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小さな会社員と何でも出来るOLの休暇生活~1日目~

 休暇一日目。

「うふふ♪今日は楽しみだね、優君?」

「あ、はい、そうですね。」

 現在、私達は朝から電車に乗って東京のとあるテレビ局に向かっていた。

 何でも、今回は先輩の友人のコネを使ったらしい。

 それで、こんな平日にも許可が下りたみたいだ。

 ただ、

「…あんた、絶対ロクな死に方しないわよ。」

 …快くは思われていないらしい。

 電話で話しているとき、相手からこんな言葉が聞こえた。

 よく思われているのなら、こんなことは言われないだろう。

 一体、菊池先輩はその人に何をしたのやら…。

「う~ん♪。やっぱ優君と食べる駅弁は最高ね!そう思うでしょ、優君!」

「…確かに、この駅弁は美味しいです。」

 こんな雑談を交わしながら、電車内を過ごしていた。



「さ、ここがテレビ局よ。」

「はぁ~。ここが、ですか。」

 電車の乗り継ぎが終わり、ようやく着いた。

 そういえば、テレビなんてほとんど見ないから、テレビ局を見るなんて初めてかも知れない。

「あの。先日予約した菊池ですけど。」

「菊池様、ですか?少々お待ちくださいませ。」

 と言われたので、私達はしばし待つ。

 その間、受付の人はどこかに電話をし、誰かと話していた。

 そして、誰かが来た。

 身長は菊池先輩と同じくらいで、体が引き締まっていてスラリとしている。

 私は少し身構えて挨拶しようとすると、

「…ち。ようこそいらっしゃいました。あなた達を快く歓迎いたします。」

 …どうやら、快く歓迎はしてくれないみたいだ。

 なんか、必要以上に菊池先輩を強く睨み付けているし。

 当の本人は、

「さぁ優君。この『女スパイ』にテレビ局を案内してもらいましょう?」

「誰が『女スパイ』よ!?」

 この女性の睨みを軽くあしらい、私に話しかけてくる。

 それより、『女スパイ』?

 なんのことだろう?

「…もしかして、この人は昔…。」

「盗みなんてしていないから!」

「あ!す、すいません。」

「…うわー。子供にマジ切れとかないわー。」

「…ち。」

 その後、女スパイと呼ばれた人は深呼吸を何度かし、

「初めまして、私は峰田(みねた)不二子(ふじこ)よ。よろしく。」

「よ、よろしくお願いします。」

 私は峰田さんに合わせてお辞儀をする。

 そう言えば、

「あの、初めてお会いしたのにあんな失礼なことを聞いて申し訳ありません。」

「!?い、いいのよ!そんなこと気にしないで。元はと言えば全部、こいつが悪いのだから!」

 と、峰田さんは菊池先輩を指さしながら言う。

「だってほんとのことじゃない?某アニメの女スパイさんの名前とそっくりなんだから。」

 その一言を聞いた峰田さんは、

「はぁ~~~。なんで家の親はこんな名前に…。」

 と、落ち込んでいた。

 峰田不二子さんに似たアニメのキャラクターって誰のことだろう。

「それに、あなたの体は全部引き締まっているから、悩殺ボディじゃないしね。」

「…分かった。素直に案内するからもうやめて。お願いします…。」

 と、菊池先輩に頭を下げる峰田さん。

「…そ。それじゃ案内、よろしくね。」

「…分かったわ。それじゃ行くわよ?」

「は、はい!」

 こうして、不穏な空気を纏った峰田さんと、テレビ局を見学することになった。


「といっても、私がマネージャーになった子がいるから、その周辺しか案内出来ないけどね。」

 今、私達がいるのはとあるスタジオ。

 そこでは、

「はい!いいね、いいね!次はこうしてみようか!」

 何かの撮影を行っていた。

「ここではモデルの撮影を行っているのよ。今の時期だと夏服とか水着とか色々よ。」

「あ、ありがとうございます。」

 峰田さんからのありがたい説明を受け、私は感心しながら撮影風景を見る。

「そういえば、あなたはマネージャーになったんだっけ?誰のマネージャーになったの?」

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。それは、あの娘です!」

 と、今撮影されている女の子を指さす。

 私も女の子を見る。

 ・・・。

 誰?

 そう言えば、ほとんどテレビなんて見ないから、芸能関連のニュースをほとんど知らないんだよね。

「…あの子は誰ですか?」

「え!?あの娘を知らないの!?今、世間を騒がせているトップ小学生モデル、『(しお)()()(おり)』を知らないの!??」

「…知らないです。」

 念のため、もう一度心当たりがあるか思い出す。

 …やっぱり思い当たることはないな。

「あなたは知っているでしょ?」

「…確かに、今注目の小学生とか言われていたわね。」

「でしょ!あの娘は今、とっても忙しいの!そんな時期にあなたからこんなことを頼まれるとは思っていなかったけどね。」

「へぇ~。そんなことを言っちゃうの?あの時、あなたのテスト勉強に付き合ってあげたというのに…。」

「ぐっ。そんな昔のことをネチネチと…。」

「昔?つい最近のことじゃなかったかしら?」

 …この二人、過去に何かあったのだろうか。

 なんかすごい睨み合いをしている。

 そういえば、川島さんとも言い合いをしていたような…?

 もしかして、菊池先輩の知り合いには…。

 いや、この考えはよそう。

 先入観はもっちゃいけないよね。

「ゴホン!とにかく、今はあの有名な潮田詩織ちゃんのマネージャーを勤めているの。今は撮影中だし、よほどのことがない限り、電話もかけてこないわ。」

「そ。」

「それに、今は撮影中だし、早々事態が悪いほうに転ぶ、なんてことはないわ。」

 ま、予定通りに事が進むのはいいことだよね。

「あなた…。今のセリフでフラグが立ったんじゃない?」

「まさか。それより少し早いお昼にしない?ここの食堂のカレーが絶品でね…。」

「な、なんだと!?そりゃあどういうことだ!!??」

 瞬間、男の怒号がスタジオ全体に響き渡る。

「あ~あ。だから言ったじゃない。」

 そして、菊池先輩がため息を漏らす。

「まさか、本当に…。」

 峰田さんは驚愕の表情だった。


 とりあえず、どんな事態になったのか分からないので、峰田さんは話を聞くために、私達から離れた。

 結果、

「…これからどうする、優君?」

「このまま待っていた方がいいと思います。」

 私達は暇になった。

 峰田さんが言っていた食堂も行けるには行けるのだが、勝手に行っては峰田さんの迷惑になるだろう。

 よって、私達はこのまま待機することになったのだ。

 とはいえ、このまま何もせずにただボーっと突っ立っているのもなんなので、

「…優君?なにその本?」

「これですか?一応暇つぶし用に持ってきておいたものです。」

 他にも英単語をまとめた単語帳もあるが、今回は料理本にした。

 特に理由はないけど。

 そして私は料理本を読み始める。

「優君はほんとマメよね~♪」

「…菊池先輩、胸が頭に乗っているのですが。」

「もちろん、わざとよ。」

「そうですか。」

 と、私は気にせず本を開く。

「ふんふんふ~ん♪」

 菊池先輩は鼻歌を歌っている。

 どうやら機嫌がいいらしい。

 なんで機嫌がいいのか分からないけど。


 そして待つこと数分。

 私はある程度本を読み返し、

「ふ~。」

 本を閉じ、カバンにしまう時だった。

 さっき怒鳴っていた男の人と目が合ってしまった。

 私は咄嗟に、

「(一応、会釈くらいはしなくちゃかな。)」

 と思い、会釈をする。

 男の人は急に驚いた顔をし、

「い…、い…、い…。」

 …何か言っているらしいが、よく聞こえない。

 それより、私を驚いた表情で見ているのだろうか。

 もしかして、私の顔に何かついているのだろうか。

「いたーーー!!!」

「「!!??」」

 急に男の人がこっち、というより私を指差した後、こっちに向かって走ってくる。

 え!?一体何がいたのだろうか?

 もしかして、あのGから始まる害虫のことじゃないよね?

 そんなのがいたら、私は軽く発狂してしまい、菊池先輩に抱き着いてしまうだろう。

 あんな恐ろしい存在なんて、この世から消えてしまえばいいのに…。

 そして、目の前にまで来た男の人は私の両肩を掴み、

「き、君!モデルをやってみる気はないかい!?」

「「…はい??」」

 私と菊池先輩の声がはもった瞬間だった。



「ええと、どういうことですか?」

 正直、何を言っているのかまったく理解出来ない。

 私はたまたま来た見学者だというのに。

「ちょっと待って。話が全く見えないのだけど。一から説明してくれないと困るわ。」

「だから!君にモデルを依頼したいんだよ!」

 と、男は言う。

 …うん。まったく理解できない。

「…あの。まず、この人達にも詳しい事情を話さないと駄目ですよ。この二人、まったく分かっていないようですし。」

 と、峰田さんが助けてくれた。

 確かに、何がどうなったら、私がモデルをすることになるのやら。

「そ、そうだね。確かに切羽詰まっていたためか、そこらへんの説明を忘れていたよ。すまない。」

「え?いえいえ!そんなことありませんよ。気にしないでください。」

「…でも、どうしてうちの優君がモデルをやらなくてはならないのか、詳しい説明が欲しいわね。」

「それじゃあ峰田君、説明、お願い出来るかな?」

「分かりました。それじゃ、説明するわね。」


 こうして、峰田さんの説明が始まった。


 要約すると、急遽来られなくなったモデルの代わりにモデルをしてほしい、とのことだった。

 どうやらその子は撮影直前になって、急に仕事に来られなくなった、という連絡をしたらしい。

 今までは潮田さん一人でモデル写真を撮っていたが、後は潮田さんともう一人、つまりペアのモデル写真だけだという。

 だったら私の代わりに別のモデルさんでも呼べばいいのでは、と話したが、

「今日は平日だよ?みんな学校に行っているから、急には連絡取れないし、とれたとしてもすぐに来られるとは限らないんだよ。」

 と言われた。

 そう言えば、今日は平日だったね。

 すっかり頭から抜け落ちていたな。

 それでモデルをどうしようかと話していた時にたまたま私を見て、適任者が見つかったので、つい叫んでしまった、と。

 でも、それなら小学生みたいに背が小さい人がモデルをやればいいのでは?

 と、言ったら、

「…優君。それはたぶん、小学生モデルじゃないわ…。」

 と、憐みの視線を送られながら菊池先輩に言われてしまった。

 つまり、私にモデルをお願いすれば、この事態は一気に解決する!

 と、この男の人は考えているらしい。

 でも、今までの撮影風景を見て、気付いたことがある。

 それは、

「モデルって、小学生、しかも女の子のモデルですよね?私は男の子ですよ?」

 である。

 ま、男子小学生のモデルだったら、私が代わりに出ることになっても違和感はない。

 ま、見た目が普通な私に務まるとは思えないけど。

 だが、男の私が女子小学生のモデルをやると問題が起きるのでは?

 それを言ったら、

「大丈夫。情報漏洩はさせないから。」

 と、爽やかな笑顔で言われてしまった。

 いや、そこではなくてですね。

「もう、菊池先輩も一言言ってあげて下さい。」

 男が女子小学生モデルの代わりをやるなんて駄目に決まっていますよね?

「え?私はもちろん賛成だけど?むしろ、優君以上に適任者がいるの?」

 と、言われてしまう。

 そういえばこの人、私が女装することに賛成する人だった。

 このことに関しては、菊池先輩は駄目だ。

 こんな時は、

「ねぇ。こんなことが許されるはずありませんよね、峰田さん?」

 第三者の意見を聞くべきだろう。

 そうすれば、如何に間違ったことをしようとしているのか、二人は気付くはず!

「…い、いいんじゃないかしら。」

 駄目でした。

 そういえば、峰田さんは男の人の関係者、しかも見た感じ、男の部下の可能性が高い。

 だから、下手に男の人の意見を否定することが出来ないのだろう。

 つまり、私に味方がいないわけで、

「…やっぱり、他のモデルの方に連絡をした方が…。」

「嫌よ!私は優君のモデル姿、見てみたいもの!」

 いや、そんなわがままを言われましても…。

 第一、私なんかにモデルが務まるわけがない。

「私は素人ですよ?そんな人が出来るわけ…。」

「優君。人は挑戦し、失敗を重ねて成長していくものよ。最初は失敗しても、最後に成功させれば問題ないから。」

「「うんうん。」」

 何故二人はそんなに私をモデルに推すのだろうか。

 私は男だろうに。

「とにかく!他を探してください。きっと探せば見つかりますよ。」

「「…。」」

 ここで二人はがっくりとうなだれながら、この場を去ろうとする。

「待った。」

 と、二人を止める菊池先輩。

 もしかして、菊池先輩に心当たりが…?

「峰田。あんた、あれ、あるわよね?」

「あれ?…ああ、ちゃんと買っておいてあるわよ。それが何?」

「それを今、この場で出して。」

「え?でも…。」

 峰田さんは戸惑っていた。

 一体、あれとは何のことだろう?

「いいから、後は私に任せなさい。」

 と、菊池先輩はキメ顔で言った。

「いいけど、これがどうしたのよ?」

 と、峰田さんは小さめのクーラーボックスからとある物を取り出す。

 あ!!?

 あれはまさか!??

「さすが優君。あれが何か、気づいたようね。」

「まさかあれは、テレビ局限定アイス!?」

 しかもあれは、午前中にしか売っておらず、テレビ局関係者しか買えないというアイス!

 私はそのアイスに、目が釘付けになっていた。

「…もしかしてあなた、このためにこれを?」

「いや。ほんとは別の目的があったけど、まぁそれは別にいいわ。それより、」

 菊池先輩は、峰田さんの持っていたアイスを取り、

「さぁ優君?このアイス、食べたい?」

 そんなの、

「もちろんです!」

 食べたいに決まっている!

 あのアイス、どんな味がするのだろうか。

 ああ!こうなるのだったら、事前に調べておくべきだった!

「じゃあ取引よ?優君がこのモデルの仕事を引き受けてくれたら、このアイスを優君にあげるわ。」

「…もし引き受けなかったら?」

「私が食べるわ。」

「ええ!??」

 そ、そんな!??

 あのアイス、とっても美味しそうなのに!

 絶対に食べたいのに!

 二人は歩みを止め、私達のやり取りを静観していた。

 そして、悩んだ結果、

「…やり、ます。」

「え?なんだって?よく聞こえなかったわ?」

 と、ニヤニヤしながら聞き返してくる菊池先輩。

 ぐぬぬ。

 絶対分かって聞いているな。

「だから、モデルの仕事、やります。」

「おお!やってくれるかね、君!」

 私がやるといった瞬間、男の人は私の前にやってくる。

「…はい。」

「おお!それはありがたい!」

 と、私の両手を握り、ブンブン振ってくる。

「それではさっそく、着替えてもらおう。案内、任せてもいいか?」

「はい。それでは行きましょうか?」

「は、はい。」

 私は緊張しながら峰田さんの後を付いていく。


「はい。ここが更衣室…なんであなたまで付いて来ているのかしら?」

「あら、聞いていなかったの?私は優君のマネージャーよ!」

「え?そうなの?」

「違うに決まっているじゃないですか。」

 まったく。

 菊池先輩は何を口走っているのやら。

「それじゃ、今日はこれを着てもらう予定だったけど、サイズ合う?」

「…合わなそうですね。」

 私、同学年の女子より小さいのか。

「それなら私がサイズ調整してあげようか?」

「え?出来るの?」

「出来るわよ。あなた、私をなんだと思っているの?」

「憎たらしい女。」

「…。それじゃあ優君、サイズ調整するからちょっと待っていてね?」

「…あ、はい。」

 あの間は一体…?

 気にしたら駄目だ。

 きっと、二人の間に何かあるのだろう。

 でも、今日の菊池先輩のお願いを聞いてくれた当たり、本当に心の底から嫌っているわけじゃなさそうだし。

 

 そして数分、

「んまぁ!!優君、とってもお似合いよ!」

「確かに、とても似合っていますね。」

「ついでにこのロングヘアーのウィッグを付けようかしら?」

「…。」

 無心だ。

 ただひたすらに、無心。

「…。うん!ばっちりよ!これでどこからどう見ても男だって分からないわ!」

「…すごい。ここまで似合ってくるとほんとに男の子なのか疑いたくなるわ。」

「…。」

 私の心がものすごい勢いで削られていく。

 まさか、この私がこんな格好を公の場でするなんて…。

 私が今着ている服は青い模様入りの白のワンピースである。

 さらに、サンダルを履いて撮影するため、足のケア?とにかく足になにかしら行われた。

 さらに麦わら帽子も被らされ、もう自分でも、

(無心だ。ただひたすらに無心だ…。)

 ただひたすら、メイクの人に色々され、

「今日の優君、とっても素敵よ!」

 と、菊池先輩の太鼓判?をもらってしまった。

「…うん。これならばっちりだわ。」

 と、峰田さんからも太鼓判を押されてしまう。

 これで本当に良かったのかと考えてしまうが、

(ま、他の人の代わりなんだし、仕方ないよね。うん、仕方ないんだ…。)

 と、自分に言い聞かせ、私達は控室を出た。



 控室をでてからはまぁ、

“ねぇねぇ、あの子誰?”

“さぁ?どこかのモデルじゃない?軽く化粧しているみたいだし。”

“私、将来はあんな可愛い子を産んでみたいなぁ…。”


 なんて声が、女性社員から聞こえてくる。

 本当は私が男の子なので、そんな願いが叶う訳ないのですが。

 そう考えるとなんか申し訳ないな。

 スタジオに来たら来たらで、

「「「おお!!!」」」

 なんて歓声が聞こえた後、色々な人からの視線を感じる。

 うう。こんなことで目立ちたくないなぁ…。

「潮田さん。代わりの子を連れてきましたので、写真撮影を再開します。」

 峰田さんが事務的に潮田さん?に話しかける。

 大人が子供に敬語を使って会話している光景ってちょっと違和感あるなぁ…。

「…分かったわ。」

 と、その女の子、潮田さんは手に持っていた雑誌を机に置き、

「…それで、その子が代わりの…?」

「はい。早乙女優ちゃんです」

「え?」

 ちょっとまって。

 今の言い方だと誤解されるような気が…?

「そう。そこのあなた。」

「あ、はい。」

「私の足を引っ張るようなことだけはやめてよね。」

 とだけ言われ、私の挨拶も聞かずにその場を離れていった。

「ごめんなさい。ちょっと気がたっているみたいで…。」

「いえいえ。別に気にしていませんので。」

 こういう人はもう何度も見ているし、相手にもしてきているからね。

 受け流す技術も多少は持ち合わせているからね。

「それじゃあ、撮影始めまーす!」

「あ!優ちゃん、出番ですよ!」

「…峰田さん?私、こう見えても一応男の子、ですからね?」

「分かっているわ。今だけ、今だけだからね?」

「え?優君って、女の子じゃなかったの?」

「…先輩が言うと本当に冗談じゃ済まなくなりそうなのでやめて下さい。」

「ま、とにかく頑張ってらっしゃい。私が見ているから、ね?」

 と、ウィンクする菊池先輩。

 私はそれを見て、

(ま、とにかく初心者なりに頑張ってみますか。)

 菊池先輩の手厚い?声援を受け、私は撮影に臨んだ。



「いやー!今回はほんと、本当にありがとうございました!」

「!?いえいえ!そんな、顔を上げて下さい!そんなに下げられても困ります!」

 長きにわたる撮影が無事に終了し、撮影スタッフが機材を片づけ始めている中、先ほどモデルを頼んだ男性がわざわざ私の所にまで来て頭を下げる。

 ほんと、私にそこまでしなくていいですから!

「それでですね、今回の報酬として、あなた様の口座に給料を振り込みたいのですが…。」

「あ。それなら、私がその話を引き継ぐわ。優ちゃんはただ聞いて、書面に記名、ハンコを押してくれるだけでいいから。」

「…菊池先輩?私は男なんですが?」

「あら?いいじゃない、この呼び方でも♪」

「良くないです!」

 まったく、私を何だと思っているのですか!?

「はいはい分かったわよ。」

 こうして私達は話を進めていく。



「これで優君にも、お給料が振り込まれるのね。いくらくらいになるのか楽しみだわ♪」

「はいはい。それで案内の続きだけど…。」

「あら?そういえば午前中まで、だったかしら?今は何時だったかしら?」

「午後の2時ですよ、菊池先輩?」

「あら。いつの間にかそんな時間になっていたのね。気付かなかったわ。」

 何だかんだ、給料の話をしていたら、こんな時間になってしまったのだ。

 もちろん、お金が関わることなので慎重に事が運んでいたのだが、要所要所に、

「…ねぇ?今後もモデルとして働かない?」

 とか、

「なんなら、うちの事務所と契約してみない?ほら、お試しでさ。」

 と、勧誘してくるのだ。

 私も、「嫌です。」や、「お断りします。」とはっきり言えなかったので、思った以上にしつこかった。

 というより、給料の話より、勧誘の話の方が長かったと感じるくらいだ。

「…なんかごめんね。あなたみたいな人材が今、うちの事務所に欠けていてさ。」

「…私みたいな人材、と言いますと?」

 私達は食堂までの道のりで、峰田さんと会話を始める。

「うちの詩織、ちょっと性格がきつくて、何でも一番じゃないと気が済まないのよ。それで、ポッと出のあなたが思った以上にチヤホヤされて、ちょっと嫉妬していたのよ。」

「だからあんなに敵視していた、ということですか?」

「優君、何も悪いことしていないのにね。」

「それで、始めて詩織と対等に会話している姿をみて、うちの上司がとても喜んでいたわ。何でも、“これで、うちの事務所から二人組のアイドルユニットの誕生だ!これで世界も狙えるぞ!!”なんて騒いでいたものだから…。」

「そ、そこまでですか…。」

 あの人、けっこう騒ぐのが好きなのかな。

「…話を戻すわ。詩織はあんな性格だから、同年代の話し相手がいないの。」

 …?

 あれ?

 でも確か、

「それでしたら、同業者の方がいるのではないでしょうか?」

 同じ女子小学生モデルなら、話も合うだろうし、仕事の話も出来そうな気がするのだが?

「モデル仲間は駄目なの。みんな、詩織のことを敵視、もしくは嫉妬しているから。詩織本人も黙認していることだし、みんな黙っているけど…」

「話し相手にはなるけど対等な関係ではない。だから普通の話が出来ない、ということですか?」

「そう。そんなところに現れたのがまさしくあなた!というわけなのよ!」

 と、言われましても、

「私は普通に話していただけですが?」

「あの子には、その普通の話をするだけの子がいなかったの。」

「それでしたら、親に話をするとか…。」

「親にも話せないことをあなたに話したかったんだと思うよ?」

「…そういうもの、なんでしょうか?」

「私に振られても困るわ。」

「あなたにもあったんじゃない?親にも話せないことの一つや二つ。」

「…さぁね。どうだったかしら。よく覚えていないわ。それよりほら、」

 不意に、菊池先輩が歩みを止める。

 そこには、

「ここが食堂よね。ここで遅めの昼食でも食べましょうか?」

「「はい(ええ)!!」」

 こうして私達は、遅めの昼食をとることとなった。


 私と菊池先輩は昼食にカレー、峰田さんはランチに決めて、それぞれテーブルに着いてから食事を始める。

「…そういえば、潮田さんはご飯、食べなくてもよかったのですか?」

「ああ。あの子、今ダイエット中であまり食べないらしいの。」

「へぇ~。今どきの女子小学生って、ダイエットなんかするのね。」

「さぁ?でも、あの子は自分一人でほとんど決めちゃうからね。マネージャーの私もあまり言えないの。あの子、成績もかなりいいみたいだし。」

「ちなみにどのくらいいいの?」

「聞いた話によると、先月行われたクラス内のテストで、順位が2位っていう話を聞いたことがあるわね。」

「…?それってすごいのですか?」

 クラスで2位?

 クラスに何人いるのか分からないが、きっとすごい量の勉強量をこなしているのだろう。

 私も、今までの復習もそろそろやっておいた方がいいかも知れないな。

「そりゃあすごいもすごいわよ!詩織が通っている学校は一クラス、六十人以上いるのよ。そんな中、詩織はモデルの仕事と並行してその成績を今もキープしているのよ!普通の人はこんなこと出来るものじゃないわ!」

「…ま、あなたが自慢して言うべきことでは無いわね。」

 菊池先輩。そこは黙っておきましょうよ。

「…とにかく!詩織はまさに、“才色兼備”って言葉が似合ういい子なの!」

「友達がいないことを除いては、でしょ?」

「…だから、詩織に話しかける子はどいつもこいつも盲目で、詩織本人を見ようとしていないのよ!」

 と、峰田さんはテーブルを叩く。

 …もしかして、酔っているのでしょうか?

「…となると、私も盲目の人達の中の一人、というわけになりますが…。」

「…あなたはそんなこと何一つ知らずに、それもあの子の容姿を見ても動じずに対応していたでしょ?」

「まぁ…、そうですけど。」

 人の見た目でいちいち態度を変えていたら、営業なんか勤まらないと思うのだが。

「それが内心、あの子には嬉しかったことなのよ。」

「優君、帰り際に、“今度遅れたら承知しないからね!”って、明らかな誤解発言を受けていたけど?」

「…後で確認するわ。とにかく、詩織のためにも今後も、友人として付き合ってほしいの。駄目かしら?」

「と、言われましても…。」

 友達付き合いをしてほしいと頼まれても、私には遊ぶ時間はない。

 平日は学校と職場、休日も職場、そして空き時間に料理やパソコン等の勉強もしなきゃだし…。

「…ねぇ?このことって、本人がいなきゃこの話し合いの意味なんて無いんじゃないの?」

「…あ。」

「さらに言えば、本人の意志も聞かず、自分勝手な都合や意見を他人に押し付けようとする。あなたは、そういったものが大っ嫌いじゃなかった?」

「…そうだったわね。確かに、詩織の未来と私の願望がごちゃ混ぜになっていたかも。」

 と、峰田さんは私の方に顔を向け、

「ごめんなさい。今まで言ってきたことは全部忘れてくれていいわ。」

 と、峰田さんは座りながら、私に深々と頭を下げる。

「い、え!そんなに頭を下げないでください!」

「…ありがとう。あなたは本当にいい子ね。」

「当ったり前よ!なんたって、私の優君なんだから!」

「…あなたの発言はともかく、これだけはお願いしたいの。」

 そして、峰田さんは軽く息を整えてから、

「普段はあんな態度をとっちゃうけど、どうか詩織を、潮田詩織を見捨てないでください。」

 と、さっきよりもさらに頭を深く下げる峰田さん。

「わ、分かりましたから!取り敢えず頭を挙げて下さい!」

 ここじゃ、世間の目もあるというのに!

「それじゃあ…!」

「え、ええっと…。私の出来る範囲であれば。」

「よ、良かった!今後も詩織のこと、よろしくお願いするわ!」

「…うわー。無理矢理子供に言う事を聞かす大人とかうわー(ボソっ)。」

「何か言った?」

「いえ別に?」

「あはは…。」

 この二人、いつもこんな険悪な雰囲気を出しているのかな。

 昼食が終わったにもかかわらず、なかなか食器が片づけられなかった。

 そして峰田さんと別れ、テレビ局を後にする。

「さ、今日は近くにホテルを予約しておいたから、ちょっと早いけどチェックインして荷物を置いて、そこからまたどこか行こうか?」

「どこか、と言いますと?」

「色々あるわよ~♪衣装レンタル店、コスプレ店、ウエディングドレスの試着、どれにする?」

「…全部却下で。」

「ええ!?そんな!?」

 さぁ、午後はどう過ごしましょうか?

 私と菊池先輩はホテルに荷物を置いた後、フラフラとぶらつきながら、休暇を満喫した。



「あぁ~♪優君と遊んだ、遊んだ~♪」

「確かに、今日はすごく遊びましたね。」

「ねぇ?クレーンゲームにガンシューティング、レース、メダル、ほんとにね?」

 あれから私達は、色々見て回った後、菊池先輩が、

「ねぇ?ここで私と勝負、してみない?」

 と、ゲームセンターを指差しながら言ってきたので、私はそれを了承。

 結果として、何時間もゲームセンターに居続けたのだ。

 勝敗は決しなかったが、それでもかなり楽しめたので、不満はない。

 あるのは充実感だけである。

 たまにはこういった娯楽施設で思う存分遊ぶのも悪くないかも。

「それじゃあ優君?ホテルに戻りましょうか?」

「はい!」

 私達は戻る。

 大量の戦利品(お菓子)とともに。


 美味しい夕飯を食べ終えてから、大量の戦利品を持ち、ホテルに戻った私と菊池先輩。

 そして、

「優く~ん?今日ぐらい、一緒のベッドで寝ようよ~?」

「駄目です。菊池先輩も一人で寝て下さい。」

「そ、そんなぁ~。優君成分の補給が~…。」

「何を言っているのですか…。」

 私は思わずため息をついてしまう。

 まったく。

 いい大人がこんなことで泣くなんて。

「シクシクシクシク…。」

「ほら、早く寝る用意してください。」

「シクシクシクシクシクシクシクシク…。」

「そんなことしている暇があったら…。」

「シクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシク…。」

「・・・。」

「シクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシクシク…。」

「ああ!もう分かりました!分かりましたからぁ!」

「シク…ほんと?」

 ほんとって、こっちが言いたいですよ…。

「一緒に寝ないとずっと耳元で泣くんですよね?」

「ええ、そうね。」

 この人、悪びれもせずによくもまぁ…。

「さすがに一晩中そんなことされるのはたまったものではありませんから。」

「それじゃあ…!」

「はい。それでは、失礼します。」

「おいで、おいで♪」

 私は気がむかないまま、菊池先輩が使うベッドにお邪魔する。

「は~♪優君の抱き心地、最高~♪」

「…そんなに抱き着かないでください。寝にくいです。」

「え~?」

 そんな一夜を過ごした。

次回予告

『小さな会社員と何でも出来るOLの休暇生活~2日目~』

 ひょんなことからテレビ局のモデルを頼まれ、なんとか代役をこなせた優。

 午後も菊池とゲームを満喫し、大満足の2人。

 だが、菊池にはある不満があった。それは…。


こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

今後ともよろしくお願いいたします。

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