませんが。
「今、菊地と桐谷が朝食作ってくれているんだ。優も食っていくよな?」
「え?」
まさか?台所を覗いてみると、
「ウフフ~♪これで優君の舌を唸らせてあげるんだから~♪」
「菊池先輩、これ、運びますね。」
「よろしく~♪」
・・・確かに二人とも、台所に立ち、料理していますね。それにしても、二人は一体、どういう心境で料理をしているのでしょうか?料理をすることによって気分転換になる、ということなのかもしれません。私もそういう時ありますからね。
(この香り・・・いえ、気のせいですかね。)
一瞬、チョコの香りに近い何かが鼻を通過した気がしましたが、気のせいでしょう。
「はい、先輩方。」
桐谷先輩はそう言い、朝食を食卓に並べていく。
「お♪おでんか。」
「美味そう。」
確かに美味しそうです。そういえば出汁の素晴らしい香りがそこら中に漂っていますね。まったく気づきませんでした。
「それと、はい♪」
菊池先輩が来たかと思うと、私の前にコップを置いた。空のコップではなく、何か茶色が混じった白の液体が入っています。これは、
(牛乳、ですね。)
ですが、この茶色いものは一体・・・あ。そういえば台所に、ココアの粉があったような気がします。なるほど、その粉を牛乳に入れて溶かしたのですね。
「ありがとうございます。」
「うふふ~♪」
私が菊池先輩に対してお礼の言葉を述べると、返事になっているようないないような態度を示してくれました。これは・・・どっちなのでしょう?ま、どっちでもいいでしょう。
「さ、そろそろ朝食を食べましょうか?」
菊池先輩が声をかけると桐谷先輩、菊地先輩の順に席に着く。
「うふふ♪優君の隣の席は誰にも譲らないわ♪」
何故か当然のように、私の隣には菊池先輩が座る。他の先輩方、私の右隣は必ず空けるように努めていますからね。
「さて、それじゃあいただきます。」
「「「「いただきます。」」」」
菊池先輩の一声で、私達は食事前の挨拶を行い、朝食を食べ始める。
ちなみに、今日の朝食はおでん、パン、サラダ、焼き魚、ベーコンと、朝から少し豪華な品数とボリュームです。野菜だけでなく、肉も魚もバランスよく摂取できそうな献立な気がします。
「はい優君、あ~ん♪」
「いえ、一人で食べられるので結構です。」
「そ、そんな!?私、優君にあ~んしないともう生きられない体なのよ!?それなのにこの仕打ち、ゾクゾクしちゃうわ♪」
「「「「・・・。」」」」
私達は、出来る限り菊池先輩に関わらないように食事をし、話を交わした。といっても、大した内容は話していません。工藤先輩が先日作ったバレンタインチョコについて聞いてきたので、「バレンタインになったら分かりますよ。」と教えました。そしたら、「それじゃあ菊池、お前は今回、優にどういうチョコを贈るつもりなんだ?」と聞いていました。確かに私も菊池先輩のチョコは気になっていたんですよね。私、他の方々にチョコ作りを教えていたので、菊地先輩が何のチョコ作っているかまで見ていないんですよね。そしたら、「うふ♪それはね、それは・・・うふ♪」こう菊池先輩が言い始めた瞬間、私の勘が警報を鳴らし始めました。「うふ♪うへ♪うへへへ♪♪」それはもう、みなさんが朝から菊池先輩にドン引くくらいに菊池先輩の笑みは気持ち悪い、ゴホン!深みをもたせていました。菊池先輩、一体どんなチョコを作ったのでしょうか?聞きたいような、聞きたくないような?ま、バレンタインデーになれば分かることです。残り一週間、気長に待つとしましょう。
「ちなみに、チョコを使った料理がこの中にあるわよ?」
「「「え???」」」
まさかの菊池先輩の発言に、私、工藤先輩、橘先輩は驚いてしまいました。これらの料理のどれかにチョコが使われている、ですって?テーブルにはおでん、サラダ、焼き魚、ベーコン。どの料理に使われているのでしょう?
「なるほど。」
どうやら、工藤先輩は私より早く気付いたみたいです。さすがは工藤先輩です。目の付け所が違います。
「ズバリ、パンだな。」
そう工藤先輩が断言しました。確かにパンにチョコを入れたとなれば納得です。チョコパンが商品として売りに出されるくらいです。チョコとパンの相性は言うまでもないでしょう。
「ぶっぶー。はいざんねーん。酒ばかり飲んでいるから味音痴なのよ。」
「ちぇ。外れかよ。」
え?パンではなかったのですか?私、てっきりパンかと思っていましたのに。となると一体何にチョコが使われているのでしょう?
「ちなみに橘は分かる?」
「・・・分からん。お手上げだ。」
そう言い、橘先輩は用意されたココア入り牛乳を飲む。橘先輩の言葉を聞き、
「うふふ♪後は優君だけよ♪」
「・・・。」
これ、私も答えなくてはならないみたいですね。とはいえ、私もどの料理にチョコを入れたのか、まったく見当がつきません。ここはひとつ、考えてみますか。
(・・・。)
先ほど、工藤先輩がパンと言ったのに、菊池先輩たちはパンではないと言っていました。ということは、パン以外のいずれかである、おでん、サラダ、焼き魚、ベーコンのどれかにチョコが入っていることになります。
まずはおでんから考えましょう。おでんに入っていると考えると、具か出汁に入っている、という風に考えられますね。ですが、おでんの具や出汁にチョコを入れるなんて聞いたことがありません。ま、万が一、チョコに合うようなおでんを作ったのであれば分からなくもないですが、食べてみたところ、店に売られているようなおでんでした。具材も全て食したわけではないので分かりませんが、具材にもアレンジを加えられている様子はなさそうです。
次はサラダです。サラダに紛れているとすれば、ドレッシングでしょうか。ですが、今使っているのは市販されているドレッシングです。そのドレッシングにチョコが混入されているとは思えません。途中で菊池先輩らがチョコを混ぜた、なんて可能性も考えられますが、その可能性は低いとみるべきでしょう。
次に焼き魚です。これも食べてみましたが、塩味がかなり効いていました。それも、何もつけずにです。きっと、菊池先輩たちがこの魚に下味を濃い目に付けてくれたのでしょう。ですから、この焼き魚は何もつけずに食べることが出来ます。もともと、私は何もつけずに食べる方なんですけどね。それで、この焼き魚にチョコが混入しているとするなら・・・駄目です。この焼き魚にチョコが混入しているという仮定が出来ません。チョコと魚を一緒に食べる習慣がほとんどないので、味の想像がつきません。
次にベーコンです。これも焼き魚と同じように塩味が効いていますね。そのおかげで、何もつけずに美味しく食べることが出来ます。ですので、このベーコンとチョコが混在している事が全く想像できません。
(・・・あれ?)
となると、このテーブル内には、チョコを使った料理が存在しないことになります。菊池先輩達がこんな嘘をつくとは思えませんし。となると、私が何か見落としているのかもしれません。
「菊池先輩。」
「ん?なぁに?」
「私はその料理を既に口にしましたか?」
「ええ。でも、もうこれ以上は言わないわよ?」
「分かりました。」
私が既に口にしたもの、ですか。ですが、私は既に全ての料理を口にしています。聞くだけ無駄だったのかもしません。
(何か見落としている事があるはずです。)
何かを見落としているとなると・・・あ。
(そういえばこれの事は考えていませんでしたね。)
ですが、これにチョコを入れるのは・・・あり、かもしれません。ですが・・・いけそうですね。
「なるほど。」
どうやら私は無意識に声をだしていたらしく、
「ということは優君、どの料理に入っているか分かったのね?」
菊池先輩が私の呟きに反応してきました。
「あくまで推測、ですが。」
私は推測できたことを告げる。あくまで可能性の範囲内ですけどね。確信は持てません。
「そう?それじゃあ教えてくれる?」
「はい。それはこれ、ですよね?」
私は推測でチョコを入れたと思われる食べ物、牛乳を指差す。
「す、すごい!さすがは優さんです!」
「ふふ♪優君、正解ヨ♪」
私の推測が全て正しいかどうか分かりませんが、答えは合っていたみたいです。
「「へぇ。」」
工藤先輩、橘先輩はどこか納得しているような、聞き流しているような気がします。
「それで優さん、どうして牛乳に入っていると思ったのです?」
「単純に消去法です。最も可能性のあるパンが違うと言われたので、次に可能性のある牛乳だと判断しました。」
自身の考えを簡素に、簡潔に答える。
「でも、牛乳にチョコが入っていたら、普通分からないか?」
「そうです。チョコが入っていれば味とか食感とかですぐ分かると思う。」
工藤先輩、橘先輩が各々の思っていることを言葉にする。確かにそれは私も考えました。ですが、それは既に私の中で解決しています。そのことを話しましょう。
「味はおそらく、このココアで誤魔化していると思います。チョコも少量にして、隠し味程度に入れている、違いますか?」
「!?せ、正解、です。」
「さっすが優君!私達が朝食を作っているところを見ていたかのような回答ね!」
どうやら、私の考えが当たっていたようです。菊池先輩に色々教えてもらったからためか、考えが菊池先輩に似ているのかもしれません。桐谷先輩も朝食作りに携わっているのでなんとも言えませんが。
「でも、チョコが入っているなら舌ざわりで分かるんじゃないか?どんなに細かく砕いてもさ。」
「おそらく、チョコは砕いて入れたのではないと思います。」
「?どういうことだ、優?」
「・・・あ。」
どうやら橘先輩は気づいたようです。
「おそらく、橘先輩が今思いついた方法でチョコを混入したのだと思います。」
「なるほど。」
「?どういうことだ?」
工藤先輩は橘先輩に聞く。
「俺の予想だけど、チョコは砕いたんじゃなくて、湯せんして入れたんだと思う。」
「湯せん?湯せんって何だ?」
どうやら工藤先輩は湯せんという加熱方法を知らないみたいです。工藤先輩はお茶を淹れることにてこずってしまうくらいです。知らなくても不思議ではないでしょう。
「はぁ。せっかく優君、橘が当てたのに気分爆下がりだわ。」
菊池先輩がため息をつく。
「いい?チョコはね、湯せんして溶かしていくの。つまり、湯せんというのは調理法の一種。まったく、調理師免許を持っていなくてもこれくらい大抵の人は知っているものよ。」
「ふん!俺を誰だと思っている!満足にお茶すら淹れられない男だぞ!?そんなもの知っているわけないだろう!?」
「それもそうね。」
工藤先輩、それは偉そうに言う言葉ではないと思います。
「一応ココアを入れて色を誤魔化しているつもりだけど、優君には見抜かれてしまったわね。」
「いえ、私も言われなければスルーしていました。」
これまでの態度、発言、自身のこれまでの記憶、行動をさかのぼり考察しただけです。それほど凄くないでしょう。
「それじゃあ残りの朝食、食べちゃおうね♪」
菊池先輩が笑顔で話しかけてきたので、
「はい。」
私も出来るだけ笑顔で返事を試みる。
こうして、私達の朝食は終わりを告げる。そういえば、今後についての詳細な話を行っていないのですが、どうなっているのでしょうか?もう話は済ませたのでしょうか?
次回予告
『新入女性社員の今後対策会議生活』
少し豪華な食事を終え、今後どうするかについて会議が行われる。その会議は早乙女優を中心として行われ、今後どのように動いてくかについて話し合う。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
 




