女性社員達の洋菓子作製生活
あの日から幾日が経過し、もう金曜日の退社時刻。
「それじゃあ橘!今日は男だけで飲みに繰り出すとするか!」
「はい、お供します。」
「おお!」
工藤先輩と橘先輩はお酒を飲むため、近くの居酒屋へと繰り出していったらしい。明日から休日ですからね。これから楽しい飲酒となることでしょう。飲み過ぎ、注意してくださいね。
「じゃあ、私達は明日の準備、しましょうか?」
「ええ。」
「ちなみに優君、明日作る予定のチョコのレシピ、もう考えたの?」
「ええ。」
「さっすが~♪」
といっても、これからいくつか試作し、上手く出来るか確認するんですけどね。上手く作ることが出来るといいのですが。
「それじゃあ優君、明日、一緒に楽しみましょうね~♪」
「はい。」
菊池先輩は気分上々で帰っていった。
(楽しむ、ですか。)
今の私にはあまり出来そうにありません。何せ、桐谷先輩は今日も体調不良で有休を使用していたのですから。
(桐谷先輩、無事だといいのですけど。)
単なる体調不良で一週間も休むことがあるのでしょうか。それほど今年の風はたちが悪い、ということなのでしょうか?それとも、何か別の理由が?
(後者の方が、可能性としてありそうです。)
桐谷先輩の全てを把握しているわけではありませんが、体調不良だけでなく、心にも何かしらの不調が来ていると思います。私と食事会をした帰り際、桐谷先輩の様子がおかしかったですし。となると、あの時にはもう、体調を崩していた?ですが、そんな様子や兆しは何も・・・。いえ、自分が見逃していただけなのかもしれません。
(桐谷先輩・・・。)
とにかく、菊地先輩が桐谷先輩に声をかけて下さったみたいですので、明日来てくれると嬉しいです。そして、色々な話を聞かせてほしいです。
(明日になれば会えますかね。)
明日の事は明日にならないと分かりませんが、出来れば来てくれると嬉しいです。
(それでは、明日の会に来てくれる方のためにはもちろんのこと、桐谷先輩が来てくれた時、桐谷先輩に喜んでもらえるよう、しっかりしませんとね。)
私はそう決意し、会社を後にする。
土曜日当日。いよいよ今日は、女性社員の方々、社員寮に住んでいる女性社員が複数名集い、バレンタイン用のチョコレートを制作する日になった。
(道具は人数分ありませんが、そこら辺は我慢してもらいましょう。)
さすがに十人分以上の器具は無いので、使いまわしてもらいましょう。材料も、いざという時のために多めに用意したのですが、これで足りるでしょうか。もちろん、この制作会に参加してくれる人達もチョコを持参してくれると言っていましたが、念のためです。それに、失敗してチョコを台無しにしてしまう、なんて方もいるし、多い分には困らないでしょう。
「優君、こっちの鍋は異常なしよ。」
「菊池先輩、わざわざ朝からありがとうございます。」
私が台所の食材の確認をしている間、菊地先輩には今回使う調理器具の点検をお願いしている。本当なら私一人で出来るのですが、「優君と一緒にいたいから何か手伝うわ!何すればいい?」と、お手伝いを志願してくれたので、自分がするべきことの一つを菊池先輩にお願いしました。万が一、器具の故障でチョコが作ることが出来なくなる、なんて事態もありますからね。それを未然に防ぐためにこうして点検をしています。本当なら前日にやるべきだったのですが、チョコの試作で忘れてしまいました。いざとなれば買いに走りますか。多少の時間ロスになるでしょうが、やむを得ません。
「さ、そろそろみんな来るわよ?準備はいい?」
「もちろんです。」
仕込みはばっちりですし、見落としも今のところありませんし、問題ありません。
少し時間が経過し、
「ヤッホー♪」
「今日はよろしくね、優ちゃん♪」
「こちらこそ、今日はよろしくお願いしますね。」
「私、今日作ったバレンタインチョコを本命の彼氏にプレゼントするんだー。」
今日参加予定の方々が共同リビングに集まってきます。
(桐谷先輩は・・・いませんね。)
もう少し待っていれば来るかもしれません。まだ時間に余裕がありますからね。
そうして少し待ってみたものの、
(結局、来ませんでしたか。)
桐谷先輩の姿はありませんでした。やはり、体調は完全に回復していなかったのでしょう。一週間近く経過したにも関わらず、完治しないほどひどい風邪を引いてしまったのでしょうか。心配です。
ですけど、
「さて、みなさん揃ったことですし、始めましょうか?」
私は多くの女性の方々を前にして、今年作るチョコについて説明する。
「今年作るチョコは、見た目に少しこだわるため、複数回冷やし固めて作ろうと思います。」
私は冷ある場所から、以前作っておいたチョコを取り出す。
「何回かに分けてチョコを固め、形を整えていくと、このような鏡餅形のチョコが出kます。」
「「「おおー。」」」
といっても、常温でチョコが固まるには、最低でも数時間はかかります。なので、その他にもう一つ作るつもりなんですけどね。
「そして、このチョコを作る時、どうしても固まるまでの時間が必要になってきます。なのでその間に、もう一つのチョコを作っていこうと思います。先輩方、よろしいですか?」
私は二つのチョコを作ることを説明し、先ほどの説明で大丈夫かどうかの確認をとる。
「「「はい。」」」
良かった。どうやら私が言いたいこと、伝えたいことが無事に伝わったみたいです。
「ではまず、1つめのチョコを作ろうと思います。それではみなさん、準備はよろしいですか?」
「「「はい。」」」
そして、私達のチョコ制作が始まった。
今回私は2種類のチョコを作ろうと考えています。
1種類目は、すぐに固める予定の、見た目にこだわったチョコ。
2種類目は、1種類目より味にこだわり、チョコブラウニーを作る予定です。
「それではまず・・・、」
こうして、私は1種類目のチョコを作る際の説明を始めた。
1種類目のチョコは見た目にこだわった一品なので、正直、味は市販されているチョコと何も変わりません。買ってきたチョコと大差ありません。あったとすれば、と化した際、雑味混入の可能性が予想できます。あくまで予想、ですけどね。それで、形成の際、私はある指示を事前にしました。
それは、
「ねぇねぇ?この形、良くない?」
「だったら、この桜の花びらとか良さそうじゃない?」
「じゃあ私はモミジとか銀杏とかにしようかしら?」
チョコを固める際、参考になりそうな画像や物をもってきてもらい、見ながら形を整えつつ、固める構成に入っている。私も咄嗟に鏡餅をイメージして作ったのですが、それなりに上手く出来ました。イメージしたものが丸、だったからでしょうか。それも、正円じゃなくても成り立つようなものでしたから、多少失敗しても問題なかったのかもしれません。それにしてもみなさん、結構色んな形に仕上げていますね。
「見てみて―。」
「あら?綺麗な円じゃない?これを作ってどうするの?」
「これが固まったら、この上に顔を描くの♪」
「へぇー。なかなかいいじゃない。それじゃあ私は文字にしようかしら?」
「あー。私のパクリー。」
みなさん、思い思いのチョコを形成しています。最も多いのは、円形にチョコを固め、そのチョコを固めた後、上に文字や絵を描く、という方法です。確かに、自身の思いを伝えるのに、言葉はかなり有効ですからね。チョコに書いてしまえば、口で言い辛いことでも伝えられそうな気がします。絵の方も、ユーモアを感じて、目でも口でも楽しめる素敵なバレンタインチョコになる気がします。
「さてみなさん、後はチョコが固まるまで待ちましょう。そして、これから2つ目のチョコを作ります。」
軽く息を整えましょう。
「次はチョコブラウニーを作りましょう。」
「「「はい。」」」
こうして、先輩方は2つ目のチョコ制作に向け、手を動かしていく。
「いやー。アーモンドを入れると、サクサク感が生まれて美味しい~♪」
「マシュマロも悪くないよ?美味しいし。」
「私、栄養面の事を考えて、無味無臭だけど栄養重視のパウダーを入れてみたの。どう?美味しい?」
「・・・それ、普通のチョコブラウニーと変わらないんじゃないの?」
「はっ!?」
時間はさらに経過し、今はチョコ2つ目の制作が大体終わったらしいので、その作ったチョコの試食会となっています。みなさん、試食するために多めに作っていたらしく、きちんと試食分を考慮して食材を持ってきていたみたいです。確かに、試食は大事ですからね。特に、大事な人にチョコを渡し、思いを伝えるときは。
(ま、私にはいまいちわからないんですけどね。)
この光景を見ていると、なんだか少しずつ思い出してきます。
確か去年もこのような会を行い、チョコを作っていましたっけ。私もこの機会にチョコを作り、工藤先輩や橘先輩、そして菊池先輩にチョコをお配りした記憶があります。1年前の出来事なのですが、とても懐かしく思います。
そういえば、菊地先輩は今年、どのようなチョコを作っているのでしょうか?去年は確か、どのようなチョコを作っていましたっけ?
(確か・・・?)
微妙に思い出せません。確か、形にこだわりを持っていた気がするのですが、どんなチョコを菊池先輩は作っていたのでしょう?
「優君、チョコ作りは終わった~?」
「あ、はい。無事に完了しました。菊池先輩の方は終わりましたか?」
「ええ!それはもうバッチリよ!これで今年こそ、優君のハートを我が手中に収めて見せるわ!」
その自身がどこからきているのかは不明ですが、どうやらチョコ作りは成功したみたいです。
「それで、菊地先輩は今年、どのようなチョコを作ったのですか?」
「私?ふふふ、これよ!」
見せてきたのは、
「・・・普通の、チョコブラウニーですね。」
菊池先輩にしては、普通のチョコブラウニーでした。いえ、確かに美味しそうなのですが、これを菊池先輩が作った?何か特別なギミックが備わっているのでは?と勘づいてしまうのは気のせいでしょうか?
「さては優君、このチョコブラウニーをそんじょそこらのチョコブラウニーと変わらない、そう考えているわね?」
「ま、まぁ見た目的には。」
菊池先輩の事ですから、何か仕掛けているのでは?と考えてしまったのですが、やはり何か仕掛けているのでしょうか?
「ふふん♪甘いわね。私の優くんへの愛は、こんなものではないわ!」
菊池先輩がそう言うと、包丁を取り出し、チョコブラウニーを切り始める。
「確か、一センチ間隔で、と。」
菊池先輩が切り終え、チョコブラウニーの断面を確認してみると、
「え?」
その断面には、『YUKUN』と、記されていた。もしかしなくても私の名前、でしょうか?また随分器用な事をしたものです。それにしてもこれはアーモンド、ですかね。アーモンドをこのチョコブラウニー内に入れ、チョコブラウニーを切った時、きちんと私の名前が出てくるようアーモンドを配置したのでしょう。
「ふふふ♪私の優君への想いはこんなものではないわ!次は逆にしてっと。」
次は切っていない方を切り始めました。もしかして、こっちにも何か仕掛けを施しているのでしょうか?そして、
「ふふふ♪やはり、私の優君に対する想いは本物、というわけね。」
菊池先輩は自ら切った断面を眺め、満足しているようです。一体どのような事を・・・?
「・・・。」
なんか、『LOVE♡』と書かれていますね。まさかと思いますが・・・まさか、ですよね?
「そ。優君の思っている通りよ♪」
「あ、やっぱり、ですか。」
先ほど見た文字と、今見えている文字を繋げると、
「『ゆうくん、らぶ。』になりますが・・・、」
「そう♪優くんへのあっつい想いを文字にして、このチョコブラウニーに込めてみたの♪どう?」
「・・・いいんじゃ、ないですかね。」
多分、ここに記載されている『ゆうくん』とは、私の事を示しているのでしょう。これを見てどのような判断をとるべきなのでしょうか。受け取って悲しい、なんてことはありませんが、反応に困ります。
「やった♪これで優君は今日、このチョコのお礼に、私と一緒にお風呂に入ってくれるわよね?」
「いえ、そのようなことは絶対に起きないので安心してください。」
「ええぇ!!!???そ、そんな・・・。」
毎回思うのですが、菊地先輩はどうしてそこまで私と入浴したがるのでしょう?
「さて、そろそろお昼になりますし、軽く昼食でも作りますか。」
試食でチョコを食べていたので、お昼はそこまでガッツリなものじゃなくいいでしょう。そうですね・・・。
「今は甘いものを食べているわけですし、昼食はちょっと辛いものにしますか。」
辛いものなら定番ですと、麻婆豆腐がよさそうです。材料は・・・香辛料は足りそうですが、肝心の豆腐が足りなくなりそうです。
「ちょっと麻婆豆腐の豆腐を買ってきますが、麻婆豆腐の他に食べたいものはありますか?」
「それじゃあ私、優くんと入浴できる権利が欲しいわ。」
「菊地先輩のふざけた発言は無いとして、何かありますか?」
「そ、そんな!!!???」
何故そこまで落ち込むことができるのでしょう?
「それじゃあ、私も買い物に付き合うから、辛い麻婆豆腐と辛くない麻婆豆腐を食べてみたいんだけど、いい?」
辛くない麻婆豆腐、ですか。麻婆豆腐に入れる香辛料の量を抑えればいけそうですね。
「分かりました。それでは一緒に買い物、お願い出来ますか?」
「うん♪私も優ちゃんと一緒にお買い物、行きた~い♪」
「あ、ずる~い。私も一緒がいい~。」
「それじゃあ荷物も多くなりそうですし、荷物を持つの、手伝ってくれますか?」
「「もちろん!!」」
「ありがとうございます。それでは・・・、」
「ゆ、優君!私も行きたいわ!」
菊池先輩も買い物に行きたいようで、鼻息をとても荒くしていた。・・・どうみても、買い物に行かせられる顔ではない気がします。何故だか分かりませんが、鼻血出ていますし。
「優君との買い物ついでに、優君の始めても一緒に狩っちゃうわ♪」
・・・なんか、よからぬことを企んでいそうです。
「菊地先輩は寮に待機して、チョコの様子を見ていてください。」
「そ、そんな!!!???せっかくの優君との麗しき休日なのよ!!??それなのにこの処遇、たまらないわ!ああ、でも優君にお願いされたという事もまた快感になりそうで感じちゃうわ~♪」
「「「・・・。」」」
・・・もう、菊地先輩は放っておきますか。
「それじゃあ、あの先輩は放っておいて、私達は買い物に行きましょうか?」
「「う、うん・・・。」」
私と一緒に買い物してくれる先輩方は、寮を出るまで、ずっと菊池先輩の事を見ていました。ま、それほど菊池先輩の様子がおかしかったですからね。
「・・・あれ?優君がいない!!??まさかさっきの話、冗談じゃなかったの!!??」
なんか聞こえてきますが、スルーしときますか。
その後、私達は菊池先輩を社員寮に置いていき、3人で買い物をしていった。買い物から帰ってくると、「優君がいなくて寂しいよ~。」と、泣いていました。他の女性社員の先輩方は、菊地先輩の様子に困っている様子だったので、「みなさんに迷惑かけないでください。」と、私が言ったら、「は!?ゆ、優君!?ついに帰ってきてくれたのね!?それじゃあ私と自室で全裸になって体を・・・!」と言ってきたので、「これからお昼の用意をするので、失礼します。」と言って、菊地先輩の前を通り過ぎたら、「今日の優君、なんだか冷たい~。でも、私に冷たく接してくれる優君もなんだか、いいわ!」なんて言っていたので、大丈夫でしょう。菊池先輩のあの症状、誰かどうにかしてくれませんかね。薬でも処方すれば完治できますかね。
そんなことはさておき、昼食を済ませた後、私達は再びチョコレートを作り始めてさらに数時間。
「「「か、かんせーい!!!」」」
ようやく、みなさん納得いくチョコレートを作り上げることに成功したみたいです。これでみなさんが無事に上手くいってくれると嬉しいです。本命だろうと義理だろうと、チョコを渡されて嫌な人はそうそういないはずです。例外はありそうですけどね。チョコ嫌いな人とか、チョコアレルギーの人とか。
「さて、」
私も再度チョコを作ってみたのですが、上手くいったみたいです。それと、
「あれを持ってきますか。」
私は自室にあるモノを取ってくるため、一時的にこの共同リビングを後にする。
私はこれまで使った器具達を片付けている間、余ったホワイトチョコレートを溶かす。
「?優君、まだチョコを作るの?」
「いえ。もうこれで完成です。」
「?ただ溶かしたホワイトチョコレートが?」
「ええ。ま、これだけじゃないんですけどね。」
「?」
さて、さきほど持ってきたこれを、溶かしたホワイトチョコレートにくぐらせて、と。
「・・・うん。」
ホワイトチョコレートの甘さと、このチョコの苦みがいい塩梅になっている気がします。
「優君、それは?」
「これですか?これは、ビターチョコを混ぜ、棒状にしたチョコクッキーです。」
あるチョコ商品を見た時、咄嗟に思いついたんですよね。本当はこれも教えようかと思ったのですが、簡単ですので教えるまでもないでしょう。チョコをクッキー生地に混ぜて棒状に形を整える。そして、ホワイチョコを溶かして、さきほど作った棒状の崛起をくぐらせる。おそらく、口頭で言っても理解できることでしょう。メモしなくても忘れないかもしれません。
「みなさん、おまけにこれ、食べませんか?」
私はさきほど作り上げたチョコを、共同リビングのテーブルに置く。
「「「おおー。」」」
「みなさん、今日はお疲れ様でした。先ほどまで甘いチョコを試作していましたが、この苦めなチョコもどうでしょうか?苦いのが苦手なら、このホワイトチョコをかけることをオススメしますよ。」
「優君のバレンタインチョコ、いっただっきまーす♪」
菊池先輩は早速一本、手に取り、ホワイトチョコをくぐらせてから一口齧る。
「う~ん♪美味しい~♪」
「ありがとうございます。」
この菊池先輩の美味しそうな顔につられたのかどうかは分かりませんが、他の先輩方も手を伸ばし始めました。
「「「美味しい~♪♪♪」」
良かった。みなさんのお口に合ったようでよかったです。私が作ったチョコを種に、話の芽を大きくし、大樹へと話を大きくしてった時、チョコが完全に固まった。
「これで、いよいよラッピングだけね。」
「ラッピングか。どうせならここでやってもいいかな?」
「あ、いいね。私もここでやっておきたい!」
「みんなでやれば、より綺麗に出来て、彼氏を落としやすくなるかも!」
というわけで、チョコ作りだけでなく、ラッピングまでしていった。ま、私は別にそこまでしても問題ないのでいいですよ。私も一緒にラッピングしておきますか。知り合いに渡すとはいえ、最低限清潔に、見た目を損なわない程度には気をつけないと、ですね。
そして、
「よし。これで彼氏に渡せるわ!」
「優ちゃんも、毎年毎年、ラッピング手伝ってもらってありがとうね。」
「いえ。みなさんに対する恩を少しでも返せるのであれば、これくらい構いませんよ?」
「・・・私、将来は優ちゃんみたいに素直な子を産みたいし、育てたいな。」
嬉しくて恥ずかしい言葉をいただきつつ、ラッピングまで終えた私達は、
「それじゃあ来週は、これをもって勝負だわ!」
「ええ!お互い、朗報を期待しているわ!」
…何か、女性同士の約束を交わしているようですが、私には無縁のようです。
「私、このチョコで絶対に今年こそ、優君を私の虜にさせてみせるわ!」
そして、菊地先輩がすごいやる気をだしています。菊池先輩がやる気をだしていると、なんだか嫌な予感しかしません。菊池先輩に失礼ですが。
「それじゃあ優ちゃん、今年もありがとう。」
「今年は絶対、彼氏と婚約して見せるわ!」
「みなさん、良いバレンタインをお過ごしください。」
こうしてみんな、それぞれの家へと帰って行きました。
「さて、私も来週、私のバレンタインチョコで優君をメロメロにするために、もっと過激で素敵なチョコでも作っちゃおうかしら。」
「そんな過激さだけを追い求めたチョコなんて、渡されても困るのですが?」
私、チョコに過激さなんて求めていないのですが?
それにしても、
(結局、桐谷先輩は来ませんでしたね。)
午前中からずっとチョコを作っていたのですが、結局来てくれませんでしたね。午後からなら来ると思っていたのですが、私の勘違いで終わってしまったみたいです。出来れば少し、先日の件でお話をしたかったのですが、肝心の本人がいないのであれば仕方がありません。もしかして、菊地先輩は桐谷先輩を誘ったというのはうそだったのでしょうか?菊池先輩がそんな嘘を私につくとは思えませんけど、一応聞いてみましょう。
「菊池先輩、少しよろしいですか?」
「…ん?なぁに、優君?」
「今日、桐谷先輩の事、誘ってくれましたか?」
「・・・。」
菊池先輩は、私の言葉を聞いた後、返事はしなかったものの、ポケットから携帯を出し、操作したかと思うと、携帯の画面が見えるようにして差し出してくれました。私は覗き込むようにして見ると、そこに書いてあったのは、
(なるほど。)
来るとは書いてありましたが、体調次第、と付け足されていました。つまり、今日来られないという事は、桐谷先輩の体調は未だ損なわれているということなのでしょう。一週間近くもずっと体調不良なんて、心配です。
「ありがとうございます。」
私の言葉で、菊地先輩は携帯をしまった。
「それじゃあ優君、今日はもう自室に戻るわ。」
「はい。」
「お休み、優君。」
「こちらこそ、本日はお疲れ様でした、菊池先輩。」
私がお礼の言葉を言うと、菊地先輩は優しく笑い、共同リビングを去ろうとしたときでした。
「ん?」
誰か来たのでしょうか?チャイムが鳴りましたね。この社員寮の住人であれば、この共同ルームには入れるはずなのに。という事は来客でしょうか?誰かの荷物でも配達で届いたのでしょうか?
「は~い。」
私は玄関まで行くと、
「はぁ、はぁ、はぁ。ま、まだ、やって、いますか?」
そこには、走ってきたと予測出来るくらい息を切らしている桐谷先輩がいた。私服で来ているあたり、会社に休日出勤を要請されて会社に来た、なんてこともないでしょう。そんな事態、あまりないのですが。
それと、桐谷先輩はどの事を・・・て、この時に言うのは一つしかありませんよね。主語が無くても理解できてよかったです。
「はい。」
さきほど解散し、菊地先輩も自室に戻ろうとしていますが、まぁ大丈夫でしょう。私一人だけで寂しいかもしれませんが、こればかりは仕方がありません。
「そ、それじゃあ私にも、チョコの作り方、教えてくれませんか?」
息を整えたのか、呼吸の乱れがほとんどなくなっています。
「もちろん歓迎しますよ。さ、中にどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。失礼します。」
さて、二回目のチョコ作り、始めますか。そしてあわよくば、桐谷先輩のあの結婚の件が聞き出せることが出来ればいいのですが、どうなるのでしょうか。
次回予告
『新入女性社員の愚痴吐露生活』
ほとんどの女性がチョコを作り終えた後、桐谷杏奈がチョコ作りをしようと参戦する。チョコを一通り作り終えてから、桐谷杏奈は酒を飲む。そして、飲酒によって気が緩んだのか、今まで溜めていたも不満を愚痴り始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?
 




